企業の成長・成功に欠かせない戦略やマーケティングの手法は、企業の大きさや扱うサービス、経営状況などによってさまざま。『Marketer's Brain』では、『受注プロセス戦略(R)』という独自のメソッドで営業戦略のノウハウを言語化し、マーケティングの“しくみ化”を実現させている。起業からわずか5年という歳月で、化学系企業や生命保険会社、銀行、新聞社など、大企業のコンサルティングを担当し、たったひとりで会社を成長させてきた代表取締役のデ・スーザ リッキーさん。売り上げに寄与する、誰にでもできるマーケティングを武器に、コンサル業界に新たな息吹をもたらしている。

『Marketer's Brain』代表取締役のデ・スーザ リッキーさん
『Marketer's Brain』代表取締役のデ・スーザ リッキーさん【撮影=阿部昌也】

やり方を覚えたら誰もができる、仕組み化を提供する受注プロセス戦略(R)とは?


ーーまずはリッキーさんの経歴について教えてください。どういったキャリアを歩んでこられ、どういったきっかけで起業しようと思われたのでしょうか?
【デ・スーザ リッキー】ちょうど就職するタイミングが就職氷河期と言われる時代だったのですが、制作会社のADとしてキャリアをスタートしました。当時は「帰るな」は当たり前で、「仕事場で朝日を浴びるのが僕の日課です」とか「夢はお風呂に入ることです」って言えるくらい過酷な環境だったんですよ。今じゃありえないですよね(苦笑)。でも、そこでは修行のかいあって、コンペでは勝ち続けていました。

【デ・スーザ リッキー】その後、僕自身、ちょっとキャリアの上に行ってみたいといういう夢も抱いていたので、業務領域のフェーズを上げ、Webプロデューサーとしてゴルフネットワークに職場を変えたんです。ただ、ECサイトやテレビCMだけでなく、新聞社に出稿する業務をしたりと“何でも屋”みたいに5年ぐらいアクセル踏みっぱなしで働き続けたら、働きすぎで倒れたんですよね。

【デ・スーザ リッキー】すると、その前後で、ジュピターテレコムにジュピターTVが合併され、その後、さらにKDDIと住友商事が半分ずつの持ち株になりました。それで異動することになり、デジタルマーケを中心にプロモーションを全部やることになったんです。10億円を上回る規模の案件をひとりで任されて「明日までに予算をつくってこい」みたいな感じでした。

――とんでもない任され方ですね…。
【デ・スーザ リッキー】そうなんです。僕、平社員ですよ(苦笑)。でも、たくさん試練を与えてもらったことは糧になっていますね。そんなある日「もう一度、自分を試してみたい」と考え、「これをやったらおたくのマーケがよくなりますよ」といった感じで50枚ぐらいの企画書をつくって、前職にあたる会社に転職したんです。この会社ではマーケの部長に就任して、プレゼンなどで登壇しているうちに、「こうしたらこうなる」ということがより明確にわかるようになっていきました。それを自分のなかのメソッドとして講演をしていたら、ある聴講者の方から「あなたの話はすごく共感できるし、わかるけど、私にはできません」と言われたんですね。そのときに、そうしたキャリアを持つ人たちが実践できないという日本の現実に直面して、「自分なら助けられるのに、何をやっているんだろう」と思ったのが、独立するきっかけにつながってくるわけです。そこが起点になっていますね。

所属したすべての会社で結果を残してきたリッキーさん。最終的には何億もの予算を動かすまでになった
所属したすべての会社で結果を残してきたリッキーさん。最終的には何億もの予算を動かすまでになった【撮影=阿部昌也】

――普通の会社員の考え方では難しかったのかもしれませんね。
【デ・スーザ リッキー】当時はDXとかデジタルマーケとも言われてなくて、多くの日本の会社が、「そういうのは代理店に丸投げしちゃえばいいじゃん」という考えだったんです。本当に一部の人だけが「やりたいけど、わからないからできない」っていう状況だったんですね。独立してしばらくするとコロナという“ビッグウェーブ”が訪れ、そのときに行ったクラレさんのオンライン展示会の案件がメディアに大きく報じられ、それから実績が、わらしべ長者みたいにガンガン、ガンガンと積み上がって、今に至っている感じです。

ーー次に『Marketer's Brain』について教えてください。どういったサービスを提供する会社になりますか?
【デ・スーザ リッキー】マーケティングをやりたい、でも実現できない人や会社に対し、それをできるようにするという仕事をしています。普通の会社では研修などで知識を教えて解決しようとするんです。でも実は、そういう課題って、知識じゃなくて気づきで解決できるんです。例えば、自動化ができるDXツールを「お客さんに売るぞ」と言っても売れません。だから、売りたいと思ったら、それを直すためにテクニックを勉強したり、自動化の良さを学んだりするんです。ところが、自動化って、目的ではなく手段なんですよね。この混同をしがちなんです。「人材効率を上げたいなら、手段として自動化の提案をしたほうが売れますよね?」と言うと、「確かに!」と気づくんです。僕はその気づきを教えています。「言われてみれば、確かにそうだよね」という話しかしていません。言語化することで、わかりやすくなるんです。

【デ・スーザ リッキー】要はゴルフのレッスンと一緒です。「こうしたら真っ直ぐ飛びますよ」と教わると、その日はできるようになります。でも、「コースに出たら、またボールが曲がっちゃいました」となり、「いやそうじゃなくて、こうですよ。ほら」って、繰り返し教わるじゃないですか。あれと一緒で「また以前の表現に戻っていますよ」と伝えています。「なんか違くないですか?」、「確かに!」という反復鍛錬をしながら、3カ月で成果を出せるようにしています。こうやって会話してるうちに、だいたい答えを喋っているんですよね(笑)。

ーーすごくわかります。手段と目的が混同しがちですよね。
【デ・スーザ リッキー】そうなんです。新製品情報を既存顧客に送っていたり、会員登録させるはずの記事を既存会員に読ませたりとか、「何やってんの?」みたいな事例もありました(笑)。僕は、それを仕組み化する術を持っていて、『受注プロセス戦略(R)』という仕組みの商標を取っています。例えば、ある定食屋で、「お客さんのお茶がなくなったら注げ」と店舗スタッフに教えるのではなく、「お客さんのお茶を飲むときのグラスの角度がこの角度になったら注ぐように」というように店のオペレーションを変えるんです。これなら誰でもすぐできるし、その結果お客さんは「なんてホスピタリティのある定食屋なんだ」と思うわけです。たったこれだけで結果が上向くならそれでいいんですよね。そんな感じで、「確かに!それなら誰もが同じようにできるし、合理的だ!」と、その分野に詳しくない人でも思わず膝を叩いて納得してしまうような、しかも、誰もがすぐに実践できるような“しくみ”を構築する。シンプルなのに納得感がある“しくみ化”を提供するコンサルなんです。考え方と気づきの問題って、単純に視点の問題じゃないですか。やり方を覚えたら、ちゃんとできるんですよね。

シンプルなのに納得感のある仕組み化を提供する、『Marketer's Brain』の『受注プロセス戦略』
シンプルなのに納得感のある仕組み化を提供する、『Marketer's Brain』の『受注プロセス戦略』【撮影=阿部昌也】


ーー なるほど、確かにそうですね。
【デ・スーザ リッキー】勉強して何かしらの知識がつけばマーケができるようになる、みんなそう思いがちなんですよ。でも僕は「いや、そんなんじゃないから」と思っています。会社って、業績を上げることが目標だから、はっきり言って、マーケに詳しい必要なんて1ミリもないんですよ。

ーーどういったアプローチで企業のマーケティング課題を解決されているのですか?
【デ・スーザ リッキー】会社がある程度の規模になっているということは、もう既にお客さんに選ばれているからなんです。そうじゃないと存在していないですから。そのうえで、企業の皆さんにどうやって整理しているのかをたずねると、「野生の勘」や「引き出し」、「経験」という言葉が返ってきます。つまり、各自の解釈ややり方に依存して、それぞれの頭の中に入っている状態なんです。それを言語化して取り出して、誰もが見えるように可視化して、「どれがいい」かを比較検証して、そのなかでよいもの抽出します。やっていることは、言語化と数値化ばかりです。

【デ・スーザ リッキー】昔、上司に言われたことで「そのとおりだな」と思ったことがひとつあって、それは「お前の説明は難しい」という言葉でした。「本当にわかっているやつは、簡単な言葉で相手に理解、納得させることができるんだ」と。「お前は自分ができると思っているから専門用語を連発するけれど、はっきり言って誰にも伝わってねえぞ」と言われました。「確かにそうだな」と思ったんです。そこから言葉を崩すことを勉強して、極論、小学生にでもわかる言い方を常に考えているんです。

【デ・スーザ リッキー】知識には、知識があるがゆえにはらむ問題があって、人は知っていることをつい喋りたくなるんです。知識を手に入れるとその言葉を使いたくなり、課題解決をしたいのか、自分がマウントを取りたいのか、わからなくなることがたまに起きるんです。そこはもうプライドを取っ払い、「伝わればいい」と割り切ったほうが伝わりやすいんですよね。

「はっきり言って誰にも伝わってねえぞ」と上司に指摘された言葉が、言語化の原点となっているそう
「はっきり言って誰にも伝わってねえぞ」と上司に指摘された言葉が、言語化の原点となっているそう【撮影=阿部昌也】


言語化して気づきを共有。トレーニングコーチのように環境を整えるのが仕事

ーー貴社が特にこだわっている部分や、独自の取り組みや戦略についても教えてください。
【デ・スーザ リッキー】まず、コンサルとして、「皆さんができるようになる」ということに主眼を置いています。それから、弊社に社員がいない理由もちゃんとあって、優秀な社員って辞めるんですよ。手前味噌ですが、僕もそうでしたから。そうなると、社員をコンサル用に育てる意味がない。それなら、お客さん自身ができるようになってもらったほうがハッピーだと思うんです。お客さんの実力が上がれば、キャリアやビジョンも開けて、会社の業績もよくなるじゃないですか。だから、お客さんが社員と考えています。

コンサルとして、「皆さんができるようになる」ことが大事と語るリッキーさん
コンサルとして、「皆さんができるようになる」ことが大事と語るリッキーさん【撮影=阿部昌也】

ーーたったひとりで変わるとおっしゃっていますが、具体的にどう変えるのでしょうか?
【デ・スーザ リッキー】皆さん、思い込みで間違ったアウトプットをしがちなので、それを分解するワークシートがあるんです。まず、そのシートに全部書き込んでもらいます。そうするとカスタマージャーニーマップがあっという間に完成するので、それを見せて「こういうことでしょ?」と説明します。すると「確かに」と間違いに気づいていただき、「じゃあ、来週からそれをやりましょう」となる。その1枚のシートのコミュニケーションを全社で共有できるようにしているので、みんなが当事者意識を持つんですよ。結果、プロセスが1本の線でつながるので、経緯が明確になります。

【デ・スーザ リッキー】そうやっていくうちに、本人は気がついていないけれど、できるようになっているんです。質問のクオリティが明らかに上がります。例えば、以前は僕の話したことをただメモしていたけれど、いずれは「僕は〇〇だと思うんですけが、リッキーさんはどう思いますか?」といったように、自分の意見や考えを添えて質問するようになるんです。それって、成長している証ですよね。だんだんと、確実に実力がついているんです。

――本当にトレーニングコーチのようですね。
【デ・スーザ リッキー】できることを「できない」と思い込んでいるから、そのリミッターを外してあげて、山本五十六じゃないですけど、やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてあげて、と。小さな成功体験をさせてあげることは、やっぱり大切なことだと思いますね。1回でも勝てたら「やれる!」って、スイッチが入るんです。その状態をどうつくっていき、「自分はやれる!」という状態を会社全体に波及させるかということが重要です。

【デ・スーザ リッキー】これを最初は個人にやってしまったんですよ。そうしたら、その人が勘違いして会社を辞めてしまい、その後、つまずいてしまいました。そりゃそうですよね。できた気になっていたけど、“補助輪をつけて走っていた状態”だったんですから。でも、それは僕も悪かったと思っています。本来なら、個人に教えるのではなく、会社ができる“しくみ”をつくらないといけない。ですから僕のミスでした。これが唯一の失敗ですね。ですので、“組織づくり”という言葉を、自戒の念を込めてつけているんです。ある本を読んでいてすごく納得したのが、“人を育てるのではなく、人が育つ環境をつくる”ということ。“しくみ”ってそういうことなんです。

1回勝つと「やれる!」というスイッチが入るそう
1回勝つと「やれる!」というスイッチが入るそう【撮影=阿部昌也】

ーー貴社の取り組みにおける、これまでの成果について教えてください。
【デ・スーザ リッキー】弊社のサイトで、コンサル事例として掲載している住友化学さんやクラレさん、DICさん、神奈川新聞社さんなどの企業は、当然ですが、すべて許諾をもらって掲載しています。どこかの大手システムエンジニアの企業?っていうくらい載っています。だから、よく「何したの!?」って言われます。すごすぎてわかってもらえないんですよ(笑)。

【デ・スーザ リッキー】でも、正しく言うと、結果を出しているのはお客さん自身なんですよ。僕が何かをやったわけではなく、お客さんが持っていた答えを言語化して、できるように手伝っただけなんです。僕の実績かもしれませんが、それは同時にお客様の実績でもあるんです。

支援した企業のバナーが並ぶ『Marketer's Brain』のウェブサイト
支援した企業のバナーが並ぶ『Marketer's Brain』のウェブサイト

ーー貴社の実績でもあり、リッキーさんが言ったことをちゃんと実践した企業側の実績でもあるんですね。今後、貴社として目指していく社会像や理想などはありますか?
【デ・スーザ リッキー】僕は、お客さんができるようになることをゴールに置いているので、その人が豊かに暮らせることを理想としています。メソッドを暖簾分けして、お客さんにも同じことをやってもらっているので、それでみんなができるようになるといいですね。マーケティングは難しい学問という固定概念があるので、それをぶっ壊せる人が成果をバンバン出して、日本が豊かになったらそれがいい。これが、自分が一番目指しているところです。

ーーいけそうですか?
【デ・スーザ リッキー】まだ、わかりません。ただ、できるようになる人は増えているし、この会社を設立してまだ5年。たった5年でこの大企業の数には自分でも驚いています。さらに、実は今日、化学工業日報の一面トップに、僕が手がけた住友化学の案件が取り上げられたんですよ。なんかそういうことが伝播して、日本がもっと海外に進出してモノが売れるようになったらいいですよね。本来できるはずなのに気づいてないからできないだけで、やればいいし、そうなりたい人はドアを叩きにきてほしいですね。やりたい人を全員救う、そういう気持ちがあります。

化学工業日報の記事を伝えるTwitterのツイート
化学工業日報の記事を伝えるTwitterのツイート

ーーありがとうございます。取り組みについてもう少し伺わせてください。会社によって対応の形は違うと思いますが、最初のステップとしてはどういう入り方になるんですか?
【デ・スーザ リッキー】皆さん、商品やサービス自体の言語化をしようとするんですが、それは半分正解で、もう半分の正解は会社の魅力についての気づきなんです。会社のなかでは常識かもしれないけど、「それって外から見たら超魅力的ですよ」みたいなことがやっぱりあるんです。それも気づきじゃないですか。僕のやり方としては、会社の良さや人の良さとかも合わせて言語化するので、その会社独自のメソッドができあがるんです。

――それであれば、どんな会社でも異なる言語化ができますね。
【デ・スーザ リッキー】だから、住友化学さんとDICさんとクラレさんという同じ化学業界の3社が同時にお客さんになっているんですよね。なぜかというと、明らかにそれぞれの強みが違うから。だから、それぞれがフェアに競争すればいいと思っています。僕のところに来るオファーは、いつもできるようになりたい人。できるようになりたい人以外に教えるつもりはありません。

「一緒に働くのは、いつもできるようになりたい人。そうでない人には教えるつもりがないです」と、相手の意欲が大切と語る
「一緒に働くのは、いつもできるようになりたい人。そうでない人には教えるつもりがないです」と、相手の意欲が大切と語る【撮影=阿部昌也】


自分の言語化をしながら信頼を築き、2周目の人生のための準備が必要な時代に

ーー仕事において大事にしている部分と、トレーニングコーチとして大切にしていることは何でしょうか?
【デ・スーザ リッキー】それは、信頼です。会社の公式サイトであれだけデカいことを書いているのに、ただフカしているだけだったら何の意味もないですし、『Marketer's Brain』という会社は、僕の信頼がなくなった瞬間に潰れます。理念に「信頼には成果で応える」と掲げていますが、本当に、この一言に尽きます。お客さんの10倍以上、その案件のことを考えているつもりです。それくらい本人がバットを振り切っていれば、極端な話、成果が出ようが出まいが「こいつガチだな」って意欲は伝わるんですよ。仕事って信頼でしか形成されないので、常にバットを全力で振り切っています。預けるのも、「こいつなら大丈夫」と思っていただけているからであって、そこまでの信頼をつくる労力っていうのは、シャレにならないくらい大変なんです。でも、それが何よりも大切なこと。そこは全力でコミットしにいきます。

「僕の信頼がなくなった瞬間に『Marketer's Brain』は潰れる」とリッキーさんの信頼で会社は成り立っているという
「僕の信頼がなくなった瞬間に『Marketer's Brain』は潰れる」とリッキーさんの信頼で会社は成り立っているという【撮影=阿部昌也】

ーーキャリアをスタートさせたころと、スマートな文化になったここ数年。働き方や環境が激変しましたが、その中で起業家としてのキャリアのつくり方で思うことがあれば教えてください。
【デ・スーザ リッキー】僕は5年前に顧問登録をしたんですけど、当時、登録者数が5000人程度だったと記憶しています。それが今はひとつの会社で2万人以上もいるらしいです。さらに、そういう企業に毎年GAFA出身とか、元〇〇の執行委員という肩書を背負っていた方々が、顧問に登録されるそうです。でも、例えばプロ野球選手で元メジャーのホームランバッターが来日しても、(開幕から2カ月程度の)5月までに成績が出なかったら消えていくじゃないですか。今、日本って「元〇〇」とか、僕はそれを過去の“信用”と呼んでいるんですが、そこにぶら下がって飯を食おうとしている人がすごく多いんです。でも、プロの世界ってそうじゃないんです。キャリア形成っていう意味では、自分は何ができて、相手に何をすることができるかという事例をつくったうえで、はじめて“信頼”がつくれる人になると思います。

【デ・スーザ リッキー】僕らは恐らく、定年後にもう一度“就職氷河期”を味わうんですよ。会社に勤めて終わりではなく、人生100年という時代です。老後の2000万円問題も取り沙汰されていますよね。だからこそ、もう一度稼ぐスキルや生き様が必要となってくるんです。それがない人は相当しんどいと思っています。

ーー人生の2周目が待っていることが、もうわかっていますもんね。
【デ・スーザ リッキー】わかっているのに、ぬるま湯に浸かってのんびりくつろいでいるんですよ。そうじゃなくて、もう副業もできるんだから、「やってみりゃいいじゃん。ダメだったら別のことを考えるしかないわけだから、とにかく早めに挑戦しろ」って思います。それなのに、「定年後は、元〇〇と言えるからたぶん自分は大丈夫だろう」とか思っている人が多すぎる。それって、もう10年もたないと思うんですね。顧問業界の場合、打席に立てる人が10%で、リピーターがつく人は5%未満だと聞きました。それくらい需要と供給がかみ合っていないから、成果を出さないといけないんですよ。だから、今のうちに自分の腕で飯が食えるようにしておいたほうがいいと思いますね。僕自身は、そのために実績をとことん積んでいます。

顧問業界では「打席に立てる人が10%で、リピーターがつく人は5%未満」
顧問業界では「打席に立てる人が10%で、リピーターがつく人は5%未満」【撮影=阿部昌也】

【デ・スーザ リッキー】自分の実力を証明できるものって、実績や事例しかないんです。僕が最初に本を出版したとき、Amazonのレビューで「こういうことを書くやつは詐欺師だ」って書かれたことがあります。それは今も残っていて、すごく悔しかったんですけど、ひとつだけ認めたことがあって、それが「(当時の自分には)このレビューの書き手に抗う理屈がない」ということ。つまり、「自分は違うんです」と言っても「証明してみろ」って言われたときに、それを証明するものがなかったんです。今はその証として事例があるので、それを自分ごととして話すことができます。「元〇〇」ということではなく、このプロジェクトをこういうふうに変えたとか、5人の営業組織を100人までに育てたとか、そういう言葉にできるものをちゃんと自分の証明として整理できています。こういったことが、いずれ全員に求められる社会がやってくるので、間違いなく早めにやったほうがいいですよね。厳しいことを言うようですが、それが現実だと思います。

リッキーさんは、自分の実力を証明することが求められる時代がいずれくると予測
リッキーさんは、自分の実力を証明することが求められる時代がいずれくると予測【撮影=阿部昌也】

ーー自分が何をしているのか、何をしてきたのかを具体的に言語化することはすごく大事ですね。
【デ・スーザ リッキー】おもしろいことに、履歴書や経歴書の書き方にも端的に表れてくるんです。そういうことができない人って「元〇〇勤務で△△部長ならできます」と書くらしいです。でも、履歴書や経歴書に本来書くべきことって、「私が関わったことで5人の組織が100人になりました。その結果、部長になりました」と、明確な成果なんですよ。自己PRの仕方すらわからない。書くべきことはそこじゃないんです。みんなタイトルとかバッジを称賛するんですが、それは違います。

ーー雇用側の視点に立てば、「どうやってそのバッジを手に入れたのか、そこを教えてほしい」ということですよね。
【デ・スーザ リッキー】その表現ひとつすらできない社会だから、僕は「それは間違っている。本当はみんなできるでしょ?」と言っているんです。でも、みんな絶対に持っているんですよ。ただし、自分のことだと、やっぱり言語化しにくい。僕も、今でこそアウトプットにたどり着きましたけど、副業を始めたころは、デジタルマーケターとしてデジタルマーケティングの支援をするところがスタートだったんですが、そこで成果を出したときに「もっとこういうことできないの?」と言われるんです。結果、デジマで始まった案件がインサイドセールスにまで波及したり、営業まで入ることになったりとか、さらにはブランドづくりまでと、カバー範囲がすごく広くなったんです。そうすると成長のなかで、また、「その強みを、どう表現したらうまく伝わるのか?」に悩むことになる。デジタルマーケターとしての自分の売り方は知っていましたが、トータルマーケティングの“しくみ”づくりとなると、自分の売り方がわからなくなる…ということです。

次のフェーズ入る際に、自分の言語化に戸惑って売り方が下手になったというリッキーさん
次のフェーズ入る際に、自分の言語化に戸惑って売り方が下手になったというリッキーさん【撮影=阿部昌也】

ーーまた手探りになったんですね。
【デ・スーザ リッキー】そうなんです。だから、「あれ?これどうやったら伝わるんだろう?」って、僕も悩みながらやりました。今は“しくみ化”という言葉を見つけて、ポンと置けたので、とりあえず安心なのですが…。でも、おもしろいですよね。自分が次の成長フェーズに入るとき、必ず一度落ちるのって。

ーー次のフェーズに進むときに、その言語化の体験を、自分のなかでもう一度行わなければならないわけですね。
【デ・スーザ リッキー】 フェーズが変わるので、客観視が難しくなるんです。僕自身がどうしたかというと、お客さんにぶつけてみたんですよ。自分が教えているメソッドだから、「どう思う?」って素直に聞いてみました。自分のなかでどこかズレている感覚があったとしても、何が正解かわからない。そうやって聞きながら僕は見つけていきました。お客さんから質問されれば、僕は秒で答えを出すんですが、逆が難しかったんです。やっぱり客観視って難しいなと思いました。

ーー客観視の尊さが伝わりました。では、最後の質問になります。リッキーさんの今後の野望を教えてください。
【デ・スーザ リッキー】今の延長線上です。ちっちゃい野望でいうと、弊社の公式サイトに並んでいる事例を100個ぐらいにしちゃおうかな、と。「やば!こいつ何者だ!?」みたいなことをやりたいです。

公式サイトに企業の事例を100個ぐらい並べ、見た人を驚かせたいそう
公式サイトに企業の事例を100個ぐらい並べ、見た人を驚かせたいそう【撮影=阿部昌也】

ーーお話を聞いている感覚だと、わりとすぐに…。
【デ・スーザ リッキー】できないですよ(笑)。体には限界がありますから。それから、加盟してもらって自分もやるっていう、フランチャイズにしようとしているので、仲間が1万人とか3万人になったらハッピーですよね。そういう世界がつくれたらおもしろいと思います。目指しているというか、そんな世界になったらいいなと思ってやっている感じですね。

取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=阿部昌也