1990年代、高い機能性と多彩なデザインを兼ね備えた“ハイテクスニーカー”が登場したことで巻き起こった、第一次スニーカーブーム。これを牽引した商品のひとつが、Reebokの「Instapump Fury」(インスタポンプフューリー)だ。
靴紐がなくても足にフィットさせることができる「ポンプテクノロジー」を搭載したこのシューズは、1994年の発売当時、ストリートファッションを愛する人々が集う裏原宿、通称「裏原」を中心に、日本で爆発的な人気を得た。後に、その斬新なビジュアルと機能性でストリートファッションのアイコンとなり、さまざまなカラーウェイや限定モデル、コラボレーションモデルをリリース。現在もファンをうならせている。
そんなインスタポンプフューリーは、2024年で誕生30周年を迎えた。今回は、その誕生秘話と世界中のスニーカー好きを魅了し続けている理由について、Reebok Japan 商品責任者の高嶋佑輔さんに話を聞いた。
Reebokの技術を集結させた「インスタポンプフューリー」
インスタポンプフューリーは1994年にReebokから発売された、独創的なデザインが特徴のランニングシューズ。このシューズが生まれる以前、1980年後半から1990年前半にかけてさまざまなスポーツメーカーが勃興し、しのぎを削っていた時代だった。この時期は“スニーカー大戦争”と比喩されるほどに、各社の競争が激しい時期だったという。
そのような競争が一旦落ち着いた1994年、テクノロジー系のスニーカーを発売して市場を制したのが、「AIR MAX 95」を発売したNIKE、そして「Instapump Fury」を世に送り出したReebokだった。
「当時、革新的な商品を開発するために『リーボックアドバンスドコンセプト』というスペシャルチームがあり、そこで『絶対に他社に負けない、テクノロジーの最先端を行くアイテムを作ろう』という確固たる目標を持って作られたのがインスタポンプフューリーです。そのため、当時としては最先端の技術が詰め込まれたフットウェアでした」
特にほかのシューズと異なっていたのは、空気圧でフィッティングを調整する「ポンプテクノロジー」が採用されている点。この機能は、1989年に登場したバスケットボールシューズ「The Pump」に搭載されていたもので、これをランニングシューズに落とし込もうとしたことが、インスタポンプフューリーを開発するそもそものきっかけだったそうだ。
「『The Pump』は、史上初のポンプテクノロジーを搭載したシューズで、バスケットボール選手の『自分でフィット感をカスタマイズできるシューズがほしい』という意見から生まれました。『The Pump』とインスタポンプフューリーの大きな違いは、シューズの内側に内蔵されているエアチェンバー(空気室)がアッパーの一部に搭載されているところにあります。このような開発の変遷を経て、世にポンプテクノロジーが広まっていきました」
最初のモデル「シトロン」は“奇抜すぎる”？
さまざまな種類があるインスタポンプフューリーの中でも、ブランドのアイコン的存在となっているのが「シトロン」の愛称で知られているイエロー×レッドの鮮やかな配色が施されたモデル。ランナーがインスタポンプフューリーを履いた際に、炎に包まれているかのようなイメージで作られたという、最初に誕生したモデルだ。
しかし、開発当時の営業・マーケティング部門は、このデザインを“奇抜すぎる”と考え、実際に販売することに反対したのだとか。納得のいかなかった当時のデザインチームは、このシューズを販売につなげるために社内を奔走。紆余曲折を経て発売されたこのモデルは大人気となり、現在でも世界中で愛されている。
「意外かもしれませんが、インスタポンプフューリーはアメリカやヨーロッパ以上に、日本で特に盛り上がりを見せました。1990年代の日本はスニーカーブームの流れがあったこともありますが、当時の“裏原カルチャー”と呼ばれるストリート系のファッションとの相性が抜群だったこと、そして、トラッドなスタイルの中にアクセントを加えるうえで合わせやすかったことが、人気に火がついた大きな理由だと考えています」
さらに高嶋さんは、インスタポンプフューリーの日本での人気について話す。
「カルチャーやファッションのトレンドは、地球を回っているのだそうです。ヨーロッパからスタートして、途中に大陸を抜けながら吸収しつつアメリカに移っていく、みたいな感じですね。どこがスタートというわけではありませんが、大体ヨーロッパ、アジア、アメリカの西海岸・東海岸から始まり、またヨーロッパに戻るとよく言われています。インスタポンプフューリーは、ちょうど当時の日本のトレンドとマッチしたのではないかと思っています」
高嶋さんによると、最近では特に女性からの支持を集めているのだとか。インスタポンプフューリーはさまざまな着こなしとの相性がいいこともあり、男性よりもファッションの幅が広い女性からの需要が年々上がっているそうだ。
「女性のほうが比較的ファッションに対してチャレンジ精神を持っているように感じますね。インスタポンプフューリーのカラーリングが豊富な分、ウェアも負けないような色を選んでしまうと全体的にキツくなってしまうことが多いのですが、そうならずに、自然にコーディネートに溶け込ませるのが上手な方が多い印象です」
「私たちが一番かっこいいと思うものを作り続けていきたい」
発売以来、数えきれないほどのインスタポンプフューリーを生み出してきたReebok。裏原カルチャーや世界のファッショントレンドの流れによって、確固たる地位を築いてきた。この流れは発売から30年経過した今もなお衰えず、老若男女問わずファッションを愛する人たちに支持されている。
「いろいろなデザインのインスタポンプフューリーが発売されていますが、やっぱりベストは『シトロン』だと思っているので、『これを越えられるものはないかも』と感じています。ですが、ブランド自体にはまだまだ可能性があるはずです。ファッショントレンドは年々変わっているので、今後よりおもしろい履き方をする方が出てくるのが楽しみですね」
最後に、今後の展望を聞いた。
「インスタポンプフューリーはモデル自体が不変なものなので、これから先何十年も同じ形を維持し続けていくことが使命だと思っています。ファンの方の中には、このシューズが誕生したころにはまだ生まれていないという方も増えています。そのような方々にもっとインスタポンプフューリーの魅力を伝えていきたいです。やはり、いいものは進化しながら受け継がれていきます。そのようなピースのひとつとして、インスタポンプフューリーを位置付けていきたいですね」
「これからも、私たちが一番かっこいいと思うものを作り続けていく」と話す高嶋さん。今後はさまざまな素材やカラーリングを駆使して新しい商品にチャレンジしながら着用シーンを少しずつ開拓し、技術的にもスタイル的にも幅広い展開を見せていく予定なのだとか。インスタポンプフューリーの今後の進化に注目だ。
取材・文＝福井求(にげば企画)
