日本経済新聞社が、その年に記録的な売り上げとなった、もしくは流行した商品やサービス、事象などを発表する「日経MJヒット商品番付」。2022年の「東の横綱」として1位を飾ったのは「コスパ&タイパ」だ。その「コスパ」のよさで、テレビなどのメディアでたびたび取り上げられているのが「ドン・キホーテ」のPB「情熱価格」の商品である。

もともと、ドン・キホーテはディスカウントショップとして「驚安の殿堂」を謳っている。なかでも「情熱価格」は、ドン・キホーテならではのこだわりがふんだんに詰まったオリジナル商品を展開。現在約4000点もの商品が販売されている。また、PBと言っても、ドン・キホーテの場合は、「プライベートブランド」ではなく「ピープルブランド」。単にコスパがよいだけでなく、ユーザーから商品に対する「ダメ出し」を募集し、その声をもとに商品の改善に取り組んでいるのが大きな特徴だ。

「情熱価格」の商品は可能な限り買って食べているという中武さん
「情熱価格」の商品は可能な限り買って食べているという中武さん【画像提供=株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス】

今回は、「ドン・キホーテ」を運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のSPA推進部PB販促課の責任者である中武正樹さんを取材。「情熱価格」の「ピープルブランド」としての姿勢やダメ出しへの思いなどについて話を聞いた。

「PB」を「ピープルブランド」と銘打った理由とは?

「お客さまの声をカタチに」というブランドメッセージとともに、「情熱価格」がドン・キホーテのPBとして誕生したのは2009年10月のこと。ドン・キホーテのオリジナル商品として、実にさまざまな商品が生み出された。

それから約12年たった2021年2月に、新たなブランドメッセージ「ドンドン驚キ」を掲げて「情熱価格」のリニューアルを実施。併せて「ピープルブランド宣言」を行った。この「ピープルブランド宣言」にはどのような思いが込められているのだろうか。

「情熱価格」のサイトに掲載されている「ピープルブランド宣言」
「情熱価格」のサイトに掲載されている「ピープルブランド宣言」【画像提供=株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス】

「“プライベートブランド”だと、その会社の所有物といったイメージを私たちも持ちますし、お客さまにも持たれてしまいます。そうではなく、『お客さまと一緒に創り上げるブランドである』という決意を表して、『ピープルブランド宣言』をさせていただきました」と中武さんは語る。

ドン・キホーテでは、店舗ビジョンに「お客さまが『ワクワク・ドキドキ』する 便利さ、安さ、楽しさを実感できること。」を掲げ、「CV+D+A」(コンビニエンス+ディスカウント+アミューズメント)をコンセプトとして店舗を運営してきた。しかし、「そういった思考を持った企業が出しているPB商品にも関わらず、どこか凡庸でおもしろくないものになってしまっていることを課題として感じていた」という。

「私たちはディスカウンターなので、価格的な魅力は常に追求しています。でも、価格でしか勝負できないような商品では、将来を見据えたときによいとは言えません。また、お客さまに楽しんで買い物をしていただける商品になっているかという視点に立ったときに、企業イメージとかけ離れた商品では魅力がないという点も課題となっていました」

「ピープルブランド宣言」は、“もっと、ドン・キホーテらしい商品を開発する”という宣言だったのだ。

特設サイト「ダメ出しの殿堂」でユーザーの声を集めて改善へ

そこでドン・キホーテでは、凡庸さを払拭して思わず手に取りたくなる「驚きのニュース」がある商品を届けるために、リニューアルのタイミングでコミュニティサイトとして「ダメ出しの殿堂-情熱的改善要求-」(以下、「ダメ出しの殿堂」)を開設。そこからユーザーが情熱価格商品に対してダメ出しを投稿できる仕組みを作り上げた。

「ダメ出しの殿堂」を見ると、現在ダメ出しを募集している商品と、そこに寄せられた「みんなのダメ出し」を見ることができる
「ダメ出しの殿堂」を見ると、現在ダメ出しを募集している商品と、そこに寄せられた「みんなのダメ出し」を見ることができる【画像提供=株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス】

現在は毎月1回、月末の金曜日にドン・キホーテがピックアップした10個程度の商品を「ダメ出し対象商品」としてサイトに掲載。これらの商品についてユーザーからの「愛あるダメ出し」を募るスタイルをとっている。

「ピックアップする商品の選定理由はまちまちですね。思惑どおりに売れなかった商品の『どこが悪いか』を教えていただくことが目的のこともあれば、すでに人気のある商品をよりよくするためにあえて掲載することもあります。寄せられているダメ出しは、平均して毎月2000件ほど。ダメ出しって、期待していないものにはしないことだと思うので、厳しいご意見だったとしても全部ありがたく拝見しています」

ユーザーからのダメ出しの対象は、パッケージデザインから商品名、カラー、サイズや量、使い勝手など実に多岐にわたる。すべてのダメ出しに応えられるわけではないが、届いた声にはすべて目を通して情報を精査し、どこを改善するかを決めていく。

「例えば新商品を開発したときって、私たちはお客さまが喜ぶと思ってお披露目するわけです。でも、思ったほど支持されないときというのは、私たちの独りよがりになってしまっている可能性がある。そこに対してお客さまが『私たちが求めているのはそうじゃないよ』と教えてくださるわけです。こちらから発信するだけでなく、お客さまから『ここを変えてくれたら買うのに』という思いがストレートに伝わってくるので、『ダメ出しの殿堂』は本当にありがたい場所ですね」

「ダメ出し」をもとに改善し、売り上げが1.8倍に

「ダメ出しの殿堂」の開設から約2年。実際、ダメ出しをもとに改善し、大きく売上を伸ばした商品がある。冷凍パスタの「ヤバ盛り」シリーズだ。もともとは「大盛り」と銘打った360gの商品だったが、「もっと量を増やしてほしい」「麺だけ多くてもソースが少なくて物足りない」といった声をもとに、麺とソースの量を見直し。400gに増量して売り出したところ、1.8倍も売上を伸ばした。

改善後に売上を大きく伸ばした冷凍パスタの「ヤバ盛り」シリーズは全5種類。人気の商品となっている
改善後に売上を大きく伸ばした冷凍パスタの「ヤバ盛り」シリーズは全5種類。人気の商品となっている【画像提供=株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス】


「女性のお客さまからの『大盛りという文字がデカデカと入っていると恥ずかしい』という声を受けて、パッケージのフォントを少し控えめにして『大盛り』から『ヤバ盛り』とネーミングを変えて打ち出しました。もしかしたら『ヤバ盛りにしたところで恥ずかしさは変わらないよ』というダメ出しをまたいただくかもしれませんが(笑)、1回リニューアルをしたら終わりではないので、必要に応じて改善していく予定です」

ユーザーからの要望を聞き、その要望に応えて改善。すると、ユーザーが喜んで買ってくれて売り上げが伸びる。非常にいい循環にはまった商品だと言える。

ユーザーの「ダメ出し」により、よりよい商品へ

一方で、お客さまからのご意見をいただき、はっとさせられることもあるという。「電動自転車をお買い物に使う方向けに開発したのですが、スタイリッシュに見せるために、かごを小さめにしていたんです。すると、『買い物用に使うにはかごが小さいよ』といったダメ出しをけっこういただいて。基本的なところを見落としてしまっていたんですね。『そもそもの話だよね』と反省し、すぐにカゴとバッテリーの容量を大きくしたということがありました」

「ダメ出し」をもとに、カゴを大きく変えた『電動アシスト自転車 EVA PLUS2』
「ダメ出し」をもとに、カゴを大きく変えた『電動アシスト自転車 EVA PLUS2』【画像提供=株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス】


また、「スマモッチャー」という名前で売り出されていたWi-Fi接続のスマホ連携ネットワークカメラは、ユーザーから「どんな商品かよくわからない」というダメ出しがたくさん寄せられたことで、「留守番名人」という名前に名称を変更した。

「もともとの商品名である『スマモッチャー』は、『スマート・見守る・ウォッチャー』を組み合わせた造語でした。しかも、パッケージは『SMAMOTCHER』とアルファベット表記にしていたので、ますます何の商品かわからなくなってしまって……(笑)。『カメラの画角をもう少し広くしてほしい』というご要望と合わせて名称を変更し、リニューアルしました。『留守番名人』という新しい商品名は、お客さまのダメ出しでいただいた名前をつけさせていただいたんですよ。伝わらないと意味がないので、カッコつけたらいけないなとあらためて感じました」

ダメ出しを見ると、名前やパッケージへのものが多かったが、「改善されれば欲しい」という声も見られた「留守番名人」
ダメ出しを見ると、名前やパッケージへのものが多かったが、「改善されれば欲しい」という声も見られた「留守番名人」【画像提供=株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス】


こういったリニューアルを重ね、情熱価格を含む、ドン・キホーテのPB、OEM商品全体の売り上げは、前年比123パーセントという数字を叩き出している(2020年7月~2021年6月と、2021年7月~2022年6月の比較)。

「もちろん、リニューアルしたもののいまいち売り上げが伸びない商品もあります。その場合は『またリニューアルしないといけないね』という話になることはありますが、『リニューアルしなければよかった』となることはまずありません。常にお客さま色に改善し続けていかなければならないと思っていますから。ピープルブランドとして、お客さまの声をもとに改善するという姿勢は持ち続けたいですね」