「ピンチの時こそ社会は動く」ピンチをチャンスと捉えるニトリホールディングス・白井社長の考え方に学ぶ

2023/01/20 10:00 | 更新 2023/04/16 23:13
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「ピンチの時こそ社会は動く」その考え方にビジネスのヒントが…!
「ピンチの時こそ社会は動く」その考え方にビジネスのヒントが…!

「お、ねだん以上。」のキャッチコピーでお馴染み、大手家具・インテリア用品を扱う株式会社ニトリなどをグループ会社に持つ株式会社ニトリホールディングス。国内に750店舗以上、海外に120店舗以上を持つ巨大グループは35期連続で増収増益を続ける。そんなニトリホールディングスの躍進を支えてきた、代表取締役社長の白井俊之さんへのインタビュー第3弾をお届けする。第1弾では、ニトリグループの強さの理由、第2弾では近年、精力的に力を入れているIT部門やアプリ、働き方の変化について話を伺った。今回は、白井社長の仕事観や仕事への向き合い方について深堀りし、働く人たちにとってビジネスのヒントとなるような考え方について聞くことができた。


ピンチをチャンスと捉える、ニトリホールディングスに根付く考え方

株式会社ニトリホールディングス 代表取締役社長 兼 最高執行責任者(COO) 白井俊之さん
株式会社ニトリホールディングス 代表取締役社長 兼 最高執行責任者(COO) 白井俊之さん【撮影=三佐和隆士】

ーー白井社長が行き詰まったときのリフレッシュ方法、切り換え方など、働く人たちへのアドバイスも込めて教えてください。
【白井俊之】私の場合、アウトプットを変えるためには、インプットを変えないとダメだと思っているんです。そのためには自分の見るものや読む情報を変えたり、行く場所を変えたりします。そのようにして普段と違う行動によるインプットに変えることによって、アウトプットも変わってくると考えています。今でもずっと、定期的に現場(店舗や製造拠点等)を回っていますが、やはり本部にずっといるのではなく、店舗や物流、海外工場などへ足を運ぶことによってインプットが変わると感じています。それを刺激にして、アウトプットを変えるようにしてきました。

白井社長は、日課として各店舗を視察するだけでなく、売上データを確認しながら売場の配置もチェックするそう
白井社長は、日課として各店舗を視察するだけでなく、売上データを確認しながら売場の配置もチェックするそう【撮影=三佐和隆士】


ーー企業トップの方々は、これまでさまざまな困難や問題を打開してこられたと思います。そんな方に敢えてお尋ねいたします。白井社長が仕事において苦手とするものは何ですか?その苦手な仕事との向き合い方も教えてください。
【白井俊之】苦手としていることは、知らないことをその場で判断することです。いろいろな場面で、知らないことを聞きながら判断するというのは難しいんです。だから、なるべく仕事上の知らないことを、少なくするようにしています。仕事に関わることで知らないことがあるときは、調べたり、質問したりするだけでなく、現場に行ったりもします。「本当はどうなんだ?」など、疑問をもつことはすごく大事なんですよね。

ーー過去には、どのような仕事を経験されてこられたのですか?
【白井俊之】店長もやりましたし、店舗運営部のマネジャーと物流のマネジャー、そして人事部門、商品部のマネジャーも経験しました。時には、フォークリフトを運転することもありましたよ。どんな仕事にも挑戦し、まずは何でも自分でやってみるということを大切に仕事をしてきました。

さまざまな部署を経験し、見聞きしたことすべてが財産となっているという白井社長
さまざまな部署を経験し、見聞きしたことすべてが財産となっているという白井社長【撮影=三佐和隆士】


ーーそのなかでも役に立った経験は何かありますか?
【白井俊之】さまざまな部署を経験したからこそ今がありますが、その中でも人事での経験は特に役に立ったと感じています。人事部門は、人事のプロのような人がずっと続けているケースが多いのですが、私は、畑違いの部署から人事を任されました。ただ、所属人数が多い部署を経験してから、人事を担当したんです。どういう人たちを評価しなければならないんだろう?とか、どういうことで困っているんだろう?など、細かい部分を理解してから人事に行ったことは、制度を作るうえで、すごくよかったと思います。ちょうどそのころ、ニトリもスカウト採用を行っていた時期でした。年間で何百人も外部の人と会って、いろいろな企業様の経験を間接的に聞くことができたのはすごく財産になりました。うまくいった企業とうまくいかなかった企業の事例を聞いて知ることができたので、それも自分の経験値になったと感じています。

ーー経営者の目線で、どんな人材が欲しいと思われていますか?
【白井俊之】まずは自分で考えて行動する人です。そして、とにかく仕事の中身を知るために、まずは目の前の仕事を何でもやってみようという気持ちをもった人材が欲しいですね。私がよく言うことが2つあるのですが、ひとつは「荷物が2つあったら、まず重たい荷物を持つべき」ということ。これはすごく大事なことだと思います。リーダーシップの大原則でしょう。そして、2つ目は、「何でも見て聞いてやってみよう、という気概をもつこと」です。特に若い人の場合は、自分が苦手だと思うところに、本当は自分に向いている仕事があったり、そこから新たな発見があったりすることが、たくさんありますから。

「何でも見て聞いてやってみよう」という気概が大切と語る
「何でも見て聞いてやってみよう」という気概が大切と語る【撮影=三佐和隆士】


ーー求めている人材を採用するためのコツはありますか?
【白井俊之】人の採用は、会社にとって一番大きな“未来の財産”の獲得で、未来への投資です。例えば新卒採用のセミナーや質問会などのイベントには、できる限り私が自ら行って学生と対話をするようにしています。新卒採用の場合は、“今、仕事ができる人”を求めているのではなく、“5年後、10年後、20年後、将来的に会社の核になっていくような人”を求め、採用するように心がけています。

ーーOneNewsの読者世代に向けて経営者としてメッセージをいただけますか?
【白井俊之】今も昔も、未来の日本に対して悲観的なことを言う人たちがたくさんいます。家具業界も、かつて衰退産業と呼ばれていました。ニトリは、その大ピンチのときに「今のように家具を売っているだけではダメだ」ということに気づき、アメリカのような住まいの豊かさを日本の人たちに提供することをロマンとして掲げ、経営を続けてきました。ロマンを実現させるために、扱う品種をどんどん増やしてきた歴史があります。家具から始まり、これまでにカーテンや家庭用品、寝装品などを増やし、現在では家電も取り扱うようになったりと、いろいろなことをやっています。

【白井俊之】ニトリは北海道で創業しました。北海道は、広大な地域に人口が分散し、各主要都市間の距離が離れています。さらに、高速道路などの開通率が低いにも関わらず、貨物輸送はトラック輸送に依存しており、雪深い自然環境下にある北海道の物流はとても遅れていました。そんな厳しい状況のなかスタートしたニトリは、自社で物流も手掛け、少しずつ物流の開拓を続けてきましたが、その物流が今、ニトリグループの大きな強みになっています。ですから本当にピンチというものの向こう側には、大きなチャンスがあるんだと考えています。

【白井俊之】コロナ禍の環境下で、リモートで仕事することが進みましたよね。わざわざ出張しなくても、仕事ができることがわかりました。さらに、働き方の変化が暮らしにもいい影響を与えています。出勤しなくてもいいなら、ちょっと郊外の戸建ての家で週3日過ごして、残りの日を通勤する、都内に狭いマンションを借りなくてもいいなど、いろいろな暮らし方が生まれたと思います。
いろいろなピンチが社会を大きく変えてくれ、そこには、未来への大きなチャンスが必ずあるはずです。そういう意味で、日本の未来に対して悲観的になるだけでなく、未来への可能性やチャンスを探してもらいたいと思います。

ピンチを悲観的に捉えるのではなく側面や裏側まで考える
ピンチを悲観的に捉えるのではなく側面や裏側まで考える【撮影=三佐和隆士】


ーー今の円安もそういう意味では、また新たな転換のチャンスですね。
【白井俊之】そうですね、社会が変わってくるきっかけになったと思います。これまでも為替は結構変動していました。直近ですと、2011〜13年頃に79円ぐらいから97円ほどの為替の変動がありましたね。期間としては、2年ぐらいでしたから。ただ今回は非常に期間が短いっていうところが大きな特徴だと思うんですよね。なので、直近の経験しかない人から見たら、「円ってこれからどうなるんだろう?」と不安に思うかもしれません。

【白井俊之】でも私は、いろいろな可能性があると思います。例えばコロナ禍でインバウンド消費は落ち込みましたが、これから日本はもっともっと魅力的な観光地になるかもしれないし、それによって新たなビジネスも生まれてくるかもしれない。そしてリモートワークが増えたことで、仕事のやり方がさらに変わり、もっと働きやすくなるかもしれない。
また、恐らく賃金が上がっていくと思います。今までは賃金が上がらない状態が続き、新たな賃金制度を作ろうとしても、なかなかメリハリをつけづらく難しかったと思います。これからは賃金全般が上がっていき、そういった中で一人ひとりに対し、きちっと働きに見合う賃金を払っていこうと考える時代になり、社会がどんどん変わっていくと思います。
ですから、「ピンチの向こう側には必ずチャンスがある」と、考えたほうがいいと思います。

ニトリグループには、逆風にこそチャンスがあるという考え方が根付いている
ニトリグループには、逆風にこそチャンスがあるという考え方が根付いている【撮影=三佐和隆士】


この記事のひときわ#やくにたつ
・アウトプットを変えるには、普段と違う行動でインプットを変える
・“知らないこと”は弱点になるので、常に疑問を持ち、仕事上の知らないことを減らしていく
・苦手と避けていた仕事が向いている可能性も。何事にも挑戦する気概を持つ
・ピンチの時に社会は動く!ピンチの先にあるチャンスを見据え、探すこと
・世の中が変化している時期には、ピンチもあるがチャンスも転がっている

取材・文=北村康行/撮影=三佐和隆士

株式会社ニトリホールディングス
代表取締役社長 兼 最高執行責任者(COO)
白井俊之
1955年生まれ。北海道出身。1979年に株式会社ニトリ入社。店舗や物流のマネジャー、人事のマネジャーとして活躍。時には、フォークリフトも操ったそう。創業者の似鳥昭雄さんのあとを引き継ぎ、2016年に株式会社ニトリホールディングス代表取締役社長に就任。

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