本職は転職エージェント会社の社長。趣味の釣りが興じて始めた海鮮丼づくりが一転、都心で、海鮮丼と寿司屋の『有楽町かきだ』をオープンさせることになった蛎田一博さん。オープン日から行列のできる店となり、開店からわずか1年で予約が取れない超人気店の仲間入りを果たした。そして、その人気ぶりは衰えるどころか海外にまで知れ渡るようになり、TVのニュースやバラエティ番組などさまざまなメディアにも多数出演。2023年7月9日には、新宿の小田急ホテルセンチュリーサザンタワー19Fに140席の新店舗をオープンするなど、寿司ネタのごとく“旬な人”となった蛎田さん。今回は、豊洲市場から戻ったばかりの蛎田さんに、寿司屋の大将と社長業を両立することになったきっかけや、戦略、自身の仕事観などについて話を伺った。

『有楽町かきだ』の大将、蛎田一博さん
『有楽町かきだ』の大将、蛎田一博さん【撮影=樋口涼】


予想外にバズった『有楽町かきだ』のこれまでと、その戦略について

ーー開店するきっかけについて教えてください。
【蛎田一博】釣り好きが興じて、コロナで暇だったときに釣りばかりしていたんです。僕は、人材紹介事業と電気通信工事業を行う会社の代表取締役ですが、当時はコロナ禍の影響でメインとする人材業がボロボロだったんです。でもそんななか、僕が焦ったらよくないかな?と思ったんですよ。業績が悪いからって急に僕が働き出したら、逆に社員を不安にさせてしまうじゃないですか。だから、会社に一切行かなかったんです。

ーー会社に行かずに釣りを?
【蛎田一博】はい、毎日、海で釣り糸を垂らしてました(笑)。

ーー割り切り方がスゴいですね。
【蛎田一博】会社が潰れないという予想はできていたので、余裕を見せていたんですよね。釣った魚を、ほぼ毎日社員に振る舞ったり、出張型のまかないサービスを始めたりしました。でも、はじめは社員も30人くらい喜んで食べてくれていたのが、1カ月くらいすると3人になっていたんですよ。流石に毎日のように海鮮丼が続くと、飽きられちゃいますよね(笑)。とはいえ、つくるシャリもおいしくなったし、豊洲にも出入りして仲卸さんとも親しくなっていたので、「これはワンチャンいけるんじゃないか?」ということで、海鮮丼屋『有楽町かきだ』を始めたんです。

持ち前の人当たりのよさで豊洲の仲卸さんとも仲良くなったことも、店を始めるきっかけに
持ち前の人当たりのよさで豊洲の仲卸さんとも仲良くなったことも、店を始めるきっかけに【撮影=樋口涼】

ーーアイデアが生まれて開店するまで、どれくらいの期間を要したのですか?
【蛎田一博】2カ月程です。

ーーそれは早いですね。
【蛎田一博】はい、早いんです。そんなもんなんです。やろうと思って物件を探し始めて、すぐに見つかったので、すぐ始めたって感じです。すべて僕の独断即決ですね。

ーー人気店になる勝算は、ご自身の中でどれくらいありましたか?
【蛎田一博】あまり、そういう思考がないんですよ。「これをやったら儲かるな」って、そう思って始めてないんですね。人材業のほうはもうすぐ8年になりますが、いろいろ考えながら「うまくいってほしい」とやっているビジネスは、思っているほどうまくいかなくて時間がかかりましたが…「別にやって駄目なら潰せばいいや」という感じで始めた寿司屋が、まさかバズった。本当に、勝算は考えていなかったんですよ。素人が寿司屋をやって、こんなにうまくいくなんて誰も思わないでしょ。僕も予想外でした。

ーーYouTubeやレシピサイトを参考にされたそうですが、どれくらい学んだんですか?
【蛎田一博】僕の場合、ずっと動画を見るのではなく、チラ見です。例えば、初めてのメニューを試しに作るときに、YouTubeをつけて「これ、どうやってやるんだ?」ってチラっと見ながら一緒にやってみるんです。僕の理論からすると、何回も見ることには意味がないんですよ。技術的な部分は動画だけではなく、実際に寿司屋に足を運んで、その店の大将がどういうふうに握っているかめちゃくちゃ見ています。Instagramのリールにもアルゴリズム的に表示されてくるので、あれもよく見ますね。

【蛎田一博】一方で、レシピはちゃんと見ます。参考にしながらイメージに近づけていくんです。例えばシャリは、高級店のしょっぱめと、回転寿司の甘めのシャリの中間くらいにしたいと思ったので、レシピサイトの分量から想定して調整して、酢も入手できないことはないので、いろいろ試しながら「こんな味だった。じゃあ、このぐらいの分量でやろうか」とコツコツ試しただけです。仕事って全部一緒ですよね。会社員のときも、社長になって事業を始めたときも、コツコツ試す。今回、それがシャリになっただけです。

握り方はYouTube動画を見て、赤酢の分量などはレシピサイトを参考にしたそう
握り方はYouTube動画を見て、赤酢の分量などはレシピサイトを参考にしたそう【撮影=樋口涼】


ーーフィールドが違うだけだと。
【蛎田一博】もちろん、いろいろな仕事を経験していたので、応用が利いたところはあると思います。僕、営業のロープレとか、マジで意味ないと思っているんです。もし、その人に売れる能力があったらロープレには意味がないんですよ。あんなのやる必要がない!営業成績のいい人がどうやっているのか観察して、自分で営業に行ったほうがよっぽど営業成績が上がると思います。売れない人ほど、ロープレという“練習のための練習”をやるんです。ロープレを何回繰り返しても、そこにいる相手はお客さんじゃないですよね。寿司も同じです。練習相手に食べさせていても、一生うまくならない。だって、そういう気持ちでやらないじゃないですか。

ーー確かに、いくらシミュレーションしても、現場はそのとおりにはならないですしね。
【蛎田一博】はい。だから、あまり動画だけ見るのは意味がないなと僕は思います。不安にならないための「ここまでやれば、もう一人前」というラインが明確ならいいけど、そんなラインはないじゃないですか。逆に言えば、どれだけ長くやっても完璧にはなれないんですよ。有名な寿司屋だって、10年修行したからといって完璧な仕込みではないし、握りだって完璧ではないんです。突き詰めたらキリがないので。ただ、みんな“完璧だと思っている”だけなんです。

【蛎田一博】仕込みができないと寿司屋にはなれないのか、誰か師匠に習わないと寿司屋にはなれないのかと問われたら、僕はそんなことはないと思います。僕自身、仕込みができないので仲卸さんに頼んで魚をさばいてもらっていますし、YouTubeを見たり、実際に寿司屋に食べにいって握り方を見て実践すれば寿司は握れますよね。そこに完璧を決めるラインがないので、悩むだけ無駄だと思っています。でも、逆に撤退ラインは決めています。やってダメだったら、すぐやめます。そんなもんですよ。ダメならやめりゃいい。

ーー始める前に悩むだけムダ、始めてみてダメならやめる。考え方の根本は一緒ですね。ゆえに損切りも早くできるんですね。
【蛎田一博】そうです。「やり始めたら、続けなきゃ」って多くの人が考えていますよね。僕の場合は、やめるなら、さっさとやめる。よければ続ける。それでよくないかなって思います。寿司屋も人材紹介も、たまたま僕が今それをやっているだけで、そこに特別な思い入れはないです。あと20年続けていたら「こうなるために頑張ってきた」と言うと思いますが、それは後づけですよね(笑)。逆に言うと、「この仕事を一生やり続ける。僕のライフワークだ」とか言っていて、来年やめていたら、それこそ意味がわからないじゃないですか。

ーーそうですね。そうなんですよね。
【蛎田一博】転職エージェントでも、「転職して失敗しても別に死ぬわけじゃないし、何が問題なんですか?」とアドバイスしていたので、自分もそれを体現したというか、寿司屋をやってみて、ダメだったら店をたためばいいわけです。会社が傾くほどの借金を負うなら即やめたがほうがいいけど、別にちょっと借金して終わるぐらいなら「ま、いっか」みたいな感じです。人には、得意・不得意があります。そしてそれは、やってみなきゃわからないわけですよ。

「やめるなら、さっさとやめる。よければ続ける。失敗しても別に死ぬわけじゃない」そんなスタンスが蛎田さんの信条
「やめるなら、さっさとやめる。よければ続ける。失敗しても別に死ぬわけじゃない」そんなスタンスが蛎田さんの信条【撮影=樋口涼】


ーー開店前と開店後で、プランの立て方は変わりました?
【蛎田一博】僕、めちゃくちゃ寿司屋に行くんですよ。高級な寿司屋から、コスパのいい寿司屋、回転寿司も行くんですけど、『有楽町かきだ』は「こんな店あったらいいな」と自分が思う店を体現しただけなんです。結果、僕が行きたいと思っていた店と世の中のニーズが、たまたまハマっただけ。そもそも事業計画とか、そういったものは特にありません。ただ、税込1万円で好きなだけおかわりできて、飲み放題がつくという、基本の部分については考えていました。大トロをもう1貫食べたり、ウニをあと2貫食べたり、1万円で好きなだけ寿司が楽しめるのは「気を使わずに、たくさん食べてもらえたら気持ちいいな」という理由から考えていたところです。それが唯一のプランですね。それが儲かるかどうかは、あまり考えていませんでした(笑)。

ーーなるほど。ご自身のなかでの「ここが」というポイントがお店の人気につながったわけですね。
【蛎田一博】すごくいいところにハマりましたね。今、高級店の中でも安めな店のコースで3万円ですね。さらに、お酒を飲んだら4万ちょっと。有名店でいい店になると、ちょっとおかわりしたらひとり5万円を超えるのは普通です。中級のチェーン店で好きなネタ食べてちょっと飲んだら、1万円くらいします。だったら、僕なら2、3万払ってもいいから、もうちょっといい店に行こうと思うんです。だから、その間が意外と盲点だと思って。

ーー年齢でも価格を分けていましたよね。
【蛎田一博】以前、実施していましたね。ただ、女性に年齢確認をしなければならないという難しさがあったので、今はやめてしまいました。あれも、僕の考えですけど、商売なのでお金があるところからいただきたいと考えたんです。僕、今33歳なんですよ。僕より年上のそれなりに稼げている世代に、安く提供する必要はないだろうと(笑)。それから、年下で稼げていない人からお金をいただいてまで儲けたいと思っていなかったんです。単純にそういう理由からの発想でした。その理由と同じで、現在の日本人って昔ほど稼げていないじゃないですか。いっそのこと、外国人に来てもらったほうが商売として成り立つと考えたんです。そこで、小田急ホテルセンチュリーサザンタワーの19階へ『有楽町かきだ』を移転することにしました。移転後も価格帯はできるだけ現状維持するつもりです。常連さんをはじめ、日本人のお客さんに食べていただくためにです。

新宿の小田急ホテルセンチュリーサザンタワー19Fに新店舗をオープンした「有楽町かきだ」。コースは8800円~、おかわり自由の最強コースは1万1000円~
新宿の小田急ホテルセンチュリーサザンタワー19Fに新店舗をオープンした「有楽町かきだ」。コースは8800円~、おかわり自由の最強コースは1万1000円~【撮影=樋口涼】


【蛎田一博】以前、台湾のインフルエンサーの方が来店されて、SNSにお店をあげてくださったんです。それから毎日30件くらい台湾から予約のDMが届くようになったんですが、予約がずっと埋まっているんですよね。(移転前の)8席の店だと受け入れが困難なんですよ。受け皿さえあれば何百人もの人が来てくれていたかもしれないと考えたら、超もったいないと思って。それなら、小田急ホテルのような大箱にして、集客をうまくやりながら、食材に原価をかけることでお客さんの満足度を上げるやり方が合理的じゃないですか。安い魚を職人の技術でうまくするのもひとつのやり方ですが、技術がないならいい魚を提供すれば、職人の技はカバーできる。そんなやり方が僕の今の戦略です。

ーー確かに、寿司や肉は、素材の良さがカバーしてくれる領域が大きいですね。
【蛎田一博】本当にそのとおりです。マグロも肉もピンキリですよね。スーパーのマグロを一流店の寿司屋の職人さんに握らせても、そんなにおいしくはならないと思います。ステーキも一緒ですね。鉄板焼きの名店で外国産の安い肉を焼いてもらっても、きっとパサパサしていて硬いでしょう。そういうちょっとした部分である程度の領域までぱっといけるのは、何でも一緒なんです。例えば、学校のテストで100点をとるのは難しいけど、80点なら手が届くじゃないですか。そこから20点上げるのは、たぶんすごく難しいから捨てろみたいな感じで、営業もそうだと思います。

【蛎田一博】マグロはめちゃくちゃいいものを使っています。一方で、ほかの食材は高級店と比べたら劣るものを使っています。ただ、マグロだけは高級店と同等のものを一本買いして使うと決めています。マグロの一本買いって景気がいいし、なんかやっぱかっこいいですよね。話題性もあるし、同業他社やお客さんにも舐められない。

9月ごろから旬を迎える大間産のマグロ。脂がのって上質な味が楽しめる
9月ごろから旬を迎える大間産のマグロ。脂がのって上質な味が楽しめる【撮影=樋口涼】


ーーみんながわかりやすく求めるラインのひとつですよね。
【蛎田一博】そうです。築地の某チェーン店以外にマグロを一本買いしている店って、あまり聞いたことがないですよね。でも、大きなチェーン店は買っているはずなんですよ。多くの寿司屋は、Webマーケティングを活用したり、そういうPRがはっきり言って下手だと思います。だから、あの有名な築地の社長さんが引退したら、僕のひとり勝ちじゃないですか?まず、インバウンドの方に知ってもらい、海外に進出して、マグロや寿司のイメージ=僕と認識する人を一定数獲得できたら、相当強いですよね。すごく“ラッキーな市場”だと思っています。それに、高級店だと、TVなどメディアに出ると格式を下げる場合がありますが、僕にはそんなリスクもない。バズがバズを生むので、非言語でいろいろわかりやすい舟盛りのような演出も大事なんですよ。外国人もやっぱりマグロが好き。アメリカ人も大トロとか中トロとかが好きで、マグロを1本「バン!」って買えば、「おぉ!」ってなるじゃないですか。

外国人にウケがいい舟盛り用の桶は、職人の手で作成した本格仕様。わかりやすい演出が大切なのだそう
外国人にウケがいい舟盛り用の桶は、職人の手で作成した本格仕様。わかりやすい演出が大切なのだそう【撮影=樋口涼】


【蛎田一博】寿司は日本人の武器だから、インバウンドの人たちに高く売れるし、海外で寿司を握れば稼げるんです。よく「寿司職人とは?」という定義が話題になったりしますが、僕は自分が高級な寿司屋になれるとは考えていません。それは、そういう修行をしたわけではないから。でも、海外ではアジア系の人が日本料理店を作って、日本料理風なものを提供してそれが流行っているわけです。「それはいいのか?」って思うんですよ。だったら、ちゃんとした修行をしていなくても僕がやったほうが日本料理を知っているし、日本の食材を仕入れられるからいいよねって考えています。

ーーネタの目利きに関しては、仲卸さんに頼んでいるそうですが、信頼関係の築き方で蛎田さんの強みやこだわり、気にかけてるところがあれば教えてください。
【蛎田一博】大切なことは、まず市場へ毎日行くことです。すごく簡単そうだけど大変なんですよ。毎日「おはようございます!今日もお願いします!」って言っています。それだけで僕に魚が回ってくるようになりました。なぜなら、ほとんどの寿司屋は、それがきつくてやらないから。あと僕は値切らないです。商売人なんで、魚が安いに越したことはないですよ。でも、例えばキロ3000円という魚を「2000円にして」って値引きしてもらっても、その人が気持ちよくないだろうなと思うので、言い値で買っています。値切ってくるような、ケチケチした人にいい魚を回すか?って思いません?マグロ一本買いもそのためでもあります。それに、3店分の魚をいっぱい買うので、やっぱり誰に売りたいか?ってなると思うんです。きっと「蛎田さんに長く買ってもらいたい」と思うはずですよね。

ーー仲卸業者としても得ってことですよね。
【蛎田一博】そうですね。恐らく、仲卸さんたちは、僕のことを知らない寿司屋から「なんか最近ああいうのが出てきて」っていう、陰口を耳にされていると思うんです。でも、そういうときに、仲卸さんたちが「蛎田さんはモチベーションあって立派だよ」って、伝えてくれる可能性があるんです。そうしたらその寿司屋も「そうか、そういう時代か」って思うじゃないですか。こうやってヘイトを減らすこともできます。だから、不思議と僕のTwitterにもアンチは少ないんですよね。

ーーTwitterといえば、両手で寿司や丼を前に差し出す決めポーズの笑顔も印象的でした。
【蛎田一博】あれも、今の形に行き着くまでのエピソードがあって、最初は、手のひらに寿司を乗せて「どや!」って片手を前に突き出すというスタイルだったんです。そのスタイルは、北九州の照寿司さんが最初に始められたポーズなんですよね。それを見た、ある上場企業の社長から「オリジナルを考えたほうがいい」とアドバイスをもらって、それで逆をやることにしたんです。

すっかりおなじみになった決めポーズ。爽やかな笑顔が印象的
すっかりおなじみになった決めポーズ。爽やかな笑顔が印象的【撮影=樋口涼】


ーーそういう理由があったんですね。
【蛎田一博】そうなんです。あれは、何年も修行してきた職人が最高の一貫を出すときならではのポーズ。僕の場合は違いますから。そこで、片手ではなく両手で丁寧に持って、ドヤ顔ではなく笑顔にして、すべて逆になるように考えました。下から丁寧に笑顔で、そうすれば文句も言われづらいじゃないですか(笑)。周りに冷静にアドバイスしてくれる人がいて助かりましたね。

【蛎田一博】きっと、あの有名な築地の社長さんは、だから両手を広げているんだと思います。あの有名チェーン店に嫌なイメージを抱いている人っていないですよね。もし、あの社長さんが引退されて、僕が5年、10年以内にそのポジションにいることができたら、マグロ王の座は『有楽町かきだ』のものになるんですよ。正直、人材紹介をやっていたほうが儲かるので、寿司屋で儲けることは考えていません。でも、おもしろいことをやりたいという気持ちは強いので、マグロ王のポジションが取れたらいいなと思っています。

寿司を手のひらに乗せ片手で突き出す、以前のポーズ。友人からのアドバイスを受け変更したそう
寿司を手のひらに乗せ片手で突き出す、以前のポーズ。友人からのアドバイスを受け変更したそう【撮影=樋口涼】


ーー“マグロ王”、キャッチーでわかりやすいですね。
【蛎田一博】でしょ。マグロ王というフレーズはすごく考えたんですよ。ふざけていて、バカっぽいじゃないですか(笑)。でも、これが「日本の寿司業界を背負う」という言い方だったら、妬む人がきっと出てくるし、ヘイトがたまるんですよね。何の魚を一番仕入れている人が、寿司業界の長になれるかわかりますか?それはマグロです。マグロ王は、寿司業界を引っ張ることとほぼ同義だと思うので、これからも表現や見せ方を工夫していこうと考えています。

ーー売り上げ額や原価をオープンにされていますが、その理由は?
【蛎田一博】食材に関してとか、たまに口コミで言われるんですよ。だったら、オープンにしたほうが気持ちがいいじゃないですか。原価率は、2月から6月までで平均して53〜54%。お客さんにとってのコスパはかなりいいです。もし、それでも味が悪いと言われたら「それは食材のせいではなく調理のせいです」と言えますし、真実を伝えているので、クレームをいう人もそこに対しては文句が言えなくなります。通常の飲食店の原価は約3割と言われているので、原価率5割超えはあり得ない数字です。半分が原価なら、お客さんも「それならしょうがない」と思うでしょうし。

【蛎田一博】売り上げや原価をオープンにするもうひとつの理由は、儲けに走らないよう自制するためです。原価率を30%くらいに抑えればボロ儲けなんですよ。ただ、それは僕のポリシーから外れるので。数字を開示しておけば、仮に儲けに走ろうとしても「最近、原価率が普通の飲食店ぐらいになってきていますね」と突っ込まれるでしょ。おごらないために、精進するために、オープンにしています。すべて自分のためなんですよね。今後も原価率5割で収益が出るように、事業計画を組んでいるところです。