カットとスタイリングで施術時間20分、価格は2400円。カットサロン「FaSS(ファス)」は、カラーやパーマといったメニューがなく、シャンプーも省いて、短時間や安さを重視したサービスを提供している。東京と神奈川で全12店舗を展開し、待ち人数が10人を超えることも珍しくない。キュービーネットホールディングス株式会社グローバルコーポレートコミュニケーション部の宮城志歩さんに話を聞くと、「安くて早い」だけではない、人気の理由が見えてきた。
女性向けブランドとしてスタート。「意外と男性の利用も」
「FaSS」を運営するのは、「10分の身だしなみ」を掲げるヘアカット専門店「QB HOUSE」を展開するキュービーネット株式会社。「QB HOUSE」1号店が1996年にオープンし、現在は国内に約570店。シンガポールや香港、台湾、アメリカにも店を構える。忙しく働くビジネスマンをターゲットにしており、30〜50代の男性が客の9割以上を占めている。
そこで、新たに女性をターゲットに据えて、「FaSS」の前身となるブランド「Quatre Beaute(キャトルボーテ)」を立ち上げた。当時「QB HOUSE」が10分1000円(現在は1350円)だったのに対し、「Quatre Beaute」は20分2000円。表参道、新宿、有楽町に3店舗をオープンした。宮城さんは「実際にふたを開けてみると、想像以上に男性の利用も多かった」と話す。
「『QB HOUSE』はビジネスマンをターゲットにしていたので、どうしても『おじさん』というイメージが強くなっていました。ところが『Quatre Beaute』は、おしゃれ感度の高い男性にも利用していただき、ブランドを変えれば『QB HOUSE』とは違う、新たなお客様の層を得られるのではないかと考えました」
そうして2011年にオープンしたのが「FaSS」中目黒店。女性が入りやすく、家にいるような居心地のよい空間を実現するため、店舗面積を「QB HOUSE」の約1.5倍に広げて、待合スペースにゆとりを持たせた。店の中心にダイニングテーブルのような横長の台をひとつ置き、施術を行うセット面に。植物を配するなど心を和ませる工夫を凝らした。
オープンした2011年の中目黒店の年間来客数は1万5420人。2018年は過去最高となる2万3165人を数えた。「FaSS」開業当初の男女比は3:7だったが、現在はほぼ半々という。
「男性は『QB HOUSE』と比べると若い方が多く、30〜40代が中心です。2週間に1回のペースでご利用いただくヘビーユーザーの方もいらっしゃいますね。最近は韓国系のマッシュヘアなどをオーダーされる20代の方も多いです。女性は路面店だと40〜50代の方が多く、ショッピングモールに入る店舗なら全年代の方に利用していただいています。また、カットは「FaSS」で、カラーやパーマはほかの美容院でと、メニューに応じて使い分ける方もいらっしゃり、我々から見てもとても賢い使い方をしてくださっていると感じます」
利用者の満足度を高めるためのサービスと技術
20分という時間を実現するために欠かせないのが、「カウンセリング技術」「カット技術」「専用アプリ」だ。
「希望のスタイルを双方が認識するために大切なのがカウンセリングです。『今日はどうしますか』という漠然とした声かけではなく、お客様が迷わずにすむよう、イエスかノーで答えられるような質問をします。例えば男性なら耳は出すのか、出さないのか。女性なら毛先は肩につくかつかないか。一般の美容院ですと、切っている途中で『ここの長さはどうしますか？』といったやりとりが発生すると思うのですが、カウンセリングによってお客様が満足できるゴールを共通認識にすることで、そこへ最短距離で向かうことができます」
カット技術も「QB HOUSE」で培ったノウハウが生かされている。髪の毛にハサミを入れる回数を減らすための技法が全部で24個あり、「FaSS」で働く美容師も研修でそれらを身につける。さらに「FaSS」でオーダーが多いスタイルの研修や、アイロンやコテを使ったスタイリングの研修も実施。「FaSS」は指名制を取り入れていないため、どの店舗でどの美容師に担当してもらっても利用者が満足できるよう「技術の均一化」を掲げてそれぞれが技術を磨く。
同店の専用アプリ「FaSS Passport」は、過去の来店日や施術後のヘアスタイルを記録として残すことができる。
「アプリ導入前は、いつ切ったのか、どんな髪型だったのか、というところからコミュニケーションを始めていましたが、アプリによって不要な会話を省くことで、美容師が施術に集中できる環境が整っています。また、指名制ではないことに心配になるお客様もいらっしゃるかもしれませんが、美容師がアプリ内に蓄積された情報を把握しているというのは、安心材料になるのではないでしょうか」
アプリの情報は全店舗で確認できるので、たまたま時間が空いたとき、近くにある店舗に立ち寄ったとしても、いつもと同じようにサービスを受けられる。さらにアプリからは空き状況の確認や、順番待ち予約、28日後までの日時指定予約もできる。予約の際にはクレジットカードを登録するため、施術後は店舗で支払いをする必要がない。
利用者からは「この価格でここまで丁寧に要望を聞いてくれて、かつ適切な提案もしてくれる」「髪質や生え方のクセに合わせてアドバイスしてくれる」「『あの人を指名しないと気まずい』というストレスからも解放された」といった声が多くあり、家族や友人からの口コミでやってくる客も多いそうだ。また、初めて来店する人のなかには、仕上がりに多少の不安を抱いている人もいて、いい意味でギャップが生まれているのではないかという。
宮城さんは「美容師は『この価格だからこのくらいでいいだろう』とは思っていません」と話す。「価格に関係なく、目の前のお客様に満足してもらいたいという気持ちでサービスをしています。そういった気持ちや技術、提案力などに力を入れていることがお客様にも伝わって、リピーターになってくださる方がすごく多いと感じます」
