「コーナーで差をつけろ!」のキャッチコピーを掲げ、運動会の徒競走で速く走りたい小学生たちの心をガッチリつかんだジュニア用スポーツシューズ「瞬足」。2003年に発売されて以来、累計販売8000万足の売り上げを突破したロングセラーだ。今年で誕生20周年を迎えたこの商品は、現在でも子どもたちの走りと健康を足元から支えている。
 
そんな瞬足だが、企画開発が始まった当初はあまり売り上げを期待されていなかったという。そのため、開発陣たちは「やるならとことんニッチなものを作ろう」という意気込みでこの商品を開発したそうだ。今回はアキレス株式会社(以下、アキレス) シューズ事業部 EC販売課の渡邉岳慶さんに、瞬足の誕生秘話や大ヒットの経緯、そして「コーナーに強い靴」に特化した理由について話を聞いた。

アキレス株式会社シューズ事業部 EC販売課の渡邉岳慶さん
アキレス株式会社シューズ事業部 EC販売課の渡邉岳慶さん【撮影=福井求】

 

最初は期待されていなかった?「瞬足」誕生秘話

瞬足が誕生したのは今から20年前。当時のアキレスは「スケッチャーズ」や「エコー」、「スポルディング」といった欧米ライセンスブランドの企画開発や販売など、主に大人向けの靴に力を入れていた。
 
「この頃は大人向けの靴の売り上げは良かったのですが、子ども靴については靴業界で3番手くらいでした。そのため、新しい子ども靴の開発は社内でもあまり期待値が高くなく、『好きなことをやっていいよ』という雰囲気でした。開発陣は『せっかく新しい商品を作るなら、とことんニッチなものを作ろう』という意気込みで新商品の開発に乗り出しました」

【写真】一番最初に発売された初代「瞬足」。当時発売されていた子ども靴に比べて装飾が少ない
【写真】一番最初に発売された初代「瞬足」。当時発売されていた子ども靴に比べて装飾が少ない【画像提供=アキレス】

 
この頃、「速く走れる靴」というコンセプトの子ども靴は各社が発売していたが、アキレスが他社との差別化を図るうえで目をつけたのは、運動会の徒競走のコーナーだった。小学校の校庭は砂が多くて滑りやすく、子どもたちがコーナーで転ぶことがよくあったため、開発者たちは「とにかくコーナーに強い靴を作ろう」と思い立ったという。
 
「徒競走の必勝法で『コーナーを制するものは勝負を制する』とよく言いますよね。とにかく、走りやすく転びにくい、そしてコーナーに強い靴を作れば、速く走りたい子どもたちに受け入れられるのではないかと思いました。ちなみに、当時の企画書にあったコンセプトは『コーナーで差をつけろ』の一文のみだったそうです」
 
しかし、このような靴は過去に前例がなかったために、開発はゼロからの手探りでスタート。ときには「いっそ傾いた靴にしてみては?」といったアイデアが飛び出すこともあったという。最終的に、靴底につけるスパイクピンを足の左側に多めに取り付けて左右非対称にすることによって、左回りのコーナーに特化した靴底が完成した。

過去に人気だったモデルの瞬足
過去に人気だったモデルの瞬足【画像提供=アキレス】

過去に人気だったモデルの瞬足
過去に人気だったモデルの瞬足【画像提供=アキレス】

 

最初にヒットした地域は「新潟」や「長野」

試作段階では実際に子どもに履いて走ってもらい、子どもたちの走り方や足の動かし方、足裏のどこを使うかなどを徹底的に調査した。試作品を履いた子どもたちからは「走りやすい!」「曲がりやすい!」と好評だったという。
 
「子どもたちの意見を得ながら改良を重ねたのち、2003年5月に第1弾の瞬足を発売しました。発売当初は新しい商品を置くスペースがなかったという理由で、大手の靴の販売店ではあまり多く取り扱ってもらえませんでした。その代わりにローカルの量販店やホームセンターでの取り扱いがメインになりました」

過去に人気だったモデルの瞬足
過去に人気だったモデルの瞬足【画像提供=アキレス】

 
発売時の売り上げは全国的にはそこまでだったが、新潟や長野などの一部の地域での売り上げが目立っていたという。これらの地域では秋には雪が降り始めるため、運動会が5~6月に開催されていたことが売り上げを支えた理由だった。
 
「2004年に出す商品の決定会議を2003年の7月ごろにしていたのですが、売り上げの結果が出たのが会議の1カ月ほど前でした。新潟や長野などの地域で売れたおかげで、第2弾の企画開発が決定しました。もし、5~6月に結果を残せてなければ次回以降は発売されておらず、瞬足はこの世から消えていたかもしれません」

靴底の画像。コーナーを曲がりやすいようにスパイクが足の左側(画像では右側)に寄せられている
靴底の画像。コーナーを曲がりやすいようにスパイクが足の左側(画像では右側)に寄せられている【画像提供=アキレス】

左回りのコーナーを攻略するための左右非対称設計のソール&スパイク
左回りのコーナーを攻略するための左右非対称設計のソール&スパイク【画像提供=アキレス】

 
その後、10月の運動会シーズンに入ると子どもたちの間で話題となり、徐々に人気商品に。そして、2005年よりCMを放送したことで知名度が一気に爆発。徒競走で勝ちたい小学生たちがこぞって買い求めるようになり、一時は全国の靴屋から2カ月ほど瞬足が消えてしまったという。
 

デザインにもこだわりあり!子どもの健康を第一に

瞬足のはキャッチコピーの「コーナーで差をつけろ!」が印象的だが、実は曲がりやすさや走りやすさ以外にもこだわっているのがデザインだ。瞬足が発売された2003年ごろ、子ども靴のトレンドはロボットや戦隊モノのような「部品」が多くついているものだった。そのおかげで靴は重くて硬くなり、結果として足が動かしにくくなっていた。
 
「開発陣たちはこのような子ども靴にモヤモヤを感じていました。そこで、瞬足の開発では『スッキリと軽いスポーツシューズ』を目指しました。これまでの靴に当たり前についていた部品や装飾を必要最低限にしながらも、子どもたちが憧れるようなかっこいいデザインを追求しました」

2023年発売の最新モデル。過去の製品に比べてスポーティなデザインに
2023年発売の最新モデル。過去の製品に比べてスポーティなデザインに【画像提供=アキレス】

最新モデルの靴裏を見せる渡邉さん
最新モデルの靴裏を見せる渡邉さん【撮影=福井求】

 
初代瞬足では当時の小学生が好むようなメカニックなデザインにしながらも、足の成長を妨げない仕様を実現した。また、過去に発売されたモデルでは、その時々の小学生に好まれるデザインにその都度変更されていて、シンプルなものやスポーティなものなどが誕生。時代に合わせたデザインが採用されているのも、小学生に支持される理由のひとつだ。
 
そして、瞬足のもうひとつの魅力は軽量性にも優れていること。靴の素材は進化のスピードが速いために、どんどん軽くて丈夫な素材が開発されている。瞬足もそれに合わせてより軽く、より丈夫になり、モデルが切り替わるごとに技術面やデザイン面で進化を遂げている。

最新モデルに刻印された「SYUNSOKU」の文字が光る
最新モデルに刻印された「SYUNSOKU」の文字が光る【画像提供=アキレス】

側面には発売年の「2003」、そして20周年の「2023」の数字が書かれている
側面には発売年の「2003」、そして20周年の「2023」の数字が書かれている【画像提供=アキレス】

 

20周年はアニメCMに力を入れて

2003年の発売より累計販売8000万足以上もの売り上げをたたき出した瞬足。発売後20年が経過した現在でも人気は衰えず、安定的な売り上げを記録しているという。だが一方で、近年では少子化によって子どもの数が減少しているため、瞬足ブランドを今後どのように保ち続けていくかが課題となっている。

2023年3月より始まる瞬足のCM。日曜午前の時間帯に放送される
2023年3月より始まる瞬足のCM。日曜午前の時間帯に放送される【画像提供=アキレス】

 
そこで、アキレスが力を入れていくのはCM展開だ。瞬足は2005年にCM放送を開始したことで全国的に人気が爆発。そして、2008年から3年間放映していた「アニメCM」の反響が大きかったこともあり、2023年3月からは新たなアニメCMの放映を決定。小学生たちへの知名度拡大を図る予定だ。
 
「過去のアニメCMを今でも覚えている人も多く、『瞬足といえばこのCMだよね』という声もよく耳にします。このような記憶に残る広告展開を行うべく、ヒット作を多く出しているアニメ制作会社に依頼してCMを作成しました。日曜朝の『仮面ライダー』や『プリキュア』といった番組が放映されていてる時間帯に放送予定です」

2023年に発売した瞬足がずらり。近未来的な雰囲気でかっこよさ満点
2023年に発売した瞬足がずらり。近未来的な雰囲気でかっこよさ満点【画像提供=アキレス】

 
20周年の節目を迎えた2023年。アキレスはブランド価値を再整理し、「もう一度子どもに知ってもらう活動」に取り組んでいる。新タグラインである「今日、夢が走り出す。」を設定し、子どものワクワクする気持ちを後押しし、夢に進む子どもたちを足元から応援していくのが今後の目標だ。渡邉さんは「20年の歴史がある瞬足ブランドを30年、50年と次の世代へつなげたい」と話す。
 
「コーナーで差をつけろ!」をキャッチコピーに据えて開発され、大ヒットを果たした瞬足。この商品には子どもたちの走りを応援するだけでなく、子どもたちの足元からの健康を支えるという気持ちが込められていた。20歳の成人を迎えた瞬足は、これから先も子どもたちの走りを支えていくだろう。今後の展開に期待が止まらない。
 
この記事のひときわ#やくにたつ
・ひとつの「強み」に特化することがヒットの鍵
・商品開発にはターゲットを絞ることが大事
 
取材・文=福井求(にげば企画)