1974年の発売から半世紀もの間愛され続ける、北海道ではおなじみのお菓子「ノースマン」。1921年(大正10年)創業の老舗菓子メーカー・札幌千秋庵が手掛けるこの銘菓を、2022年10月にリブランディングし、誕生したのが「生ノースマン」だ。発売するや否や、大きな宣伝をしていないにも関わらず開店前から商品を求めて行列ができるなど反響を呼び、超人気商品となった生ノースマン。その開発にいたる背景や今後について、担当者に話を聞いた。

薄くしっとりとしたパイ生地にあんこと生クリーム。和洋折衷の新銘菓だ
薄くしっとりとしたパイ生地にあんこと生クリーム。和洋折衷の新銘菓だ【画像提供=千秋庵製菓】


ーー「生ノースマン」は2022年に発売されましたが、同時にパッケージをリニューアルした「ノースマン」も含めた販売個数はどのくらいになりましたか?

【広報担当者】「生ノースマン」とパッケージデザインをリニューアルした「ノースマン」の販売個数は、発売から半年間で約198万個になりました。また、生ノースマンは発売から1年間で約120万個を販売しています。生ノースマンの人気と同様に、パッケージをリニューアルしたノースマンも好調に推移しており、販売個数ベースではパッケージをリニューアルした2022年10月からの1年間(2022年10月~2023年9月)の期間の前年同期比で27%増になっております。

【広報担当者】ノースマンと生ノースマンのパッケージには、北海道を代表するグラフィックデザイナーの栗谷川健一氏が手掛けた既存のロゴをそのまま継承しています。「北の大地に生きる人々のたくましい力を表す」という発売当初のコンセプトに立ち返り、北海道らしさを表現するモチーフとして、七光星マークや方角を示す十字の方位マークをレイアウトしています。この新しいパッケージデザインもお客様に受け入れていただけたのかなと感じています。

【写真】オリジナルノースマンもパッケージをリニューアル
【写真】オリジナルノースマンもパッケージをリニューアル【画像提供=千秋庵製菓】


ーー歴史のある看板商品「ノースマン」に手を加えるのは思い切った施策だったかと思います。リブランディングした理由について教えてください。

【広報担当者】これまでの札幌千秋庵の購買層の中心は60代以上の方々が中心で「時代に合わせた商品のアップデート」と「顧客の若返り」が進んでいないことが課題でした。そこで、2022年1月、きのとやグループ(現:北海道コンフェクトグループ)の商品企画会社である株式会社COCとの業務提携をきっかけに、新商品の開発をスタートいたしました。そのなかでノースマンは、あんことパイがベースとなった商品なので、何かを加えて派生商品が作りやすく、まだまだ新しい商品が作れるはずと考え、ノースマンをリブランディングすることに決めました。

2022年に社長に就任した中西克彦氏は小樽生まれ、札幌育ちでノースマンにも思い入れが
2022年に社長に就任した中西克彦氏は小樽生まれ、札幌育ちでノースマンにも思い入れが【画像提供=千秋庵製菓】


ーーパイ生地の中にあんこと生クリームが入ったインパクトのある見た目も特徴的ですね。

【広報担当者】「ノースマンのパイ生地とあんこは間違いなく生クリームとの相性がいい」と、生ノースマンのアイデアは自然と生まれました。北海道らしさと、和洋折衷のお菓子を得意とする札幌千秋庵らしさといった点も生クリームを採用した要因のひとつです。しかし、生ノースマンの開発は決して簡単なものではありませんでした。たとえば、従来のパイ生地だと生クリームに含まれる水分が移行してノースマン特有のパイ生地食感が損なわれてしまうため、パイ生地を作るための原材料の配合を調整してパイ生地の水分に耐えられるように改良しました。ほかにもノースマンのパイ生地とあんこにベストマッチする生クリームの配合を試行錯誤するなど、約8カ月の開発期間を経て完成にいたっています。

ーー「生ノースマン」は狙い通りの購買層をゲットできましたか?

【広報担当者】生ノースマンの発売以降、札幌千秋庵の商品から離れていた方々や、これまでノースマンを知らなかった若い年齢層の方々にも商品を手に取っていただけるようになったと感じています。また生ノースマンを各メディアに取り上げていただける機会が増えたこともあり、北海道内だけではなく、全国からのお問い合せも増えました。

ーー販売開始以来、大変な反響ですが、人気を獲得するための戦略などはあったのでしょうか?

【広報担当者】ヒットの予感のようなものは感じていましたが、正直なところ、想像以上の反響でした。発売初日はメディアでのご紹介などがなかったにも関わらず、開店と同時に多くのお客様が生ノースマンを求めて店舗にご来店いただきました。その後、連日の行列とさまざまなメディアで取り上げていただいたおかげで、発売から1年以上が経過した今も、大丸札幌店、新千歳空港内の販売店とも、たくさんのお客様にご購入いただいております。

初のノースマン専門店となるノースマン大丸札幌店
初のノースマン専門店となるノースマン大丸札幌店【画像提供=千秋庵製菓】


ーー「生ノースマン」は販売店が道内に限られています。今後、北海道に行かなくても購入できるようになるなど、販路拡大の予定はありますか?

【広報担当者】生ノースマンは製造数に限りがあることから、現在は大丸札幌店と新千歳空港内の直営店と土産店の合計4店舗(2024年1月31日現在)でのみ販売しています。また「北海道でしか買うことができない」という価値を大切にしていきたいと考えておりますので、オンラインショップでの販売も行っておりません。生ノースマンの発売以降、大変ありがたいことにたくさんのお引き合いをいただきますが、現在は北海道内のごく一部での販売にこだわっています。一方で「北海道に行かなくても購入する方法」としては、札幌市のふるさと納税へのお申し込みという方法がございます。これは当社が大正10年の創業時から100年以上お世話になっている地元 札幌市への恩返しとして行っています。

ーー今後、第2のノースマンとして、リブランディングを予定しているお菓子や、2024年に展開予定の新施策があれば教えてください。

【広報担当者】札幌千秋庵には100年以上の長い歴史があります。この歴史の中にはさまざまなお菓子がありますが、この「過去に販売していたお菓子を現代のニーズに合わせてアップデートする」という手法は札幌千秋庵ならではの強みだと考えています。もちろん新しい商品を開発することも積極的に行いますが、この復活型の商品開発は今後も大切にしていきたいです。

発売1年で120万個も売り上げ、老舗の業績に大きなインパクトをもたらした生ノースマン。小麦粉、あんこ、バター、生クリームと、北海道銘菓である意味が存分に感じられる素材を用い、大切に開発された新たなるスター商品は、懐かしくも新しい味として早くも道民に定着した。ノースマンをベースとした次なるヒット商品の開発にも、大いに期待したい。