――壮絶な時代、たしかに貴重な経験ですね。では、話をPeatixに戻します。イベントとコミュニティというところで、コミュニティマーケティングについてPeatixの考えを教えてもらえますか?
【藤田祐司】「コミュニティマーケティング」という言葉をよく聞くようになったのはここ数年だと思います。もともとビジネスにおいては、コミュニティがあまり接続して語られることがなく、Peatixもそうでした。我々の場合で言うと、お客様はイベントの参加者と主催者、さらには企業でも使っていただくので企業体と、実にさまざまで、そういった方たちとの関係をしっかりと持つことがコミュニティ。Peatixがつくっていきたい世界やサポートしていきたい世界に対して共感し、一緒にビジネスをつくっていこうという旗印のもとに集まってきている人たちを「コミュニティ」と捉えています。

【藤田祐司】どちらかというと、これまで企業はマスマーケティング的に自社サービスを「買ってください。導入してください」と謳い、それをフォローしてくれる存在がユーザーであり、一緒につくっていくということがあまりありませんでした。ビジネスは価格競争や機能競争にさらされることが常で、ユーザーとのつながりが薄い状態だと、他社が「すごく安くした」とか「新しくておもしろそうな機能を開発した」となったときにすぐにスイッチされてしまいます。逆に、企業・サービスとしてしっかりとユーザーとのコミュニティができていて、そこに共感している人たちがユーザーになっている状態だと、ちょっとした手数料の変化や価格の変化、機能の変化くらいだとあまり揺らがないということがあります。これが、コミュニティが必要になった理由だと思います。もちろん、ビジネスにおいて価格や機能はすごく重要な要素ですが、それと同じくらい重要な要素として、“ビジネスコミュニティをつくっている”ことがあげられると思いますし、今の時代には不可欠な要素だと思います。

【藤田祐司】我々がそれを強く実感したのが、コロナ禍に入ったタイミングでした。Peatixも当初は大打撃を受けました。当時はオフラインのイベントのサポートがメインで、割合としては99%。事業も順調に伸びてきていたタイミングでコロナ禍が始まってしまい、すぐ終わるのか、いつまで続くのかがわからない状況で、2020年の3月、4月くらいからほとんどのイベントがキャンセルか延期になり、数千のイベントが、Peatix上から消えていくという状況を受け、「こんなことがあるんだ」という現実を目の当たりにしました。

――オフラインのイベントが99%、相当なダメージですね。
【藤田祐司】周りの方や株主を含めて、みんなが「終わった」と考えたであろう状況だったのですが、そんななかPeatixの主催者の方や我々がつくっているコミュニティのメンバー、お客様たちがコンタクトしてきてくれたんです。「Peatixさん、大丈夫ですか?」「何かできることがあれば一緒にやりましょう」と声をかけていただいて、具体的には、コロナ禍で発信できなくなったり、イベントができなくなった状況をどうするかを集まって一緒に考えたり、「オンラインで配信しよう」ということが起きたり、本当にたくさんの方が「一緒に動いていきましょう!」と声をかけてくださいました。我々がコミュニティをつくっていなかったら、ひっそりとわからないままダメになっていた可能性もあったと思います。そうした経験もあり、ビジネスコミュニティといったものをしっかりと持っていることは、特に今のように不確実な時代においてすごく大事な要素なのではないかと思っています。

――たしかに、チェーンの居酒屋よりスナックのほうが最後には残るんじゃないか、と言われたりもしますが、コミュニティ、つながりの力ですね。
【藤田祐司】スナックもコロナ禍でオンラインに移行して、お店には来られないけど「話す」という形で活動を継続されて、再開後にお客さんたちがまた来るようになったというケースがありますね。おっしゃるとおり、チェーン系のお店はコミュニティの要素がそこまでないと思うのですが、スナックはまさに“街のコミュニティ”だったりするので、つながりの要素は非常に大きいと思います。そういうビジネスのほうが今の時代は強いのではないか、と思うところはあります。

「不確実な時代において、”共感”でつながるコミュニティが重要になってくると思っています」
「不確実な時代において、”共感”でつながるコミュニティが重要になってくると思っています」【撮影=阿部昌也 】


――業界内でのPeatixの強みはどういったところにあると分析していますか?
【藤田祐司】Peatixでひとつユニークなのが、我々を使ってくださっている方々のジャンルが多岐にわたっていることです。おおまかな割合ですが、ビジネス系のコミュニティ・イベントが全体の約40%、ヨガやグルメなどライフスタイル系のイベントが同じく約40%で、20%程度がエンタメや音楽のライブイベントです。もともとは1/3ずつの割合でした。コロナ禍で音楽系の元気がなくなったことの影響もあると思いますが、どちらかというとライフスタイル領域が伸びたこと、オンラインになってビジネス領域がものすごく増えたこともあって、バランスが変わりました。今の我々の特徴として、多ジャンルのコミュニティを支援していることがあげられます。ほかのサービスでは、ある程度ジャンルに特化した専門性の高いところも多いなか、実際のユーザーは日常生活のなかで「音楽のイベントにも行くし、ビジネスのセミナーにも行く」んですよね。音楽のライブに行く人がビジネスに関係がないかというと、関係はある。幅広い属性の人たちがPeatixを使ってくださっているので、ユーザーのバラエティがすごく大きな特徴だと考えています。

【藤田祐司】それから、集客の側面もあげられます。先ほど“集客ビジネスとしての広告事業”という話もしましたが、Peatixには自動的にイベントをレコメンドしていく機能があり、それは広告費を払っていなくても自動で、無料で行われます。たとえば、イベントで100人集客をすると、30%くらいはPeatixのエンジンがおすすめや検索、ピックアップなどの機能で新しい参加者を連れてきます。実際、「Peatixを使うと新しい参加者が来てくれる」という声をよくいただきます。企業は集客にすごくシビアなので、Peatixを使うと参加者が集まるという結果から企業の方たちが集まってきて、さらに集客したいというニーズから広告事業が生まれて、という流れになります。集客力と幅広いジャンルのコミュニティ、これがPeatixのユニークな要素だと考えています。

――幅の広さは強いですね。こうしたサービスの場合、実はログインさせる障壁もあると思うのですが、音楽が好きで利用している時点でログインの障壁がなくなり、普段使っているなかで「仕事に役立ちそう、気になるな」というイベントやコミュニティと出合う。これは設計上、すごく上手だなと思います。
【藤田祐司】実は最初の頃から、そこはずっとこだわっていました。草の根の活動を支援したことによってすごく広がりが出てきましたし、もうひとつ特徴的な部分として、Peatixにあるイベントは“参加者が能動的に関わるものが多い”ということがあげられます。ただ視聴するというよりは、ワークショップに参加したり、アイデアソンやハッカソンに参加したり、スポーツ系でも自分の体を動かすタイプのものが多いので、能動的に動くユーザーが使ってくださるのも特徴のひとつだと思います。アクティブな人たちが集まっているプラットフォームなので、その先にいろいろな可能性があると感じています。

――いろいろなイベントを見守る立場だと思いますが、イベントを成功させるためのポイントについて教えていただけますか?
【藤田祐司】なにを持って成功なのかが、重要な入り口です。わかりやすいところでいうと、“たくさん人が集まると成功なのか“という議論があります。たとえば、我々もイベント主催者のコミュニティ活動を続けていて、イベントサロンというものがあるのですが、そこでの集客の人数は20〜30人くらいにしています。以前は100人規模のイベント開催や、9年程前に600人くらいを集めてフェスみたいなこともやっていたのですが、今は30人くらいの規模にしています。なぜなら、我々の熱量が直接届き、直接コミュニケーションを取れる人数はそれくらいがMAXだと感じているからです。すごく頑張って50人ですね。それぞれの主催者にとって、“届けたいことが届く人数”は変わってくると思うので、まずそこを見極めることが大事かなと思います。初めてイベントをやるときは「とにかく人を集めなきゃ」とどうしても肩に力が入りますし、特に企業でその役割をアサインされた方だと人数がひとつのKPIになることもあるので、“届けたいことが届く人数”の見極めが重要だと考えています。

【藤田祐司】それから、今のフェーズではイベントの数がものすごく増えています。オンラインが加わったことによって、コロナ前よりもイベントの数自体が遥かに増加しました。世の中に数多くのイベントがある状態ですから、自分たちの活動の目的がどこにあり、何を実現するための集まりなのかを明確に示せないと埋もれてしまって伝わらないという問題が出てくると思います。イベントのタイトルやカバーイメージ(画像)もそうですが、どれだけわかりやすくシンプルに伝えられるか、そこまで考え抜けているかが重要なポイントになります。さらにいえば、イベントだけでなく、スマートフォンの中にはYouTubeやSNSなど、すごくたくさんの選択肢があるので、たとえばオンラインのイベントだと「YouTubeで見るのとイベント配信を見るのとでは何が違うんですか?」という意見もあると思います。今の世の中は“時短”という風潮で、倍速で見ることが増えているので、「オンラインのイベントに参加するよりもYouTubeで倍速で見たほうがいいんじゃないか」という意見もあります。そのため、主催者側はリアルタイムでイベントをやることの意味を考える必要があって、逆にそこを考えるとものすごく魅力的なイベントができるのではないかと思います。

【藤田祐司】オンラインであれオフラインであれ、なぞそこに集まるのか、倍速では体験できないものが何かを考える必要があります。たとえば、インタラクティブに参加している人がチャットで質問ができ、最後の質疑応答の時間だけじゃなく、イベントの最中に登壇者も含めて答えてくれるなら「自分も生で参加したほうがいいな、いろいろ聞けるな」となると思います。オフラインだと出会いがあることが要素として大きいので、以前だとオフラインのイベントは、「こういう流れで、質疑応答があって、懇親会が30分で」とパッケージのようになっていて、みんな何となく「それでいいや」という感じでした。それがコロナ禍を経て、オンラインの世界の動きがより顕著になり、YouTubeやTikTokなどいろいろなコンテンツが増えているなかで、どのように時間を使うかが皆さんの中でよりしっかり考えられる時代になっています。すぐ近くのイベントと比べるのではなく、全体と比べてここでやることの意義、参加者にとって得られるものが何なのかを考えてイベントを設計すると、実はすごく奇をてらう必要もないし、有名な登壇者がいなければダメということもない。この設計の部分がすごく重要で、今最も必要なことだと思います。

――イベントの意義、ここが大事ということですね。
【藤田祐司】ある意味、難しくなってきている面はあると思います。オンラインとオフラインのハイブリッドのイベントも出てきていて、主催者の悩みとしては「会場に人が来てくれない」とか「申込があったのにみんなオンラインに流れてしまい、広い会場を押さえていたのに数人いるだけの寂しい状態になる」などが挙げられます。会場に行くことで何が得られるのかをしっかり発信していたら、もしかすると変わったのかもしれないし、オンラインはギリギリでも参加できるというメリットもあるので、考えるべき要素がすごく増えていると感じます。

なんのためにイベントをするのかが問われる時代。「難しくもあり、チャンスでもある」
なんのためにイベントをするのかが問われる時代。「難しくもあり、チャンスでもある」【撮影=阿部昌也 】


――考え方を変えれば、チャンスポイントも生まれているということですよね。今まではパッケージで組み立てて、あとはネームバリューのある人がいればよかった。それが今は、本当の目的を明確にし、何を伝えるかをちゃんと考えなければ届かない、これはいいことなのかもしれませんね。
【藤田祐司】いいことだと思います。チャンスが増えていると思いますし、冒頭でもお話ししましたが、都市圏ではないところからでも発信できるようになっています。Peatixでもデータを調査したのですが、たとえば北海道エリアにいる主催者がオンラインでイベントをやる場合、参加者の9割くらいが北海道以外からの流入になります。地方で開催しているオンラインのコミュニティイベントは違うエリアから観にきている方が多く、リアルだと開催地周辺にいる人と、たまたま出張や旅行で訪れた人しか参加できなかったものが、グッと人が集まるようになっているので、すごく大きなチャンスだと思います。旅行関連や体験系のイベントでは、コロナ禍でオンラインをうまく活用されていて、家にいながら味噌づくり体験やメロン狩りができるイベントを実施し、コロナが落ち着いてきて動けるようになったときに「あそこに実際に行ってみよう」というきっかけづくりをされていました。「ファンをつくる」という狙いでオンラインを活用し、その後、コロナ禍が落ち着いたら現地に来てもらうという取り組みです。その辺りはおもしろいなと感じますね。

――ビジネスにおけるコミュニティマーケティングの活用について、Peatixの活用事例を含めて教えていただけますか?
【藤田祐司】企業様の利用でいうと、以前からPeatixのグループページにフォロワーがいて、そこがコミュニティのメンバーになるのですが、積極的に使っていただいていたのはHIS(エイチ・アイ・エス)さんです。以前、表参道に珈琲屋さんと本屋さんとHISさんが一緒になっている場所があり、そこで毎週のようにイベントを開催し、Peatixをご利用いただいていました。ただ単純に申し込みを受けるためというより、「どうしたらフォロワーを増やせるか」をひとつの指標として考えていました。一つひとつのイベントの参加者は20人くらいなのですが、全員がフォローするわけではないので、そのうちの8割の約15人くらいが毎回フォロワーとして増えていました。本体のサイトでも、フォローを促しているSNSアイコンの並びにPeatixの「P」マークがあって、当時はあまりないことだったので「おぉ、うちが並んでいる」となりました(笑)。そのうち、1万数千人のフォロワーを持つ大きいグループになり、HISさんは「Peatixでフォローしてくださるユーザーさんはとてもアクティブだ」と仰っていました。当時のイベントに参加する人たちは、移動してお金を払って参加するという高いハードルを乗り越えた方なので、そういったアクティブな動きをする方としっかりつながりたいということで、HISさんは積極的に活用されていました。

【藤田祐司】それから、おもしろい動きをされているのは、「お〜いお茶」の伊藤園さんです。10月1日の「日本茶の日」にあわせて、オンラインお茶会を行い、参加者の様子を特設サイトから投稿した人数でギネス世界記録を狙う「お茶で乾杯チャレンジ」というイベントを開催しました。その結果、3000人以上が集まり見事ギネスを獲得しました。投稿してくれた人にも参加の証明が届く形でファンをエンゲージして巻き込んでいき、それを見て「お〜いお茶」や伊藤園が気になる方も増えていると思うので、熱量を高めていく取り組みだと感じました。さらに、以前はまったく違うアングルで、“茶ッカソン”というアイデアソンをされていました。伊藤園さんが出したお茶にまつわるお題に対して、参加者がチームをつくって考えていくイベントを、かなりの回数、いろいろなところで開催されていました。出会ったメンバー同士でスタートアップができてイグジットした会社もあり、それまでスタートアップと「お〜いお茶」には具体的なつながりがあるわけではなく、丁寧にスタートアップの支援やコミュニティづくりをしたこともあって、我々も当時スタートアップとして「お〜いお茶」は自分たちを応援してくれているブランドだという認識があったので、選択肢にあると手に取ってしまうという現象が起きています。コミュニティやファンをつくるうえで、うまく活用されている印象です。

伊藤園が主催するイベント「茶ッカソン」。
伊藤園が主催するイベント「茶ッカソン」。【画像提供=Peatix Japan】


――Peatixをフォローしている人のアクティビティ性はたしかに高そうですね。
【藤田祐司】数値化はできないのですが、「おそらくそうだよね」という感じはあるなと思います。イベントに参加するというのは、やはりけっこうな熱量を伴うので、その方たちにリーチできるのは価値があるのではないかと思います。

――では、Peatixが行っているコミュニティマーケティングについて、具体的な事業内容を教えてください。
【藤田祐司】我々が提供していることのひとつに集客があるので、コミュニティのメンバーを増やすところで、グループページをどんどん改善して進化させないといけないと考えています。グループページにフォロワーがつくと、フォロワーに対して発信ができたり、新たにイベントが公開されるとその情報が自動的に届くようになっているので、コミュニティのメンバーに対して自動で情報発信ができるのはひとつ大きなポイントだと思います。また、イベントをやるときに外から新しい参加者を連れてくる、この集客力が大きな要素だと思っています。月額・年額課金の機能なども充実しているので、コミュニティ活動の支援という意味では有効に使っていただけると思っていますが、こういった機能も今後さらに進化させていきたいと考えています。ベースはできていると思いますが、実際にコミュニティ活動をしていると「もっとこういう機能が必要だよね」とか「こういうふうになるといいな」ということがどんどん出てくると思うので、我々も開発をどんどん進めていかないといけないですね。

――ある意味、ゴールはないというか、常にアップデートが必要だと。
【藤田祐司】新しい価値観とか、それこそ3年前はこんな世の中になるとは想像していなかったですし、価値観は大きく変わっていくので、長期的にしっかり見ていかないといけないところですね。