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大手広告代理店コピーライターから漫画家へ。30代で専業漫画家になったうえはらけいたさんが語る「軸を得る」まで

2023/05/22 11:30
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「正攻法では意味がない」特異なキャリアを生かした戦い方で作品を発表

――美大卒業後、再び博報堂に就職されましたね。
【うえはらけいた】ややこしい話なんですが、美大卒業時のデザイナーの新卒採用試験で内定をもらったんです。ただ、会社のルール上、同じ人が2回新卒として入ることはできず、新卒枠で受けましたが、中途採用扱いで再入社しました。

――しかし、デザイナーとして博報堂に再就職したものの、わりとすぐに辞められたとか…。
【うえはらけいた】半年で辞めて、別会社にデザイナーとして転職してしまいました。なんでかというと…結局のところ漫画を描きたくなってしまったんですよね。そのときの人事の方には本当に頭が上がりません。採用試験って大学3年生の秋にスタートしますね。僕からしたら美大にやっと入れた!と思ったらすぐに採用試験が始まってしまって。そのときの採用試験もダメ元で受けようというのがあったので、3年次はその準備期間のようになってしまいました。それで内定をもらって、ようやく自分のやりたいことに取り掛かれるようになって。では自分がやりたいことはなんだ?というときに漫画になったんです。子どものころに漫画家を夢見て、それに対して何の努力もしないまま諦めてしまって。一回チャレンジしたいと卒業制作で漫画を描いたんですが、それでやっと“漫画を仕事にする”という選択肢が自分のなかで見えてきました。

――でもすでに内定はもらっていたから、デザイナーとして就職されたんですね。
【うえはらけいた】そうなんです。そして、デザイナーとして働いていると漫画を描く時間なんて全く取れなくて。デザイナーとして働くのか、漫画を描くのかどっちかに決めろってなったときに、漫画を取った感じです。転職先は自分の時間を持てそうだったのと、副業OKだったので選びました。

――2020年に漫画家として独立されました。道筋は見えていたんですか?
【うえはらけいた】道筋は全く見えていなかったです(笑)。ただ、転職先での仕事もなんだかんだで忙しくなって、またよくない二足の草鞋を履いて、どちらも中途半端になってしまうという懸念がありました。2019年ごろから漫画を本格的に仕事として始めたのですが、これを一生の仕事にしたい、少なくとも体が保つ限りはこの仕事に人生をかけたいという気持ちが大きくなっていました。それと貯金も貯まって、最悪向こう1年くらい仕事がなくても生きていけるかな、というのがあったので独立しました。

――漫画家という目標がご自身の中で確かなものになったということですね。漫画家になるというと、賞に応募したり、漫画編集部に持ち込みをかけたりするのがよくあるルートですが、そういった活動はしなかったんでしょうか?
【うえはらけいた】しなかったですね。なんでかというと、やはり僕はちょっと特殊なキャリアですから、良くも悪くも正攻法では意味がないというのは常に思っていました。美大のときも絵で真っ向勝負してもダメだから、アイデアよりのものを作ったりしていました。それと同じで、10代のころから漫画を描いてきた人たちと勝負をしても、30代から描き始めた自分が不利なのは当然なので、賞などには応募しませんでした。それよりも、SNSで自分の描きたいものを積極的に投稿して、それで編集の方から声をかけてもらうというやり方にしていきましたね。

ゾワワの神様 第26話「T塚さん」02
ゾワワの神様 第26話「T塚さん」02 【画像提供=うえはらけいた】

ゾワワの神様 第26話「T塚さん」03
ゾワワの神様 第26話「T塚さん」03 【画像提供=うえはらけいた】

――博報堂時代に引け目を感じていたという話がありました。美大のときも周りに圧倒されていたと。今、漫画家としてひとりの環境になってどうでしょうか、のびやかな気持ちになれましたか?
【うえはらけいた】今は今で周りの漫画家の方がすごすぎて……。以前と比べると多少はそうした気持ちになることは減りましたが、個人事業主になると、今度は「これでいいのかな?」っていう、別の不安が出てきてしまいましたね(笑)。国民的人気作家ならいいけど、そうじゃないのにこんなにのんびりしていていいのかな…みたいな。もうこれは僕の気質なんだと思います。

――博報堂時代で働いてつらかったことはありますか?
【うえはらけいた】僕が働いていた当時は土日が当たり前になくなるのがつらかったですね。打ち合わせが終わらなかったら土日でやることになって、オンラインの環境もなかったので自動的に出社しなければならなくって。今は改善されてきていると聞いています。

――多忙だった博報堂時代で、しないようにしていたことはありますか?
【うえはらけいた】徹夜はよくないですね。モノ作りをするうえで全然効率がよくないですし、翌日の体力を前借りしているだけですから。引いてはメンタルを病む原因になってしまうこともあるわけで、それが働いているうえで一番あってはならないことです。

――専業漫画家になって、現在はどういった働き方をしていますか?
【うえはらけいた】最初のころは家で作業をしていて、“やれるときはやる”みたいな形で描いていたんですが、効率がよくないと気づきました。ダラダラしちゃうんですよね。なので、今はオフィスを借りて、家ではやらないようにしています。朝、オフィスに出社して、夕飯を家で食べられるように帰るみたいな感じです。

――広告代理店を舞台にした「ゾワワの神様」、巨大生物が暴れる世界でヒーローを製造・運用する会社への就職を夢見る“カネコ”を主人公とした「アバウトアヒーロー」と連載されており、どちらも「働く」ことが重要なテーマになっています。どのような作品を描いていきたいと考えていますか?
【うえはらけいた】会社員をやっている当時も漫画に支えられたり、励まされたりしたことが多かったので、会社員の方、特に20代の若手でまだ職場になじめていないような方を励ますような作品を描いていきたいというのは漫画家キャリアで一貫して考えていることです。「ゾワワの神様」を読んで、もうちょっと仕事を頑張ろうと思っていただけたらうれしいです。今はWebメディアでの連載やPR漫画などの仕事がメインですが、商業誌の仕事もしていけたらと思っています。

過去の経歴や肩書だけを聞くと華やかな印象を持つが、うえはらさんは自身を「平凡」と語る。しかし「漫画家になりたい」というふんわりとしていた夢を、回り道をしながらも最終的にはつかんでいる姿は平凡から一歩進んだ姿ではないだろうか。「ゾワワの神様」の主人公のように、才気にあふれる同僚に引け目を感じながらも、コピーライターという仕事に打ち込んでいくキャラクターが描けるのもうえはらさんならではと感じさせる。働く人の明日が励まされる作品。それは「平凡」ながらも懸命に毎日を積み重ねている人々に刺さるものに違いない。

この記事のひときわ#やくにたつ
・軸を得るための回り道も財産
・自分の経歴・特徴に合わせた戦い方を探す
・効率的に働ける環境を整える

【プロフィール】うえはらけいた
1988年生まれ。広告代理店・博報堂入社後、コピーライターとして約5年勤務。退職後、多摩美術大学グラフィックデザイン学科に編入。卒業後、デザイナーとして働きながら漫画創作活動を始める。2020年に専業漫画家として独立。SNS、Webメディアを中心に作品を発表している。著書『コロナが明けたらしたいこと』(アスコム)は第12回コミチ漫画大賞受賞

取材・文=西連寺くらら

■うえはらけいた
Twitter:@ueharakeita
note:https://note.com/keitauehara

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