国内外に86店舗(2022年11月時点)を展開する、人気ラーメン専門店・一蘭。こだわり抜いた一杯を堪能してほしいとの思いから誕生した座席システム「味集中カウンター」が、新型コロナ禍で“元祖ソーシャルディスタンス”と話題を集めたことは記憶に新しい。そんな店内のつくりもあって、家族での利用をイメージしづらいかもしれないが、一蘭は子ども連れに向けたお得なサービスを実施して注目を集めている。
これまで小学生未満を対象としていた「お子様ラーメン」の無料提供の対象を、2020年3月に“小学6年生まで”に引き上げ。大人1人につき、子ども5人まで利用可能という太っ腹な内容に、SNS上では感謝と称賛の声があふれた。今回は、「お子様ラーメン」誕生の経緯や対象年齢の拡大に踏み切った理由、利用者から届いた反響などについて、株式会社一蘭の広報担当である新井愛実さんに話を聞いた。
“すべての”お客さまに最高の一杯を。一蘭の美学から生まれた「お子様ラーメン」
ーー「お子様ラーメン」の誕生にいたるまでの経緯を教えてください。
【新井愛実】親子連れで来店されたお客さまがお子さまにラーメンを取り分けている姿をよく目にしますが、取り分けている間にスープが冷めてしまったり、麺がのびてしまったりして、最高の状態で味わっていただけないことに歯がゆさがありました。「お子様ラーメン」の無料提供は、「すべてのお客さまに最高の状態でラーメンを食べていただきたい」という思いからスタートしたものです。2012年7月より、一部店舗で順次提供を開始し、2018年に全店舗で導入。そして、2020年3月に、対象年齢を「小学生未満」から「小学生以下」に拡大しました。
ーー一蘭と言えば、ラーメンができ上がってから15秒以内でお客へ提供する「15秒の掟」も有名ですが、おいしさを最優先とする同社ならではの理由ですね。ちなみに、通常のメニューと「お子様ラーメン」に違いはあるのでしょうか？
【新井愛実】「お子様ラーメン」は麺の量が通常の半分で、唐辛子をベースにした「赤い秘伝のたれ」がトッピングされていません。また、通常メニューでは、味の濃さや麺の硬さをお選びいただけますが、「お子様ラーメン」の場合は、小さな子どもでも食べやすいように、いずれも「基本」でご提供しています。そのほか、ニンニク、青ネギ、チャーシューのトッピングについては、「お子様ラーメン」専用のオーダー用紙で選べるので、親子で楽しみながらご記入いただればと思います。
ーー「お子様ラーメン」を注文するためには、どうすればいいのでしょうか？
【新井愛実】一蘭公式アプリの会員限定サービスとなりますので、アプリをインストール後、会員登録をしていただき、「お子様ラーメン」の引換券を従業員に見せていただければOKです。大人1名に対して、小学生以下の子ども5名まで利用可能なので、兄弟姉妹が多いご家族でもご安心ください。
コロナ禍での対象年齢拡大。外食産業として社会のためにできることを
ーー2020年3月に、「お子様ラーメン」の対象年齢を小学生未満から小学6年生以下へ、大幅に引き上げました。対象拡大にいたった理由を教えてください。
【新井愛実】新型コロナウイルスの影響により、卒園式、卒業式といったお子さまの成長の節目を祝う大切な行事や各種イベントの縮小開催・自粛が顕著になり、お子さま並びに保護者の皆さまにとって心苦しい状況が続いていたかと思います。そんな状況下だからこそ、一蘭のラーメンでひとりでも多くのお子さまに笑顔になっていただきたいと考え、対象年齢の拡大を実施いたしました。
ーー当時、コロナ禍で大きな打撃を受けていた外食産業の状況を鑑みると、勇気のいる決断だったのではないでしょうか。
【新井愛実】社内からの反対意見は全く出なかったです。「本当に赤字にならないのか」といった率直なご質問をいただくこともあるのですが、私たちが最も大切にしているのは“味”であり、すべてのお客さまに最高の状態でラーメンを味わっていただくことに何よりもこだわっています。「お子様ラーメン」の無料提供は、そんな私たちの軸ともいえる価値観を、まさに体現したようなサービスですね。自粛が続く大変な状況下で、わざわざお店に足を運んでくださったのだから、利益よりも、ひとりでも多くの方に一蘭のラーメンを楽しんでいただくほうが重要だと考えました。また、コロナ禍には、医療従事者の方をはじめ、外食を必要とされる方から「一蘭が営業していて助かった」というお声をいただくこともあり、厳しい状況であっても、外食産業としての使命を果たし、一蘭にできることがあるのなら社会や人々のために貢献したいという気持ちでした。
ーー対象年齢を拡大したことによって、利用者数に変化はありましたか？
【新井愛実】細かな数字はお伝えできないのですが、ご利用いただくお客さまは増えています。また、メディアで紹介された反響もあって、一部の店舗では、2021年11月と比較して、2022年11月の利用者数は約3倍となりました。実際に数字で見ると、喜びも大きいですね。実施してよかったと感じます。
ーーラーメン店はひとり客も多く、一蘭の場合は特に「味集中カウンター」の存在もあって、ファミリー層以外からの支持も高そうです。ほかのお客さまへの影響など、「お子様ラーメン」の無料提供および対象拡大によるデメリットは本当にないのでしょうか。
【新井愛実】意外かもしれませんが、一蘭は女性のお客さまからの支持も高く、来店される方の40％が女性なんです。家族連れでの利用も多く、もともとの需要が高いので、「お子様ラーメン」の無料提供によるデメリットはないと考えています。
「久しぶりに一蘭のラーメンが食べられた」。利用者からは感謝の声が続々
ーー実際に利用された方からはどんな声が寄せられていますか？
【新井愛実】「一蘭が昔から好きだったけど、子どもが産まれてからなかなか来れずにいた。子どもも喜んでくれたし、自分自身もラーメンの味を楽しめた」「子どもたちも、専用のオーダー用紙で好きなオーダーができて楽しそうだった」「椅子の背もたれやお子さま用フォーク等もあり、その配慮もありがたかった」など、たくさんのうれしいお声をいただいています。
ーー今後も「お子様ラーメン」のような、社会に対してポジティブな影響を与えるサービスや取り組みの実施は予定されていますか？
【新井愛実】現時点で対象を絞った取り組みなどは予定していませんが、公式アプリから参加できるスタンプラリーなど、毎月さまざまなイベントやキャンペーンを実施しています。今後も多くのお客さまから一蘭のラーメンを楽しんでもらえるような発信を行っていくとともに、外食産業として社会のためにできることに取り組んでまいりたいと思います。
この記事のひときわ#やくにたつ
・自分たちが大切にしている軸をぶらさない
・利益よりも、思いや価値観を大事にする
・誰も取りこぼさない、“すべてのお客さまのため”を追求する
取材・文＝佐藤さとり
