多くのバラエティ番組に出演するなど、サッカー解説者としてだけでなく、タレント、インフルエンサーとしてマルチに活躍する元サッカー日本代表の前園真聖さん。過去に犯した過ちを真摯に受け止め、受け入れ、飾らない実直な言動で“愛されキャラ”としても人気を博す前園さんに、「仕事」をテーマに話を聞いてみた。

前園真聖さんにインタビュー
前園真聖さんにインタビュー【撮影=樋口涼】


――前園さんのシゴト観、キャリアについて教えてください。ワールドカップ応援隊長といったサッカー関連の仕事を含め、コメンテーター、バラエティ番組、SNSでの活動など、マルチな活躍をされていますが、仕事を選ぶ基準はありますか?
【前園真聖】目の前にあるものを、しっかりとやらせていただく。これがスタンスになりますが、基本的には自分が楽しいと思えるもの、それは仕事の内容とか価値みたいなものとは関係なく、どんなものでも「これ楽しそうだな、楽しめそうだな」というものはチャレンジさせていただいています。サッカーをやっていた現役時代もそこは変わらず、楽しくないと続かないですから。実際、大変なものもあるんですけど(苦笑)、自分が「これは絶対楽しそうだな」と思えるもの、それが自分の中の基準ですね。

「どんな仕事でも『これが最後かもしれない』という気持ちで臨んでいます」と語る前園真聖さん
「どんな仕事でも『これが最後かもしれない』という気持ちで臨んでいます」と語る前園真聖さん【撮影=樋口涼】

――仕事において大切にしていることは?
【前園真聖】とにかく一生懸命やること、それが何よりも大切にしていることです。それから、僕ひとりの仕事ではなく、たくさんの人が関わっていて、そういう人たちも含めてひとつの仕事だと思うので、ひとつのチームとして、関わっている人たちにも「この仕事やってよかったな」と思ってもらいたいという気持ちがあります。当たり前のことが当たり前じゃないということを、過去の失態で自分は思い知らされたので、お仕事をいただいたりとか、いろいろなところに呼んでいただいたりとか、必要とされないとできないお仕事ですから、その感謝の気持ち、ありがたいという思いはずっと変わっていないんですよ。あの経験があったからだと思います。仕事が全くなくなって、誰にも信用されなくなって、信頼を回復していくためにやらなければいけないことは、うまくやるとか、いいことをするとか、そういうことよりも、与えてもらったことを一生懸命にありがたくやるということだったので、それは今も変わっていないですね。そういう意味では、どんな仕事でも「これが最後かもしれない」という気持ちで臨んでいますし、せっかく集まったメンバーと一緒に楽しんでいいものをつくりたいという思いがありますね。

――仕事のやりがいを感じるのもそういったところですか?
【前園真聖】そうですね。どんな仕事もたくさんの人が関わっているので、必ずしもメインで出る立場ではないかもしれませんが、僕はひとつのピースであって、たくさんの人の存在があってこその自分なので、そういう人たちと一緒に楽しんで、相手にも楽しんでもらいたいし、「一緒に仕事をして良かった」と思ってもらいたい。そこにやりがいを感じています。

――アスリートのセカンドキャリアについて伺わせてください。前園さん自身は、現役時代、どのタイミングからセカンドキャリアについて考えていましたか?
【前園真聖】やっぱり引退が近づいたころですね。できれば現役を長く続けたかったので、そろそろかなと思いつつ、半年くらいずっと悩んだりしていました。引退後の仕事について具体的には決めていなかったのですが、サッカーに携わることをやっていく。それだけは決めていました。メディアの仕事であったり、育成の仕事であったり、ぼんやりとはしていましたけど、自分がやりたい方向は決まっていました。それが思いどおりにいくかどうかはわからなかったですけど、メディアでサッカーの魅力を伝えることと、子どもたちの育成に携わること、このふたつは決めていました。

――現役時代と今の仕事、どちらも仕事という定義をすると、仕事への向き合い方に違いはありますか?
【前園真聖】向き合い方はあまり変わらないですけど、大きな違いとして、サッカーのときと今の仕事では関わる人の幅が違います。サッカーの場合は同じチームのメンバー、対戦相手と、サッカーというある程度の枠の中での関わりでしたが、今の仕事は、テレビでも番組によって関係する人の広がりが違いますし、イベントだったりサッカー教室の現場だったり、それぞれで関わる人が全く変わってくるので、そこは大きな違いとして感じます。でも、向き合い方はそんなに変わらなくて、ひとつの現場が、サッカーの試合でいえば「ピッチ」なので、関わる人と一緒につくり上げていくことの大切さは変わらないですね。

――仕事の幅が多岐にわたりますが、苦手なことはありますか?
【前園真聖】それはいっぱいありますよ。苦手というか、テレビでうまくしゃべれないこととか、一人しゃべりはできれば避けたいですけど(苦笑)、講演などのオファーをいただくこともありますし。ただ、苦手なことにも向き合い、それを受け入れるようになったら、「上手にこなそう」と考えなくなったというか、うまくいかないことも含めて自分だと受け入れられるようになったので、そこは変わりましたね。求められたからには逃げない。「苦手なことだからやめておこう」という考えはなくなりました。

――その瞬間に出せる自分を出せればいいという考えですか?
【前園真聖】そう、自分を出せればいいし、それが伝わればいいと思っています。うまくいったとか、うまくいかなかったかはあまり関係なくて、そこにちゃんと向きあえるようになった気がします。

――きっかけは?
【前園真聖】お酒のこともありましたし、そこでちゃんと自分で向き合う、自分自身に対してもそうだし、いろいろな仕事に対してもそうですけど、あまり逃げ道、言いわけを探さなくなった。ちゃんと向き合うようになって、うまくいかなくてもそれは自分だと思う、ちゃんと自分自身に向き合えるようになったのは変わったことですよね。

20代、30代の自分にアドバイスを送るなら「サッカー以外の世界をもっと見るように」
20代、30代の自分にアドバイスを送るなら「サッカー以外の世界をもっと見るように」【撮影=樋口涼】

――失敗したり落ち込んだりしたときのリフレッシュ方法、立ち直り方などで心掛けていることはありますか?
【前園真聖】それは人それぞれなんじゃないですかね。その環境を自分でつくることが大事で、僕のリフレッシュの仕方がそのままあてはまるとは思わないので、それぞれ自分のリフレッシュ方法をつくっていかなきゃいけないと思います。おいしいものを食べるとか、友達に会うとか、リフレッシュするために運動をするとか、僕は自分の中にいろいろな方法があるので、それぞれが自分のリラックスできる環境をつくっていけばいいと思います。うまくいかないことは誰にでもあるし、僕にだって当然ある。「もうちょっとこうできでいたら」ということもあるけど、いまは、それもあまり気にしないですね。そもそも、うまくいかないことを失敗だと思わないほうがいい。それも含めて自分の経験だと思うし、失敗ではなくて経験だから次につなげよう。僕はそう考えています。

――確かに、失敗と捉えるとそこで終わってしまいますね。
【前園真聖】これも経験だから次に生かそうと考えること、ちょっとした心の持ちよう次第だと思います。

――20〜30代にアドバイスを送るとしたらどんな言葉をかけますか?
【前園真聖】世代が違いすぎるので難しいですね(苦笑)。「Z世代」と言われているんですよね。僕も「Z(ゾノ)」ですけど、一回り以上、世代もZも違いますし(笑)。僕はマインド的にも自分の好きなものを変わらずにずっと持っていて、それをやり続けています。うまくいかなくても、やり続ければその先にいいことがあるとか、成功があると考えています。でも、きっと今の若い世代の人はそうじゃなくて、ずっと同じではなく、いろいろなやり方や選択肢があると考えている世代なのかなと思います。僕らのころよりも選択肢が増えているので、それはいいことだと思うし、あまり僕のアドバイスというかやり方は当てはまらないかもしれないけど、もし当てはまるとしたら、すべてが中途半端になってしまうとたぶん何をやっても一緒だと思うから、ある程度しっかりと向き合ってやってみることの大切さですかね。それでもしダメだったら違う道にいけばいい。そこは変わらないと思うので。僕らのころは選択肢が少なかったからこそ、ひとつのことに向き合うことができた。でも、今の若い世代の人たちは少し興味があればひとまずやってみて、しっかりと向き合う前にまた別のことをする。これは僕の勝手な印象かもしれませんが、本当にやりたいと思ったことにしっかり向き合ってほしい。その結果、違うと思ったら切り替えればいいので、そこは少し思うところですかね。

――では、今の前園さんから「20代、30代の自分」にアドバイスを送るとしたら、伝えておきたいことはありますか?
【前園真聖】うーん…今話したことと少し矛盾するかもしれませんが、「サッカー以外の世界をもっと見るように」ということですね。サッカーに向き合うことはもちろん大事だし、プロなのでそれがメインであるべきですが、もう少しいろいろなことに興味を持ってもよかったのでは、とは思いますね。他の世界に興味を持つことで、目線の広がりも違うと思いますし。「違う世界、いろいろな世界を見ろ」というアドバイスは、今の自分だから言えることかもしれません。

――当時の、選択肢がなかったゆえに向き合えたところと、逆に今は違う世界の視点を持てている、ということですね。
【前園真聖】集中すべきはもちろんサッカーなんですけど、そのうえで、他の世界も、という気持ちが今はありますね。というのも、やっぱりサッカーが終わったあとの人生のほうが長いわけですから。

――おっしゃるとおり、一般的に、アスリートは引退後のほうが人生は長いわけですもんね。
【前園真聖】はい、引退後のほうが長いので。カズ(三浦知良)さんは半分以上いっているので別ですが、ほとんどの選手は引退後のほうが長いですから、それはすごく思いますね。

目の前の一つひとつのことを、一生懸命にやらせていただくことが「次につながる」
目の前の一つひとつのことを、一生懸命にやらせていただくことが「次につながる」【撮影=樋口涼】

――最後に、前園さんの今後の野望を教えてください。
【前園真聖】野望はありません(笑)。でも、目の前の一つひとつのことを、一生懸命にやらせていただくこと。それが次につながると思っています。実際、またサッカー番組を担当させていただいたりとか、一つひとつをしっかりやっていくと、チャンスが現れてくると僕は思っています。もちろん大きな目標は大事ですが、まずは目の前のことをしっかりやること。その先に大きいものが広がってきているので、今も変わらずその気持ちです。目の前のことを疎かにしない、真摯に向き合う、それが大事だと考えています。

この記事のひときわ#やくにたつ
・苦手なことにも向き合い、それを受け入れる
・うまくいかないことを失敗だと思わず、経験だと考える
・本当にやりたいと思ったことにしっかり向き合う
・目の前の一つひとつのことを、一生懸命にやる

取材・文=浅野祐介、撮影=樋口涼