コンビニエンスストアのお弁当といえば、白いご飯と唐揚げやハンバーグなどのメインディッシュ、そしてさまざまな脇役のおかずがぎゅっと詰め込まれているのが一般的だ。しかし2021年、そんなコンビニ弁当の常識を覆す商品が現れた。それがコンビニ大手ローソンのグループである株式会社ローソンストア100(以下、ローソンストア100)が発売した「だけ弁当」だ。これはご飯と1種のおかず“だけ”が入った商品。「弁当の定番だが主役になれないおかず」を主役に据えるというコンセプトで、あえておかずを1種類に絞った超シンプルなお弁当だ。

このシリーズの第1弾はウインナーとご飯だけが入った弁当なのだが、これが発売された瞬間に「こういうのを待っていた」「こんなのがほしかった」とSNSを中心に話題に。そこから「だけ弁当シリーズ」として展開が始まって累計300万食を達成するほどの大ヒットになり、2023年現在も新たな商品が続々誕生している。今回はこの「だけ弁当」シリーズを企画したローソンストア100次世代事業本部・統括マネジャーの林弘昭さんに、だけ弁当シリーズの誕生秘話についてお話を聞いた。

「だけ弁当」の発案者である次世代事業本部・統括マネジャーの林弘昭さん
「だけ弁当」の発案者である次世代事業本部・統括マネジャーの林弘昭さん【撮影=後藤巧】


反対を押し切って大ヒット!「だけ弁当」誕生秘話

2021年6月30日に発売された「ウインナー弁当」は、文字通りご飯とウインナー5本、そして型崩れ防止のスパゲティが入っているだけのあまりにシンプルすぎる内容。商品企画を担当した林さんは「とにかく大好きなウインナーを主役にしたい!」という気持ちで企画を行ったという。

「昔から『なぜウインナーをメインにした弁当がないのだろう?』と疑問に思っていました。弁当にはよく2〜3本ほどおまけ程度に入っていますが、決して主役にはなれない脇役的な存在だと感じていました。そこでウインナーの弁当が嫌いな人はいないのでは?と思い、企画を考えることにしました」


林さんが企画を思いつき、打診をし始めたのは今から10年以上前の話。しかしあまりに地味な見た目と内容だったため、周囲からは「こんなのだれが買うんだ」「商品として成立しない」「売れるわけがない」などの声が上がり、企画が実行されるまで長い年月がかかったそうだ。

「ローソンストア100では弁当と麺類を一緒に買うお客様が多いので『その層に訴えかける商品なら必ず売れる』『ウインナーをメインにした弁当はほかにはないので差別化できる!』と考えていました。確かにこのような弁当が過去に売られていたことはなかったので、コンビニ弁当としては常識外れたものだったのかなと思います」


企画の立案から10年以上が経過したものの林さんはずっと粘り続け、反対意見を押し切ってようやく発売するとまさかの大ヒット。SNSでは「すきなもの“だけ”が入っている!」「こんな弁当を待っていた」と大きな話題となった。最初は関東エリアだけの発売の予定だったが、あまりの人気から全エリアのローソンストア100で販売することになった。

「『お弁当はこういうのでいいんだよ』『子どものころの夢が叶った』など、SNSで多くの反響をいただきました。また子どものお弁当にちょうどいいというママさんからのニーズがあったりと、意外な食され方があったのにも驚きました。皆様に愛される商品を作ることができて本当によかったです」


シリーズ化でさらに人気に!一品にかける情熱とこだわり

2023年現在、ウインナー弁当は累計150万食を達成。そのおかげでローソンストア100だけの発売だったのが、ローソンでも一時期販売されるといった過去に類を見ない商品になった。そんなウインナー弁当の開発はご飯とおかずを入れるだけかと思いきや、実は「いかにコストを削減するか」がとても難しかったそうだ。

「だけ弁当は内容がシンプルすぎるがゆえに、コスト削減できるところが少ないのが問題です。人員コストや物流コストなどお弁当の具材意外にも費用がかかります。一方で具材の質や量を下げたくなかったので費用削減ができずに苦戦しました。そのためお弁当によく入っているバランをなくしたり、蓋をプラスチックのものではなくラップに変えたり、容器を既存のものを使用したりと工夫をしました」


ウインナーの味わいや品質にこだわりつつ、減らせるところではしっかり減らした作りにしたおかげで、飽きの来ないおいしさを実現することができた。また、だけ弁当の価格を216円に抑えるのがとても大変だったそう。だが、一緒にカップ麺やサラダなどを買っても500円以内ですむという値段設定も、ヒットした要因のひとつだったと林さんは推測している。

ウインナー弁当の成功もあって「だけ弁当」のシリーズ化が実現。これまでに「ミートボール弁当」や「のり磯辺揚弁当」、「白身フライ弁当」、「チキンナゲット弁当」が登場し、それぞれが発売するたびに大ヒットを果たした。現在は3カ月に1回ほどの間隔で新商品を発売していて、2022年11月には新商品「玉子焼弁当」を発売した。

「玉子焼きはお弁当の人気のおかずで嫌いな人も少ないはずなのに、脇役になることがほとんどです。そこで今回は玉子焼きをメインにした弁当にしました。ただこれまでのシリーズとは異なり、玉子焼きは楕円形のお弁当にうまくフィットしなかったので、今回だけは長方形のお弁当箱を使っています」

また、ひとえに玉子焼きといっても関東と関西では好まれる味が異なるため、味付けをどちらに合わせるかが社内でも議論となったそうだ。関東では江戸前ずしの文化から酢飯に合う「甘い玉子焼き」が好まれ、一方、関西では京料理の文化から出汁が重視されるため「出汁巻き」が好まれる傾向にある。そこでベースの玉子焼きは「だし巻き」にして、関東では「甘め」の味付けに、中部・関西では「ほんのり甘め」にしたという。

また、今回使用された玉子焼きは冷凍のものではなく実際に玉子焼き機で焼いているという。全国を探し回って玉子焼き機を探し、関西から取り寄せて稼働させることになったほどの力の入れ具合だ。一つひとつ焼いているからこそ冷めてもふっくらとやわらかくおいしいのが特徴。おかずが一品しかないからこそ、おかずにかける情熱とこだわりが徹底されているのがだけ弁当シリーズの一番の魅力だ。


これからもユーザーが楽しめる「だけ弁当」を

だけ弁当シリーズの新商品を続々発売しているローソンストア100。だが、唐揚げや牛焼肉などお弁当の主役になる食べ物は多いものの脇役のものは数が限られている。そのため商品開発ではメインの具材を何にするか、林さんは毎回頭を抱えている。

「やろうと思えばどんな商品でも『だけ弁当』にできると思います。ですがなかなか脇役として思いつくものが少ないのも悩みの種ですね。最近では壺漬けやしば漬けといった漬物を題材にするのもいいかもと考えています。そのまま食べてもいいし、お茶漬けにして食べてもいいかもしれないですからね」


これまでに林さんはだけ弁当シリーズをはじめ「具なしまん」や「具なしライスバンズ」など変わり種の商品を出してはヒットに導いてきた。その理由はひとえにユーザーが驚き喜んでくれるような商品を作り続けているからだ。そんな林さんはこれからもだけ弁当シリーズを続けていきたいと話す。

「お店の店長や従業員が『発注したいな』と思えるような商品を作っていき、現場を盛り上げていきたいと考えています。その結果が、お客様がローソンストア100での買い物を楽しめることにつながるのではないかなと思います。だけ弁当シリーズのいい点は継続性のあるところです。これからも新しい商品を企画して皆様に喜んでもらいたいですね!」

林さんはこれからもだけ弁当シリーズを企画していく予定。今後の新商品が楽しみだ
林さんはこれからもだけ弁当シリーズを企画していく予定。今後の新商品が楽しみだ【撮影=後藤巧】


10年以上もの歳月をかけ、社内の反対意見を乗り越えて大ヒット作になっただけ弁当シリーズ。ぜひ次回の商品を楽しみに、ローソンストア100を訪れてみてはいかがだろうか。「次はどんな商品が出るのだろう?」とワクワクすること間違いなしだ。

この記事のひときわ#やくにたつ
・成功する確信があれば、時間をかけて実行することも大事
・シンプルな商品であればあるほどシリーズ展開がしやすい
・ひとつだけでもこだわりがあれば、独自性は生まれる

取材・文=福井求(にげば企画)、写真=後藤巧