大手ドーナツチェーン「ミスタードーナツ」に、メニューに載らないドーナツがあると今、SNSを中心に話題を呼んでいる。水面に浮かぶ泡のように儚く消えることからファンの間で“うたかたドーナツ”とも呼ばれるイレギュラーなメニューがなぜ存在するのか。株式会社ダスキンのミスタードーナツ事業本部 広告広報室に話を聞いた。

メニュー表に載らない、うたかたの泡のような「ファンシードーナツ」が話題に
メニュー表に載らない、うたかたの泡のような「ファンシードーナツ」が話題に


「うたかたドーナツ」「裏メニュー」その正体は「ファンシードーナツ」

1971年に日本第1号店がオープン以来、半世紀以上愛される「エンゼルクリーム」や「ハニーディップ」、2003年に登場しその人気から新定番としてさまざまなバリエーションが生み出され続ける「ポン・デ・リング」など、多様なラインナップを取りそろえるミスタードーナツ。毎年登場する新作ドーナツのほか、季節限定ドーナツやコラボレーションメニューも販売され、2022年の1年間でも新作・限定メニュー合わせて60種以上のドーナツが登場している。

今春話題になった「ポン・デ・ピスタチオ」「ポン・デ・マロンホイップ」は、公式のメニューヒストリーに記載なし
今春話題になった「ポン・デ・ピスタチオ」「ポン・デ・マロンホイップ」は、公式のメニューヒストリーに記載なし


そんななか、“うたかたドーナツ”と話題となったドーナツは、通常のメニュー表はおろか、1971年以来その年に登場した商品を網羅した公式サイトのメニューヒストリーにも記載のないまさに幻のドーナツ。そもそも本当に存在するのか疑問を覚えるところだが、意外なところにその手がかりがあった。

それは、公式サイトの栄養成分・アレルギー情報一覧。そこに、メニューには見られない「ファンシー」という分類に「ポン・デ・ピスタチオ」「ホワイトアーモンドチョコレート」といったドーナツの名前が並んでいるのが確認できるのだ。

ミスタードーナツ 栄養成分情報より抜粋。「ファンシー」という分類に数種類のドーナツがあることが確認できる
ミスタードーナツ 栄養成分情報より抜粋。「ファンシー」という分類に数種類のドーナツがあることが確認できる


以前からファンの間では「謎ドーナツ」「裏メニュー」として注目されていたイレギュラーなドーナツ。広報担当者によると、公式には「ファンシードーナツ」として、サイトには掲載していないものの実際に販売している商品だという。

余らなければ作られない。食品ロス削減のために誕生した影役

通常メニューでも期間限定メニューでもないファンシードーナツ。誕生のきっかけは、世界的な課題となっている食品ロスに対する取り組みの一環だと話す。

「ファンシードーナツは期間限定で販売している商品の原材料を使用した商品で、食材の廃棄を少しでも減らすことを目的として10年ほど前から取り組んでおります。各ショップでの原材料の在庫状況により、販売するかどうかが変動すること、またいつまで販売するかを事前に決めることが難しいため、ホームページへの掲載やPRは行っておりません」

食品ロス削減では、2000年から閉店後に残ってしまったドーナツを飼料化処理工場へ運び、飼料としてのリサイクルを一部エリアで導入。順次導入エリアの拡大をするなど、廃棄個数の削減や、残ったドーナツの再資源化を進めているミスタードーナツ。これに加え、期間限定メニューの終売によって、余った限定メニュー用の食材を活用するようになったのがファンシードーナツというわけだ。

3月上旬、記者が店頭に足を運んだところ、通常メニューと並んで「ファンシー」カテゴリーから数種類が販売されていた。実際に商品を見ると、2月下旬に終売となった鎧塚俊彦氏と共同開発したコラボレーションドーナツ『misdo meets Toshi Yoroizuka』で使用されていたピスタチオホイップやキャンディングアーモンドなどの食材が活用されていることがうかがえた。

ファンシードーナツ「ポン・デ・ピスタチオ」。一見ポン・デ・ストロベリーのようにも見えるが内側にピスタチオホイップが用いられている
ファンシードーナツ「ポン・デ・ピスタチオ」。一見ポン・デ・ストロベリーのようにも見えるが内側にピスタチオホイップが用いられている


仮にロスがなければ販売されないという供給事情と、商品の性格上、積極的な広報活動を行えないことから、消費者からすればいつ売っているのか確認できない「幻のドーナツ」として認知されるようになったのが“うたかたドーナツ”ことファンシードーナツの真相だった。

そうした背景がある一方、ファンシードーナツ自体も魅力のある商品となるよう開発には力を注いでおり、「定番ドーナツで使用している原材料を組み合わせることでバラエティのある品ぞろえにしております。限られた原材料を使用しているため、ファンシードーナツのラインナップから定番商品になる予定は現段階ではございませんが、お客様からいただいた貴重なご意見は今後の商品開発に生かしていきます」と話す。

消費者にとってはその珍しさと一期一会の味わいが楽しく、実はフードロス対策にもつながっていたファンシードーナツ。表メニューを影から支える黒子のようなドーナツが店頭に並んでいないか、チェックするのも一興だ。

この記事のひときわ#やくにたつ
・「計算できない」「告知できない」ことを逆手に取り、商品に希少性を持たせる
・手元にある資源を掛け合わせることで無駄なく新たな価値を作り出す

取材・文=国分洋平