本番以上に大切なのが「徹底的な準備」

――現在Nスタのキャスターとして番組をされる上で、意識されていることやこだわっていることについて教えてください。
【日比麻音子】報道キャスターというといわゆる才女というか、ちょっと近寄り難い雲の上の存在みたいなイメージが強いと思います。ですが、Nスタは夕方の放送ですし和やかな雰囲気なので、ファミリー感を大事にしています。そして私自身も、わからないことはわからないと素直に言って、いろいろな疑問を視聴者の皆様と一緒に考えるきっかけを作ることを、何よりも大切にしていきたいと思っています。

【日比麻音子】どうしても言葉の選び方が上から目線になったりとか、難しいことを言いたがったりしてしまう傾向にあるのが、報道番組の良さでもあり課題でもあるとずっと思っていました。そのため、自分なりにカジュアルにというか、自分が使える自分の等身大の言葉でお伝えするように気をつけていますね。

Nスタは2010年から放送している報道・情報番組。2023年で13周年を迎える
Nスタは2010年から放送している報道・情報番組。2023年で13周年を迎える【画像提供=TBSテレビ】


――キャスターとして番組に参加して、初めて感じたことなどはありますか?
【日比麻音子】そうですね。やってみてわかったことは、テレビで見えている部分は本当に一部分だということですね。やっぱり普段から積み重ねていく知識や準備という部分が、本当にすべてだと思います。氷山の一角という言葉がありますけど、テレビに出ているといういわゆる華やかなイメージの部分は本当に一部だし、逆に言えば全く見えない膨大な量の準備がなければその一角にも届かないということを、ひしひしと実感しましたね。

――番組に向けてどのような準備をされるのでしょうか。
【日比麻音子】新聞を全紙読んだり、各チャンネルの報道の特色を見たりしますね。「この局ではどうやって伝えているのだろう」とか、「どういうプレゼンテーションをして、どういう角度で取り上げているのだろう」といった他のメディアでの報道を、自分のオンエアじゃないときも常にチェックしています。

【日比麻音子】また、映画を見たり、美術展に行ったりしながらカルチャーに触れる機会を積極的に作り、常に最新のものにアンテナを張ることも心がけています。仕事も休みも関係なく、常にインプットはしないとオンエアに間に合わないという感じですね。そういう意味では好奇心がないと務まらない仕事かもしれません。

現在は『ひるおび』、『王様のブランチ』、『オオカミ少年』などの番組に出演中
現在は『ひるおび』、『王様のブランチ』、『オオカミ少年』などの番組に出演中【撮影=後藤巧】


番組が目指すのは「固定概念」の更新

――これまで報道番組といえば男女2人の構図がメインだったと思いますが、今回Nスタで3人体制になり、番組にどのような変化がありましたか?
【日比麻音子】井上さんもホランさんも「特に変化はない」というふうに言ってくださっているので、良かったかなと思っています。番組にメインキャスターとして加入した当初は、お2人で築いてきたNスタの間に入っていくイメージを抱いてしまい、自分なりにどうすべきかいろいろ悩む部分もありました。

【日比麻音子】そのような気持ちを素直に井上アナやホランさんに話してみると、「そうじゃなくていいんじゃない」と言っていただきました。現在は、何か新しく改革するというよりも強化するという感覚でキャスターの仕事をしています。いい意味で新しくなりすぎず、前のNスタを更新する存在になりたいという一心で取り組んでいます。

――どのように更新されたいと考えられていますか?
【日比麻音子】Nスタはもう7年ぐらい2人体制で放送している番組なので、やっぱり2人だと一定の安心感や安定感が出るというのはあると思います。一方で、私はいち視聴者として、そしていちプレゼンターとしてNスタをずっと見てきた立場です。だからこそ、視聴者目線というか、発信する側にいるとなかなか気づきにくい、もっとよくできるというポイントみたいなのはあると思うので、そのような点を客観的な目線で随時更新していくという感じですね。

趣味は映画や食べること、ビール。特技は英語、ピアノだという
趣味は映画や食べること、ビール。特技は英語、ピアノだという【撮影=後藤巧】


――これまでの2人体制というものがあったからこそ、日比さんが入ることで強化や更新ができている印象です。
【日比麻音子】そうですね。もともとあった雰囲気や空気感を崩さずに強化していきたいと思っています。もともと、私はキャスターが男女ペアである必要はないのではないかと思っていて、「なんで女性2人はないんだろう」という素朴な疑問を抱いていました。もちろん、男女ペアだから変ということはないのですけど、女性2人や男性2人でもいいと思いますし、今回のような3人体制でもいいと思います。「報道番組といえば男女2人組が当たり前」といった固定概念や違和感みたいなものは、テレビにおいてはまだまだたくさんあると思っています。

【日比麻音子】ただ、このようなテレビの固定概念を変えていくというのは時間もかかることだし、多くの人が関わらなければいけないことだと思います。Nスタは大きな番組なので多くの人が関わっています。私1人が「ああしたいこうしたい」と言って簡単に変えることは難しいです。だからこそ大きく何かを変えるときには多くのスタッフの協力や理解が必要になります。今回はそんな協力があって、ついにその時が来たというタイミングでした。

――番組スタッフの方たちも日比さんに入ってもらうことで、変化を求めていたのかもしれませんね。
【日比麻音子】今回の3人体制は番組にとってのひとつの挑戦であり、世の中の変化や流れにも後押しされた形だと思います。これまでNスタは多くの人が関わって文化や構成が作られてきましたが、そのなかでの女性キャスター2人という前代未聞の取り組みだったので、外見的には「革新的だね」「新しいね」と思われることも多いと思います。ですが、私たちから見るとこのような変化は必然的だと考えています。

【日比麻音子】これまでの土壌があったことで時間もかかり、スムーズにいかないこともあったと思いますが、プロデューサー陣や記者陣、制作陣のなかにテレビが孕むジェンダーの固定概念を崩そうと試みる人たちがいるから、このような取り組みができたのではないかなと思っています。もちろん、まだまだ課題はありますけどね。そのような部分をどんどん更新していきたいですね。

大切にしている言葉は、「徳に於いては純真に 義務に於いては堅実に」
大切にしている言葉は、「徳に於いては純真に 義務に於いては堅実に」【撮影=後藤巧】


「自分だからこそできるアナウンサーを目指したい」

――日比さんのアナウンサーとしての野望を教えてください。
【日比麻音子】本当にご縁とタイミングと、何か巡り合わせでここまで来ています。もちろんたまたまや偶然とは思っておらず、私なりにひとつの仕事を大事に150%で一生懸命やってきた結果が数珠つなぎで来ているような印象です。7年間の点と点が線となってつながり、今のNスタのお仕事があると思っています。

【日比麻音子】なので、仕事に満足するときはおそらく来ないと考えていますし、これからに関しては、まず年齢とかに縛られたくないというのはあるので、そのあたりはゴールを決めることなく、「何歳だからこうしないといけない」といったことは考えないようにしています。

――これからもアナウンサーの仕事に集中されていくのですね。
【日比麻音子】それから、今の時代は何足もわらじを履ける時代だと思います。なので、私もアナウンサーだからといってアナウンサーだけをやってればいいとは思っていません。さまざまなシーンに出会う仕事だからこそ、複数の顔を持っていることでアナウンサーとしても成長できると思います。自分の仕事にいい意味で囚われずに、自分の好奇心とお世話になっている皆様とのご縁を頼りにしながら、仕事を続けたいですね。

【日比麻音子】また今回のように、女性キャスター2人での報道番組や、実況を女性アナウンサーでやってみるなどに挑戦するのもいいかもしれません。長年テレビの業界にいると、どうしても気づけない更新や変革できるポイントのようなところがたくさんあると思っています。だからこそ、自分だからできる新しい取り組みをこれからも発信していきたいですね。それが私の働き甲斐になればうれしいです。

「自分だからできる新しい取り組みをしていきたい」と日比さんは展望を話す
「自分だからできる新しい取り組みをしていきたい」と日比さんは展望を話す【撮影=後藤巧】


――最後に、これからテレビ業界に入りたいという人に一言お願いします。
【日比麻音子】テレビというものは、10年前や20年前の存在感とは全然違うものになっています。私の父母世代はテレビっ子で、テレビに夢や希望を大変に抱いている世代でした。その後に生まれた私たちは、父母世代の考え方を引き継ぎつつも、テレビが当たり前になった時代に生きていました。そして、私たちの次の世代になってくると、インターネットやSNSの普及でテレビなんてなくても生きていけるようになっています。

【日比麻音子】それでも私は、テレビもラジオも消えることはないと信じています。テレビがなくても生きていける世代の方たちだからこそ、テレビの可能性を広げられるのではないかと思っているので、いい意味でテレビが好きじゃない人と働いてみたいという気持ちがありますね。それでも、テレビに希望を託してくれたり、ラジオに喜びを感じてくれたりする人だと、なおうれしいです。一緒に何かを「更新」できる人と一緒に働きたいですね。

この記事のひときわ#やくにたつ
・「なりたいもの」になるには挑戦することが最短距離
・目の前の仕事に愚直に取り組むこともキャリアを作る手段
・仕事を成功させるには、本番の何十倍の「準備」が必要
・ご縁とタイミングと巡り合わせを生かすのが大事

取材・文=福井求(にげば企画) 写真=後藤匠