創立100周年、ホーユーの“生え抜き”新社長が語るリーダー哲学。「根幹は、やはり人」そして「お客様のお役に立つことが大命題」

東京ウォーカー(全国版)

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ビゲン、シエロなどのブランドを軸に、ヘアカラー業界のトップを走り続けてきたホーユーが、2023年に創立100周年を迎えた。記念事業の一環として、名古屋市東区に「ホーユーヘアカラーミュージアム」を開業。ほぼ時期を同じくしてヘアケアの情報サイト「LICOLO」をリニューアルするなど、活発な情報発信を行っている。コロナ禍を経て大きく揺れ動くヘアカラー業界だが、その舵取りを任されているのは、昨年(2022年)、老舗企業のホーユーにおいて、創業一族ではない初の生え抜き社長となった佐々木義広さん。その取り組みを通して、佐々木社長が抱くリーダーとしての想いや考え方を聞かせてもらった。

ホーユー株式会社 代表取締役 社長執行役員の佐々木義広さん【撮影=古川寛二】

創立100周年を機に、一般消費者へ向けてヘアカラーの情報発信を強化

ーーホーユーヘアカラーミュージアムとは、どういったミュージアムになりますか?
【佐々木義広】その名のとおり、ヘアカラーに関する日本初のミュージアムです。ヘアカラーの歴史に関する資料展示、ヘアマニキュアやヘアカラー製品の酸化染毛剤について学べるコーナーに加え、当社の歩みをご紹介する展示も設けています。AIの技術を活用した体験コーナーもありまして、ここで写真撮影をすると、自分に似合う髪型や髪色を試せるようになっています。

【写真】「ホーユーヘアカラーミュージアム」(名古屋市東区)。2022年10月7日にプレオープン、2023年5月9日に一般オープンした【画像提供=ホーユー株式会社】

【佐々木義広】おかげさまで、2023年に我々は創立100年を迎えることができました。これをきっかけに、もう少しヘアカラー文化について発信していきたいという思いがあったんですね。ミュージアム近隣は、徳川家康ゆかりの品々を所蔵している徳川美術館や、尾張徳川家の邸宅跡を整備した徳川園などが集まる文化的なエリアでもありますし、ご縁があって素晴らしい場所にオープンすることができました。

ーー2022年10月にプレオープンでしたね。
【佐々木義広】10月7日ですね。社員と、お得意様と、あとは近隣関係の方に先行して見ていただきました。社員には、ヘアカラーの歴史や当社の歴史に触れてもらいたかったものですから。あと、一般にオープンする前にフィードバックをもらってブラッシュアップする目的もありました。一般オープンは2023年5月9日になります。

日本のヘアカラー史を紹介する常設展示室【画像提供=ホーユー株式会社】

ーー一般オープンから1カ月ほど経過しましたが、反響はいかがでしょうか?
【佐々木義広】5月だけで500人超の方が来てくださって、予想していたよりもはるかに反響は大きかったですね。積極的に告知をしていたわけではなく「来てくれるのかな」と思っていたので、驚きました。

ーー佐々木社長から見て、特に注目してほしい点をお聞かせください。
【佐々木義広】ここはミュージアムですから、何かおもしろい仕掛けがあるだとか、そういうところではないんですよ。真摯にヘアカラーの文化を学ぶ場というか、知っていただくことがメインになっていますので、エンタメ的要素を期待してご来場されるとがっかりさせてしまうかもしれません。ただ、聞いている限りではご来場くださる方々はどなたも真面目に学んでくださり、満足されているということなので、うれしいですね。

さまざまなアトラクションを通じて、ヘアカラーの魅力を体感できる【画像提供=ホーユー株式会社】

【佐々木義広】盛り上がる要素としては体験コーナーのシミュレーションでしょうか。ご年配の男性が女性のような髪型を合わせてみるなど、けっこう楽しんでいただいているようです。

ーーもうひとつ、御社の営みとしてお伺いしたいのですが、2023年4月にヘアケアの情報サイト「LICOLO」をリニューアルされた意図や狙いを教えていただけますか?
【佐々木義広】「LICOLO」の立ち上げは、商品回り以外のところでもっとカラーリングに親しんでもらいたい、そういったコンテンツを出したい、という意図から始まりました。当初は「なるべく企業色を出したくない」と考えていたので、ドメインはホーユーとは別に取得しました。

2023年4月にリニューアルしたヘアケア情報サイト「LICOLO」【画像提供=ホーユー株式会社】

【佐々木義広】サイトを運営していくにつれて、「ホーユーがお客様に対して情報を発信している」という真摯な取り組みを、もっとお客様にアピールしてもいいんじゃないかという意見が社内から挙がりまして、方針を若干変えることを考えていたのです。ちょうどコーポレートサイトのリニューアルも予定されていたので、一緒に統合してドメインも移し替えた、というのが今回の経緯です。

自分の方針を社員に的確に伝えた驚きの方法とは?社長任命から就任、現在までの行動

ーー続いて、ホーユー全体と、佐々木社長の方針についてもお伺いできればと思います。2005年に創業100周年を迎えられて、2023年に創立100周年。歴史ある大企業だと思うのですが、佐々木社長は、初めて創業一族ではなく生え抜きの社員から社長に抜擢されましたね。
【佐々木義広】生え抜き社員からの社長就任に関しては、突然の話ではなかったんです。数年前から、当時の社長(現在の会長)は「次は社員にバトンタッチする」と公言していました。その当時の体制で社員出身の取締役は私ともうひとりいまして、どちらかになるんだろうという考えはありましたし、一応、覚悟もしていました。

2022年1月31日に、代表取締役 社長執行役員となった【撮影=古川寛二】

【佐々木義広】そういう意味でいえば、大きな驚きというのはありませんが、一方では当然ながらものすごいプレッシャーはあります。私で5代目になりますが、1990年に入社して以来、現場を経験しながら叩き上げで社長になったことを考えますと、やっぱりそれまでと全然立場が違いますので。一番気にしたのは、社員がどういうふうに受け止めるのかということです。

【佐々木義広】社員が不安にならないように、任命を受けた時点で、海外も含めて社員に手紙を書きました。私の人となりや、今までのキャリア、考え方、今後どうしていきたいか、という内容を書いて配った、というのが最初の取り組みでした。

ーーすごい。では、しっかりご自分の想いや考えを、メンバーのみなさんに伝えたんですね。
【佐々木義広】そうですね。まずは任命のタイミングで伝えました。それから、2022年1月31日に就任しまして、3月30日が創立記念日だったので、そこで所信表明をしました。スムーズに継承することを心がけて、なるべく安心してもらえるように気をつけながらバトンタッチしてきた、というのがここ1年の状況です。

自らの方針や人となりについて、折に触れて社員に伝えてきた佐々木社長【撮影=古川寛二】

ーーここまでの手応えはいかがですか?
【佐々木義広】急激にガラッとは変えられないですし、変えるべきではないと思っていますので、少しずつ、少しずつというふうに考えています。

【佐々木義広】ヘアカラーは、ある意味特殊な商材なんです。医薬部外品と言いまして、化粧品と医薬品の中間なんですが、どちらかというと薬品に近いような形でしょうか。人によってはアレルギーが起きますし、安全性には常に気を使ってきました。そのせいか、社風はちょっと保守的なんですよ。

ホーユーは2005年に創業100年、2023年に創立100年を迎えた老舗企業。名古屋市東区に本社を構える【画像提供=ホーユー株式会社】

【佐々木義広】それを否定するわけでもなく、むしろ誇りとか強みだというふうに思っています。ただ一方で、もうちょっとチャレンジしていってもいいかなという面もありますので、少しずつ、「失敗を恐れずに、いろいろなことにチャレンジしようよ」と言ってきたので、それがなんとなくできつつある実感を持ててきた、というところでしょうか。

ーー確かに、領域的にも安心、安全というものを土台としてすごく大事にされている企業だと思いますし、そのなかでチャレンジしていくことはかなり大変だと思います。バランスを取りながらやっていく必要がありますよね。
【佐々木義広】本当に大変なんですよ。創立100年、創業118年という歴史があるなかで築き上げられてきたコーポレートカルチャーというものがありますので、そこを変えるのはもう無理ですし、そこが逆に強みなので変える必要もないんですけれども、それをベースにしながらも、新たなチャレンジを進めていきたいなと考えています。

取材時においても、佐々木社長の熱意に圧倒されっぱなしだった【撮影=古川寛二】

【佐々木義広】ヘアカラーに関しては、やっぱり安心安全が第一なので、あまり大きく変えるのではなく、慎重に丁寧にやっていく必要があります。一方、化粧品分類においては、同じやり方じゃなくてもっと挑戦できることがあると思います。ところが、やはりヘアカラーと同じ発想や考えで進んでしまうことがあるので、「いや、ここはいいんだよ」というところを会話しながら、新しい挑戦をしていきたいと思っています。

ーー大変な舵取り役ですね。こういし舵取りの巧みさには、佐々木社長のキャリアが生かされているのでしょうか?もともとは研究職としてキャリアをスタートされたと伺いました。
【佐々木義広】入社したときは研究所に配属されて、8年間、美容院向けのパーマ剤の開発をしていました。私がその当時処方した商品は、いまだに細々とですが、販売しています。そこから、ビゲンやシエロといったコンシューマー向けの商品企画部へ異動して、7年間、所属していました。シエロやメンズビゲンの、ワンプッシュで使えるクリームタイプの商材だとか、ビゲン 香りのヘアカラーだとか、あの当時企画した商品は今も好評いただいています。

ホーユーの代表的ブランドである「Bigen(ビゲン)」は、誕生から60余年。数多くのヒット商品を生み出してきた


ーー御社の商品は、ロングセラーが多いですね。一般的にはヘアカラーの会社というイメージが強いですが、市場での御社のポジションについてはどのように捉えていますか?
【佐々木義広】やっぱりヘアカラーですよ。今だと事業は3つに分かれていまして、ひとつは国内のリテール向け。我々は「コンシューマービジネスカンパニー」と呼んでいますが、そこが屋台骨になります。一部ヘアケアも出していますが、売り上げのほぼすべてがヘアカラーですね。

【佐々木義広】もうひとつは「海外ビジネスカンパニー」といって、アメリカ・中国など約世界70カ国に向けたビジネスをやっている部門があります。ロレアルなどの世界的企業と真っ向勝負は難しいので、黒人の方やアジアン、ヒスパニックの方など黒髪人種を対象に、我々の強みを生かした事業展開をしています。そして、最後のひとつは「プロフェッショナルカンパニー」といいます。そこの責任者は私が兼任していますが、事業内容は美容院向けのルートになります。

佐々木社長は、代表取締役 社長執行役員と兼任して、プロフェッショナルカンパニー プレジデントも務めている【撮影=古川寛二】

【佐々木義広】プロフェッショナルカンパニーは、私が2017年にアメリカから戻ってきて立て直しを命じられた事業なんです。当時は売り上げが右肩下がりで、新しい商品も出ていなかったので、とにかく商品を出すことを最優先にしました。そういうなかで、それまでメインだったヘアカラーに加えて、ヘアケアやスタイリング剤も積極的に開発するようになりました。今はどちらかというと、ヘアカラー以外が伸びています。

ーー社長就任の少し前からコロナ禍に突入していますが、ヘアカラーの市場において変化はありましたか?
【佐々木義広】2020年の春にコロナになったころは、みんな美容院に行けないので、逆に、我々の得意とする一般向けの商材が伸びました。ところが、我々の商品は一般向けのなかでも年配の方の白髪染めがメインですので、年配の方が外出を控えるようになったことで徐々に市場が縮小していきました。逆に、美容院向けの潜在的顧客は若者になりますので、だんだんと好調になりました。トータルとして、ヘアケアを含めたヘアカラーの市場は伸びているのですが、我々の屋台骨である一般コンシューマーのヘアカラー、セルフのヘアカラー市場というのはちょっと縮小していて、コロナ前の水準にはまだ戻っていません。

ーーなかなか過去にないレベルの出来事でしたしね。
【佐々木義広】本当に特別な出来事ですね。ただ、世間では化粧品などが大打撃を受けましたが、当社はそこまででもなかったんです。3カンパニーが持ちつ持たれつの関係なので、プロフェッショナルが伸びて、海外も国内よりも早く情勢が落ち着いたので伸びてきて、国内がまだちょっと苦戦していますが、トータルでは伸びているんですよ。

3カンパニーがうまく支えあうことで、コロナ禍においても会社としてはトータルで業績をアップさせてきた【撮影=古川寛二】

ーーなるほど。うまい具合に、リスクが出たときにどこかが支えるという構造になったんですね。
【佐々木義広】結果的にそうなりますね。当社はヘアカラーを軸にした事業展開なので、一般の方に売るのか、プロに売るのか、国内で売るのか、海外で売るのか、という話だけなんです。ベースになってるのはヘアカラーという商材なので、そういう意味でいうと、事業範囲が広いことによって必然的にリスク分散されているかな、という気はしますね。

ーープロフェッショナルカンパニーの話題の際に少し話が出ましたが、近年はヘアカラー以外の商品も意欲的に販売されている印象があります。
【佐々木義広】プロフェッショナルカンパニーの立て直しに着手する際「ヘアカラーだけじゃなく、ヘアケアでも勝負できるだろう」という自信があったので、まずいろいろな商品を出してみたのが始まりです。

会社として蓄積してきた毛髪に関する知見は、ヘアケア商品の開発においても有益だった【撮影=古川寛二】

【佐々木義広】我々の会社では、研究所にかなりのメンバーが在籍していまして、頭髪に関しての知見が蓄積されています。そこから派生したスタイリング材やヘアケア材であれば、いいものを作れるでしょう。それをうまく提案できていなかったので、積極的に提案していき、うまくいくものを順調に伸ばしていく、というやり方をしてきました。

ーーなるほど。やはり土台としてしっかりとした知見があればこそですね。
【佐々木義広】今、プロフェッショナルのほうで「BYKARTE(バイカルテ)」という商材が非常に好調ですが、これはまさに、科学技術から生まれました。毛髪というのはアミノ酸の構造になっていて、ケラチンというタンパク質からできているんですけれども、毛髪の成分であるシスチンというアミノ酸の一種を毛髪内部に閉じ込める技術がもともとありました。これまであまり注目されていなかったこの技術を拾い上げて、業務用のヘアケア材に仕立てたんです。髪質改善という形で、その効果を実感してもらえました。

「BYKARTE(バイカルテ)」は、髪由来の成分を補充し、芯から満ちる髪を提案するサロン向けブランド【画像提供=ホーユー株式会社】

【佐々木義広】カラーシャンプーも流行っていますが、我々はかなり乗り遅れていて、後発で参入しました。私は当時、商品開発の担当者に「遅れているから、とにかくスピード重視で出してくれ」と言って、既存の処方を使って商品を出すように指示しました。しかし、現場から「後発で参入するのに、競合と差別化できていないものでは戦いにくい」という声があがり、「確かにそのとおりだ」と考え、あらためてリスタートすることにしました。色としてはすごく染まる、でも爪などは染まらないものを開発することができて、後発ながらも好調に推移しています。

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