アサヒ飲料が2022年11月に期間限定で発売した「アサヒ おいしい水 天然水 白湯」(以下、白湯)。2023年4月末までの累計販売本数は当初の販売計画の約3倍、9月19日にパッケージがリニューアルされ通年販売されることになった。同社は2014年にもホットのミネラルウォーターを販売していたが、売り上げはいまひとつだったという。中身は同じなのに今回はなぜヒットしたのか?同社マーケティング本部ウォーターグループ主任の鈴木慈さんに、発売にいたった理由や飲用シーン、商品名やデザインのこだわりについて話を聞いた。

アサヒ飲料株式会社マーケティング本部マーケティング二部ウォーターグループ主任の鈴木慈さん
アサヒ飲料株式会社マーケティング本部マーケティング二部ウォーターグループ主任の鈴木慈さん【撮影=山本晴菜】


「本当に売れるのか」という疑問

――2014年に「富士山のバナジウム天然水ホット」を発売したきっかけは?
【鈴木慈】2014年当時、お客様やコンビニさんから「温かい水を販売してほしい」というお声をいただいていました。そのため商品化はすんなりと実現したようですが、実際に売れた本数が計画していたよりも少なく、継続して販売できませんでした。

――2022年に新たに「白湯」を商品化された背景について教えてください。
【鈴木慈】「富士山のバナジウム天然水ホット」の販売が終了したあとも、毎年お客様から販売を望む声はあり、それがより顕著になってきていました。ただ「富士山のバナジウム天然水ホット」が継続して販売できなかったので、「本当に売れるのか」という疑問があり、そのハードルを乗り越えるのは大変でした。

――具体的にどのように乗り越えたのでしょうか?
【鈴木慈】お声としていただいていることは確かなので、数値的な根拠が必要でした。たとえば白湯の飲用経験が2009年の11.8%から2022年には61.0%と約5倍に伸びています。また社会情勢的に健康意識が高まっていることなど、データを積み上げて社内で納得をしてもらったという形ですね。

発売後は同社のお客様相談室に「ありがとうございます」「こういうのを求めていました」といった声が寄せられた
発売後は同社のお客様相談室に「ありがとうございます」「こういうのを求めていました」といった声が寄せられた【撮影=山本晴菜】


――データ以外にも発売の後押しになったことはありますか?
【鈴木慈】コンビニさんからのご要望が多かったのですが、コンビニは朝の需要がすごく高いんですね。白湯は朝に飲む方が多いので、コンビニと白湯の親和性の高さも後押しになっています。ホットの棚は女性がメインユーザーなのですが、コンビニの利用者は男性が多いので、ホット飲料は売り上げが伸びにくい商材でもあります。そこで白湯という少し奇抜なものをひとつ入れることで、その場所が活性化するのではないかということも考えました。

「天然水ホット」から「白湯」へ

――「白湯」の特徴やこだわったポイントは?
【鈴木慈】富士山の原水を使用した、日本人の舌にあった丸い飲み心地のおいしいお水です。2014年は「富士山のバナジウム天然水ホット」という商品名で出していましたが、2022年に発売したものは「白湯」と直接的に言っています。2014年に比べて、白湯という言葉が聞きなじみのあるものに変わっていたので、「白湯」という商品名にしたことも大きいと思います。

――ほかにも商品名の候補はありましたか?
【鈴木慈】「アサヒ おいしい水 天然水 ホットウォーター」で出す予定だったんです。でも社内ではみんなが「白湯」って呼んでいたので「なんで商品名は白湯じゃないんだ?」という話になり、最終的に商品名も白湯になりました。白湯とは何なのかというのも曖昧だったので、その精査は大変でしたね。広辞苑で調べてみたり。

【写真】温かさが長持ちする不織布の「保温ラベル」が巻かれたリニューアル品
【写真】温かさが長持ちする不織布の「保温ラベル」が巻かれたリニューアル品【撮影=山本晴菜】


――ほかにこだわったポイントは?
【鈴木慈】水にしては珍しいオレンジ色のパッケージです。水ってやっぱりブルーのイメージが強くて、「おいしい水」ブランドでも冷たい商品のパッケージはブルーを基調にしています。「白湯」は特徴をしっかりと伝えるためにオレンジを基調に、温かい商品だと伝わりやすいグラスのイラストを和紙に描いたような質感で表現しています。

【鈴木慈】2023年のリニューアルで大きく変わったのは、不織布の「保温ラベル」を巻いているという点です。保温ラベルは2022年の冬場に販売していた「アサヒ あったかさ続く十六茶」で採用した保温ラベルを「白湯」でも展開しました。商品を55℃まで加温して、気温10℃の環境で温度変化を測定すると、現行品と比較して40℃以上の状態が約1.3分長く持続し、最大で1.0℃の液温差が確認できています。私はよくお風呂にたとえるのですが、お風呂の1度の差ってけっこう大きいですよね。保温ラベルを巻くことで、その温かさがより長く続く商品になりました。

「白湯」の購入、4割は男性

――「白湯」のターゲットは?
【鈴木慈】メインターゲットは女性ではあったのですが、実は男性も白湯を飲むというデータが出ています。なので男女問わず、全世代のみなさんに飲んでいただこうと思って開発をしました。

――女性が健康のために飲んでいるというイメージがありました。
【鈴木慈】意外と男性の購入も多く、全体の4割にのぼります。用途のヒアリング調査などは行っていませんが、取引先の男性の中には「二日酔いにすごくいいんだよ」と言っていました。実際、錦糸町や歌舞伎町のコンビニでもよく売れており、意外な利用シーンが見えたことも発見でしたね。

「朝の一杯の白湯」にちょうどよくて、温かいうちに飲み切りやすい340mlのペットボトル
「朝の一杯の白湯」にちょうどよくて、温かいうちに飲み切りやすい340mlのペットボトル【撮影=山本晴菜】


――発売後の反響はいかがでしたか?
【鈴木慈】お客様相談室にもお声をいただいて、特に「一年中売ってほしい」というご要望がすごく多かったです。そんなホット商品あまりないんですよ。出荷数でみると12月比で4月が3分の1〜4分の1ぐらい。ホット商品はだいたい3月で出荷が終わるので、かなり長く売れていたのだと感じています。

――販売するにあたり広告などプロモーションは行っていましたか?
【鈴木慈】プロモーションはゼロですね。今年(2023年)から店頭でポップは掲示していますが、昨年(2022年)は全く行っていませんでした。

――2023年9月から通年販売となりました。どのような飲用シーンを想定されていますか?
【鈴木慈】今までもご希望の店舗には通年で置いていただいていたのですが、本格的に通年と宣言して売り始めるのは今回のリニューアルからです。飲用シーンは、出勤前の限られた時間のなかで、自分で白湯を作って飲むことに対してハードルを感じている方に通勤時に買っていただくということを想定しています。ほかにも体調が悪いときやお薬を飲むときなどは、昨年発売してみてわかったニーズですね。

鈴木さんも白湯を飲用しているそう。「自宅で作ることもありますが、買って飲めるとすごく楽です」
鈴木さんも白湯を飲用しているそう。「自宅で作ることもありますが、買って飲めるとすごく楽です」【撮影=山本晴菜】


――「白湯」がヒットして社内からの反応は?
【鈴木慈】商談に行った際に、調剤薬局の窓口の隣などに、加温する設備を導入してでも「白湯」を置きたいと言われることもあるようで、社内からも非常に引き合いが多い商品で……いろいろなところで反響が大きくて驚いています。

――「白湯」の今後の展望を教えてください。
【鈴木慈】今は主にコンビニで販売しているので、今後はスーパーのレジ横にあるホットの棚や自動販売機など、いろいろな場所で販売していきたいです。また「白湯といえばアサヒの白湯」と定着させられたらと思っています。

【鈴木慈】さらに通年販売になったので、白湯が家で作るものではなく、買って当たり前のものにできたらいいなと思っています。今は白湯イコール健康意識が高い、美容意識が高いというイメージがありますが、ペットボトルで手軽に飲めることで白湯を飲むことへのハードルが下がり、習慣として根づいてくれるとうれしいです。

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