サイト終了のお知らせ

平素より「OneNews」をご利用いただき、誠にありがとうございます。本サイトは2024年5月15日をもってサービスを終了いたします。
サービス終了後、OneNews掲載の一部コンテンツ(ビジネス記事、マネー記事)は、
当社運営メディア「ウォーカープラス」に引き継がれますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

タイガー“炭酸ボトル”大ヒットを生んだタブーへの挑戦、「炭酸水を何度も浴びた」 創業100周年へ新たなチャレンジ

2022/09/27 10:25 | 更新 2023/04/15 11:49
SHARE
発売以来、あっという間に16万本以上の売れゆきを伸ばす“炭酸ボトル”の大ヒットの裏側に迫る
発売以来、あっという間に16万本以上の売れゆきを伸ばす“炭酸ボトル”の大ヒットの裏側に迫る

ものづくりの街である大阪・門真(かどま)市に本社を構える「タイガー魔法瓶株式会社」。今年1月21日に発売した炭酸飲料対応の「真空断熱炭酸ボトル」が、発売からわずか3カ月で約10万本出荷、さらに発売から半年で約16万本出荷と売り上げを伸ばし続け、今、注目を集めている。

タイガー“炭酸ボトル”の仕掛け人に直撃! ヒット商品を生み出す3つの○○力とは?
タイガー“炭酸ボトル”の仕掛け人に直撃! ヒット商品を生み出す3つの○○力とは?【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


今回は、業界の常識や社内のタブーを覆し、商品開発を担当したという、ブランドマネージャーの南村紀史さんを直撃。商品誕生の裏側に迫るとともに、ヒット商品を生み出した南村さんの頭の中をのぞき見するべく企画術についてもインタビュー。企画を考えるヒント、そして、アイデアを形にするために必要な3つの力とは何かを聞いてみた。

炭酸飲料が持ち運べる話題沸騰の「真空断熱炭酸ボトル」とは?

「真空断熱炭酸ボトル」は、炭酸水はもちろん、ビールやスパークリングワイン、シャンパンも持ち運べ、スポーツ観戦やキャンプ、ウォーキングなど、さまざまなアウトドアシーンで活躍する。クラフトビールのテイクアウトにも最適で、用途の幅も広い。日常使いできる500mLをはじめ、800mL、1.2L、1.5Lの大容量まで、4サイズを展開している。

独自の表面加工「スーパークリーンPlus加工」で軽量化。お手入れも楽に
独自の表面加工「スーパークリーンPlus加工」で軽量化。お手入れも楽に【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


また、ステンレスを限界まで引き伸ばし、ボトル内面の凹凸を可能な限り少なくした「スーパークリーンPlus加工」によって、軽量化を実現。500mLサイズで重さ約290g、1.5Lサイズでも約530gで、海外メーカーのボトルと比較しても、その違いは明らかで、とにかく軽いのが特徴だ。また、「スーパークリーンPlus加工」のおかげで炭酸が気化しにくく、いつでもどこでも冷たい炭酸飲料を持ち運べる。

「使える!」「ペットボトルだと生温くなるけど、これだと冷たい炭酸飲料が飲める」「キャンプやゴルフに持っていきたい」と、幅広い世代から注目が集まった。使い勝手がいいのはもちろん、トレンドである“堅牢感”を意識した、スタイリッシュなデザインと美しいカラー展開で、持ち運ぶのも楽しくなりそうだ。結露もしないので、カバンがぬれる心配もない。

そんなユーザーの理想が詰め込まれた究極の炭酸ボトル。その商品が開発されるまでの物語を担当者に聞いてみた。

「禁止だと思い込んでいたことを超えて」3つのブームを受けて商品開発へ

「たくさんのハードルを乗り越え、商品が完成しました」。開発したのは、エンジニアとして経験を積み、現在、商品企画第1チームでマネージャーを務める南村紀史さん。

 商品企画第1チーム所属の南村紀史さんにインタビュー
商品企画第1チーム所属の南村紀史さんにインタビュー【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


実は、炭酸飲料対応のボトルは、業界的にも社内的にもタブーとされていたという。

「過去に何度も社内で炭酸飲料が持ち運べるボトルの開発は話題に出ていました。ですが、炭酸ガスによってボトル内の圧力が上がれば、キャップや蓋の破裂に繋がる恐れがある。その危険性がつきまとい、炭酸飲料を真空断熱ボトルに入れることは禁止とされていました」

しかし、来たる2023年は、創業100周年という記念すべき節目。“NEXT100”というスローガンを掲げ、社内でも新たなチャレンジが模索されていたという。

「日本での炭酸水の市場はこの10年右肩上がり。それに加え、アウトドアブームもあり、さらにSDGsの取り組みとして、繰り返し使えてゴミが減らせるマイボトルも普及している。そんな中で『なぜ炭酸飲料は持ち運べないんですか?』というお客様からのお声も増えていました。次の100年に向けて、従来、禁止だと思い込んでいたこと、既成概念や固定観念を超えて、『新しいものを生み出そう!』という気運が社内で高まっていたこともあり、今こそ“なぜ禁止されているのか”を紐解き、開発に踏み切ろうと企画がスタートしました」

そして、南村さん率いる8名のチームで、炭酸ボトルのプロジェクトがスタートした。

100種以上の炭酸飲料を実験し、2年がかりで開発「炭酸水を何度も浴びました」

業界の禁止事項を覆すところから始まった今回の企画。従来1年サイクルで新商品を開発するところ、本企画は2年という月日が費やされた。

「特に、炭酸ガスの圧力に対応する機構設計に時間を要しました。日常使いの快適性と安全性を両立させる機構の設計が課題となりましたね。今まで炭酸飲料の圧力なんて想定したこともなかったので、超えなければならないハードルがものすごく高く、心が折れそうでした(笑)」と、南村さん。

「大変でした(笑)」と、南村さん
「大変でした(笑)」と、南村さん【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


笑顔で語ってくれたが、開発過程のメンバーの苦労は相当なものだったという。100種以上にもおよぶ国内外の炭酸飲料を購入し、すべての炭酸飲料の圧力に対応できるよう栓に施す機構の実験を繰り返した。失敗するたびに、ボトルから吹き出す炭酸水を何度も浴びたという。

「特に強炭酸水については、飲料メーカーさんから新商品が登場するたびに購入しました。試験条件も多岐にわたるので、ひとつの銘柄でも複数個試していましたね。実験してわかったのは、炭酸飲料のなかでも、日本メーカーの炭酸は特に強い。こんなに強炭酸なのは日本だけだと思います」

バブルロジック構造の蓋のおかげで、安心安全に炭酸飲料が持ち運べる
バブルロジック構造の蓋のおかげで、安心安全に炭酸飲料が持ち運べる【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


そして、500回以上におよぶ実験の苦労が身を結び、日本の強炭酸にも耐えうる栓構造「バブルロジック」が開発された。難しそうな名称だが、簡単に説明すると、炭酸のシュワシュワをボトル内にしっかり閉じ込めたまま、キャップ開栓時には中身の噴き出しや飛び散りを防ぎ、万が一の場合(夏の車中など、気温の高い場所に炭酸飲料を入れたままボトルを2、3日置き忘れたときなど)には、自動的にガスを抜いてくれるというもの。

「栓構造の一部には、主力商品“圧力ジャー炊飯器<炊きたて>”の技術を応用進化させ、魔法瓶メーカーとして約100年磨いてきた技術を詰め込んでいます」

完成したボトルは500mLをはじめ、スパークリングワインのフルボトルも入れられる800mL、そして海外のビール持ち帰り容器「グロウラー」を参考にした大容量の1.2L、1.5Lサイズが設定された。

「当初、営業担当からは『どこでこの大容量ボトルを売るのか?』『このグロウラーサイズが日本でも通用するのか?』という意見も出ていました。通常のボトルと価格も異なるため、4サイズ合わせて年間10万本出荷という数字を設定するのが精一杯でしたね」と、当時は社内でも不安な声も聞かれたという。

しかし、発売日が1月という寒い時期にも関わらず、販売するやいなや、年間の目標出荷数をわずか3カ月で達成。今や年中飲まれている炭酸飲料ブームをはじめ、アウトドア需要、マイボトルの普及と、3つの時代背景にマッチしたことで、現在も驚異的なスピードで売り上げを伸ばし続けている。

ヒット企画を生み出す秘訣は「何ごとも自分ごとに置き換える力」

売れる企画術とは?の質問には「通常は潜在ニーズや未知のニーズを探し出さないといけないですが、今回は世の中のニーズがはっきり目に見えていたと思います」と、南村さん。

「仕事を進めるうえで、「優先順位をつけること」、「リソース配分を考えること」、「取捨選択をすること」は当然必要なことではありますが、一方で、様々なことに取り込むことができれば、相乗効果でプラスの影響が生まれると思うんです。どんなことも可能な限り前向きに捉え、自分ごととして、それをどれだけ活用できるかが大切。企画するうえでは、何でもプラスに考えるようにしています。切り捨ててしまえば、そこで終わってしまいますから」

企画とは、まず、何ごとも自分ごとに置き換えることから始まるのだろう。そこからプラスへ作用させるために、物事をかけ合わせて考える力も必要となるようだ。

企画を実現させるために必要な「伝える力」とは?

企画から商品完成までの道のりは険しく、南村さんをはじめとするチームメンバーは、各部門で日々生まれる課題をクリアするために、常に社内を駆け回っていたという。

「伝え続けるしかないんです」と語る南村さん
「伝え続けるしかないんです」と語る南村さん【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


「商品開発の過程ではどうしても様々な項目で立ち止まる事象が発生してしまう。それをまた前に進めるためには、技術的なエビデンスや裏付けを持って、社内を説得しないといけない。そこでは、難しい技術をそのまま話しても伝わらないんです。きちんと自分が説明できるように技術を理解し、咀嚼し、自分の言葉に翻訳する必要がある。伝わっていないのなら、伝わるまで、伝えるしかない。商品のプロモーションにおいても、多くの関係者を経て世に出るため、当初の企画意図と違う形で届いてしまうことも往々にしてあるんです。“伝わっていない”その前提でいると、伝える術を持てるようになります。自分が理解できていないと、すべて止まってしまいますが、きちんと届けば、企画は前に進み出します」

数多くの質問・課題が寄せられると「言ったでしょ?」「なんでわからないの?」と、そんなふうに匙を投げたくなることもあったはず。しかし、“伝わっていない”という前提を持つだけで「相手へ届けるためにはどうすればいいのか」という考え方ができる。その考えひとつで、伝える力は格段に変わってくるだろう。

数々のコラボを具現化し、メーカー認知の拡大へ「協業上手を目指す」

「真空断熱炭酸ボトル」が発売されてから半年。そのヒットをきっかけに、現在さまざまな企業とのコラボに積極的に取り組んでいる。例えば、今年8月には「福岡ソフトバンクホークス」とのマイボトル推進の取組を発表し、9月には文具が有名なフランスのプロダクトブランド「PAPIER TIGRE(パピエ ティグル)」とのコラボボトルを発売。

「当社のサステナブルな取組に共感いただき、コラボのお声がけをいただくことが多く、非常にありがたく思っています。“協業上手にならないと”と意識していますね」

「PAPIER TIGRE(パピエ ティグル)」とのコラボボトル
「PAPIER TIGRE(パピエ ティグル)」とのコラボボトル【画像提供=タイガー魔法瓶株式会社】

おなじみのタイガーマークを大きくデザイン
おなじみのタイガーマークを大きくデザイン【画像提供=タイガー魔法瓶株式会社】


「1社で伝えられることって限界があると思うんです。協業することでさらにその世界を広げることができる。昔は機能やスペックがいかに優れているかというもの作りの時代でしたが、今はそうではないですよね。プロダクトの進化と並行し、積極的に他の企業とコラボすることで、商品の機能だけでは伝わらない部分で“タイガー魔法瓶”を知ってもらえるのかなと思っています」

「福岡ソフトバンクホークス」のロゴ入りボトルも展開
「福岡ソフトバンクホークス」のロゴ入りボトルも展開【画像提供=タイガー魔法瓶株式会社】


そして、企業コラボでも、企画するうえで意識している“自分ごとに置き換える力”が重要になると言う。

「何ごとも否定せずに、自分ごととしてプラスに捉え、ひとつずつ順番に組み合わせれば、お客様の見る目も変わってくるのではと思います。『福岡ソフトバンクホークス』とのコラボのように、今後は“プロスポーツ×タイガーボトル”を打ち出していきたい。大量のプラスチックゴミが出る球場やスタジアムで、マイボトルに入れて飲料提供ができれば、ゴミの削減につながります。これからはサーキュラーエコノミー(循環経済)の観点から、サステナブルアクションの発信に力を入れていきたいですね。マイボトルの普及を目指し、今後もさまざまな取り組みが見せられれば」と、南村さん。

数々の企業とのコラボに取り組み、幅広い世代にメーカーの認知を広げていく。協業上手になるためには、受け入れる力も鍵となるのだろう。

創業100周年へ向けて、グローバルへ発信

炭酸ボトルの開発にあたり、南村さん率いるチームのモチベーションとなったのは、創業100周にあたって掲げられた “NEXT100”という目標の存在だった。

「たとえ業界の常識であったとしても、それをメーカーとして超えていかなければ価値がないと思っていました。いつまでも昔ながらの昭和のメーカーと思われていては、次の100年を乗り越えられない。これからはZ世代へ、そして、世界へ向けてグローバルに認知拡大をしていかないと。よくチームのメンバーに『どこまでやるんですか…!』と聞かれますが、『どこまででもやるしかないやん!』と答えています。やりたい世界があるなら、走り続けるしかないし、組織の壁を超えていかないといけない。でなければ、自分たちの思い描いた世界は実現できない。問題に介入して、そこをクリアしていかないと。そんなことを日々泥臭くやっています」

商品開発に向けて動き続けたという南村さん
商品開発に向けて動き続けたという南村さん【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


そして、創業100年に向けては「世界へタイガーボトルを広げていくのが課題ですし、自分自身チャレンジしてみたいことですね」と、南村さん。

大ヒット中の炭酸ボトル。ヨーロッパでも展開予定だとか
大ヒット中の炭酸ボトル。ヨーロッパでも展開予定だとか【撮影=福羅広幸(兄弟エレキ) 】


「これからはコーラの本場であるアメリカで、炭酸飲料をどれだけ入れてもらえるのかが課題。クラフトビールのテイクアウトもアメリカでは当たり前なので、そこでもどれだけ通用するのか。炭酸入りミネラルウォーターが流通しているヨーロッパでは、街中のウォータースタンドで炭酸水が出てくるところもあるんです。アジア圏のみならず、アメリカとヨーロッパでも、炭酸飲料を持ち運んでもらう新たなライフスタイルをつくっていきたい。炭酸ボトルをきっかけに、グローバルにタイガーボトルを広げていきたいです」

1923年の創業時、ガラス製の魔法瓶から始まった「タイガー魔法瓶」。真空断熱技術の開発に約100年、力を入れてきた結果が、新しいライフスタイルを創造しつつある。南村さんが考える3つの力が“NEXT100”へつながり、次の100年に向かう「タイガー魔法瓶」の時代を創る力となるのだろう。

この記事のひときわ#やくにたつ
・新しいものを生み出したいときは業界や社会の常識を疑う
・他人ごとではなく、自分ごとに変換することから始める
・誰かを説得する際には“伝わっていない”前提を持つ

取材・文=左近智子/撮影=福羅広幸(兄弟エレキ)

■タイガー魔法瓶株式会社公式HP
https://www.tiger.jp/

人気ランキング

お知らせ