コンビニやスーパー、自動販売機などで気軽に購入できる「缶コーヒー」。しかし、およそ半世紀前までは、購入はおろか、缶コーヒーの存在自体がなかったことをご存知だろうか。

このたびクローズアップするのは、世界初の缶コーヒーを開発したUCC上島珈琲株式会社。創業者のとある体験がきっかけで、缶コーヒーの開発・発売にいたったそうだが、販売当初はあまり売れなかったという。では、現在のように当たり前に見かけるようになるまでには、一体どのような変遷があったのか。

今回は、UCC上島珈琲株式会社 マーケティング本部 飲料マーケティング部 飲料ブランドホームユースチーム チームマネージャー(以下、UCC)の相馬大貴さんに、缶コーヒーの誕生秘話とビジネス戦略の変遷、そして今後の展望について話を聞いた。

今回取材に応じてくれたのは、UCC上島珈琲株式会社 マーケティング本部 飲料マーケティング部 飲料ブランドホームユースチーム チームマネージャーの相馬大貴さん
今回取材に応じてくれたのは、UCC上島珈琲株式会社 マーケティング本部 飲料マーケティング部 飲料ブランドホームユースチーム チームマネージャーの相馬大貴さん【画像提供=UCC上島珈琲】


創業者の“飲み残し”がきっかけ!?世界初の缶コーヒーが誕生したワケ

1968年のある日、UCCの創業者・上島忠雄氏が、駅の売店で瓶入りのミルクコーヒーを飲んでいたところ、列車が予想以上に早く出発することになったそうだ。当時、飲み終わったあとの瓶は、売店に返さなければならないルールがあったため、列車の中には持ち込めず、飲み残したまま乗り込むことになった。

「このとき飲み残してしまったことが、上島の中でずっと引っかかっていたそうです。そこで、いつでもどこでも気軽に飲めて、かつ常温流通できるようなミルクコーヒーを作ろうと考えた結果、“瓶を缶に変えよう”というアイデアをひらめいたようです。当時瓶入りのコーヒーは、破損の問題に加え、回収や洗浄など煩わしい作業があり、業界全体でこれらの解消方法が検討されていた時期でもあったため、こうした考えにいたったそうですね」と相馬さん。

上島氏はすぐさま「缶コーヒー開発プロジェクト」を立ち上げた。ただ、開発中にはコーヒーとミルクを入れることによって起こる分離や、殺菌処理に伴う風味の変化といった問題が多かったという。相馬さんは「ほかにも、スチール缶の素材である鉄とコーヒーの成分が、化学反応を起こしてしまうこともあったようです」と当時の様子を話す。そして、これらをひとつずつ解決し、開発開始から1年後の1969年4月に「UCCミルクコーヒー」(以下、ミルクコーヒー)を発売した。

【写真】発売当初の「UCCミルクコーヒー」(以下、ミルクコーヒー)
【写真】発売当初の「UCCミルクコーヒー」(以下、ミルクコーヒー)【画像提供=UCC上島珈琲】


大阪万博を機に大ヒット!その裏にあった社員の地道な努力

満を持して発売されたミルクコーヒーだが、これまでにない形態での販売だったこともあり、おいしさや利便性といった商品の魅力を知ってもらえる機会がなかった。そのためなかなか売り上げは伸びず、苦戦を強いられたが、それでもなんとか認知してもらおうと、社員一丸となってある取り組みを行った。

「全国の駅の売店や食料品店などを中心に、とにかく人目につくところで販売をしていたそうです。たとえば、営業の方が売店に行って、周りに聞こえるようにわざと『UCCのミルクコーヒーってありますか?』と言って購入したり、電車の中で人目につくところに行って飲んでいたみたいです。こうした当時の社員たちの地道なPRにより、徐々に認知を高めていきました」

「正直今ではできないPRですよね(笑)」と話す相馬さん
「正直今ではできないPRですよね(笑)」と話す相馬さん【画像提供=UCC上島珈琲】


そして1970年の「大阪万国博覧会」を機に、ミルクコーヒーを売り込もうと、UCCは積極的な営業活動を行った。「かつてなかった新しい飲料スタイルである缶コーヒーというのが、多くの人の目に留まり、爆発的なヒットにいたりました」と相馬さん。

「その後、全国に広く認知されるようになり、売り上げも大きく伸ばすことができました。同時に、弊社のミルクコーヒーの大ヒットを受け、1980年代から90年代にかけて、市場は右肩上がりで成長。規模にして4倍ほど拡大しました」

大阪万博でミルクコーヒーを飲む人たち。これを機に、全国で認知されるようになった
大阪万博でミルクコーヒーを飲む人たち。これを機に、全国で認知されるようになった【画像提供=UCC上島珈琲】


自動販売機の頭打ちで缶コーヒーの売り上げに影響!UCCの打開策とは?

そんなミルクコーヒーは、時代に合わせて商品パッケージや味をリニューアルして、現在のミルクコーヒーで10代目となる。三色缶の名称で親しまれているパッケージや、コーヒーとミルクの優しい味わいなどから根強い支持を得ているが、2000年に当時ミルクコーヒーや1994年に発売された「BLACK無糖」のメインチャネルだった、自動販売機事業を売却。ユーザーの目に触れる機会が少なくなってしまった。

「弊社にとって、長くご愛顧いただいている商品ですので、このまま終わらせるわけにはいかないという想いがありました。そこで量販店への地道な商談はもちろん、2018年には缶コーヒーのロングセラー商品としてギネス世界記録を獲得したり、2019年にミルクコーヒーのパッケージにある『茶・白・赤』の3色による色彩のみからなる商標登録が実現するなど、お客さまに話題を提供し続けることでPRを継続しています」

ミルクコーヒーの歴代パッケージ(初代〜10代目まで)。2019年には「茶・白・赤」の3色の商標登録。色彩のみからなる商標の登録は食品業界初だという
ミルクコーヒーの歴代パッケージ(初代〜10代目まで)。2019年には「茶・白・赤」の3色の商標登録。色彩のみからなる商標の登録は食品業界初だという【画像提供=UCC上島珈琲】


現在、ミルクコーヒーの購入者層は、40代以上の男性が約55%と最も多いが、10代から20代の男性に加え、女性の比率も高いそうだ。また、自分が飲む以外にも、子どもの飲み物として購入する人も多いようで、「2019年から『カフェインレス』のミルクコーヒーを展開しているので、お客さまからは『これなら子どもでも飲める』と言っていただくことも多いですね」と相馬さん。一方、BLACK無糖の購入層は、40代の男性が約7割を占めるという。

「ミルクコーヒーの主な販売チャネルは、自動販売機やスーパーなので、男性に限らず、幅広い方々にご愛飲いただいています。対してBLACK無糖は、働いている方をターゲットにしているので、仕事の合間に立ち寄ってもらいやすいコンビニを主な販売チャネルとしています」

発売当初の「BLACK無糖」
発売当初の「BLACK無糖」【画像提供=UCC上島珈琲】

「ミルクコーヒー 紙パック200ml」(カフェインレスコーヒー100%)。子どもたちにもなじみやすい、かわいらしい商品パッケージに
「ミルクコーヒー 紙パック200ml」(カフェインレスコーヒー100%)。子どもたちにもなじみやすい、かわいらしい商品パッケージに【画像提供=UCC上島珈琲】


2024年はミルクコーヒーが誕生55周年、BLACK無糖は誕生30周年

ここ数年は、缶コーヒー以外にも、900mlの紙パックタイプや、1リットルのペットボトルタイプのブランドを展開中。これまでの缶コーヒーが、外で飲むことを想定していたのに対し、ペットボトルタイプや紙パックタイプは、自宅でじっくりとコーヒーを楽しめるように設計していたりと、ユーザーがベネフィットを得られる商品づくりを行っている。

「これからの展望として、大型サイズのペットボトルや紙パックコーヒーの販売を強化していければと考えております。特に紙パックコーヒーは、お客さまから嗜好性が高いと評価をいただいてます。これらのニーズに応えるため、『ゴールドスペシャル』や『上島珈琲店』など、人気のブランドを活用し、品質や味において信頼していただけるような商品を展開していく予定です」

紙パックタイプの「ゴールドスペシャル」。メインターゲットは30〜40代の男女だそう
紙パックタイプの「ゴールドスペシャル」。メインターゲットは30〜40代の男女だそう【画像提供=UCC上島珈琲】


2024年には、ミルクコーヒーが誕生55周年、BLACK無糖は誕生30周年を迎える。ユーザーからは「初めて飲んだコーヒーがミルクコーヒー」「おばあちゃんがミルクコーヒーが好きで、自分も飲むようになった」といった、ロングセラー商品ならではの声が多く寄せられるそうだ。相馬さんは「弊社の商品が、お客さまの人生におけるワンシーンに存在できていることを、光栄に思います」と語った。

ミルクコーヒー10代目のパッケージ
ミルクコーヒー10代目のパッケージ【画像提供=UCC上島珈琲】

現在のBLACK無糖
現在のBLACK無糖【画像提供=UCC上島珈琲】


UCC創業者・上島氏の「いつでもどこでも気軽に飲みたい」という想いから生まれた、世界初の缶コーヒー。そして今やどの年代、どのシーンでも飲めるコーヒーを提供してくれている。時には目覚めの1杯として、またあるときはリラックスの1杯としてなど、今後も私たちのライフスタイルに寄り添ってくれるコーヒーを作り続けてほしい。

この記事のひときわ#やくにたつ
・業界全体の課題に着目し「缶コーヒー」という新たなジャンルを生み出した
・画期的な営業スタイルで認知向上を図る
・ユーザーの属性に応じて、販売チャネルを変更する
・コーヒー専業メーカーだからこそできる取り組みに注力する

取材・文=西脇章太(にげば企画)