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お酒1本から無料配達!“配送の常識”を覆すカクヤスモデルは、実は多くのピンチから生まれたものだった…!!

2023/03/28 09:00 | 更新 2023/03/31 09:45
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ーーその方向転換が、結果的に今の礎になったわけですね。
【佐藤順一】ただ、配送は今のように1本から無料ではなく、1回300円の配送料をいただいていました。そして、実際にディスカウントストアをオープンすると、車で来ちゃダメって言っているのに、何台もどん突きに車が入ってきて、「近所迷惑だ!」って怒られて(笑)。自転車で来店されるお客様を想定して、商圏は1キロちょっと、1.2キロくらいに考えていたのですが、団地が近くにありそこの方たちが買いに来てくれていました。ただ、お客様は来ないと考えたから配達を仕組みとして導入したのに、初日の配達はあまりよくなかったんですよ。それで「おかしいな?」と思ったんですよね。自分だったら、郊外型の店に行ったほうが買いやすいのに、何でこの方たちは来るんだろう?と。

ーー確かに郊外型のほうが、車だったら買いやすいですものね。何か理由があったのですか?
【佐藤順一】その理由は、郊外型のディスカウントショップは環七の外側にあって、商圏が約半径6キロぐらいだったんです。その6キロの商圏とうちの1.2キロの商圏は離れていて、そもそもライバルとして見なくてよかったんです。うちの1.2キロの商圏には、いくつかの小さな酒屋さんが小売で売っていて、その中でウチ1軒だけが安売りをしていたんです。だったら、来ちゃいますよね。そんなことも調べずに配達を始めたのですが、キャッシュフローは大幅に改善しました。初めから知っていたら、配送はやらなかったですよね。

ーー配達はそういう早とちりから誕生したんですね。
【佐藤順一】ただ、周りの酒屋さんは配達料は取っていなかったんですよ。酒屋ですから。お客様からも「値段が安いのはうれしい。ただ、なぜ配送料を取るんだ?そもそも酒屋としておかしい」という声も届いて。「そうかー!」と思いましたね。もともとこの配送の値段設定は、バイトの時給が1000円だったとすると、1時間で3軒配達できたらペイできるという試算によるものだったんです。そこで、ご来店とお届けの売上高対人件費を比べて、その差額だけ頂戴するなら根拠があるだろうと考え試算したら、両方とも7%という数字が出たんです。要は、来店して購入と購入してお届けする人件費が同じだったんですね。これは、お届けする場合は1回あたりの購入単価が高かったからなんです。それで、1万円以上配送無料にしたんですけれど、「ビール2ケース買っても1万円にならないから意味がない」と言われ、その次は5000円以上にしたんですよね。それでも「ビール1ケースじゃ来ないのか」と言われ、3000円にしたんですよ。

ーーお客様との、ギリギリの駆け引きが続いていたんですね。
【佐藤順一】でも、ちょうどそのころ、売値の相場が2880円という発泡酒が登場したんです。すると、きっと「発泡酒1ケースじゃ来ないのか」って言われるだろうなと思って、こっそりその配送料を外したんです(笑)。実はこれがカクヤスの無料配送のはじまりです。

当日、1本から無料でどこにでも届けてくれる、カクヤスの軽バン
当日、1本から無料でどこにでも届けてくれる、カクヤスの軽バン【写真提供=株式会社カクヤスグループ】


ーーそのころには配送も増えていたのですか?
【佐藤順一】まあまあ増えていましたよ。でも、まだまだ店頭のほうが圧倒的に多くて、最初の1年ぐらいは店頭9割、配送1割ぐらいでした。あの当時、TV番組で取材を受けて「何で配送を続けたの?店舗販売に特化したほうがよっぽど合理的じゃないですか?」って言われました。そのとき、「いやぁ、1回始めちゃったら、なかなかやめられないですよね〜」っていうような回答をした覚えがあります。

規制緩和で競争相手が大手企業に。カクヤスモデルの原型が誕生

規制緩和で安売りという武器がなくなり、消去法で辿り着いたのが、当日無料配送というサービスだった
規制緩和で安売りという武器がなくなり、消去法で辿り着いたのが、当日無料配送というサービスだった【撮影=オオノマコト】

ーー結果的には続けていてよかったですね。
【佐藤順一】結果的にはね。そして、なんとか28店舗まで増やしたんです。すると、今度は1997年に免許の規制緩和が決まったんですね。今まではディスカウントショップと酒屋さんだけが競争相手だったのに、2003年9月からは、イオングループやセブン&アイ・ホールディングスとか、大きな競争相手と戦うことになったんです。さらに悪いことに、1996年をピークにお酒のマーケットが縮小に転じていました。

ーー1996年からマーケットが縮小したことによって、どうなったのでしょうか?
【佐藤順一】切り札だった価格が封じ手になるわけじゃないですか。「どうやっていくんだ?」と悩みましたよ。2、3店でこじんまりやっているんだったら、それもまだあるかもしれないけれど、30店近く出店しちゃっているし、社員も何百人もいる。どうしようかなと。もう、店頭での勝ち目は全く感じられなかったですね。だって、スーパーマーケットのほうが圧倒的に買いやすいし、お酒だけでなく日用雑貨から何でもそろうし。お酒だって目玉に使ってくるじゃないですか。だから、「店頭では勝てっこないな。利便性だったら圧倒的にコンビニが強いし。すると…、宅配か?」みたいな話になる。

【佐藤順一】当時、ウチの宅配は無料配送を実現していたけど、注文をもらって行けるときに行くみたいな感じでした。月曜の朝の注文は月曜中に届くんです。月曜の昼過ぎの注文は火曜になる。ただ、火曜の昼過ぎの注文は水曜にも間に合わなくて木曜になっちゃうっていう。そして土、日曜が業務用の配達受付が休みだったので、土日に業務用の人たちが出社して残業して間に合わせるっていう、そんなお届けシステムだったんですね。だから、2、3日のうちには来るかなっていう、そんな感じでした。でも、ディスカウントで無料配送という部分が支持はされていたので、売れてはいました。でも、これじゃなんかあんまりおもしろくないなっていう思いはありました。“お届けで勝つ”ということは、ある意味、大手配送会社に勝つという話であり、これはセブン&アイ・ホールディングスに勝つより大変かもしれないと思いながらも、とりあえずお届けをお客様のサイドに立ってもう一回見直してみることにしました。

ーーそのころは当日配送をしている会社はなかったですよね?
【佐藤順一】そうですね。大手配送会社も、翌日とか翌々日ぐらいだったと思います。でも、ウチはとりあえず月曜の朝は当日に行けていました。なので、お店の車両や人員を増やして届いた注文をその場で全部捌いたとすると、どのぐらいで届けられるんだろうと、いろいろ試算したら2時間って出たんです。だから当日に注文をもらって、2時間以内には届けることにしましょうと。

【佐藤順一】あと、エリアの制約もありました。理想はどこにでも行きたいんですよ。日本全国は無理だけれど、せめて東京23区配送可能って言えないかな?23区内だったら2時間以内に1本から無料配送。これは大手配送会社にもできないだろうと考えました。考え方は、店舗から1.2キロ以内の配達範囲で東京23区すべてをカバーするとなると、137店舗必要だったんです。2000年当時、28店舗だったのであと100店舗を2003年9月の免許緩和までの3年半で出店させる決心をしました。ところが、これまでの経験だとどの店舗もだいたい半年で黒字転換したのに、新店舗が一向に黒字にならないんですよ。最初の1年間で出した店舗がすべて赤字でした。「何で?何でなんだ!?」と焦りましたよ。

業務用の配送を担う、カクヤスのイメージカラーピンクをまとったトラック
業務用の配送を担う、カクヤスのイメージカラーピンクをまとったトラック【写真提供=株式会社カクヤスグループ】


ーーすべてが赤字って予想外ですよね。その理由は何だったのですか?
【佐藤順一】これまでは、価格戦略で勝負していましたが、配送の付加価値戦略にシフトしていたので、お客様にサービスが浸透するのに時間がかかるんですよね。価格は地域最安値を出せば売れますが、配送は使ってみないと評価できないんです。これを黒字化するのに3年くらいかかるんです。今でも新店を出すと2年は赤字ですから。このことも先にわかっていたら、やっていないですよね。半年で黒字になると思っていたのに、100店舗中70店で赤字を出しちゃって。銀行から「何やってるの?」って言われて。「いや、これ全部できたら、ひとつの物流インフラになりますよ。すごくないですか?」って答えたら、「そうは思わない」と冷ややかな目で見られましたね。ただ、走り出してしまったので途中で止めるわけにはいかず、結果的に120店舗を出店して23区内どこでも2時間で、1本から無料配送というサービスを2003年の6月ぐらいにリリースできたんです。ギリギリ9月に間に合わせました。

当日配送を業務用にも活用することで、カクヤスの三位一体モデルを確立した
当日配送を業務用にも活用することで、カクヤスの三位一体モデルを確立した【撮影=オオノマコト】


ーーでも、だからといってすぐ黒字化するわけではないんですよね?
【佐藤順一】そうなんです。ちょっとずつ売れてはきますが、これはもたないなと。1年間で何億円も赤字が出るし。作ったはいいけれど、収益化できるのは3年かかるという話ですから。それで、どうしようかと考えているときに、家庭用ではなく業務用の部分に光が見えてきたんです。今まで、業務用は留守電の注文を朝に積み込んで、ぐるっと配送して夜に集金するというルート配送を変わらずやっていたんです。都内の飲食店は、当日の注文は翌日になるのですが、カクヤスの場合は当日の注文も当日に届く。「あれ?これって飲食店はうれしくないか?」という話になり、案内してみることにしたんです。ただ、組合のつながりがあるので、酒屋を変えてくれとは言えないんです。ただ「酒屋を変えなくてもいいです。もし、今の酒屋さんに断られて困ったときだけでいいので、ウチのこの仕組みを頭の片隅に置いておいてください」と、カクヤスのチラシを都内の飲食店9万店に配ったんですよ。そうしたら、4万店のお客様から注文が入ったんです。

ーーすごい!半数弱ですね。どこにチャンスがあるかわからないですね。
【佐藤順一】もちろん、全部カクヤスに変えてくれたわけではないですよ。月〜金曜は今までの酒屋さんで購入して、土日だけカクヤスで注文するとか、忘れちゃったときだけ買ってくれるとか。でも、水は高いところから低いところへ流れるもんで、一旦、当日に届けてくれるとなると、前日に頼まなくなりますよね。飲食の場合、天気によって売り上げが左右されるので、雨や雪が降ろうものなら「今日はいらない」ってなる。だから前日に頼むのはリスクがあったんです。そんな感じで、17年くらいかけて一生懸命作ってきた家庭用の売上を、業務用が2年半くらいで抜いちゃったんです。こうして、飲食店、来店、宅配という、カクヤスの三位一体モデルが確立されていったのです。

1軒の街の酒屋からスタートしたカクヤスは「1本から無料配達」「当日配達」を強みとし、これまでの“配送の常識”を覆していく。バブル期の栄枯盛衰や酒離れによる業界の縮小という困難を乗り越え、大きく成長を遂げたカクヤス。今回のインタビュー前編では、戦略の舵取りをしてきた代表取締役会長の佐藤順一さんに話を伺った。引き続き後編でも佐藤会長に話を伺い、コロナ禍でぶつかった困難とビジネスチャンスについて深堀りしていく。

この記事のひときわ#やくにたつ
・縛りの強いルールにも必ず隙間はある。風穴を見つけて、そこから打開してみる
・先が見えないからこそ頑張れる
・“大手企業にはできないこと”を分析して、チャレンジする
・想定外の結果となっても、次の手、次の手を常に考える

取材・文=北村康行/撮影=オオノマコト

株式会社カクヤスグループ
代表取締役会長 佐藤順一
1959年生まれ。東京都出身。筑波大学第一学群社会学類卒業後、1981年にカクヤス酒店(現 株式会社カクヤスグループ)に入社。1993年に3代目として代表取締役社長に就任した。2019年に東京証券取引所市場第二部へ上場を果たし、2020年に会社分割により持株会社体制に移行。商号を株式会社カクヤスから株式会社カクヤスグループに変更した。2023年4月から、新たに代表取締役会長 兼 社長に就任する。

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