「アメリカのくしゃみで、日本が風邪をひく」。不思議な株式相場のセオリー

2023/04/27 17:30 | 更新 2023/04/29 11:15
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投資系YouTuber・ロジャーパパの「相場の格言から学ぶ株式投資」

テレビのニュースでよく耳にする、「ニューヨーク株式市場の影響を受け、今日の東京市場の相場は……」というお決まりのナレーション。しかし、「なぜ、日本の株式相場がアメリカの影響を受けるのか?」については、経済や相場について学んでいないと見えてはこないだろう。そこで、投資系YouTuberとして米国株投資のノウハウを発信するロジャーパパさんに、アメリカが与える世界の相場への影響と、その影響を踏まえた株式投資のノウハウをわかりやすく解説してもらった。


世界の株式相場は、アメリカが先頭に立ってまわっている

今となっては誰がいったかは不明ですが、昔から投資の世界にはこんな格言があります。

「アメリカがくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」

もともとは、株式投資の言葉ではなかったようです。20世紀、戦後まもなくの日本経済は対米輸出に依存していました。だから、アメリカの景気が悪くなると消費が減退し、需要減の打撃を日本経済がストレートに受けていた、そんな時代に生まれた言葉だといわれています。

やがて日米間の格差が埋まり、対米輸出への依存はなくなりましたが、株式投資の世界では依然として「アメリカがくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」傾向にあります。テレビの株式ニュースでもよく聞くでしょう。「ニューヨーク株式市場の影響を受け、日経平均株価は一時、◯◯円以上値下がりし……」というフレーズです。

ニューヨーク証券取引所の取引時間は、日本時間でいうと23:30〜翌6:00(夏時間22:30〜翌5:00)ですから、米国市場に変化があれば、日本市場は午前から値動きします。でも、これはタイミングの差はあれ、日本でもヨーロッパでも世界的に同じです。

大前提として、世界の経済の中心はアメリカなのです。日付変更線の位置からすればアメリカは世界のなかでも「1日が遅く始まる国」ですが、アメリカ経済が強過ぎるがゆえに、アメリカの株価(具体的には、ダウ平均株価、S&P500などの株式指標)が世界で一番先に動く株価指標として捉えられ、時差によってその影響がヨーロッパ、アジアへとつながっていきます。つまり、アメリカがくしゃみ(相場の下落)をすれば、日本に限らず世界中がくしゃみや風邪を起こすのです。

世界経済に影響が波及する要因は「為替」「業績」「金利」

なぜ、アメリカの株価が世界中に影響するかといえば、世界一の経済大国だからです。主な要因として、アメリカの「為替」「企業業績」「金利」が世界経済に影響を与えます。

まず為替ですが、世界の基軸通貨はドルであり、例えば原油もドルで取引されています。そのため、米国経済の変動でドル相場が動けば、少なくとも原油価格によって世界各国の経済にもなんらかの影響が出ますし、実際にはエネルギーや食料など、さまざまな取引がドル建てで行われています。

また、ニューヨーク市場の上場企業のほとんどはグローバル企業です。アメリカの代表的な経済指標「S&P500」は、アメリカを代表する約500社の時価総額が基準となっていますが、この約500社の売上構成比の約30%はアメリカ国外の事業です。世界中に支社や子会社を持つグローバル企業では、アメリカ本社の事業が不振なら、各国の事業会社も影響を受けます。日本でも多くのグローバル企業の日本法人が東京証券取引所に上場していますから、海外の影響は無縁ではありません。

まさに時事ネタですが、2023年3月以降、アマゾンやメタ(旧Facebook)、マイクロソフトなどテック大手で各社1万人以上の規模のレイオフが発表されると、各社の日本法人でも多くの従業員がレイオフの対象となりました。S&P500を構成する業種別の11セクターのなかでも、アップルやマイクロソフトを中心とするテック事業のセクターに属する大型企業は、売上構成比の海外比率が約50%と高く、より大きなインパクトを世界に与えています。

そして最後は金利です。利上げ(各国の中央銀行が行う政策金利の引き上げ)は主に、景気上昇による市場の過熱を抑え、インフレを抑制するために行われます。利上げを行うと融資を受けている企業のコストが上がり、業績に影響するため株価は下がりやすくなります。

また、利上げを行うと、金利の高い国に海外からお金が集まるため、通貨高になる傾向があります。例えば、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が利上げを行えば、ドル高が進むということ。アメリカの利上げは為替と企業業績に影響を与え、世界経済にも大きな影響を及ぼします。

ただし、利上げは「株価が下がりやすい」のは確かですが、その影響は一概にいえません。相場には4つのサイクルがあり、そのサイクル次第で金利と株価の関係性は変わるからです。

株式投資の必須知識「4つの相場サイクル」とは?

4つの相場サイクル
4つの相場サイクル

相場は、「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」という4つのフェーズへと順に変化し、サイクルし続けています。

<4つの相場サイクル>
❶金融相場:金利が下がり、株価は上がる
不景気で企業業績・株価が悪化しているため、中央銀行が金融緩和を行い、利下げによって景気回復を図り、株価を上げていく「不景気の株高」の段階。

❷業績相場:金利が低いまま、さらに株価は上がる
金融緩和により企業の業績が回復しはじめた段階。

❸逆金融相場:金利が上がり、株価は下がる
景気が拡大しすぎてインフレにならないよう、利上げによって引き締める段階。

❹逆業績相場:金利が高いまま、さらに株価が下がる
利上げによって景気が下降し、株価が一段と下がる。

基本的に株式相場はこの4つのサイクルのどこかにあり、株価の値動きを判断するうえでは、サイクルの見極めが重要です。しかし、このサイクルの転換に明確な基準があるわけではなく、見極めは困難です。どんなに優秀なアナリストでも、相場の現在地はあくまで「予測」に過ぎません。

例えば現在(2023年3月時点)、アメリカはインフレを抑えるため2022年にFRBが利上げを行ったので、シンプルに考えれば「逆金融相場」にあると予測できます。セオリーであれば株価は下がるはずですが、アメリカの景気が強過ぎて、いまだ株価は驚くほど下がっていません。住宅ローンの例では、利上げにより年利6%にもなっているのに需要は高く、不動産価格は高値で推移しています。よって、今後さらなる金融引き締めによる利上げと株価の下落が予測されます。

しかしながら市場では、「アメリカはすでに逆業績相場なのではないか?株価はさほど下落せず上昇するのでは?」という楽観的な見方をする投資家も多く、意見が分かれている状態なのです。2023年にアメリカ経済が「リセッション(景気の後退局面)入りするのか?」が議論されているのは、まさにこういうことなのです。

市場の変動、投資サイクルに、どう対処するべきか?

短期投資を前提に、日本の個別銘柄株で資産形成を考えている人は、国内経済だけでなく、ここまでで説明したアメリカ経済の動向と影響までを考え、「売りどき・買いどき」に頭を悩ませなければなりません。身近な企業だったり、応援したい企業だったりもあったりすると思いますが、あなたがビギナーかそれに近い投資キャリアであるなら、短期投資は市場の浮き沈みに大きく左右される投資手段であることを理解しておいたほうが賢明です。この波を乗りこなすには、日々の勉強が欠かせません。

いま、日本政府も誰もが投資に参加することを推奨するような政策を打っていますが、シビアな投資環境では、誰もが参入するのは難しいでしょう。そこで私は、多くの人が勝てる可能性が高い投資として、優良な米国インデックスファンドに長期投資することをおすすめしています。NISAやiDeCoなども活用し、毎月数万円を長期的にコツコツと積み立てていく長期投資であれば、アメリカだけでなく世界経済にいかなる景気の波が来ようと、リスクを分散して資産形成を行うことができます。

この記事のひときわ#やくにたつ
・優良な米国インデックスファンドに長期投資

構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム)、取材・文=吉田大悟

『月5万円の米国株投資で経済的自立を達成する! FIRE最強の教科書』
SBクリエイティブ(2022)
ロジャーパパ 著

【プロフィール】ロジャーパパ
GAFA企業での勤務のかたわら、2013年より本格的に米国株を中心とした株式投資をスタート。身につけた株式投資の知識を活かし、2019年末よりYouTubeチャンネル『ロジャーパパの米国株投資』を開設し、2023年3月現在、チャンネル登録者数11.2万人の人気チャンネルに成長。9年勤続したGAFA企業を退職し、2021年11月よりFIREを実現。現在は証券会社等のセミナーに登壇するほか、外資時代の人脈を活かし企業の外部取締役も勤めている。著書に『月5万円の米国株投資で経済的自立を達成する! FIRE最強の教科書』(SBクリエイティブ)がある。

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