――ありがとうございます。では、あらためてhomealの魅力を教えてください。
【鬼海翔】今、メニュー数としては50種類ほどあり、子どもの好き嫌いや偏食、アレルギーに対応しているメニューがたくさんあります。またすべての商品で、できるだけ塩分を使わずに減塩したり、調味料をなるべく使わなかったり、無添加の状態に限りなく近づけてつくっています。それだけだと単に味の薄い商品になってしまうので、鰹だしを朝一番から取ってそれを使った和風メニューをつくったり、野菜だしや鶏だしなどのブイヨンを取ってそれを生かした洋風メニューをつくったり、やさしい味のメニューが多いのが特徴です。

【鬼海翔】“やさしい味”はもちろん子どもが食べてもちょうどいいのですが、女性の一人暮らしや年配の方など、大人の方でもヘルシーでちょうどいい味付けになっているので、「普通の市販品は味が濃い」という人にとっては上品な味として評価されています。3世代で食べられるところが私たちの一番の特徴ですね。ほかの幼児食や離乳食の商品は子ども用に子どもの味付けでつくっていることが多いのですが、私たちが考える幼児食で一番大事なことは、大人がおいしく食べてそれを見た子どもが「おいしそうだな」と思い、まねして食べること。それによって食への興味を持って、いろいろ試すという行動につながります。これは協力先の保育園の先生も言っていたことなのですが、保育園では当たり前に行われていることをちゃんと家でもできるように、それをECや冷凍食品というテクノロジーを使ってやっているのがhomealの特徴です。

――確かに、言われてみれば当たり前のことですが、子どもは大人や近くにいる人が食べているのを見て「おいしそう」と思ったり、食に興味を持つんですね。
【鬼海翔】私たちもいまだにそうじゃないですか。テレビで芸能人の方がおいしそうに食べているのを見て「あそこに行ってみよう」と思うように、子どもはそれがより敏感なので、子どもが「真似したい」と思える状況をつくることを一番大事にしています。

大人も子どももおいしく食べられる味付けを追求
大人も子どももおいしく食べられる味付けを追求【撮影=藤巻祐介】


――薄味というか、「本来の旨味を知る」ことを形成していかないといけないですよね。「味が濃いもの=おいしい」という方程式が浸透しがちななかで、子どもの頃にそういう食べ物に出会うことは大きい意味を持つ気がします。
【鬼海翔】そうですね。「生まれてから2歳までの1000日間の食べるものでその子の将来的な肥満のリスクや健康状態などが決まってくる」という研究結果もあるくらいなので、幼少期における食の重要性は高いです。加えて、噛む・咀嚼すること自体に脳にすごくいい影響があって、噛むことによって生み出される考える力やコミュニケーション力、地頭など、あらゆる脳の発達における神経系の発達が、6歳までに90%完成すると。ですので、食事から得られる刺激は、その子の将来的な成長にもすごく大事になってきます。

【鬼海翔】幼少期の食事は大事だとみんなわかっているけど、先ほど話したように生産コストや売上のことなど、大人の都合でできていないことばかりで。でも、そこを一旦置いておいて、子ども目線で、子どもファーストで、子どもの成長のために考えたらもっとできることがたくさんあると思いますし、それをスタートアップという組織形態で始めているのが私たちのチャレンジですね。自分たちのやっていることがいろいろな会社に広まり、いずれ日本の当たり前になっていくことができれば、存在意義があるのかなと思っています。

――尊い仕事ですね。次に、homealの商品づくりのこだわりについて教えていただけますか?
【鬼海翔】私たちの生産のスタイルとしては、まず、全国に提携している工場が15カ所ほど、北は青森から南は九州まであります。たとえば青森だと、冬のほうれん草やにんじんは栄養価も高く、すごくおいしいんです。こうしたほうれん草を使ったドリアやにんじんラペなど、現地の食材、現地のシェフ、現地のスタッフさんがつくる料理を、つくりたての状態で急速凍結という冷凍テクノロジーを用いて凍結し、関東に借りている倉庫に送ってもらいます。その倉庫に商品のストックが大量にあるので、注文をいただいたらそこから全国に発送するスタイルです。

【鬼海翔】地域ごとの特色や、現場のスタッフさんなどの地域柄や特性もあったりするので、工場や地域に合わせたメニューを開発することをすごく大事にしています。工場へ行くと朝から鰹だしの匂いが外にいてもするような、すごくいいだしをとっている工場もありますし、イタリアンやフレンチのシェフがいる工場もあります。それぞれの得意分野と、現地で取れる食材とを巧みに組み合わせて、世の中になかったメニューを生み出すというのがおもしろいところですね。

――それは贅沢ですね。子どもたちが手の込んだ料理を楽しめるという。
【鬼海翔】メニューによってはシンプルなものも多くて、人気の商品としては「いわしそぼろ」という、山形で水揚げされたいわしを現地の工場で骨ごと全部柔らかく煮てからフレーク状にして、冷凍のチャック袋に入ったものがあります。家に届いたら、そのままふりかけのように温かいご飯にかけるといい感じに解凍されるので、おにぎりにしてもいいし、朝ごはんで食べてもいい。原材料は鰯と塩のみ。表示を見れば余計なものが入っていないし安心だな、というシンプルさです。ただ、シンプルすぎると、味が抜けてしまうというか、味を感じなくなってしまうので、最小限、コクのあるだしやブイヨンをうまく使った商品開発というのが、他社にはなくてうちでできているおいしさの一番の特徴というふうに捉えています。

――サービスがグロースにつながった要因についてはどう分析されていますか?
【鬼海翔】ひとつは、とにかくクチコミがすべて。私たちの商品はママやパパが使うことが多くて、いい評判も悪い評判も早く広まってしまうんです。だから、とにかく「いいものをつくろう、体験価値を高めよう」と取り組んでいます。マーケティングに着手したのはかなり後半で、いま会社は4期目なのですが、3期目の最後の月くらいからようやくマーケティング活動に資金を投じはじめました。それまでは、「とにかく体験にこだわろう」と。悪いものを広めたら崩壊するのも早いので、その部分は初期からずっとチームメンバーとも意思を統一しながらやってきました。食品における体験は「おいしさ」が大切ですよね。加えて、私たちの場合だと「子どもが食べておいしい、親が食べてもおいしい、安心できる」こと。これらの要素を満たす体験をつくるまでに3年ほど時間をかけて、いまようやく、ここから本当の意味でのスタートという感じです。

――たしかに、クチコミはリスクも大きいですね。いいものも、悪いものも、広まるのが本当に早い。
【鬼海翔】あっという間に広まりますよね。根も葉もないことも広まりかねない時代なので、どの会社、サービスもそうですが、お客様がいかに自社のサービスを愛してくれるか、そういう方々がインフルエンスしてくれることが大事で、「有名なインフルエンサーがいるから」ということではなくて、一人ひとりのユーザーがインフルエンサーで、LINEのママ友グループで共有していただいたり、友達紹介をしていただいたり、そういう割合が当初から多かったのが特徴ですね。

「納得できる体験をつくるまでに3年ほど」かける徹底ぶり
「納得できる体験をつくるまでに3年ほど」かける徹底ぶり【撮影=藤巻祐介】


――ベースとして「いいものであること」が条件ですよね。
【鬼海翔】はい。皆さん、目も舌も肥えているので。中途半端なサービスは広がりにくいし、クチコミされにくいというのは感じます。

――ユーザーの集客は具体的にどのように行っていますか?
【鬼海翔】最初のころにやったキラーコンテンツとしては、“幼児食診断”という診断機能がありました。この診断経由で4万人ほどの会員を獲得できたので、かなりいい集客のコンテンツになりました。この幼児食診断も世の中に出回っていなくて、経緯としては、コロナ禍が始まったとき、私たちは誰も知らないベンチャー企業だったのですが、その環境の中で「できることをやろう」ということで、いろいろな取り組みをしていました。私たちの取り組みを見たユーザーから「どうやらhomealに幼児食の相談ができるらしい」というクチコミが広まって、メールなどでものすごい量の相談が届いたんです。内容は「子どもの保育園が来月からお休みになってしまうので栄養が取れるか心配」とか、「家でどんなご飯を用意したらいいんだろう」とか、子どもの食事や栄養に関するさまざまな相談が、設立1〜2カ月のベンチャーに殺到しました。

【鬼海翔】「みんな困っているんだ」と、あらためてニーズを確認すると同時に、当時カスタマーサポートの体制も全然なかったので、オンラインで無料診断ができて、いまの栄養バランスの状態などがより手軽にわかれば、みんなが助かるし安心できるかなと考え、診断機能をつくろうと決め、約2〜3カ月でリリースしました。幼児食診断の広告やマーケティングはゼロだったのですが、クチコミでどんどん広がっていって会員が4万人を超えるまでになっていきました。価値のあるコンテンツをつくると、いろいろな方がインフルエンスしてくれて、特にマーケティングをしていなくてもユーザーが増えていくということをすごく体感しました。