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百貨店の女性社員がお菓子を食べまくる動画が万バズ!“場所”ではなく“人”にフォーカスしたインフルエンサー事業への挑戦

2022/09/28 01:03 | 更新 2023/04/17 00:05
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「私は、お菓子食べすぎ会社員の野崎!」そんな口上から始まるTikTok動画。スイーツを片手に走る女性は、いかにもお堅いオフィスに入っていく。デスクに着くと、大きな口でスイーツをもりもりと食べる。そしてそのおいしさを表情豊かに紹介して完食!オフィスでスイーツを食べまくるというコンセプトが話題になり、100万再生の動画を連発しているのは、「お菓子食べすぎ会社員」の野崎瑞穂さん。

野崎さんは大丸松坂屋百貨店の入社8年目の社員で、“インフルエンサー社員”として日々活動をしている。野崎さんのインフルエンサー活動の背景には、大丸松坂屋百貨店のインフルエンサー事業の推進があり、この舵取りをしているのは経営戦略本部DX推進部の岡崎路易(るい)部長だ。なぜ百貨店がインフルエンサー事業を始めることになったのか、TikTokでバズっている現状をどのように受け止めているのかを2人に聞いた。

オフィスでこっそりお菓子を食べるコンセプトで動画を投稿。野崎さんの表情がくるくる変わるところが見ている人を惹きつける 
オフィスでこっそりお菓子を食べるコンセプトで動画を投稿。野崎さんの表情がくるくる変わるところが見ている人を惹きつける 【画像提供=大丸松坂屋百貨店】

店舗に依存しすぎない、新しいビジネスモデルとしてのインフルエンサー事業

――岡崎部長はさまざまな新規事業に携わっています。社としてどういった方針があったのでしょうか?
【岡崎】新規事業のポリシーを作っていくなかでいくつか条件がありました。コロナ禍を経てデジタルネイティブにスポットを当てた部署ができたということで、社長からのミッションは「店舗に依存しすぎない」ということがありました。逆に言うと、いままで私たちは店舗ありきのビジネスしかしてきていませんでした。店舗で直接小売をしたり、店舗を取引先に提供したりですね。リスク分散の観点からも、リアル店舗に依存しすぎないということは求められました。もうひとつのミッションが「収益の複線化」です。PRによる宣伝費をもらうとか、BtoB(企業間取引)によるビジネスであるとか、サブスクビジネスといった、これまで百貨店ではやったことのないビジネスモデルを取り入れることで収益の複線化を狙っています。そうしたなかでコスメの情報メディア「DEPACO(デパコ)」やアートメディア「ARToVILLA(アートヴィラ)」といった事業を立ち上げることになりました。

――そこからインフルエンサー事業はどのような形で始まったんですか?
【岡崎】コロナ禍の影響により、リアルな場所の価値というものが相対的に下がっていった、一方で厳選されるようになってきたというのがあります。各社ともライブコマース(ライブ配信で商品を見せながら視聴者に販売していく手法)やネット販売といったリアルな対面以外の販売方法を取り入れていきました。芸能人の方もテレビ局に行けないから、自分たちでYouTube配信をしようという流れになっていきましたよね。これまで百貨店や駅前の一等地といった“場所”が新しい情報を発信してきたものが、ユーザーは家にいて、“人”が発信する情報に重きを置く流れになってきました。

【岡崎】私が入社したときに店頭で言われていたのは、百貨店での販売は、お客さまがお悩みとか新しいことを知りたいときに適切にお声がけをし、適切な情報を提供して商品を買っていただくことだと。ただ「これください」「はいどうぞ」だったら自動販売機と一緒だと指導されていたんです。そこを考えると、もともと私たちは情報提供を付加価値としてフィーをいただくビジネスをやってきていました。では、“人”が中心で、“人”が情報を発信していくということはどうだろうか、と考えたときに、一般的に流布している言葉を使うならば“インフルエンサー”だな、ということでこの事業がスタートしていきました。

――社内ではインフルエンサー事業に対してポジティブに受け止められていましたか?
【岡崎】ネガティブな反応ではないですが、私たちは店舗物販というビジネスを中心にやってきていましたから、人を中心にしたメディアというビジネスモデルがいままでと違いすぎてすんなり理解してもらったというわけではないです。ただ、社長はもともと販売促進やマーケティングの責任者をやっていたこともあり、メディアビジネスに対しての理解がとても深かったんです。我々がメディア力を高めて、そこに対してフィーが発生する。「君はメディア側をやりたいんだね」と理解してくれました。

「大丸松坂屋の野崎さん」としてTikTokで動画を投稿する野崎瑞穂さん 
「大丸松坂屋の野崎さん」としてTikTokで動画を投稿する野崎瑞穂さん 【画像提供=大丸松坂屋百貨店】

――となると、野崎さんがインフルエンサー社員をやります!と手をあげたんでしょうか?
【岡崎】新規事業の部署を大きくする際に、広く新規事業担当者を社内募集しました。既に立ち上げていたコスメやアートとはまた別に新しい何かをやるという枠で野崎が応募してきました。面接をしてみたら、彼女は企画力もあるし、お菓子への専門性や偏愛もある。実務能力もあるし、TikTokの顔芸も見事ですが、普段から表情が豊かで表現力があるんです。この人となら何かできると思って表に出る仕事はどうかと打診したところ、「できる」という返事で異動してきてもらいました。また、最初からいきなりインフルエンサーをやって、というわけではなく、いくつか企画を立てるといったフェーズを踏んで、現在の形になっています。

――野崎さんは、顔出し名前出しに抵抗はなかったんですか?
【野崎】そこは抵抗なかったですね。学生時代の活動や、入社後も公式Facebookの食品情報発信コーナーを担当したこともあって、「むしろ得意です」ということを話しました。

ターゲットを絞りやすいTikTok。コンテンツとして攻めたものを作っていく

――TikTokの前にYouTubeでの活動もされていました。しかし、TikTokと比べると伸び悩んだ印象を受けます。この差はどうして生まれたと感じていますか?
【野崎】これにはYouTubeとTikTokの一般的な違いと、私たち特有の社内レギュレーションの問題があります。一般的な理由から言うと、YouTubeはTikTokと比べると古いプラットフォームでユーザー数も多く、発信するクリエイター側も飽和状態で、バズることがどんどん難しい状態になっているのがあると思います。対して、TikTokはまだ新しいので、クリエイターの競合も少なく、ターゲットを狙いやすく隙間に入りやすいということがありました。可能性がまだまだある時期に始められましたね。私たち特有の問題としては、YouTubeは弊社でも販促活動などで既に利用していたこともあり、決まりごとがやや固まってしまっているところがありました。レギュレーションがしっかりと組み立てられていて、百貨店のイメージもあり、攻めた内容を配信するのが難しいんです。こういう企画がやりたいと思って提案しても通らなかったりして、どんどんコンテンツが丸くなってしまうということが重なり、結果、伸び悩んだんだと思っています。

――YouTubeの動画企画・制作はどのようにされていたんですか?
【野崎】制作会社さんと一緒にやっていました。TikTokは初めの頃は撮影・編集をひとりで行うことがほとんどでしたが、いまは制作チームとしては私を入れて3人です。

――TikTokは、細部は商品に合わせて違いますが、大筋の流れは一緒です。このフォーマットは事前に練っていたのでしょうか?
【野崎】TikTokを始める1カ月前くらいからチームで考えて、成功の確度が高いものを開発していきました。

――動画で取り上げている商品はてっきり大丸松坂屋百貨店で取り扱っているものだと思っていたんですが、違うんですね。これはどういう基準で選んでいるのでしょうか?
【野崎】私が動画を投稿しているのは、インフルエンサーとしての力を蓄えて、おいおい企業案件を獲得できるようにするためのものなので、販売促進が目的ではないんです。なので、いかに皆さんに見てもらえる動画を撮るかという部分にかかっているので、弊社で扱っている商品かどうかには全くこだわっていません。

――YouTubeにしろTikTokにしろ、投稿当初は「大丸松坂屋百貨店」の名前を出していませんでした。これはなぜでしょうか?
【野崎】YouTubeを始めたときに、いきなり屋号を出してしまうと「どうせ広報、宣伝目的だろう」と思われてしまうと考え、隠していたんです。ただ、企画を進めていくなかで弊社扱いの商品を出すとか、弊社のバイヤーが登場するとなっていったときに、社名を出さないというのには無理があって、そこで屋号をオープンにすることとなりました。TikTokも最初は「お菓子食べすぎ会社員」としか出さなかったんです。3カ月目くらいでプロフィール欄に明記するようになりました。

【岡崎】TikTokで1万人くらいのフォロワーがついて、宣伝などの営業をかけるためにも必要だとしてオープンにしていきました。SNSを使った宣伝をしていきたいけど、誰にどう発注すればよいのかわからない、超大手に出したらすごい値段でどうしよう…となっているクライアントもいるなかで、我々がそこに売り込みにいける流れですね。野崎単体ということもありますし、提携しているインフルエンサーの方を紹介して、ということもあります。

――大きな案件としては、モロゾフの「カスタードプリン誕生60周年記念コラボプリン」がありますね。
【野崎】味わい、パッケージデザイン、キービジュアルのディレクション、売り場のパネルなどトータルに関わらせていただきました。8つくらいイラストを描いて、その中に青空プリンがあったんですが、そしたらモロゾフさんから夕空もどうでしょうと提案をいただいて2種類のプリンを作りました。YouTubeをやっていたころに「勝手に広告を作ってみた」という企画でモロゾフさんのカスタードプリンの広告を勝手に作ったこともあるんです。当時、周囲からは「大きなメーカーさん相手にそんな勝手なことをするなんて」と引かれてしまった企画だったのですが、こうしたコラボ企画につながっていまでも夢を見ているような気分です。

YouTubeで活動をしていた際、モロゾフのプリンの広告を勝手に作るという動画を作成。その時に作った「昭和風」ポスター 
YouTubeで活動をしていた際、モロゾフのプリンの広告を勝手に作るという動画を作成。その時に作った「昭和風」ポスター 【画像提供=大丸松坂屋百貨店】

モロゾフのプリンの勝手に広告「令和風」。YouTubeは伸び悩んだが、この動画がきっかけで今回のモロゾフコラボの企画が実現した 
モロゾフのプリンの勝手に広告「令和風」。YouTubeは伸び悩んだが、この動画がきっかけで今回のモロゾフコラボの企画が実現した 【画像提供=大丸松坂屋百貨店】

太陽をイメージしたサクランボをマスカット風の青いゼリーに閉じ込めた「カスタードプリンと青空ゼリー」。プリン部分はモロゾフの定番のカスタードプリンを使用 
太陽をイメージしたサクランボをマスカット風の青いゼリーに閉じ込めた「カスタードプリンと青空ゼリー」。プリン部分はモロゾフの定番のカスタードプリンを使用 【画像提供=大丸松坂屋百貨店】

「カスタードプリンと夕空ゼリー」。モロゾフのカスタードプリンの「変わらないおいしい味」と、過去と現在、そして未来をつなぐ「変わらない美しい空」を重ね合わせて作り上げた 
「カスタードプリンと夕空ゼリー」。モロゾフのカスタードプリンの「変わらないおいしい味」と、過去と現在、そして未来をつなぐ「変わらない美しい空」を重ね合わせて作り上げた 【画像提供=大丸松坂屋百貨店】

――インフルエンサーとなると、バズらせなければならない、自分のプロデュース力を高めなければならないといったプレッシャーも感じますか?
【野崎】正直、まだ戦っています(笑)。再生回数が落ちれば普通に落ち込みますし、学生時代も含めてこんなに毎日表に出続けるということがなかったので、美容面の管理など自分のケアもしっかりやっていかなければならないという危機感はありますね。

――動画撮影において、一番気を付けていることは何ですか?
【野崎】攻めの部分で言うと、企画時点でしっかりとおもしろいものを組み立てられているか、ということでしょうか。インフルエンサーというと、その人が発信すること自体が仕事とイメージされると思うのですが、私たちはコンテンツを商品として考えているので、まずはしっかりと企画を立てるところを重視しています。そこからコンスタントに100万回再生の動画が増えていきました。

――ということは、予想外にバズったというよりは、狙いどおりにバズったという感じですか?
【野崎】そうですね、これは自信があるという状態でバズっています。予想外だったのは1本だけです。“クイックミルク”という牛乳にストローをさして飲むと、ストローの中に入っている粒が溶けて、牛乳に味がつくという商品なのですが、これは予想外の反応をいただきました。私はこの動画を撮るまでこの商品のことを知らなかったんですが、TikTokを見ているZ世代の方からは「懐かしい!」という反応がきてびっくりしました。

モロゾフとのコラボでは、商品だけではなく、店頭イメージなどトータルで開発に関わった。初めてのことばかりで大変だったそう 
モロゾフとのコラボでは、商品だけではなく、店頭イメージなどトータルで開発に関わった。初めてのことばかりで大変だったそう 【画像提供=大丸松坂屋百貨店】

――やはりTikTokを見ているのは若い方なんでしょうか?
【野崎】中学・高校生がほとんどです。でも、イベントでは私より年上の方がきてくださったりもして熱量を感じました。YouTubeのときも応援してくださる方のありがたみは感じていたのですが、TikTokでは、動画に対して私自身が関わる領域が広くなったこともあり、よりありがたみを感じるようになりました。コメントもたくさんいただいて、義務感からではなく、自然とコメント返しをしたくなるんです。全部に返信するというのは量もあってできないんですが。

――今後も活動のメインはTikTokで、YouTubeやInstagramといったほかのSNSでは活動はしないんでしょうか?
【野崎】当初は収益化という点ではYouTubeと考えていたのですが、TikTokが軌道に乗ってきたので、基本TikTokでやっていこうと考えています。他のプラットフォームのものをやらないというわけではなく、SNSによって見てくださる方も変わっていきますので、復活させていきたいです。

――大丸松坂屋百貨店のインフルエンサー社員は今後増えていくのでしょうか?
【岡崎】社内で勉強会をやって集めようといろいろやっているところです。冗談半分ではありますが、四天王みたいにできたらいいねと話しています。野崎が経験したことは今後のベンチマークになっていくので、課題点とか成果点をまとめてもらっています。事業としてこれからも会社として継続的に取り組んでいきます。

この記事のとりわけ#やくにたつ
・SNSの特性・違いを把握し、失敗の原因は多角的に分析
・事前の企画立てをしっかり行い、バズを狙ってつくる

取材・文=西連寺くらら

【プロフィール】野崎瑞穂(のざきみずほ)。株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部DX推進部。入社8年目。食品部門でキャリアを積んだのち、新規事業の社内公募に手をあげてメンバーとしてジョイン。

■「お菓子食べすぎ社員」
TikTok:@tabesugi_nozaki

■モロゾフ「カスタードプリン誕生60周年記念限定プリン」
https://www.morozoff.co.jp/products_news/detail/index1900.html

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