残された小学校のレガシーと地域の文化や自然を生かし、人と地域と文化をつなげる場所として親しまれている、福岡県の「アクアクレタ小石原」。人口減少や過疎化などで、廃校となった小学校が増加している近年。それと同時に、アクアクレタ小石原のような元小学校を、リノベーションして活用する施設についても耳にする機会が増えている。通常、そういった公共施設の運営は、指定管理者制度で指定された業者が多く、アクアクレタ小石原のように一般の事業者が運営をしていることは珍しいケースなのだそう。そこで今回は、アクアクレタ小石原を運営している「株式会社小石原ドットコム」の担当者である田代裕子さんに、施設の魅力や特徴、運営するきっかけになった出来事などについて話を聞いた。

旧小学校を再利用したアクアクレタ小石原とは?
ーーまずはじめに、貴社がどのような会社なのか教えてください。
【田代裕子】株式会社小石原ドットコムは、2019年(令和元年)にアクアクレタ小石原の運営のために立ち上げた会社になります。福岡県の東峰(とうほう)村で小学校の運営者を決める運営事業者公募があり、それに合わせて本格的に会社として始動しました。そのほかにもコールセンター事業も手がけている会社になります。
ーーアクアクレタ小石原は、どういった施設なのでしょうか?
【田代裕子】アクアクレタ小石原は、旧小石原小学校で使われていた築37年の校舎を再活用したホテルとキャンプ、ワーケーション等の複合施設になります。旧小石原小学校は、小石原小学校と鼓小学校が合併して、1981年(昭和56年)4月に開校した小学校でした。2011年(平成23年)3月に閉校したあとは、小石原地区の交流拠点施設として活用が決まり、2021年(令和3年)にアクアクレタ小石原として運営がスタートしました。

【田代裕子】校舎の2階はすべて客室となり、19室をホテル仕様にリノベーションしています。1階はレストランと、各教室をそのまま残したレンタルスペースを用意しました。テレワークを推進されている企業さんが多く、ワークリゾートとして自由にお仕事していただける快適なスペースを3部屋と、囲炉裏やかまどを設置した昔の生活体験ができるお部屋などがあります。古き良き日本の生活と、ホテルのホスピタリティを楽しめる施設になっています。

【田代裕子】そして、グラウンドにはグランピングドームを2つ設置しているので、キャンプも楽しめるんですよ。さらに、キャンピングカーなどで電気を取りながら車中泊していただける、RVパークも2台分設置しています。こちらもシーズン問わずに人気です。
【田代裕子】3世代でお越しいただき、昼間にキャンプやバーベキューを楽しまれて、宿泊だけおじいちゃんおばあちゃんはホテルの部屋を利用されるお客様も多いんですよ。こういった、普通のホテルやキャンプ場ではできない過ごし方もアクアクレタ小石原の魅力です。問い合わせも増えているので、こういう需要が高まっていると感じています。

ーー東峰村が、どのようなロケーションにあるのかも教えてください。
【田代裕子】大分県との県境にある人口1800人ぐらいの小さい村で、すごく自然豊かな土地なんです。野生の鹿が生息していて、夜になると鳴き声が聞こえてきます。「初めて聞きました」と、感激されていますね。標高500mぐらいあるので、夏はすごく涼しく、冬はけっこう積雪する地域でもあります。そんなシチュエーションを逆手に、雪中キャンプを楽しみに来られる方の需要も多いですね。
ーーこういった形で施設を作った背景や、どういったきっかけで立ち上がったのでしょうか?
【田代裕子】2017年7月5日の九州豪雨で、東峰村にもすごい被害が出たんです。ちょうどそのときに社内のスタッフが東峰村の地域おこし協力隊として赴任しており、炊き出しとかいろいろ手伝っているなかで、村に恩返ししたいっていう気持ちが強くなったそうなんです。そんなスタッフの強い意志もあり、廃校になった旧小石原小学校の運営について村が公募をかけた際に、手をあげさせていただいたのが立ち上げの背景ですね。「村民の方々の思い出が詰まった場所を、もう一度、活気ある場所に再生できれば」という思いが、皆さんに伝わり採択されたのだと思っています。
ーーアクアクレタというネーミングは、どういった由来があるのですか?
【田代裕子】イタリア語から命名していて、アクアが水でクレタが土という意味です。陶芸がすごく有名な土地柄でして、水と土は陶芸に絶対欠かせない存在です。さらに、これらがないと魚も泳がないし野菜もできないので、食べ物にとっても重要なものです。「循環」というコンセプトにもマッチするので、アクアクレタと名づけられました。
客室に残された懐かしいディテールから、子どものころの思い出が蘇る
ーー部屋はどんな感じなのでしょうか?
【田代裕子】廃校を利用したホテルって、合宿所みたいなイメージを持たれる方が多いのですが、そんなことは全くないんですよ。施設のコンセプトとして「循環」をテーマにしています。外見は小学校だけど、一歩中に入ると高級ホテルに来たような、そういうイメージとのギャップも楽しめるようになっています。いい意味で期待を裏切っているので、お部屋を見て、びっくりされる方も多いんですよ。100年後の人たちにも愛着を持ってもらえることを目指して家具を作り続けている「マスターウォール」という、家具職人が手づくりした家具を全室に入れさせていただいているので、こちらにも注目していただきたいですね。

ーー確かに素敵なお部屋ばかりですよね。大部屋もありましたよね?
【田代裕子】そうなんですよ。先日、大学のゼミのような集まりで利用していただきました。OBの方や現役の方が大勢でいらっしゃって、大部屋でミーティングをされたり、囲炉裏の部屋で宴会をされたり。大人数でも楽しく過ごしていただくことができます。

ーー部屋には、小学校の建具など、何か教室だったと感じられるものが残されていたりするのでしょうか?
【田代裕子】廊下や壁の木材には杉の木を利用しているのですが、これらは小学校時代に使われていたものなんです。さらに、ホテルの部屋にあえて黒板の枠組みをあしらい、ランドセルを置く木のロッカーを荷物置きとして残しました。ガラガラって誰もが開けた教室の入り口の引き戸も、洗面室の入り口に再利用されています。随所に「あっ、これやっぱり小学校だったんだな」って、わかるような感じで残してあります。

ーー宿泊される方は、そういう懐かしさと同時に、ワクワク感も楽しめますね。
【田代裕子】お部屋によって内装が違うので、リピーターの方には前回と違う部屋をご用意して「この部屋にはロッカーがあるね」とか、「あっちの部屋には黒板の枠があったよね」とか楽しんでいただけるようにしています。
