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助かる命を助けるために「命を守る教材を後世に残したい」、元レスキュー隊員の心優しい挑戦

2023/07/19 18:00
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チャンネル登録者数27.6万人(2023年7月14日時点)のYouTubeチャンネル『【消防防災】RESCUE HOUSE レスキューハウス』は、元レスキュー隊員の防災アドバイザー・兼平豪さん自身が“タイチョー”として出演する、防災や急病医療、障がい福祉について発信しているメディア。多くの火災・災害現場での体験をもとに、助かる命を助けるための対策方法を伝授している。今回は、兼平さんが消防士を辞めてまで、情報発信する理由や日本の防災対策、日頃から身につけておきたい防災対策について話を伺った。

元レスキュー隊員の防災アドバイザーとして活躍する株式会社VITAの代表取締役 兼平豪さん
元レスキュー隊員の防災アドバイザーとして活躍する株式会社VITAの代表取締役 兼平豪さん【撮影=樋口涼】


緊急時に命を守る“選択肢の棚”を増やすため、防災をアップデート

ーーもともと兼平さんがレスキュー隊員を志したきっかけを教えていただけますか?
【兼平豪】幼稚園のころから僕のヒーローだったんです。戦隊モノがめっちゃかっこよくなかったですか?〇〇レンジャーってめっちゃ好きだったんです。幼稚園のときに「僕は将来消防士になる」って発表会で発言していました。そして、小学校の職場体験で確信になったという感じです。僕がやりたかったのは、やっぱり消防士だって。

ーー初志貫徹だったわけですね。では、防災に関する情報発信を始めたきっかけや目標は何ですか?
【兼平豪】「防災対策、何をしていますか?」と質問をすると、皆さん「防災グッズを持っている」と答えるんです。しかも、そのほとんどが地震対策なんですよ。初めて耳にしたときは「ちょっと、待て。何を言っているんだ!?」と驚きました。災害は地震だけではなく、大雨や台風などの災害もありますし、身近な災害にも備えてほしいんです。もっといえば、僕にとっての防災は、交通事故から命を守る、子どもの熱性痙攣から命を守る、精神的な病から命を守る、電気火災から命を守る…これらすべてなんです。このように身近な危険ってすごくあるのに、日本の防災は不思議と地震が対象なんですよ。みなさんの意識が、防災=地震対策になっているので、まず、今ある防災をアップデートしたいと思ったことがきっかけです。現状は消防士と一般市民の間に、大きな情報格差があるんです。消防士だったら、あらゆる場面での対処方法がパッと判断できます。でも、一般の方は詳しくわからないでしょうし、誤った判断をしてしまう可能性もあるんですよね。

“助かる命を助けるために”が『RESCUE HOUSE』のテーマ
“助かる命を助けるために”が『RESCUE HOUSE』のテーマ【撮影=樋口涼】


【兼平豪】そんな想いがあったので、まず独立したときに、日本の経済を支えている上場企業から中小企業まで、「防災を変えましょう」と声をかけてみたんです。でも、誰ひとり話を聞いてもらえませんでした。消防の制服を脱いだら、誰も話を聞いてくれないんです。これはすごくショックでしたね。そこで、聞いてもらうためには「僕自身に影響力・発信力がいる」と考え、YouTubeで『【消防防災】RESCUE HOUSE レスキューハウス』の配信を始めることにしたんです。事故や災害で大切な人の命を失ってしまったとしても、僕は泣いて終わらせてしまったらダメだと思っています。だから、それをみなさんでも判断・対処できるように、いろいろな危険から命を守る教材を後世に残したいんです。そんな想いで動画を発信しています。

ーー防災を伝えるうえで、心がけていることがあれば教えてください。
【兼平豪】人が亡くなる、亡くならないという瀬戸際の対処法を伝えているのが『RESCUE HOUSE』です。日本で唯一、ここを発信しているのは僕だけ。防災のチャンネルで「こういう防災グッズが重要」と、グッズをメインに紹介するメディアもありますよね。でも僕は、それは違うなと思っています。それって災害から生き残ったあとの話であって、それよりも、生き残るまでの選択肢を得ることが先決なんですよ。でも残念ながら、今の日本にはそれが足りないんです。消防士がそばにいたら、救命率は上がる可能性が高いんです。なぜなら消防士は必要な知識を習得しているから。でも、彼らは命を助けに現場へ出動していて、発信できないんです。だから、僕みたいに消防を辞めた人間が、自分の命を守る方法、大切な人の命を守る方法を発信する必要があると考えています。それでも助けられない命を、消防隊に託す活動をしているんです。

【防災】防災イベントでマイクを握る兼平さん。防災を広げるために全国を巡っている
【防災】防災イベントでマイクを握る兼平さん。防災を広げるために全国を巡っている【撮影=樋口涼】

【兼平豪】僕が伝えたいのは、緊急時にとる行動です。1分1秒を争うなか、あなたの大切なものや人を守るための選択肢は3つぐらいしかないんです。その選択を間違えてほしくないと思います。そのために僕がしていることは、みなさんの命を守る“選択肢の棚”を増やす作業なんです。対処法を頭の片隅に置いておくと、いざというときに「あいつ、あんなこと言っていたな」って、キーワードだけでも出てきますよね。例えば「家電火災のときに落とすブレーカーはこれなんだ!」って知ってもらえるだけでいいんですよ。

ーーおっしゃるとおり、助ける人、伝える人の両方が必要ですね。レスキュー隊員の方々には救助をしっかりしていただいて、正しい情報を発信すべき役割を兼平さんのような方が担うという。
【兼平豪】正直、僕は消防を辞めた感覚はないんですよ。「『RESCUE HOUSE』で何が自慢ですか?」と聞かれたら、僕は「日本で一番、消防本部の方から応援メッセージをいただけること」と答えると思います。消防士のなかには途中で辞職される方もいますが、大好きな消防士を大好きなまま辞めたのって、珍しいと思っています。消防の制服を脱がないとできないことがあっただけで、僕としては違う部署で同じことをやっている気持ちなんです。

ーー同じ目的のもと、兼平さんの役割を果たしているということですね。
【兼平豪】そうです。意識を変える救助活動ですね。僕は現場には行けないので、「現場に行く前に僕が救うから、みんなは現場で救助してや」っていう心構えです。元職場の方々には今でもかわいがってもらっていて、本当にいい関係を築けているので、今も消防の感覚なんですよね。僕は全国で活動して、世界にも日本の防災を広げていきたいので「制服の違う部署でやっていきます!」といった感じです。

ーー動画で注力するテーマはどのように考えて選んでいますか?
【兼平豪】まず注力しているテーマは、“1分1秒を争うかどうかの災害”です。例えば今、火事が起きて部屋に黒煙が充満したとします。すると、絶対みなさん違う行動をとるんです。1分1秒を争うときに、みなさんがとる行動をどうやってひとつにするかが大切なんです。地震なら大きな揺れによって命が奪われる。だから僕は、この大切な1分1秒でどう行動するかを発信しています。事故や急病も同じです。逆に言うと、震災関連での死亡のケースは多くが被災から1〜2週間後。1分1秒ではないんですよ。防災グッズはどちらかというと、ここで役立つものですよね。だから僕の場合は、防災グッズを伝えるのは補足情報が10個あるうちの一番最後ぐらいです。

“1分1秒を争うかどうかの災害”に注力して動画を配信
“1分1秒を争うかどうかの災害”に注力して動画を配信【撮影=樋口涼】


ーーその1分1秒が、未来を大きく分ける部分なんですね。
【兼平豪】本当にそうです。数秒、数十秒しかない場合だってあります。選択できる行動をとることができるだけでも立派です。ほとんどの方がパニックになってしゃがみ込むだけだと思うので。

ーーそう聞くと、レスキュー隊員の方は、あらためてものすごく大変な仕事をされていますね。
【兼平豪】災害に遭っている人が一番大変ですから、その方の苦しみに比べれば全然です。僕が所属していたレスキュー隊の本部では、意識を飛ばす訓練をしていました。

ーー意識を飛ばす訓練?
【兼平豪】30キロのおもりを装着して、意識がなくなるまで階段をダッシュするんですよ。「パワハラじゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんが、これめちゃくちゃ重要な訓練なんです。高層マンションの40階で火災があったとして、自分に40階まで走れる体力があるかを知っておかないと、たどり着けないんですよ。なんとか到着できたとしても、そこで意識がなくなったら救助要請している人はどうするの?っていう話じゃないですか。100階くらいまで走って行ける体力があれば、40階くらいなら余裕で行けて、安全に救助活動ができることがわかるんです。

【兼平豪】訓練中にそれを乗り越える方法があって、例えば階段を、もう100段登らないと自分の大切な人の命がなくなると考えるんです。もし、大切な人の命をたった100段の階段のせいで救えなかったら、一生後悔するじゃないですか。日々、その繰り返しなんです。そうやって強くなるんです。

【兼平豪】恐らく今、「はい!息を止めてください」と準備もせずに言ったら、みなさん、もって1分くらいです。息を吸う時間はないですよ。苦しいですよね。でも、救助を求めている人はもっと苦しんでいるんです。その苦しみを知っているからこそ、どんな訓練でも耐えて耐えぬくしかないんです。絶対に助けたいという強い気持ちがあってこそなんですよね。

命をつなぐカギ!日頃から実践しておきたい防災対策と安全確保の情報収集

ーー動画では、どんな事例をよく取り上げていますか?また、動画の視聴者やOneNewsのユーザーの方が、日常生活で実践できる防災対策やコツがあれば教えてください。
【兼平豪】最も発信している内容は、心臓マッサージまでの流れですね。救急隊の全国の平均到着時間は年々上がっていて、約9分かかるんです。そして、救命率は心臓マッサージなど蘇生術を施さないと、1分間に7〜10%下がると言われています。つまり、10分後に救急隊が到着するとしたら、救命率は10%あるかないか…ほぼ助からないことがデータでわかっているんです。ですから、どれだけ早く心臓マッサージできるかが、命をつなぐカギになります。きちんと対処ができると、救命率をかなり上げることができるんです。僕は「今こういう状況であれば、すぐに心臓マッサージを!」と伝えているので、『RESCUE HOUSE』の視聴者の方なら対応できると思います。AEDなどの使い方も頭に入れておくと、突然、目の当たりにしても慌てることなく処置できると思います。

救急隊の到着が遅くなっている今、心臓マッサージをどれだけ早くやるかが命を救うカギとなるそう
救急隊の到着が遅くなっている今、心臓マッサージをどれだけ早くやるかが命を救うカギとなるそう【撮影=樋口涼】


ーー大規模な災害の際に、SNSの普及によって、謝った情報が拡散されてしまうケースも増えたと思います。信頼性のある情報を得るためのアドバイスはありますか?
【兼平豪】消防本部で間違った情報を得てしまうと、市民の方に迷惑がかかるし、隊全体のリスクにもつながってしまいます。消防本部がどこから情報を得ているのかというと、僕が勤めていた消防本部では、気象庁の情報のみ。大災害の場合は、気象庁のリアルタイム速報をもとに警防体制が変わり、緊急体制を構築しています。気象情報を配信しているメディアはほかにもありますが、運営会社が違うので、それぞれに少しずつズレがありますよね。複数の情報を参考にしてしまうと、判断にブレが生じるので危険です。情報元は一元化したほうがいいですね。

ーーなるほど。情報源が多いことが必ずしもいいことではないということですね。
【兼平豪】そうですね。結局、判断を迷わせるだけなので、ひとつだけを見ることが正解ということです。それから、勘違いしてはいけないのが、気象庁のデータはあくまでも予測です。気象庁は、過去のデータや今の気象の流れから計算して予想をしています。だから、「必ずこうなる」というわけではないということを忘れないでください。これはハザードマップも同様です。「ハザードマップってどういう地図ですか?」と質問すると「安全マップでしょ?」と答える人が多いです。僕は「危険予想をしている地図であって、安全マップではない」とずっと伝えています。ハザードマップで自分のいる場所が該当していないから安全と思っているのは大間違い。災害は人間の想像をはるかに超えたときに命を奪うんです。だから、「気象庁の予想が間違っていた」という世論の声は間違っているんです。気象庁は、できる限りデータを駆使して、日本のために発信してくれているんです。それでも災害は人の命を奪うんです。

気象庁のデータは過去のデータを計算したものであって、必ずそうなるものではない。あくまでも判断基準のひとつにすぎない
気象庁のデータは過去のデータを計算したものであって、必ずそうなるものではない。あくまでも判断基準のひとつにすぎない【撮影=樋口涼】


ーー人知を超えてくるものが災害と呼ばれるものですしね。
【兼平豪】はい。だから、気象庁や各気象メディアの情報は間違ってはいません。災害はそれぐらい人のすべてを奪ってくるし、想像を超えてくるものなので。常にそういう視点でいれば、間違っているという思考にはなりませんよね。とにかく、災害時は正しい判断をして、「とにかく安全なところに逃げろ!」その1択だけです。

【兼平豪】では、「安全なところって?」と思いますよね。例えば、水害であれば“頑丈に作られた建物”と内閣府が発表しているんですけど、この発表も微妙なところだと思っています。どうしてそんなに抽象的なんだ、と。それなら、「コンクリートで作られた建物だよ」とか「学校やショッピングモール」と具体的に伝えたらいいのになと思います。この情報に関しては、警戒情報を見たら掲載されていると思います。まずは、国の警報レベルと市町村が発表した行政無線をチェックするようにしてください。

ーー昔から避難訓練や防災訓練が行われていますが、訓練の重要性についてはどのように考えていますか?
【兼平豪】結論から言うと、訓練の必要性はあります。ただ、訓練って毎日あるからこそ大事なんですよ。防災訓練は年に1回、消防訓練は年に2回とか、国はそれで大丈夫と言っています。でも、僕はそれだったら必要がないと思っていて、「今の避難訓練は極めて意味がない」と、総務省にも提言しているんです。みなさん、避難訓練を経験されたことがあると思いますが、事前に知らされているので恐らく緊張感ゼロですよね。僕の会社では、非常ベルを突然鳴らすんです。決裁者以外には知らせず、いきなり開始します。すると、みんな「え?」と驚いて行動が止まるんですよ。そのうえで、「この止まっている時間が死ぬ時間ですよ」と伝えることで個々に危機感を植えつけるようにしています。それぐらいリアルな体験をしないと意味がないんです。

【兼平豪】ですから、「訓練が必要ですか?」と聞かれれば「もちろん必要です」が一番の答えです。でも“ただし”という補足があって、年に1回、3年に1回やらされるような訓練は、全くもって必要がないです。それなら、『RESCUE HOUSE』を1日5分だけ見ていただいたほうが、命を守る訓練になると思います。

ーー確かに、緩めな頻度で予定調和のなかで実施することは、本来の目的とまったく合っていないですね。
【兼平豪】安全従事者に選任された、防火管理者の方のためだけに避難訓練があるんです。その人が自治体の消防署に報告する書類のためにやっているんですよ。だから僕は、「あなたのためにやるんじゃない。会社のコンプライアンスを守るためにやるんじゃない」と言っています。命を守るためにやることなので、業務中でもいいんです。災害は突然やってくるので。火事は待ってくれないじゃないですか。実際、レスキュー隊のときの研修で衝撃な映像を観ました。それは、パチンコ店の火災現場で、店内に入ると非常ベルが鳴って煙が充満しているのに、まだパチンコ台の前に座っている人がいたんですよ。「みんな逃げていないから大丈夫」と言うんです。「今、玉が出ているから」って…。それで5名の方が命を落としてしまったんです。実際の火災現場でさえ、煙だけでは避難しない人もいるんです。だから、日頃から危機感を持った訓練が必要なんです。

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