
株を不景気の時期に割安で買い、好景気で高く売る。それが典型的な「バリュー投資」の売買だが、そのためには経済状況や相場の動向を正しく把握する知見とセンスが欠かせない。この記事では、「バリュー投資の天才」と称されたアメリカの著名投資家、ジョン・テンプルトンの格言から、バリュー投資の舞台となる「強気相場」と「4つの相場サイクル」について、投資系YouTuberとして人気を博すロジャーパパさんに伝授してもらった。
バリュー投資の天才、ジョン・テンプルトンとは?
「強気相場は、悲観のなかに生まれ、懐疑のなかに育ち、楽観のなかで成熟し、幸福感のなかで消えていく」
——ジョン・テンプルトン
この格言を残した、ジョン・テンプルトンというアメリカの投資家を知っているでしょうか。テンプルトンは、類い稀な「バリュー投資の天才」として知られています。
バリュー投資とは、簡単にいえば、企業の利益水準や資産価値に比べて株価が割安になっている銘柄をねらって買い付ける投資手法です。「それってあたりまえの買い方じゃないの?」と思うかもしれませんね。確かに、そのとおりです。対になる投資手法として、(現在の割安感よりも)企業の成長性に着目して投資する「グロース投資」があるため、区別されています。
テンプルトンは、1929年以降の世界大恐慌の時代に暴落した企業の株を購入し、第二次世界大戦を経てアメリカ経済が大きく回復・成長したことで莫大な利益を獲得するという、長期のバリュー投資における見本をやってのけた人物です。
相場の上昇が続く相場のことを「強気相場」といいますが、バリュー投資は強気相場の起点で割安に買い、終点のもっとも高値になった時点で売ることが理想です。格言に照らしていえば、大恐慌などの不景気では、株式相場がまだまだ下がることを危惧して、市場は「悲観」の状況になります。それでもテンプルトンは強気相場の起点となるタイミングを見抜いて株を買い、経済が不安定で「懐疑」的な1930年代を超え、好景気に転じた戦後の「楽観」まで辛抱強く保有し続けたことで高いリターンを得たということです。
格言の「幸福感のなかで消えていく」とは、相場が高止まりする「楽観」的なバブルがすでに終焉に向かっていることに多くの人が気づかないまま、バブル崩壊、あるいは不景気に転じ、相場は再び「悲観」に向かって下がりはじめることを表しています。
実は、テンプルトンは1960年代の高度経済成長期から日本にも投資を行っており、バブル最盛期の1987年に株を売却しています。その後の日本経済は、バブル崩壊によって「幸福感のなかで消えて」いったことは誰もが知るとおりです。まさに格言のとおり、多くの投資家や経営者が「まだバブルは続く」と楽観と幸福感に浸り続けた結果、株も不動産も売りどきを逃し、致命的な損害を被ってしまいました。
テンプルトンの格言を「4つの相場サイクル」で見てみよう
テンプルトンの格言にある相場の流れは、以下の「4つの相場サイクル」で表すことができます。株式相場は十数年から数十年かけて、このサイクルを巡るのです。

<4つの相場サイクル>
❶金融相場:金利が下がり、株価は上がる
不景気で企業業績・株価が悪化しているため、中央銀行が金融緩和を行い、利下げによって景気回復を図り、株価を上げていく「不景気の株高」の段階。
❷業績相場:金利が低いまま、さらに株価は上がる
金融緩和により企業の業績が回復しはじめた段階。
❸逆金融相場:金利が上がり、株価は下がる
景気が拡大しすぎてインフレにならないよう、利上げによって引き締める段階。
❹逆業績相場:金利が高いまま、さらに株価が下がる
利上げによって景気が下降し、株価が一段と下がる。
テンプルトンの格言にある強気相場は、左下の不景気と株安によって悲観に陥った「逆業績相場」から、金融緩和による利下げによって株価を上昇させる「金融相場」に移る段階を起点とします。悲観的な経済ニュースが連日報道され、株価は低迷し、世論も市場も沈んだ状態のとき、「逆張り」のような買いを行ったのがテンプルトンなのです。
やがて「景気も底を打ったかな」と世論が持ち直した段階で、中央銀行による利下げや資金投入などの景気対策が行われ、機関投資家が先行して動くことで株価が上がり、次いで消費動向や企業業績として経済そのものが持ち直しはじめます。しばらくは景気回復に市場は懐疑的で株式チャートも不安定ですが、少しずつ好景気へと向かいはじめるのです。
そして、株価や景気の上昇が一定期間続くことで市場の警戒感が薄れ、株高と好景気を実感して楽観に至る「業績相場」に突入します。この段階で、株価は天井が近づくため、株の売りどきを迎えます。
この頃には株価のチャートもわかりやすく上昇を示すため、一般投資家たちも強気になり、企業の経済活動や消費も過熱していきます。そのままでは、インフレやバブル崩壊に陥るため、政府は金融引き締めによって利上げを行って経済を落ち着かせ、株価が低下することで相場サイクルが1周します。バリュー投資としては、ここまでのどのタイミングで売却したかがポイントとなります。