――コロナ禍の影響について、また、コロナを機にコミュニティマーケティングで変化したと感じる点をあらためて教えてください。
【藤田祐司】コロナ禍の影響でいうと、先ほど申し上げたとおり、2020年の3月から5月くらいに、Peatix上にあるイベントはほぼなくなり、大打撃を受けたのが初期のフェーズです。そこから活動ができなくなった主催者やコミュニティの方が我々にも連絡をくださり、相談し合うなかで「やっぱりオンラインなんじゃないか」という話になりました。スピーディーな主催者さんだと、2月くらいにビジネスカンファレンスでオンライン化を決断されている方たちもいたので、そういった方たちのお話も伺って、どういうふうにしていくのかをみんなで考える時間が3月、4月にありました。そのなかで、「やっぱりオンラインがひとつの糸口だろう」と。でも、いつ終わるかわからない。「GW明けくらいには終わるんじゃないかな」と思っていたけど終わりそうもない。全然わからなかったので、「オンラインに振ろう」ということになりました。Peatixはオンラインのナレッジが全くなかったので3月から5月の期間にオンラインのコワーキングスペースを運営してみたり、2020年5月末に24時間のオンラインチャリティイベントを実施してみたり、オンラインイベントをどんどん開催して、オンラインのナレッジをとにかく蓄積しました。オンラインでは何が必要なのか、今のPeatixのプラットフォームには何が足りないのかを抽出し、リソースも限られているなかで、「これだ!」という機能をとにかく早く提供しようと動いた結果、てまえみそですが、オンラインのイベント・コミュニティとして使っていただきやすいサービスに進化することができました。そこからオンラインイベントがどんどん増え、夏過ぎくらいには全体のイベント数がコロナ前よりも遥かに多いという状況が生まれて、ビジネスとしても前年と比べてポジティブになるくらいまで一気に回復し、しっかりと伸びました。最初の数カ月は苦しかったですが、コロナ禍でのオンラインシフトというのは大きな変化でした。今は、感染状況によってオンラインとオフラインのイベントの割合がわかりやすく変わってきていますが、オンラインイベントの数は減っていません。基本的には数千件で、季節性で伸びたりするのですが、オフラインイベントが増えたからといってオンラインイベントが減ることはありません。オフラインイベントの数は感染状況によって大きく変わりますが、ベースのオンラインイベントがあるので、オフラインの活動が増えるとイベントの数としてより盛り上がりを見せる流れになっています。

【藤田祐司】コミュニティイベントのマーケティングの変化でいうと、オフラインの活用ができなかった時期が長かったことで主催者の皆さんがすごく悩まれていたのが、それまでイベントやカンファレンスをやる意義を懇親会などに見出していたところから、コンテンツ勝負になり、なかなか出会いがつくれないことでした。そうすると、つながりもつくれなくなってしまいますから。海外のサービスも含めていろいろなツールが登場し、さまざまな使い方をして実験を繰り返したのですが、今現在も“解”は出ていない気がします。近くに行くと話しかけられたり、オンラインのイベントでも席に着く仕様になっていて、席に着いた周囲の4人と終わったあとに話すようなことがあったり、いろいろな機能があるにはあるのですが、やっぱり新しいつながりや偶然の出会いを創出できないところがコミュニティづくりでいうとかなり難しい状況が続いているなと思います。個人的な意見ですが、イベントの規模が大きいほどつながりはつくりにくくなります。コンパクトなイベントであれば、Zoomでブレイクアウトルームを使って交流することもできますが、人数が多くなるほどハンドリングが難しくなる。その一方で、オンラインの良さとオフラインの良さ、それぞれの特長が明確に出たと感じています。オンラインの良さでいうと、ティップスやノウハウを学ぶことにおいては、どこからでも参加できて、直前まで仕事や別の用事をしていても、ポンと入って終わったらすぐに抜けられることです。どこにいても参加できるのはすごく利便性が高いので、学び系にはかなり向いていると思います。一方のオフラインは、つながりやコミュニティをつくるときに直接集まることで熱量が生まれるということがあるので、コミュニティマーケティングの変化というよりは、この両方をどう使っていくかが重要です。ポジティブにいうと、オンラインという武器を得て、オフラインも活用すれば可能性はさらに広がっていくと思います。ただし、この活用が特に1年半くらいは難しい時期が続いていたという印象もあります。

――たしかにハイブリッドの最適解まではまだ到達していないかもしれないですね。
【藤田祐司】まだ至っていないと思います。ビジネス系の場合、ハイブリッドだと会場の参加率が低くなるという話もあり、主催者に方法をたずねると、「ハイブリッドだけど生中継はせずにオンライン部分は1週間後に配信する。情報を得られるタイミングとしてオンラインの人は1週間後に設定し、オフラインで集まる人のほうが先に情報が得られる」というスキームにして、ハイブリッドというよりはアーカイブをあとで配信する方法を取るケースが増えているようです。この方法だと、インターネット回線も気にしなくていいし、とにかく撮影しておけば、あとで編集もできるのでやりやすい。ビジネスの世界ではそう言われ始めていて、ハイブリッドもまだまだ変化していくのだろうなと思います。

――たしかに、これからという気もしますよね。先程のお話で、コロナに直面した当初、落ち込みつつも自分たちでどんどんテストするメンタリティがすごいと感じました。
【藤田祐司】個人的には周囲の皆さんのおかげだと思っています。Peatixのコミュニティ、Peatixを支えてくださっている主催者の方たちからすぐに連絡をもらい、「これからの世の中がどうなるかについてラジオで一緒に話そう」と誘われて出演したりもしました。「どうすればいいんだ」という人たちが周りにいっぱいいて、ありがたいことに「みんなで何とかしよう」という声がPeatixに集まってきたので、そのおかげでチームのメンバーも含めて「これは何とかしなければいけない」と考えることができました。ベースにコミュニティがあるからこそ、顔が見えている人をどうやったら支えられるかという想いだったので、オンラインという可能性にはうっすら気づいていましたし、なんだかよくわからないなかで「もうやるしかない」というか、逆に、当時はそれ以外やることがなかったのもあるのですが(笑)。

「顔が見えている人をどうやったら支えられるかという想いだった」
「顔が見えている人をどうやったら支えられるかという想いだった」【撮影=阿部昌也 】


――ありがとうございます。すごくいいお話だと思います。では、あらためて、Peatixの利用ユーザーに向けてアドバイスやこういうふうに活用してほしいということがあれば教えていただけますか?
【藤田祐司】主催者側でいうと、Peatix上にものすごい数のイベントがあるので、ほかの主催者のイベントを覗いたり、参加してみてほしいです。競合を調査するという観点ではなく、他ジャンルでもいいと思うので、ビジネス系の主催者の方であれば、たとえばライフスタイル系のヨガイベントやフードイベントなど、まったく異なるジャンルのイベントを覗いてみるといいと思います。運営の仕方や発信の仕方、参加者の巻き込み方が全然違っていたり、「これは新しい」「こんなことができるんだ」という発見があると思うので、いろいろなコミュニティを覗いてみると、自分たちの活動に還元できるポイントがあると思います。そういった意味では、Peatixは幅広いコミュニティが見つかる場所なので、ユーザーとして探していただいて、そこを見にいくのは、ひとつ重要なポイントかなと思います。集客のエッセンスのようなものが、ほかのジャンルの方たちから得られることがあると思うので、広がりも生まれるのではないかと思います。

――実際に参加者の気持ちで見てみることで発見があると。
【藤田祐司】いろいろな気づきがあったりしますし、おもしろいツールを使っている人も出てくると思うので、かなり参考になると思います。

――ありがとうございます。最後に、Peatixの今後の野望について教えてください。
【藤田祐司】コミュニティを支援するプラットフォームとして、まだまだ機能が十分でなかったり、もっともっとやれることがあると思っているので、その部分を磨いていくこと。今のPeatixは「イベントをやろう」と思ったときに使っていただけるサービスになっていると思いますが、もっと日常的に自分たちの活動をするときに、イベント以外の情報発信も含めて、Peatixがコミュニティ活動の起点になれるといいなと思っています。そして、もうひとつ、我々は「ディスカバリー」と呼んでいますが、コミュニティやイベントと出会うことで人生がおもしろくなったり、「こんな新しい体験が世の中にあったんだ」と気づいて楽しくなったり、人生が豊かになる。その出会いのきっかけづくりが、Peatixのミッションだと思っています。どうやったらユーザーとコミュニティをもっと結びつけられるか、そこはまだまだ追求できるところがあるので、もっともっとサービスを磨いていきたいと考えています。ここが加速すれば、イベントやコミュニティもまた集まってくるし、ユーザーも「何かおもしろいものがあるかも」と来てくれるし、おもしろい活動がグルグルと回って増えていく。そのいい循環を回すことに取り組んでいきたいと思っています。

Peatix 共同創業者/取締役CMO・藤田祐司さんへのインタビュー
Peatix 共同創業者/取締役CMO・藤田祐司さんへのインタビュー【撮影=阿部昌也 】


この記事のひときわ#やくにたつ
・ビジネスコミュニティをしっかりと持っていることが重要
・イベントの目的、意義を明確にして設計する
・時代の価値観は大きく変わっていくので、長期的に考えアップデートしていく

取材・文=浅野祐介、山本晴菜、撮影=阿部昌也