短期投資は「利確ライン」と「損切りライン」を見定め、トータルで勝つ
私の場合、短期投資で重視するのは、各企業の四半期ごとの決算です。普段からさまざまな企業の決算をチェックし、そのなかで好業績を挙げた企業に注目しています。さらに、ガイダンス(今後の見通し)を読んで、業績のさらなる向上が見通せる企業に期待し、何社かに分散して投資を行います。ただし、四半期ごとの決算が買いの決め手である以上、保有するのも3カ月以内のケースがほとんどです。
こうして選んだ企業のなかには、期待に外れて3カ月以内に業績を落とす企業もあります。私はバフェットのようなレジェンド投資家ではないので、勝率100%などということは、まずありません(もちろん、バフェットですら勝率100%ではありません)。
そのため、短期投資ではトータルで勝てるよう、「利確ライン」「損切りライン」の設定が何より大切です。まず、「損切りライン」から先に設定します。
<利確ラインと損切りライン>
●利益確定(利確)ライン:株価が上昇した場合の、売却して利益を確定させる目安
●損切りライン:株価が下落した場合の、売却してマイナスの拡大を食い止める目安
ラインを定めるうえで念頭に置かなければならないのは、株式相場全体の流れです。以下の図は、十数年から数十年かけて巡る、「4つの相場サイクル」です。投資家にとって当然の知識ですが、ビギナーはほとんど知らないポイントなので、まずはここをしっかり押さえましょう。
<4つの相場サイクル>
❶金融相場:金利が下がり、株価は上がる
不景気で企業業績・株価が悪化しているため、中央銀行が金融緩和を行い、利下げによって景気回復を図り、株価を上げていく「不景気の株高」の段階。
❷業績相場:金利が低いまま、さらに株価は上がる
金融緩和により企業の業績が回復しはじめた段階。
❸逆金融相場:金利が上がり、株価は下がる
景気が拡大しすぎてインフレにならないよう、利上げによって引き締める段階。
❹逆業績相場:金利が高いまま、さらに株価が下がる
利上げによって景気が下降し、株価が一段と下がる。
相場の流れが「金融相場」から「業績相場」にかけて変化する、好景気へと向かっている段階であれば、株価は上がり調子ですから、利確ラインは高めにする一方、損切りラインも回復を見越して強気で設定できます。私は株価が30%下がったら「暴落」としていますが、相場が好景気に向かい、その企業に成長要因があるなら、それも許容できるかもしれません。
しかし、現在(2023年6月現在)の相場環境は「逆金融相場」で、株式市場は停滞している状態です。30%の暴落など許容できるはずもありません。半分のマイナス15%程度で損切りラインに設定するべきでしょう。
さらに予測の精度を上げるため、その企業の過去の値動きのパターンをチェックします。個別銘柄株の反発や急落の値動きは、一定のパターンを繰り返す傾向があります。以前も15%を超えて下落し続ける実績があるなら15%ですぐ損切りを、下がるとすぐ下げ幅を半分戻すパターンがある銘柄ならマイナス15%を損切りラインに設定しすぐには売らず、反発する可能性を見越して売却するストーリーを想定します。
「利確ライン」が達成されたら手仕舞いをする分別を持つ
一方、利確ラインは、損切りラインがあって初めて想定できます。損切りラインを15%としたのなら、利確ラインも最低で15%以上でないと、不利なトレードになってしまいます。その銘柄の過去の値動きパターンを見て15%の上昇も期待できないなら、短期投資に向いた銘柄ではないでしょう。
リスクをともなう短期投資では、可能なら30%程度の利確を求めたいところですが、停滞した逆金融相場を踏まえれば、20〜25%の利確で十分な成功でしょう。ただし、相場や経済状況に関係なくその企業がとにかくいい業績を挙げ、ガイダンスも期待できたりするなら、より利確ラインを高める可能性はあります。
以上が、私が米国の個別銘柄株を売買する際の判断材料となります。これらのプロセスを経て、「買う必要はないな」と思ったのなら、誰がなにを言おうと買いません。バフェットの言うとおり、「投資に見送り三振はない」のですから、勝つ自信を持てないリスクを背負う必要はないのです。
もうひとつ注意点があります。仮に25%の利確ラインに達した株を売却したあとも、30%、40%と株価が続伸する場合があります。大事なことは、このときにきっちり手仕舞いをすること。むやみに買い直して追うべきではないでしょう。なぜなら、「ファンダメンタルズから自分で考えた計画が、きっちり遂行されたこと」こそが重要だからです。
投資は経験を学びとして蓄積し、見直しや再現によって勝つ確率を高めていくものですから、相場の動きに踊らされて、不用意なことはするべきではありません。株価がみなさんの予測を上回る伸びを見せたなら、相場の流れが変わっていたのか、決算が思った以上に市場の評価を得ていたのか、あるいは政策が絡んでいたのかなど、その要因を探り、経験を次の予測に活かしましょう。その知見が増すにつれ、短期投資におけるあなたの読みは、さらに冴えたものとなっていきます。
構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム)、取材・文=吉田大悟