「相続」というと、親がまだまだ元気な若い人からすると「ずっと先のこと」と思っているだろう。しかし、ファイナンシャルプランナーの横山光昭さんは、「不慮の事故などによって親やパートナーが急に亡くなり、困ってしまう人も少なくない」と現実を語る。相続はどうやって進めるのか、将来のためにも今から学んでおいて損はない。
想像以上にやることだらけの相続手続き
あまり考えたくはないことかもしれませんが、親やパートナーにもいつか死が訪れます。相続についての知識がないと、そのときがきて慌てふためいてしまうことにもなりかねません。
ある金融機関が行った相続に関するアンケートによると、多くの人が大変さを感じた点として、「手続きをする窓口がわからない」「手続き方法がわからない」「相続人同士の話し合いが難航した」「相続税を納めるまでの時間が足りなかった」といった回答がありました。そうならないように、若いうちから相続について少しずつでも学んでおいてほしいと思います。
まずは、相続手続きのおおまかな流れを知りましょう。以下に相続手続きのスケジュールを示しておきますので、流れだけでもつかんでください。
親や配偶者などが亡くなったら、まずは死亡届を市役所や区役所、町村役場に提出し、遺言があるかどうかを確認します。
遺言があった場合には、その遺言が正当なものだとする検認手続きを行い、内容に従って遺言執行手続きを行います。遺言がなかった場合には相続人や相続財産を確定したうえで遺産分割協議を行って、遺産分割協議書というものを作成します。
そして、どちらのケースでも相続税が発生する場合は10カ月以内に税務署に申告をして相続手続きは終了となります。
もちろん上の図にあるように、実際にやるべきことはもっとたくさんありますから、仕事などで時間がとれないという場合には弁護士に手続きを代行してもらうのも手です。
相続税額はどうやって決まる?
今、「相続税が発生する場合」とお伝えしました。そう、相続税は誰にでもかかるものではありません。実は、相続の多くは相続税のかからないケースなのです。
相続税には基礎控除という大きな非課税枠があります。相続財産の課税価格が基礎控除以下であれば申告は不要となります。その肝心の基礎控額除は、次の計算式で求められます。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人とは、民法で定められた、亡くなった被相続人の財産を相続できる人のことであり、配偶者や親、子ども、祖父母、兄弟などです。
たとえば法定相続人が3人いた場合には、基礎控除額は、600万×3人=1800万円に3000万円を加えた4800万円となります。被相続人の相続財産が4800万円以下であれば相続税はかからないということです。
逆に、相続税がかかるケースも見てみましょう。たとえば、亡くなった夫の遺産総額が2億円で、妻と子どもふたりの計3人で遺産分割を行うとします。相続税の対象となる課税遺産総額は、2億円から「3000万円+600万円×3人」の4800万円を引いた1億5200万円となります。
続いて、この金額を相続割合に従って分割します。配偶者が2分の1、子どもが4分の1とされていますから、妻の相続財産は7600万円、子どもはそれぞれ3800万円となります。
そして相続税には、相続財産が大きくなるほど税率が高くなる、いわゆる累進課税が採用されていて、また、相続財産の金額によって控除額も定められています。それに従うと、妻の相続税率は30%(控除額700万円)、子どもは20%(控除額200万円)となります。その結果、妻の相続税は1580万円、子どもはそれぞれ560万円となりました。
でも、これで終わりではありません。さらに、その相続税の総額である2700万円を、先にも出てきた相続割合で分割するのです。妻が2分の1ですから1350万円、子どもは4分の1でそれぞれ675万円となります。
ただ、配偶者には「1億6000万円まで相続税を課さない」という税額軽減が認められていますから、妻は0円、子どもはそれぞれ675万円というのが最終的な相続税です。一読しただけではわかりにくいと思いますので、ここまで解説した流れを以下に図示しておきます。