ユナイテッドアローズ 新宿店のスタッフ、仲希望さん。彼女は「STAFF OF THE YEAR 2023」の頂点に立ち、全国約8万人のなかから令和のカリスマ店員の座に輝いた。母としての顔も持ち、時短勤務のなかで日々奮闘する彼女が、ユナイテッドアローズのデジタル領域でも新たな挑戦を続ける。ひとりの店員がいかにして全国の頂点に立ち、同時にデジタルセールスの新境地を切り拓いているのか。今回は、仲さんの日常に迫り、彼女が今、何を思い、どのように成長し続けているのか詳しく話を伺った。

ユナイテッドアローズ 新宿店のスタッフ・仲希望さんは、3人のお子さんを育てるママ。時短勤務を続けながら全国1位の店員に輝いた
ユナイテッドアローズ 新宿店のスタッフ・仲希望さんは、3人のお子さんを育てるママ。時短勤務を続けながら全国1位の店員に輝いた【撮影=オオノマコト】


令和のカリスマ店員誕生の舞台裏。「STAFF OF THE YEAR 2023」でのスピーチが変えたすべて

ーー21年間働き続けて、「STAFF OF THE YEAR 2023」のグランプリに選ばれたことで、何か変わったことはありますか?
【仲希望】責任感が強くなりましたね。グランプリを受賞してからは、その責任をより一層、自分で感じるようになりました。

ーー「STAFF OF THE YEAR 2023」の審査で、特に評価されたと感じる部分は何でしたか?
【仲希望】最終審査で接客のロールプレイングと自己PRスピーチがありましたが、トロフィーをいただく際に、審査員のアン ミカさんから、「自己PRスピーチが素敵でした」とお言葉をかけていただきました。

「STAFF OF THE YEAR 2023」でグランプリを獲得した仲さん
「STAFF OF THE YEAR 2023」でグランプリを獲得した仲さん【写真提供:「STAFF OF THE YEAR 2023」】


ーーそういった評価の言葉を直接いただけたのは、励みになりますね。
【仲希望】本当に温かい方で、感謝しています。

ーー最終審査の接客ロールプレイングが終わった時点では、確か8名中2位だったんですよね。逆転勝ちをしたわけですね。
【仲希望】はい、2位だったんです。ですから、本当にスピーチのおかげなんですよね。

受賞の決め手は、丁寧なスピーチにあったそう
受賞の決め手は、丁寧なスピーチにあったそう【写真提供:株式会社ユナイテッドアローズ】

【写真】「STAFF OF THE YEAR 2023」のステージ上で接客を実演する仲さん。数々のプレッシャーをはねのけてグランプリに輝いた
【写真】「STAFF OF THE YEAR 2023」のステージ上で接客を実演する仲さん。数々のプレッシャーをはねのけてグランプリに輝いた【写真提供:「STAFF OF THE YEAR 2023」】


ーーそもそも話すことは得意だったんですか?
【仲希望】実は得意ではないんです。周囲からは「何を言ってるかわからない」と言われるほどでしたから(笑)。スピーチは、「このスピーチでいこうと思う」っていう内容を、周囲に何度も何度もチェックしてもらい完成させたんです。

ーーその過程で、店舗のスタッフや本社の方々のサポートもあったんですか?
【仲希望】はい、会社全体の支援を受けました。自分が思う自分と他人が見る自分には大きな違いがあったんです。ですから、「こうじゃないと思うよ、大切にしていることは」と、そのギャップを埋めるために多くのアドバイスをもらいました。

ーーそのときに得たアドバイスは、今も役立っていますか?
【仲希望】自分ではそう思っていませんが、今では「人前で堂々と話せる」と言われるようになりました。本当は得意ではないのに、そう言われることが増えましたね。社長からは「本番に強い」と評価されています。話すことは苦手でも、大事な場面では力を発揮できるようになったのかもしれません。

「人前で堂々と話せる」と言われることが多くなったという仲さん。社長からは「本番に強い」と評価されているそう
「人前で堂々と話せる」と言われることが多くなったという仲さん。社長からは「本番に強い」と評価されているそう【撮影=オオノマコト】


ーー最終審査のステージは、普通なら立っているだけでも緊張すると思いますが、スピーチは緊張しませんでしたか?
【仲希望】緊張より、やらないといけないという気持ちが大きかったです。今後そういう場面に出くわしたら、そう考えるようにしようと思います。

ーーグランプリ受賞後は、お客様からの認識は変わりましたか?
【仲希望】特に変わりはないと思っていますが、ご存知の方からはお声をかけていただけることもあります。それよりも社内での変化が大きいです。特に、昨年(2023年)10月からDXセールスマスターという役割が増えて、その責任感が増しています。

常にトップを目指す!仲希望が語るDXセールスマスターの心構え

ーーDXセールスマスターの役割について教えてください。
【仲希望】オンラインストアでスタイリングの投稿をして、その実績を積み重ねていく役割です。貢献度が高い人が選ばれる制度で、会社に対する貢献意識を強く持つことが求められます。だから、より会社に貢献しなければという気持ちが強くなりました。

ユナイテッドアローズのオンラインストアでは、約2200人のスタッフがスタイリングを投稿しているそう。今回は、その中で実績を残したトップ3がDXセールスマスターに認定された
ユナイテッドアローズのオンラインストアでは、約2200人のスタッフがスタイリングを投稿しているそう。今回は、その中で実績を残したトップ3がDXセールスマスターに認定された【撮影=オオノマコト】


ーーDXセールスマスターは全体で何名ほどいるんですか?
【仲希望】スタイリングを行っているのは約2200人いますが、今回はその中のトップ3がDXセールスマスターに任命されました。必ずしも3名のみが認定されるわけではなく、今後に向けて人数拡大案もあります。

ーーその選ばれた3人のうちのトップが仲さんなんですね。
【仲希望】そうですね。おかげさまで目標が達成できています。

ーーDXセールスマスターになるにあたって、何か特別な心構えはありましたか?
【仲希望】2つあって、ひとつは、自分自身の中で、去年の実績は超えたいと思っています。もうひとつは、今までどおり、スタイリング実績で会社に貢献することです。

「去年の実績を超えたい」という強い意志が仲さんの原動力でもある
「去年の実績を超えたい」という強い意志が仲さんの原動力でもある【撮影=オオノマコト】


ーー1日にどれくらいの投稿をしていますか?
【仲希望】グランプリを取る前は、だいたい5〜10件くらい投稿していました。季節によっても変わるんですよ。夏は1日に10スタイルほど、冬は着るものが多くなるため5スタイルくらいになります。

ーー今も投稿数は変わらないですか?
【仲希望】他のDX業務が増えたので、投稿枚数は減りました。ですが、変わらず朝早くお店に来て、開店前に撮影しています。

ーー基本的に撮影もご自身で行われるのですね。
【仲希望】はい、そうですね。ほかの人にお願いできればいいのですが、その人の時間を奪ってしまうことになるので、なかなか難しいです。でも、PR活動に興味を持っている後輩が増えているので、興味のある人には撮影をお願いしてみることもあります。

ーー投稿を始めてからどれくらいになりますか?
【仲希望】コロナが始まったころなので、3年くらい経つと思います。外出制限が解除されてお店が再開されたとき、お客さんが減ってしまって。だからデジタルに力を入れようと店長に強く勧められました。

ーーそのとき、どう思いましたか?
【仲希望】最初は「無理かもしれない」と思って断りました。やるならきちんとやりたいと思っていましたし、無理ならやらないほうがいいと。

ーーでも、最終的には挑戦することにしたんですよね?その決断を下した理由は何ですか?
【仲希望】単純に「仕事だから」という理由です(笑)。

ーーなるほど、仕事だからと気持ちを切り替えたわけですね。
【仲希望】はい、「1位を目指してほしい」と言われたので、それを達成するためにはどうしたらいいかを考えました。

「1位をとってほしい」と言われた仲さんは、実現させるためにどうするのが最善か、だいぶ悩んだそう
「1位をとってほしい」と言われた仲さんは、実現させるためにどうするのが最善か、だいぶ悩んだそう【撮影=オオノマコト】


ーー達成するための方法として何を考えましたか?
【仲希望】とにかく投稿数を増やすことが必須だと思いました。最初は人に撮影を頼んでいましたが、当時は、店内でスタイリング写真を撮影することが、まだ浸透していなかったので、撮影時間を確保するのが難しかったんです。そこで、朝早くから三脚を使って自分で撮るように変えました。そうすることで、自分のペースで効率よく進められるようになったんです。

ーー何時ごろから始めているんですか?
【仲希望】早いときは7時半ごろから撮影していましたが、最近は撮影のための時間を確保できるようになったので、8時や8時半から始めることが多くなりました。

仲さんが活動する姿を見て、オンラインを通じたスタイリングに興味を持ってくれる後輩が増えたという
仲さんが活動する姿を見て、オンラインを通じたスタイリングに興味を持ってくれる後輩が増えたという【撮影=オオノマコト】


ーー会社の理解も深まり、撮影時間が増えたんですね。
【仲希望】ええ、そうですね。以前はオープン準備が9時からで、それまでに終わらせなければならなかったので、早朝から駆けつけなければなりませんでした。今では9時45分まで時間をいただけるようになりました。

ーーいつごろから変わったんですか?
【仲希望】昨年の4月からです。2023年の2月に、DXの実績で1位になって表彰されたんですね。それをきっかけに店長が、「実績を出せるメンバーには適切な時間を与えるべきだ」と考えてくれて、その後時間を確保してもらえるようになりました。

SNS世代のスタイリング。ユナイテッドアローズのトレンドセッターたちの内面とは?

ーースタッフの中には、仲さんのように自分の写真をSNSにアップしたいと思う人が増えているのではないでしょうか?
【仲希望】新宿店の若いスタッフの間では、特に1、2年目のメンバーにその傾向が強いですね。以前は、デジタルに力を入れていなかったので、中堅スタッフにはなじみが薄いです。でも、コロナ禍をきっかけにSNSの重要性が高まり、そうした環境のなかで入社してきた新入社員は、特にSNSを通じて働くことに興味を持つ人が多いようです。

ーー実店舗でのフィッティングのような経験を、オンラインでも提供しようとする際に、何か特別な工夫をしていますか?
【仲希望】実際に若いスタッフたちからスタイリング投稿をしたいという声は多いのですが、店長は「まずは店頭の接客から」と言っています。直接お客様と接してその声や悩みを聞くことで、スタイリングの幅が広がると考えているんですね。実際に、そうやって学んだことを活かして、特定の色の組み合わせや、特定の体型にフィットする着丈など、お客様の具体的な悩みに対して、わかりやすいスタイリングを写真を通して伝えられるように努めています。たとえば、お客様から「この色とこの色は合いますか?」という質問があったときには、その色同士の組み合わせを実際にスタイリングして、写真に撮ることもあります。実際にそのような質問がなくても、どういった悩みを持っているお客様がいるかを考えて、積極的に提案するようにしています。

仲さんは、常に、着る人がどういう人か?、どういったことを望んでいるのか?と考えながら、コーディネートを完成させていく
仲さんは、常に、着る人がどういう人か?、どういったことを望んでいるのか?と考えながら、コーディネートを完成させていく【撮影=オオノマコト】


ーーなるほど。やっぱりすぐにはできない感じなんですね。
【仲希望】やらないといけないことがたくさんあるので、やりたいことがすぐにできるとは言い切れません。適材適所やタイミング、優先順位があるので。

ーー販売員として成功するために最も重要な要素は何だと思いますか?
【仲希望】洋服が好き、人が好きであれば続けていけると思っています。それに加えて体力も必要です。

ーースタイリングのアイデアはどのようにして見つけますか?何か特別なコツがあれば教えてください。
【仲希望】自分をよく見せたいという思いからアイデアが生まれます。かわいいと思う気持ちを楽しむことかなと思っています。自分自身の体型を活かしたり、隠したりすることを考えたり。コツは、自分もそうですけれど、“かわいくなりたい”っていう、女性の誰もが思っていることを楽しむことではないでしょうか。

ーースタイリングを考える際に、トレンドをどのように取り入れていますか?
【仲希望】仕事柄、トレンドは無意識のうちに勉強しています。毎日新しい服が入荷され、流行の色やスタイルに触れる機会が多い職種です。会社が提供するトレンドに関する勉強会もあり、そこから学んだりもしています。ですから、それに合わせた洋服が入荷されると、答え合わせのように「これが今年っぽいのかな?」と感じています。でも、その年のトレンドをそのまま取り入れるのではなく、自分やお客様一人ひとりに合ったアレンジを考えることが大切ですね。自分なりに考えながら、そのシーズンをかわいく楽しむための工夫をしています。

トレンドを自分なりに解釈して、仲さんのフィルターを通したスタイルを提案している
トレンドを自分なりに解釈して、仲さんのフィルターを通したスタイルを提案している【撮影=オオノマコト】


ーーSNSで過去に発信したコーディネートを振り返って思うことはありますか?
【仲希望】振り返ってみると、「あのときはこんな感じだったな」と思い出すことはありますね。たまに「この髪型、ちょっと変だったな」と思うことも(笑)。その程度です。

ーー同じように時短勤務で働く人たちにとって、仲さんの存在は励みや目標になっていると思います。そんな方に向けてメッセージをお願いします。
【仲希望】自分が誰かの目標になっていると思ったことはないのですが、「STAFF OF THE YEAR 2023」の大会でたくさんの応援を受けたことは本当に励まされました。感謝の気持ちでいっぱいです。そういった感謝の気持ちを持つことは、やっぱりすごく大切だと感じています。

ーーありがとうございました。

ユナイテッドアローズ 新宿店での勤務実績、「STAFF OF THE YEAR 2023」のグランプリ獲得、DXセールスマスターとしての活躍。仲さんは、これらの偉業を成し遂げながら、3人の子どもを持つ母として時短勤務をこなしている。自己PRスピーチで見せた逆転勝ち、そして周囲からの豊富な支援と自らの努力により「人前で堂々と話せる」と評価されるようになった彼女は、働く母親や時短勤務のスタッフにとって目標となる存在となった。仲さんが日々実践する「自分を超え続ける努力」と「社内外のサポートへの感謝」は、職業を問わず誰もが見習わねばならない、仕事に対する姿勢のように感じる。

取材・文=北村康行、撮影=オオノマコト