病院や銀行とコラボし利用シーンを拡張

現在では、全都道府県での出店実績があるが、最後に進出を果たしたのが鳥取県だ。鳥取県といえば、スターバックスコーヒーも一番最後の進出県となったことでも話題となった。しかし、なぜ鳥取県だけ最後の進出県となったのだろうか。

「チェーン店の出店が鳥取県だけ最後になってしまうというのは、どうしてもメディアなどで話題になりますが、弊社の場合は決して意図してそうしたわけではなく、本当に偶然そうなったというだけなのです。先にお話ししたように弊社の理念に共感して一緒に運営していただけるオーナーさんを探していくなかで、鳥取県がほかの都道府県よりも少し時間がかかってしまったというのが実際のところです。そして2014年に初めて鳥取県に出店できたわけですが、地域の多くの方に喜んでいただき、今では鳥取県内に2店舗まで増やすことができました」(須﨑さん)

何はともあれ、2014年をもって全都道府県に出店が完了し、日本全国でタリーズコーヒーを利用できるようになった。路面店や商業施設内店舗はもちろんだが、企業や病院内店舗があるのもタリーズコーヒーの特徴でもある。特に「鳥取大学医学部附属病院店」など院内店舗は、同社の事業活動には欠かせない形態の店舗なのだという。

「病院内への出店は、2004年の東大病院店が第一号でした。現在は全国に88店舗あり、全体の約1割を占めています。ここまで病院内店舗にこだわる理由としては、先ほどもお話ししたとおり『地域社会に根ざしたコミュニティーカフェとなる』を体現するのに一番ふさわしい場所だと考えているからです。病院を利用する地域住民や職員さんにとっての癒やしの場や憩いの場になれることが、私たちの喜びですから。今後も継続して、この取り組みは続けてまいります」(歌代さん)

病院店舗「鳥取大学医学部附属病院店」
病院店舗「鳥取大学医学部附属病院店」【画像提供=タリーズコーヒージャパン株式会社】

病院店舗「がん研有明病院店」
病院店舗「がん研有明病院店」【画像提供=タリーズコーヒージャパン株式会社】

そのほか銀行や本屋ともコラボした実績もあり、「地域に寄り添う」ことが同社の根底にある願いだということがよく理解できる。また、エンドユーザーだけでなく、フランチャイズオーナーにも多くのファンを獲得することで、長年に渡り好調を維持できたのだろう。そこで忘れてはいけないのが、同社が徹底的に追求するコーヒーへのこだわり。おいしいコーヒーなくして、タリーズコーヒーはあり得ないのだ。

「当社は、開発の担当者が直接現地に出向いて、現地の方たちと直接やりとりをして豆を厳選しています。さらに、豆の個性を最大限に引き出すため、国内焙煎にこだわることで、焙煎したてのおいしい豆を提供することができるようになりました。店舗では、定番から季節限定などいろいろなドリンクメニューを用意していますので、これからもおいしいコーヒーを楽しんでいただけるように努力を続けていきたいと思います」

豆の厳選や国内焙煎にこだわったコーヒー
豆の厳選や国内焙煎にこだわったコーヒー【画像提供=タリーズコーヒージャパン株式会社】


ボトル缶などの商品開発で認知拡大を実現

コロナ禍には、消費者に寄り添った販売方法の工夫を模索し、ステイホームで来店しづらい状況を打破するため、オンライン販売や、コーヒー豆やリキッドなどおうちカフェを楽しめる商品の販売を強化。来店客の需要を下回らないように供給量を調整しながら、いつ訪れても購入できる体制をイチ早く整えていった。またこの時期、カフェに行けない人々にとって、コンビニやスーパーマーケットなどのコーヒー飲料も多くのニーズを集めていた。同社も、ボトル缶をはじめ多くのRTD(Ready To Drink)商品で、たくさんの人々の自宅時間に安らぎをもたらしていたことだろう。さて、そのRTD商品だが、ここまで普及したきっかけとなったのは、同社が2006年に伊藤園グループの一員となってから。親会社である伊藤園によって、タリーズコーヒーのRTD商品が開発され、なかでも世の中の先駆け的に開発したボトル缶は、発売当初から世間の注目を集め、ヒット商品となった。

「RTD商品はまさに、当社と伊藤園のシナジー効果によって生まれた、唯一無二の商品です。それまでの缶コーヒーは、一回開けてしまうとそのまま飲み切らないといけませんでした。そこにキャップをつけることで、ドリンクの劣化を防ぎ、かつ持ち運びやすくしました。そのうえで、味にもしっかりとこだわり、『挽きたて、焙煎したて、淹れたて』の味わいを楽しんでもらうために、国内焙煎した豆を使用するという、店舗と同じ製法を採用しています」(須﨑さん)

そんなタリーズコーヒーのRTD商品を社員のみなさんも普段から愛飲されているようで、須﨑さんは「BARISTA’S BLACK(ブラックコーヒー)」、歌代さんは「BARISTA’S 無糖LATTE」がお気に入りなのだとか。そのほか豊富な商品が販売されているので、試したことがない人も、ぜひ一度飲んでみてもらいたい。

これからも愛される店舗を目指す

2017年には、紅茶をメインとした新業態の「&TEA」をオープンさせた。

「もともと、当社のロイヤルミルクティーはかなり人気が高く、紅茶嗜好のお客様も多くいらっしゃいました。その需要に真正面からお応えできるよう紅茶に特化したのが、このコンセプトショップです」(歌代さん)

2017年にスタートした新業態「&TEA」。写真は「&TEA グランフロント大阪南館店」
2017年にスタートした新業態「&TEA」。写真は「&TEA グランフロント大阪南館店」【画像提供=タリーズコーヒージャパン株式会社】

根強いファンが多い「ロイヤルミルクティー」
根強いファンが多い「ロイヤルミルクティー」【画像提供=タリーズコーヒージャパン株式会社】

現在、17店舗を出店し、順調にその数と認知度を増やしているところだという。最後に、今後のビジョンについても聞いてみた。

「今後は、よりコミュニティーカフェとしての利用シーンを充実させるために、もっと気軽に立ち寄れるような立地への出店なども意識していきたいと考えています。現在は、施設内やビジネス街の店舗が基本ですが、これからは、住宅街やロードサイドなど、友達の家やご近所の家に遊びにいくような感覚でふらっと立ち寄れるカフェが重要になってきます。すでに公園内の店舗として『日比谷公園店』などもありますが、こうした店舗も当社の理想です。公民が連携して市民が憩える場を作っていくという取り組みにも、力を入れていきたいですね」(須﨑さん)

2022年にオープンした「日比谷公園店」。タリーズコーヒーとして初めて都立公園内への出店が実現
2022年にオープンした「日比谷公園店」。タリーズコーヒーとして初めて都立公園内への出店が実現【画像提供=タリーズコーヒージャパン株式会社】


この記事のひときわ#やくにたつ
・「地域と共に」の信念を貫いた経営姿勢
・ステークホルダーにも理念を共有しファンを増やす
・需要を汲み取り、新たなビジネス開発につなげる行動力

※店舗数は取材時(2023年4月30日)時点の情報による。

取材・文=森川和典