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「せんべいの価値を上げる」。事業存続の危機を乗り越え、老舗が作る「自由な和菓子」

2023/07/10 11:00
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「せんべいの価値を上げたい」。株式会社田中屋せんべい総本家(岐阜県大垣市)の6代目社長・田中裕介さんは、そのために何ができるのか考え続けてきた。クッキー缶ならぬせんべい缶で「日本ギフト大賞2023」の「老舗の商品開発賞」を受賞。せんべいカフェ「田の中屋」を2023年7月7日、同市にプレオープンし、9月にグランドオープンの予定だ。だが、かつてはせんべい作りの継続が危ぶまれたこともあったという。どのように危機を乗り越えたのか、せんべいの価値を上げるために何を行っているのか、田中さんに話を聞いた。

株式会社田中屋せんべい総本家六代目社長の田中裕介さん
株式会社田中屋せんべい総本家六代目社長の田中裕介さん

「せんべい屋が潰れるかも」という危機感

田中屋せんべい総本家は、1859年から続く老舗。看板商品は、初代が考案した「みそ入大垣せんべい」だ。職人が生地の状態や焼き型の癖を見ながら焼き方を調整し、1枚1枚丁寧に焼き上げる。

田中さんが東京の大学を卒業後、名古屋の和菓子屋で修行して、田中屋せんべい総本家に入社したのは2001年。当時の、田中屋せんべい総本家は、せんべい作りのほかに、洋菓子店とレストランを併設した店舗の運営も行っていた。

株式会社田中屋せんべい総本家は1859年に創業。初代・田中増吉さんが大阪で修行して「みそ入大垣せんべい」を考案し、岐阜・大垣に店を開いた
株式会社田中屋せんべい総本家は1859年に創業。初代・田中増吉さんが大阪で修行して「みそ入大垣せんべい」を考案し、岐阜・大垣に店を開いた

「5代目(田中さんの父)は『せんべいなんて古臭い』と思っていたのかもしれません。せんべいよりも、洋菓子レストランに力を入れていました。せんべい屋ではあるものの、4代目である祖父が育てた職人はみんな独立をしていて、そこから仕入れているという状態でした。職人は60歳を超えていたし、バブル崩壊後は売り上げがどんどん下がっていた。『5年後にはせんべい屋が潰れるかもしれない』という危機感がありました」

営業をやめて製造に注力

伝統の味を守るために取り組んだのは「品質を上げること」と「内製化」。だが、売り上げが下がるなか、新たに人を雇うことはできない。そこで、洋菓子職人に「せんべいを焼いてくれへんか」と頼んだ。「せんべい作りを教えてほしい」と独立したせんべい職人に頭を下げて回った。

創業当時から変わらず手焼きでせんべいを作っている
創業当時から変わらず手焼きでせんべいを作っている

「みそ入大垣せんべい」の材料である味噌は他社から仕入れていたが、商品の品質を安定させるために、田中さんが研究して自社で製造するようになった。また、製造に注力するために、5店舗あったうちの3店舗を閉店。欲しい人に買ってもらえればいいと、営業部は廃止した。父親からは「売り上げが落ちるじゃないか」と言われたが、売るものがなくなってしまえば、将来的にさらに売り上げが減ることは明らかだった。

創業当時の屋号は「玉穂堂」ともいい、そのなごりとして、「みそ入大垣せんべい」の焼型には稲穂がデザインされている
創業当時の屋号は「玉穂堂」ともいい、そのなごりとして、「みそ入大垣せんべい」の焼型には稲穂がデザインされている

また、受け継いだ技と味を次の世代につないでいくには、働いている人を大切にすることが必要だとも考えた。「僕の口から言っても、父は聞いてくれないだろうと思い、スタッフにアンケートを取りました。すると120件も意見が出た。想像以上にたくさん出てきたので、ショックを受けましたね。昔からずっと続けていることって、それが問題だと気づきにくいことがある。でも家族以外からの意見で、しかも文字で出されると、これはやばい、と思うわけです」

【写真】同社の看板商品「みそ入大垣せんべい」
【写真】同社の看板商品「みそ入大垣せんべい」

120件のうち、コンプライアンスに触れるようなことはすぐに禁止した。働き方や給与面など構造的な問題については、役員報酬を下げて従業員の給与に回すなど、時間をかけて取り組んだ。

「自由な和菓子」を提案

和菓子の可能性を広めるため、和菓子屋の跡取りが集まる「本和菓衆(ほんわかしゅう)」というグループを、10年ほど前に田中さんが呼びかけて結成した。きっかけは、東京の日本橋三越本店で毎年開催される催事「全国銘菓展」。全国から和菓子店が出店する歴史ある催事で、期間中に行われる懇親会には、名だたる老舗企業の社長らも集う。

「右も左もわからないような、30〜40代の跡取りたちは、なんとなく居場所がなくて、段々と後ろのほうに固まっていました。『みんなで二次会行こうか』となり、そこにいた若手で何か新しいことをやろうと声をかけました」

そうして結成した「本和菓衆」は、「自由な和菓子」を提案するイベントを、銀座三越で2013年から毎年開催している。田中屋せんべい総本家は、ミントや甘酒、チーズバターなどを使った新作を発表してきた。ヒット商品にも恵まれたが、現在でも売り上げが最も多いのは、昔ながらの「みそ入大垣せんべい」なのだという。

「みそ入大垣せんべい」に自家製のキャラメルペーストでキャラメリゼした「まつほ」
「みそ入大垣せんべい」に自家製のキャラメルペーストでキャラメリゼした「まつほ」

「こういうイベントを開催して、新しい商品を発信していると、今まで取り引きがなかったデパートから声をかけてもらうようになったり、いい場所に置いてもらえるようになったりするんですよね。新しいものを売るためだけに、新しいものを作っているわけではありません。『みそ入大垣せんべい』を残すため、というのが一番の理由。ここ20年に発売したなかでは一番のヒット商品である『キャラメル煎餅 まつほ』も『みそ入大垣せんべい』のおいしさを、もう一度知ってもらうために作っています」

「まつほ」のキャラメルペーストは、砂糖、バター、生クリームのほか、深い味わいを出すために蜂蜜とバニラビーンズを加えた
「まつほ」のキャラメルペーストは、砂糖、バター、生クリームのほか、深い味わいを出すために蜂蜜とバニラビーンズを加えた


■株式会社田中屋せんべい総本家ホームページ:http://tanakaya-senbei.jp/

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