オリコン株式会社が各サービスや商品の顧客満足度を発表する「オリコン顧客満足度(R)ランキング」。保険、小売、レジャーと幅広いジャンルを調査し、2022年4月から2023年3月までに発表されたランキングは実に192、No.1を受賞(※同点での総合1位を含む)した企業は197社を数える。「音楽ランキングのオリコン」が何故顧客満足度を取り扱うようになり、またその信頼性を確立していったのか。代表取締役社長の小池恒さんに話を聞いた。

実開催では4年ぶりとなった「オリコン顧客満足度アワード授賞式」(写真は午前の部の様子)
実開催では4年ぶりとなった「オリコン顧客満足度アワード授賞式」(写真は午前の部の様子)


――オリコン顧客満足度アワード授賞式お疲れ様でした。コロナ禍もあって4年ぶりの開催となりましたが、終えてみて感じたことを教えてください。
【小池恒】やっぱり実開催できてよかったなというのは本当に思います。ランキングに入った企業の方と直接と交流する場っていうのはなかなかなく、また各企業の方同士でも「何か一緒に仕事をやれるんじゃないかな」というお話があったとおっしゃっている方もいて。こういう場を通して新しい何かが生まれてくれば我々も非常にうれしいです。

――確かに、リアルの場のほうがシナジーやコミュニケーションも生まれますね。
【小池恒】全然違いますね。そういう意味では4年間できなかったというのがオリコンにしてみるとちょっとつらかったんですけれども、開催できてよかったなというのが率直なところです。

オリコン株式会社代表取締役社長 ・小池恒さん
オリコン株式会社代表取締役社長 ・小池恒さん


――2006年からスタートしたオリコン顧客満足度ランキングについて、あらためてその背景や歴史について伺わせてください。
【小池恒】2003年に弊社から『患者が決めた!いい病院』という本を出したんですが、これが非常に売れまして。当時は“患者から見たお医者さんのランキング”という視点が新鮮で、50万部ぐらい実売が出て、マスコミからも取材の依頼がたくさん入り、こうした社会的反響の大きさがCS(Customer Satisfaction、顧客満足度)ランキングのヒントになってるんです。

【小池恒】世の中でまだ可視化できていないものを客観的なデータで可視化できたら社会的にも価値があるし、弊社にとってみてもワンクリックあたりのビジネスモデルとしてはある程度うまくいくんじゃないかというのがなんとなく見えましたので、まずは検索連動広告で高い価格がついているワードからランキングをスタートさせました。

【写真】「オリコンが何のジョークだと」顧客満足度ランキング当初の苦労を振り返る
【写真】「オリコンが何のジョークだと」顧客満足度ランキング当初の苦労を振り返る【撮影=藤巻祐介】


――そのビジョンが見事に当たった。
【小池恒】ただ、苦労がやっぱりありまして、最初の数年間は「芸能ランキングのオリコンが保険のランキングを作るというのは何のジョークだ」というのが皆さんの受け取り方で。ランキングをやり続けて、データとして正しいということを実感いただいて、実際にランキングをもとに商品を使っていただくというところまでにはけっこう時間がかかったんです。

――やはり継続したからこそ受け入れられたというところですね。
【小池恒】そうですね。合わせて、ランキングのもとになったデータも全部開示して、コンペティターとの比較をはじめいろいろなことができるよう極めてユースフルな形で提供していますので、そういった部分もじわりじわりと評価されてきたポイントかなと思います。

――調査データのお話が出たところで、調査の方法についても教えていただければと思います。
【小池恒】まずオリコンが主体的に顧客満足度調査を行っているということですね。誰か依頼主があってランキングを作るということではなく、あくまで我々が企画設計して、調査・集計をしています。

【小池恒】それと、実際にそのサービスを使っている人、あるいは使った経験がある人のみのデータになるよう、またこれは数値として明らかに過剰な反応だなというものを除外するようスクリーニングをかけて、最低でも回答者100を確保したうえでデータを作るという、実は極めてシンプルなことだけをやっているんです。

――恣意的な要素や不自然なデータを弾くことを徹底しているからこそランキングとして強いんだろうなとあらためて思いました。
【小池恒】少し前、“No.1広告”が世の中に氾濫しすぎているという是非がありました。ポイントとして、自分たちのためのランキングを発注して思いどおりの結果になったときだけその部分を使うだとか、データのなかに実際には使ったこともない人の声が混在していることが問題になったと思うのですが、論点が非常に明確になったことで、逆にこうしたポリシーで作っている我々のランキングが正しいという追い風にもなったなと思います。

――そうした方針でランキングを作るうえで、例えば上位に選出されなかった企業からの異議が出ることはなかったのでしょうか?
【小池恒】もともと音楽のランキングをやってきたころから、そうした声が全くなかったということはありません。どのジャンルのランキングでも、考え方やサンプリングの取り方など、いろいろなことを言われる企業の方がそれなりにいらっしゃったというのは事実です。

――そうした点は情報の開示と丁寧な説明で乗り越えていくという。
【小池恒】そうですね。まず、ある程度のサンプル数を集めたうえですべての生データを開示しているので、それを見れば「確かにそのとおりですね」となるんです。

【小池恒】もちろん集計の部分で最終的に加重平均をどうかけるかといった部分ではいろいろな考え方があって、「もっとプライスにウェイトをおいてもらいたい」「アフターサービスにおいてもらいたい」というお声はいただきます。感情的ではないそうした意見は極めて真摯に聞くべきものだと考えていますし、我々としても「もっともだな」と思ったときにはきちんとフィードバックして翌年改善することを徹底しています。

――事業を継続するうえで大事にしてきたことを教えていただければと思います。
【小池恒】これはやはり、事業コンセプトを理解してくれる社員が適材適所にいてきちんと実践してくれる、いろいろなコミュニケーションをとって周りの人たちに対して広めてくれる役割のところに人材がいたということが大きかったと思います。

「“事実を情報化する”という非常に単純なポリシーを貫いていこう」
「“事実を情報化する”という非常に単純なポリシーを貫いていこう」【撮影=藤巻祐介】


――次に、御社のトータルとしてのビジネスモデルについてお聞かせいただければと思います。
【小池恒】“事実を情報化する”というのが我々の基本的な考え方で、ビジネスモデルとしてはニュースとランキングということになります。

【小池恒】事実というのは見る立場によって違ってきたりもするので「本当に何が事実か」はなかなか難しいところもあるんですが、ランキングに関してはできるだけ他社では取れずにいた多くのデータを取って、そこから解析を行ってきちんと結果を出していけば、これはやっぱりみんなが納得できるものということだと思うんですね。

【小池恒】ですからニュースでもできるだけ客観性をもって、その発言がどういう背景でなされた発言なのかということも含めてちゃんと書く、その書かれた本人が納得できるようなものを作っていこうと考えています。

――「事実を伝えていく」というところがやはり大切にしていることだと。
【小池恒】そうですね。これは先ほどもお話したことですが、実際に業務としてオペレーションしていくうえで、社員がどれだけちゃんとそれを理解してくれて、実践してくれるかということだと思います。絵に描いた餅になってしまってはしょうがないので、そうした考え方を持って人材をしっかり育てていけるのか、これが極めて重要だと考えています。

――それでは、今後の成長戦略についてはどうお考えですか?
【小池恒】顧客満足度ランキングについていえば、今までは1位を取った企業と商標契約をするというのがビジネスモデルの中心だったんですが、実は2位以下のところにもビジネスチャンスがあると思っています。我々の資産であるデータをもとに『なぜ1位じゃないのか』というところを、非常にわかりやすくコミュニケーションしていける、データを活用する形でいろいろな企業が顧客満足度を上げていくサポートをしていくというビジネスの土台を作りまして、来期以降この部分を大きくしていきたいと考えています。

――1位ではない企業が向上していくと、企業そのものにとってもそうですがユーザーの満足度も全体的に上がってきますね。
【小池恒】1位の企業と別の企業が入れ替わって、今度は先の企業がまた1位に返り咲いてと、こうした好循環で産業自体のクオリティが上がっていく一助に我々のランキングがなれればすごくいいことだと思います。

「次世代の人たちが“オリコン”以外のブランドも作ってくれたらすごくハッピー」
「次世代の人たちが“オリコン”以外のブランドも作ってくれたらすごくハッピー」【撮影=藤巻祐介】


――とても尊いビジネスですね。最後に、小池さんの今後の野望を教えてください。
【小池恒】野望というかすごく大きいテーマとしては、最先端のビジネスをやっていくことに対して次世代の人たちにどんどんバトンタッチしていこうと考えています。やっぱりその世代じゃないとわからないこと、我々の世代ではわからなくなっていることがけっこうあるので、次世代の人材を育てて、例えば30代の人たちがどんどん新しいビジネスモデルに自発的にチャレンジしていくような環境を作りたいですね。

【小池恒】これは僕がいつも言っていることなのですが、「オリコン」はランキングやニュースに関して、ある程度ブランドがある一方で、事業領域には限界もあります。ただ、オリコンという会社が持っている信用度を活用すれば新しいブランドを使っていろいろなビジネスができるので、コーポレートカンパニーとしてのオリコンを活用しつつ、次世代の人たちがもっとオリコン以外のブランドもどんどん作ってくれたらそれはすごくハッピーだなと思います。

この記事のひときわ#やくにたつ
・目標達成まで当初のポリシーをブラさずに徹底し続ける
・外部に左右されず、客観的かつフェアであることが長期的な信用につながる
・これまでの実績で培ちかわれた信用を活用して異なる領域に挑戦する

取材=浅野祐介、文=国分洋平、撮影=藤巻祐介