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【漫画】知られざる「耳かき専門店」の裏側。お客さんたちの人間ドラマに興味津々

2023/05/02 10:00
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あなたは耳かきを自分自身や家族以外の人からしてもらった経験はあるだろうか?

2005年に「耳垢を除去すること(耳垢塞栓の除去を除く)」が医療行為ではないと厚生労働省が通知したことから、耳かきを中心としたリラクゼーションの場所として「耳かき専門店」が生まれていったという。浴衣のスタッフが膝枕で耳かきをしてくれる店や、ファイバースコープで耳の中をモニターで映しながら施術してくれたりする店などあるが、実際に行ってみたことがあるという人はまだ少ないはず。耳かき専門店はどのように客を迎えているのか?その疑問に答えてくれる漫画「耳かき専門店で働いてみたハナシ」がTwitterで話題だ。

森民つかささんが働く耳かき専門店にやってきた女性。男性客が多いイメージのある耳かき専門店だが、女性客も多かったそう。「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話より
森民つかささんが働く耳かき専門店にやってきた女性。男性客が多いイメージのある耳かき専門店だが、女性客も多かったそう。「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話より 【画像提供=森民つかさ】

作者は森民つかささん(@uouououoza1)。漫画家としての活動の傍ら、耳かき専門店のスタッフとしてバイトをしていた。第2話では、保育士として働く女性客との出会いを漫画にしている。女性客の「耳も体も心も軽く」した森民さんだったが、森民さんも女性客の発言に励まされるという内容で、「ほっこりした」「私も癒やされたい」という声が多く集まった。森民さんに、耳かき専門店で働いたきっかけや、その経験を漫画にした理由をインタビューした。

4年働いた耳かき専門店。個人の裁量に任せてくれる社風がマッチ

森民さんが耳かき専門店で働きはじめたのは21歳のころ。それまではバイトが長続きせず、最短1日で辞めてしまったバイトもあったのだそう。

「私は自分の行動がのろまなのは自覚していて…実家から近いうどんチェーン店のホールスタッフでは、先輩スタッフの威圧的な雰囲気と客回転の早さに、これはもう向いていないと1日で音を上げてしまいました。ほかにはイベント系のバイトとか、パチンコの部品を作る工場のバイトとかしていましたが、どれも長続きはしませんでした」

自分のペースでできて、人を癒やす仕事はどうだろうと探していたなかで見つけたのが耳かき専門店。長続きしなかった経験から、逆にどんなバイトだったら続けられるのか自己分析をしたうえでたどり着いた仕事だった。結果、名古屋で数年、漫画の創作活動もあって上京してからも店舗を変えて耳かき専門店のスタッフとして働くことができた。

「私の勤めていたお店では、スタッフ一人ひとりにある程度の裁量が与えられていて、それがよかったんだと思います。研修期間はありますが、それが終わってからはマッサージの仕方とか、耳かきの仕方とか一人ひとり独自のスキルアップを目指していく感じだったので、私にはそれも合っていました。あと、何よりも人間関係のよさがありましたね。困ったお客様がいたときも店長に言えばすぐに対応してもらえましたし、癒やし系のスタッフが多かったのも居心地がよかったです」

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第1話 05
「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第1話 05 【画像提供=森民つかさ】

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第1話 06
「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第1話 06 【画像提供=森民つかさ】

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第1話 07
「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第1話 07 【画像提供=森民つかさ】

第1話では、研修の様子としてお客様役になった森民さんに先輩スタッフが施術をしてくれていたが、その後すぐに一対一の接客が始まるのだろうか?

「そうですね、研修期間が終わったら先輩が一緒に接客に入るということはなかったです。なので、なかには『え、もう一人でやらなきゃいけないの?』ってとまどっている子もいましたね。私も研修が終わって最初の1、2カ月は手がプルプルしてしまって『これ、大丈夫ですか?』ってお客様に確認しながら施術していました。ある程度の経験を積むとこのラインまでは耳かきを差し込んでも大丈夫、それ以上は確認しながらだな、などとわかっていきました」

スタッフそれぞれのやり方に任されるというのは、自由でもあるが自分で判断しなければならないこともそれだけ多くなる。人によって合う合わないがはっきりしそうだが、それはスタッフの入れ替わりにも現れていたようだ。森民さん曰く「長く続けられる方と、数カ月でこなくなってしまう方と半々でしたね。先輩スタッフの半分は10年以上続けている大ベテランでした」とのこと。

耳かき専門店で働く魅力のひとつとして、施術中のお客様との会話もあったと森民さん。

「施術中に自分のお仕事の話をしてくださるお客様も多くて、そうすると好きな仕事を選んだけど実際やってみると思っていたのと違ったという話もよく聞いていました。どの業界でもそういうことで悩むものなんだなって感じましたね。半個室で一対一だから本音がポロッと出てきて、だから作品にしたときに共感していただけたのかもしれません」

お客様のなかには“耳かき愛”が強い人も多く、そういった人からの耳かき情報も新鮮だったそう。

「耳鼻科だと掃除機みたいなのを耳に当てて耳垢を取ってくれるとか、中国には耳かきを極める道があって耳かきの達人のお店があるとか、そういった情報をお客様が教えてくださることもありました。私はもともと耳かきが好きで働き始めたわけではなかったので『耳かき好きの世界ってこんなにバラエティ豊かなんだ』というおもしろさがありましたね。耳垢が溜まるスピードが早くて一週間で来店される方もいたりして、そういった悩みを抱える人がいるというのも発見でした」

ネームを作るもボツ続き。読者からの感想が第2話を作った

作中で漫画家志望として登場する森民さんだが、耳かき専門店の漫画を描く前はどういった活動をされていたのだろうか。

「名古屋から上京をしたときに出版社に持ち込んで、担当の編集さんがついてくださいました。ただ、なかなかうまくいかなくって…。完全オリジナルのストーリー漫画の読み切りを描いていたんですが、プロット(物語の設計図)やネーム(コマ割りをした下書きの前段階)でボツになってしまうことがずっと続いていました」

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」もボツになった漫画だったそうだ。

「プロットの段階で『耳かき専門店で働いていた経験があるので、それを題材に作品を描こうと思っているのですが、商業的にどうでしょうか?』と担当さんに相談したところ、『行ったことがない人のほうが多いと思うので、いい題材だと思います』とお返事いただいたんです。描くにあたって、まだストーリー漫画を描く力がついていないから、今の私ならノンフィクション作品がいいだろうと思い、エッセイ漫画としてネームを作り、担当さんに見てもらいました。そしたら、『題材がニッチでマイナーな分、内容にインパクトがないと商業では手に取ってもらえない』ということでボツになってしまったんです。ただ、ずっとボツが続いていたので、その先の工程に進めず、“作品を完成させる”ということができないでいました。取り敢えず1作品完成させたいという思いがあって、第1話を描きました」

そうして第1話を完成させたのが2021年12月。このときは「出し切るような気持ち」でいたため、あくまでも読み切りとして描いていた。しかし、このときの反響が森民さんに第2話の執筆を促すことになる。

「いま、担当さんとはやり取りが止まってしまっている状態なんです。創作活動をどうしていけばいいのか行き詰まってしまって…。何かしら完成させて反応をもらわないと上達もしない、とにかく手を止めないでと担当さんからは言われていました。それでとにかく何か描かなきゃと思ったときに、『耳かき専門店で働いてみたハナシ』をSNSにアップした際、耳かき専門店で働いていた経験のある方から『描いてくれてありがとう』とお礼のメッセージをいただくなど、たくさんの反応をいただけたのを思い出して、今の私にできるのはこの話の続きを描くことだと思って第2話を描いたんです」

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 15
「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 15 【画像提供=森民つかさ】

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 16
「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 16 【画像提供=森民つかさ】

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 17
「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 17 【画像提供=森民つかさ】

「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 18
「耳かき専門店で働いてみたハナシ」第2話 18 【画像提供=森民つかさ】

そうして描いた第2話は、第1話以上の反響があった。「耳かき専門店に行ってみたい!」という感想も多かったようだ。

「お客様、スタッフ双方から、耳かき専門店の内情がわからないから、興味はあったけど行けないで何年も保留にしていたというような話を聞いていました。私の漫画が一歩踏み出すきっかけになればうれしいです」

第2話も「出し切るような気持ち」で描いていたそうだが、反響を受けてさらなる続きを考えているとのこと。

「反応がなかったらオリジナルの読み切りの創作に集中しようと思っていたのですが、思いのほか反響をいただけたので、こういう切り口だと受け入れてもらえたり、共感してもらえたりするのかな?というのが見えてきました。今までの話では働いていて大変だったことには触れていないんですが、次回以降ではそういうことにも触れないといけないかな、とも思っています。きれいなことばかり描いていると『これ本当か?』みたいに、本当にあったいいことも嘘みたいに見えてしまうのが困るので。ひとまず、第3話は私ではなくて、もともと耳かきが大好きでスタッフになった女の子視点で描いていきたいなと思ってプロットを練っているところです」

ボツから始まった「耳かき漫画」が広がりを見せている。読者の反応が創作者の意欲を掻き立てる好例といえそうだ。耳かきを通じた癒やしの物語がどう広がっていくのか。今後の創作活動にも注目だ。

取材・文=西連寺くらら

■森民つかさ
Twitter:@uouououoza1

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