株式会社MIXI(以下、MIXI)が提供する子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」(以下「みてね」)。子どもの写真や動画をかんたんに共有・整理できる以外にもさまざまな機能があり、そのなかでも人気なのが「人物ごとのアルバム」。これはアップロードされた写真・動画をプログラムで自動判定し「お子さま個人、子どもたち、みんな」の3種類に振り分けるというものだ。今回はMIXI Vantageスタジオ みてね事業部 開発グループ Data Engineeringチームの登内雅人さんに「人物ごとのアルバム」の開発について話を聞いた。

株式会社MIXIで機械学習エンジニアとして活躍する登内雅人さん
株式会社MIXIで機械学習エンジニアとして活躍する登内雅人さん【撮影=樋口涼】

 
ーー大学院時代にインターンシップやアルバイトで、機械学習エンジニアとしてMIXIに勤務されていたとお聞きしました。そもそもエンジニアを目指そうと思った理由について教えてください。
【登内雅人】もともとは大学進学の際に情報系の学部に進んだこともあり、プログラミングやものづくりが好きで勉強をしていました。大学院ではAI系の研究室に入っていたのですが、そこでも理論寄りの研究よりもプロダクトに寄った研究開発のほうを進めていて「こっちのほうがやっぱり楽しいな」と思い、エンジニアの道に進みました。
 
ーーMIXIで実際に働いてみた感想はいかがですか? 
【登内雅人】まずインターンで入ったときにすごく働きやすいと感じました。エンジニアとして自由に仕事をさせてもらえますし、やりたいことがあったときに議論を頻繁にできるので、とてもフラットな環境だなと感じました。加えて技術的にもすごく成長できると感じました。また大学では研究寄りのことをやっていたのですが、MIXIに来てから実務に近い部分の難しさを感じることがあり、とても学びが多かったのも魅力のひとつでした。
 
ーー登内さんが感じた難しさとは、どういったものでしょうか? 
【登内雅人】研究だと純粋に精度が何%など具体的な数値が出ますが、実務だとモデル単体での精度が何%だったとしてもプロダクトにどれくらいの影響があるのか測りきれないということがありました。ただ精度を上げるだけではダメだというところが大きく、解決策を出していくのが難しいと感じた点でした。
 
ーー実際に勤務してみて、MIXIの魅力についてはいかがですか?
【登内雅人】「みてね」をはじめとしたプロダクトに関わっていますが、「『みてね』の開発をしています」とユーザーに言うと「いつも使っています!」「いいアプリを作ってくれてありがとうございます」などの声を聞くことができ、そのような生のフィードバックをいただけることがうれしいです。また、アプリ単体で完結しているだけでなく、フォトブックや年賀状などにも展開しているサービスなので、楽しいプロダクトを開発しているなという実感があります。そのような点に魅力を感じますね。

子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」
子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」【画像提供=株式会社MIXI】


ーー「みてね」において機械学習やR&D(Research and Developmentの略。研究開発)基盤をゼロから構築することになったきっかけを教えてください。  
【登内雅人】きっかけとしては、ちょうど私の入社直前くらいに「人物ごとのアルバム」機能のリリースがあったことがあげられます。「みてね」ではそれまでに使用していたAIモデルやアルゴリズムがあったのですが、「人物ごとのアルバム」機能をリリースするうえで、新たに運用方法の考案や実験基盤の整備などが必要という課題が出てきました。それに際して、実験のためのデータや機械学習のためのスクリプト、評価をするためのロジック、モデルの比較対象や比較方法など必要となるものが多く、これらすべてをひとつの実験基盤にまとめて、結果が出た際の管理ができる状態を作らないといけないという問題がありました。そうしないとほかの実験結果との比較ができないですからね。ある程度自動で実験したら記録できて比較ができるようにしていきました。
 
【登内雅人】あとはデータの用意や学習評価などたくさんあるプロセスをそれぞれ順番・個別に実行していくのではなく、ワンステップで実行できるように効率化を図るなど、実験を素早く行えるようにしてコストを低く抑えられるようにしました。そのような点がR&D基盤の一番の整備になりますね。

大学からプログラミングに熱中し、エンジニアの道に進むことを決めた登内さん。プロダクトにおける魅力や苦労を語ってもらった
大学からプログラミングに熱中し、エンジニアの道に進むことを決めた登内さん。プロダクトにおける魅力や苦労を語ってもらった【撮影=樋口涼】


ーーR&D基盤を構築するうえで苦労したことはありますか? 
【登内雅人】実験環境などの整備をし始めたのは私がMIXIに入社した2020年4月ごろです。ちょうどこのころにMLOps(機械学習オペレーション)という分野が流行し出して、さまざまな企業で取り組みが始まったという段階でした。ただ、発展途上な分野のため文献が少なかったり、MLOps系のツールやライブラリも流行り廃りがあったりで、なかなか正解が見つからないなかプロジェクトを進行しなければいけないのが苦労した点でした。最終的には今後成長が期待されるKubeflow Pipelinesのツールを用いて実験環境を構築し、そこである程度集約できるようになりました。またMLOpsはやらなければいけないことがかなり多く、モデルを更新した際に効果測定というプロダクトにどのような影響があったかなど測定ができないと、モデル更新の指針が得られないなどがあります。
 
【登内雅人】例えば、「人物ごとのアルバム」でAIの分類精度が上がったからといって、「みてね」のプロダクトのなかで分類精度が上がっているかというと、実は違います。裏側ではさまざまなアルゴリズムが動いて分類されているので、どのように精度を評価するのか、または精度を改善したことでアプリの売り上げや有料プランへの加入率などにどれだけ効果があったのかというところを測っていかないといけないのですが、単純に結果だけをみてもわからないのが難しいです。写真の誤分類などがあればユーザーから問い合わせが来るのでその数を計測してみるとか、あとはアルバムが閲覧されている数を見たりとか、ほかにももう少し技術的な部分を加えていくということをしたりしています。正解がないなかでどういったことをすればある程度精度を測れるようになるのかといった部分も難しいところです。

「家族アルバム みてね」には、さまざまな機能がありフォトブックや年賀状にも展開している
「家族アルバム みてね」には、さまざまな機能がありフォトブックや年賀状にも展開している【画像提供=株式会社MIXI】

 

ーー検証材料が多角化しているからこそ難しいですよね。業務ではどのような点にやりがいを感じますか?
【登内雅人】研究開発という職種上、検証期間がどうしても長くなってしまい頻繁にリリースできるということがあまりないので、私個人としては本番でシステムを実際にリリースしていき、その結果ユーザーからのフィードバックをもらうというところにやりがいを感じます。あとは研究的にも技術的にもレベルの高いことをしているので、アイデアを考えていく際に仮説通りに実現したときが技術的な意味でやりがいを感じるところですね。
 

「ユーザーから生のフィードバックをいただけることがやりがい」
「ユーザーから生のフィードバックをいただけることがやりがい」【撮影=樋口涼】


ーーエンジニアとして日々大切にしていることを教えてください。
【登内雅人】どんどん新しい技術が生まれ続けているので、とにかく学び続けて好奇心を持ち続けることを大事にしています。特にAIは発展がものすごく早くて、世の中的にもここ数年で驚くようなAIのリリースがたくさんありました。つい最近まで最新だったものが現在ではすごく非効率なものになってしまっているということもあるので、その意味でも学び続けるというのはとても大事ですね。
 
ーーありがとうございます。では、登内さんの今後の野望を教えてください。 
【登内雅人】現在は、今あるAIモデルの改善をしている段階ですが、まずはこちらをひと段落させ、次は新機能の開発を行って「みてね」の売り上げに貢献したいなと考えています。特にAIでのおもしろいアイデアは何個か溜まってきているので、それを早く実現したいですね。
 
ーー最後に、エンジニアを目指す人たちに一言お願いします!
【登内雅人】まずはプログラミングをやってみて楽しいと思えるかどうかが大事かと思います。楽しいと思えたら自分からどんどん学ぶことができると思いますね。とりあえずコードを書いてみるなどもいいかもしれません。私は勉強は苦手だったのですが、たまたま大学在学中にプログラミングに熱中し、仕組みなどに興味を持ち始めたことが今の仕事につながっています。これはどんな分野でもいえることですが、まずは興味と好奇心を持ってみることが大切ですね!
 

「楽しいと思えたら、自分からどんどん学ぶことができると思います」
「楽しいと思えたら、自分からどんどん学ぶことができると思います」【撮影=樋口涼】


この記事のひときわ#やくにたつ
・自分が楽しいと思える分野にいくことで、活躍の場が増える
・技術革新の多い業界で大事なのは、常に興味と好奇心を持つこと
・新しいことを始めるうえで、まず「楽しい」と思えるかが大切

取材=浅野祐介、取材・文=福井求、撮影=樋口涼