1959年に「ラーメンをそのまま食べる」という発想から誕生した、ラーメンスナック菓子のベビースターラーメン(発売当時の名称はベビーラーメン)。今や認知率97.8%(同社調べ)を誇り、“国民のおやつ”ともいえる超ロングセラー商品となっている。そのベビースターラーメンが、2022年9月3日に、スポーツブランド「Reebok(リーボック)」とスニーカーショップ「atmos(アトモス)」とのコラボレーションで、独創的な“ベビースターラーメンスニーカー”をリリースした。異業種のトリプルネームコラボにいたった背景や他ブランドとのコラボレーションを積極的に行う理由などについて、株式会社おやつカンパニーのマーケティング本部・マーケティング戦略1部ブランド2課の課長である田中雅洋さんに話を聞いた。

異業種コラボについて語ってくれた田中さん
異業種コラボについて語ってくれた田中さん【撮影=大野マコト】

「リーボック×アトモス×ベビースターラーメン」意外性あるコラボが実現するまで

世間を驚かせるようなプロモーションをして、ベビースターラーメンというブランドを再認知してもらうことを目的に、2020年ごろより“ベビースターラーメン×意外性”という方向性を打ち出しているおやつカンパニー。

「コラボ先を探している中で、アトモスさんにリーボックさんをご紹介いただき、トリプルコラボスニーカーの製作が実現しました」

ベースとなるスニーカーのモデル選考やデザインのディテール監修はアトモスが担当。三重県津市生まれのベビースターラーメンにとって、世界的に有名なブランド・リーボックとのコラボが決まったことはかなりの驚きだったそう。

アトモス×リーボックとのトリプルコラボで誕生した、ベビースターラーメンスニーカー
アトモス×リーボックとのトリプルコラボで誕生した、ベビースターラーメンスニーカー【撮影=大野マコト】

コラボスニーカーは、リーボックの定番ランニングシューズCLASSIC LEATHER(クラシック レザー)をベースに、ベビースターラーメンの世界観を落とし込んだ、オリジナリティあふれるスタイルが特徴。サイドのベクターロゴにリアルな麺柄があしらわれた、インパクトあるデザインの1足だ。この柄を本物の麺のように表現するにあたって、印刷精度や色味にこだわり、何度も調整を重ね再現されているという。さらに、縫製のステッチにイエローを採用したり、インソールにプリントされたトリプルネームのロゴの配置も、レギュレーションと照らし合わせながら調整されているそうだ。

「Ramen」の文字があしらわれたアッパーサイドに、ベビースターラーメン柄のベクターロゴをデザイン
「Ramen」の文字があしらわれたアッパーサイドに、ベビースターラーメン柄のベクターロゴをデザイン【撮影=大野マコト】

「それぞれのヒールサイドには、ベビースターラーメンのキャラクターをあしらっているんですよ。左足にベイちゃん、右足にホシオくんを配置しました。さらに左ヒールに“ベビースター”、右ヒールに“ラーメン”の文字をプリントし、カカトをそろえると“ベビースターラーメン”となるように、デザインされているんです」と、田中さん。

ヒールには、ホシオくんやベビースターラーメンのロゴがあしらわれている
ヒールには、ホシオくんやベビースターラーメンのロゴがあしらわれている【撮影=大野マコト】

さらに、麺柄があしらわれたインソールにはトリプルネームコラボの象徴となる、ベビースターラーメンとリーボック、アトモスのロゴがプリントされている。もともとリーボックのブランドロゴがデザインされていたアッパーサイド部は、今回のコラボでは“Ramen”というロゴに変更。Rの文字にはリーボックのロゴと同じ書体が採用されるなど、アトモスらしい遊び心が発揮されている。

「最初はオリジナルどおりリーボックのロゴにする予定だったのですが、頭文字がともに『R』だったので『ラーメンでいいんじゃない?そのほうがおもしろいよね』とアトモスさんと話して、両社でデザインをまとめていきました。アトモスさんはスニーカーファンの心理を熟知されているので、とても感心しました」

麺柄でアッパー全体をおおった、攻めたデザインも登場!

さらに、クラシカルなテニスシューズとして愛されるCLUB C 85(クラブ シー85)をベースにしたベビースターラーメンスニーカー2も、11月26日にatmos各店とオンラインで数量限定発売。こちらは、アッパー全体に麺柄をあしらった、より先鋭的なデザインが特徴となっている。

ベビースターラーメン柄でアッパーをおおった、ベビースターラーメンスニーカー2
ベビースターラーメン柄でアッパーをおおった、ベビースターラーメンスニーカー2【撮影=大野マコト】

実は、当初CLASSIC LEATHERがアッパー全体をベビースターラーメン柄でおおうデザインを想定していたそう。ところが、「ベビースターのブランドを冠したスニーカーを履いていただくなら、ラーメン柄よりもシンプルなデザインのほうがいいだろう」と、アトモスから広く知ってもらうための提案があったのだとか。そのため、CLUB C 85では「もっと攻めたい」という考えをアトモス側に伝え、このたびインパクト大のスニーカーが誕生した。ベースとなるモデル選びに関しては、CLASSIC LEATHERがランニングにも使えるスニーカーなので、もう少しカジュアルに履けるデザインをということで、コートシューズのCLUB C 85が選ばれた。

また、レザーパーツを普通にカットすると断面からレザーの地色が露出するため、断面をイエローで塗装し、アッパー全体に一体感が出るように調整されており、田中さんは一流のこだわりに感心したという。

どちらのスニーカーにも、トリプルネームの証であるロゴがインソールにプリントされている
どちらのスニーカーにも、トリプルネームの証であるロゴがインソールにプリントされている【撮影=大野マコト】

コラボにいたるまでのステップとして、まず、アトモスの代表・本明秀文氏とディレクター・小島奉文氏という、スニーカー界を牽引する2名と何度も打ち合わせを重ねた。おやつカンパニーのマーケティングに対する方向性や、過去のコラボでの成功例などをインプットして企画がスタート。リーボックの厳しいデザインレギュレーションに沿うべく、“ここだったらいけるだろう”という探り合いをリーボックの担当者と協議してもらい、デザインを完成させていったという。ラフとデザイン画の時点で、何度もやり取りしていたため、「ファーストサンプルを年明けに見て、そのあとにもう一度見たくらいです」と、絶大な信頼を置いていたそうだ。

過去のキャンペーンでスニーカーを景品として製作した経験があったため、当初は「ああいう、デザインのスニーカーになるんだろうな」と想定していたという田中さん。しかし、今回のコラボはアトモスが監修をしたこともあり、予想を大きく上回る完成度のものが手元に届いた。「サンプルが届くまでは、ラフスケッチしか見ていなかったですが、完成度も含めて素晴らしいものができたと思います。スニーカーの細部の仕様に関しては、さすがアトモスさんですね」

意外性のある異業種コラボにより、再購買のきっかけを作る

ベビースターラーメンは、2022年8月のエースコックとのコラボを皮切りに、今年もさまざまな異業種コラボを展開し、SNSをにぎわせてきた。その中でも一風変わったものは、築地本願寺とのコラボ。お寺に子どもが参拝する機会が減っているという背景を踏まえ、築地本願寺で週末に行われているイベントに、ベビースターラーメンを実際に使用して行う文字遊び、“麺文字”を作る体験ブースを出展した。さらに、女子美術大学と産学共同研究プロジェクトも行い、ベビースター×アートという切り口のコラボも実現させている。

加えて最近では、大分県の老舗酒蔵と協同し、11月1日の焼酎の日に合わせてベビースターラーメンに合う焼酎を発売。「#おやつの常識を超える」と冠したコラボ企画を既にトータルで16弾まで実施しているそうだ。

エースコック「ベビースターラーメン カップめん」(左)と、網走ビール「ベビースターラーメンに合うビール べビール」(中央)
エースコック「ベビースターラーメン カップめん」(左)と、網走ビール「ベビースターラーメンに合うビール べビール」(中央)【撮影=大野マコト】

コラボ先とのマッチングは、四半期ごとに打ち立てたPRコンセプトをもとに、「次はこういうことやっていきたいよね」、「この時期は食品系でいきたいよね」と、チーム内のブレストでアイデア出しを行い、一社一社に問い合わせを行っているそう。広告宣伝コストも限られているため、話題性のノイズを立てる術として、このような変わったコラボ案件を実行している。

数々の取り組みをユーザーから“おもしろい”と評価される理由を問うと、「昨年からさまざまなプロモーションを実行し事後調査をしたのですが、どの調査を見てもやっぱり“意外性”。そこに尽きるんですよね。自分が驚いた情報って人に言いたくなるじゃないですか」と田中さん。コラボによる意外性を生むには、異業種であることやコラボ相手のネームバリューも関係するため、「“あの企業”とおやつカンパニーが組んだの!?」と、誰も想像がつかない、変わった切り口のコラボ先を優先的に探しているという。普段、お菓子売り場で見かけるブランドが、靴屋や酒屋の棚にもある。意外な場所にベビースターラーメンが出現するのも、意外性を感じさせる要素と言える。

このように、ユーザーを驚かせることができるのも、ベビースターラーメンが非常に高い認知率を誇っているからこそ。国民に愛されているお菓子だから、意外性がより響くのだ。田中さんによると、ただ知ってもらっているだけではダメなのだそう。例えば、「スナック菓子で、あなたが知っているブランドは?」とアンケートを取ると、まずポテトチップスなどがあがるのだとか。「皆さんに知られていて、好意を持っていただいているブランドではあるのです。ただ、日常的にベビースターラーメンに触れることもなければ、思い出すこともない。どちらかというと忘れられているブランドなんですよね…」と自虐的に笑う田中さん。

そこで、定期的な異業種コラボというノイズを作り出し、プロモーションを通してブランドを思い出してもらうことで、「たまにはベビースターを買ってみようかな」とユーザーに商品を手に取ってもらう導線をつくるのだという。

反響が大きかった、ベビースターラーメンチョコアイスバー
反響が大きかった、ベビースターラーメンチョコアイスバー【画像提供=株式会社おやつカンパニー】

反響が大きかったコラボ商品に、2021年のベビースターラーメンチョコアイスバーがある。賛否両論あったが、SNSを中心に大きな話題となり、再購買を促すきっかけを創出した。

「ベビースターラーメンの文字列を見たり聞いたりすると、ベビースターラーメンの味が思い出され、食べたくなるというメカニズムが、どうやらあるみたいなんです」と田中さんは明かしてくれた。チョコアイスバーにベビースターがまぶされた斬新な同商品は、全国のファミリーマートで販売。実際に商品を手に取り、気軽に食べてもらうことができたのもヒット要因のひとつだろう。その反応は、もちろんおいしいという意見だけでなく、「別々で食べたかったよね」というコメントも非常に多かったそうだが、別々で食べたかったということは、裏を返すとベビースターの味を思い出してもらえた証とも考えられる。意外性で印象を付け、再購買を促すという目的の達成度からすると、非常に成功したコラボ商品と評価できるのだ。

コラボを続けてきたおかげで、今では逆オファーされることも増えているそう
コラボを続けてきたおかげで、今では逆オファーされることも増えているそう【撮影=大野マコト】

基本的に同社では、コラボを行う際、自分たちのブランドの今置かれているステータスやマーケティング上の問題点、課題などをすべてオープンにして先方に伝えているそう。

「我々のマーケティングの方向性をきちんと理解をしていただき、賛同していただける企業には、その先のお話がどんどん進んでいきますので、一度ギアが入ると(プロジェクトが)転ぶことはなかなかないのかなと思っています」と田中さん。初動を成功させるコツとして、前述したようにブランドの現況やビジョンを率直に伝え、両社で協業していくことを重視している。コラボは、ブランド名を貸す側でもあり、借りる側でもある。そこで、自分たちの目的だけを考えるのではビジネスとして成立しないので、先方の課題や問題点を解決する術になっているかどうかを見極め、お互いがWin-Winになるように計画しているのだという。

また、プロジェクトを進めるにあたって、Twitterなどのソーシャルリスニングは欠かせない。「いろいろなご意見は当然ありますが、ベビースターラーメンというブランドの会話がSNS上で生まれている時点で、もう既に目的をひとつ達成しているかなと思っています。CLASSIC LEATHERの発売時、実際に店頭で商品を手に取って見ていると、『スニーカーを出しているんだね』というお客さん同士の会話を耳にしました」と、田中さんは気恥ずかしそうに笑う。BEAMSと「駄菓子×BEAMS」という切り口でコラボした際も、発売後は店頭へ足を運び、「何かおもしろいことをしているね」というお客さんの声を耳にして少しニヤッとしたそうだ。

これまでに話題性のあるコラボレーションを連続的に行ってきたかいもあり、他企業から「今度こういうようなコラボをできませんか?」と問い合わせをもらうケースも増えているなど、同社の意欲的な取り組みは徐々に大きな渦をつくりつつある。

5年、10年先も愛され続けるベビースターラーメンであるために

ベビースターラーメンについて尋ねると、多くの人は「懐かしい」と答えるのだという。懐かしい=思い出であって、それは現在進行形ではない。田中さんは、「懐かしいという実体験にだけ頼っていると明るい未来はないなと私は思っています」と危機感を募らせる。ベビースターラーメンは懐かしいブランドだけではなく、常に明るく、遊び心があって、楽しく、安心できるブランド。商品を手にすることで「また明日も頑張っていこう!」と思えるような、現代人の背中を“ちょっとだけ”押してくれるようなブランドへと、イメージを変えていきたいそうだ。

明るく楽しいブランドイメージ同様、朗らかな人柄の田中さん
明るく楽しいブランドイメージ同様、朗らかな人柄の田中さん【撮影=大野マコト】

「5年、10年と、あの手この手で、ブランドを世の中にどんどん発信していきたいなと考えています」と田中さんは話す。これまで、そしてこれからの異業種コラボは、ベビースターラーメンを未来へつなぐための施策でもある。次の意外なコラボ相手がどこになるのか。「わぁ!」となるのか、「えぇ?」となるのか、その反応も気になるところ。ユーザーの意表をついた、ワクワクするコラボレーションに期待したい。

この記事のひときわ#やくにたつ
・“おもしろい”は“意外性”に尽きる
・自社ブランドを徹底的に分析する
・協業成功の秘訣は現況やビジョンを率直にシェアすること

取材・文=北村康行/撮影=大野マコト