マネー教育の遅れがたびたび指摘されていた日本でも、2022年から高校で金融教育がスタートした。そうした流れもあり、「お金のスキル」を身につける、向上させることが重視されている。しかし、日本最大級の個人向け金融教育事業を運営するABCash Technologies創業者・児玉隆洋さんは、「お金のスキルを勘違いしている人も多い」と警鐘を鳴らす。

投資のスキルは、ゴルフのドライバー?
少子高齢化やそれに伴う人口減少、あるいは最近の物価高の影響もあって、日本では経済的に明るい未来を思い描くことが難しくなっています。そして、そんななかだからこそ、「お金のスキル」を向上しなければならないともいわれます。
その考えには私も賛同します。ただ、お金のスキルというと、近年の投資ブームの影響もあってか、「投資のスキル」「儲けるスキル」というふうにとらえる人も多いようです。しかし、私が考えるお金のスキルとは、投資のスキルではありません。
お金にまつわるスキルは実に多種多様です。もちろん投資もそのひとつですが、他にも家計管理や住宅ローンのこと、税金のこと、保険のこと、相続のこと、詐欺から自分とお金を守る知識など、枚挙にいとまがありません。そして、それらをすべて学ばないと意味がないのです。
たくさん稼いでも、日々の家計管理ができていなくて毎月のように赤字を出していたら家計は破綻しますし、投資でいくら儲けても詐欺に引っかかってはどうしようもありませんよね。つまり、お金のスキルとは投資のスキルではなく、「お金全般の運転スキル」といえるのだと思います。
投資のスキルは、ゴルフでいえばドライバーです。ゴルフにおいては一番飛距離を出せる大きなクラブということもあり、「これが重要だ」というふうに多くの人が考えます。でも、18ホールすべてのティーショットでドライバーを使ったとしても、使う回数は最大で18回に過ぎません。他にも各種のアイアンやパターをきちんと使いこなせなければ、いいスコアを出すのは難しくなるのです。

「人生の目的地」から逆算して必要なお金や知識について考える
そして、そのお金のスキルを身につけるうえでは、「目的地を見失わない」ということも強く意識してほしいポイントです。みなさんは、人生のなかでどんなことをやりたいですか?人生の目的地はどこでしょう?
お金とは、「人生を豊かにするための手段」です。たくさんのお金を手に入れられれば、それだけいろいろなことが実現可能となり、人生の選択肢の幅が広がります。そのために、「なるべくたくさんのお金を手に入れたほうがいい」というふうに考えることも理解できます。
しかし、お金は「人生を豊かにする手段」ではありますが、「人生を豊かにする手段にすぎない」ともいえます。「なるべくたくさんのお金を手に入れること」ばかりに意識が向かって、そのために多くの時間や労力を使った結果、本来やりたかったことができなくなった、人生の目的地に到達できなかったとしたら本末転倒ですよね。
人生の目的地は人それぞれです。自分の人生の目的地を明確にしてしっかりと見つめ、そこへと到達するためにどれくらいのお金が必要なのか、そのお金を手に入れるためにはどういった知識が必要でなにをすべきなのか。そのように、人生の目的地から逆算する考え方こそが重要なのだと思います。
そうしなければ、お金に支配されてしまいます。「際限なくお金が欲しい」というふうに思考や行動が縛られ、人生の目的地に達することが難しくなります。