――ありがとうございます。続いて、 “大人も一緒に楽しめる”サービス設計にした理由や背景について教えていただけますか?
【鬼海翔】私がこのサービスを始めたいと思って仮説検証をしていた半年の間に、自分の子どもの保育園で保育参加があったんです。コロナ前だったこともあって、1日1組だけ親が子どもと保育園で同じ体験をするという取り組みで、朝から保育園へ行って一緒に遊んだり一緒にご飯食べたりするこの取り組みに参加したら、昼ご飯がすごくおいしくて(笑)。子どもも保育士さんも同じものを食べていて、すごく楽しかったんですよ。なんでこんなにおいしいのかなと考えたら、みんなで食べるという安心感もあるし、味自体も、たとえば鶏の照り焼きでも濃い照り焼きではなく、だしが効いた醤油ベースの照り焼きで、ものすごくおいしかった。一つひとつの味が、私には京料理のような素材を生かした味ですごく上品に感じて、「これだったらうちの子も食べているし私も食べたいし、みんな食べたいよな」と。

【鬼海翔】そういうものって「世の中にないよな」とあらためて思い、みんなで食べることの価値はすごくあるなと。いろいろな管理栄養士さんや保育士さんに聞いても、そのことをすごく重視していて、もともと私も離乳食のような幼児食をつくろうと思っていた時期があったのですが、複数の専門家から「それはあまりお勧めしません」と言われました。離乳食は離乳食でいいけれども、幼児食はやっぱりみんなで食べることが大事だから、子ども用に特化して開発されたレトルトカレーとか、悪くはないが保育士の目線からすると「あまりお勧めできない」ということを言われて「なるほどな」と納得しました。子どもと大人が一緒に食べられるくらい味・品質にこだわったものをつくろう、と。そこが出発点というか、きっかけになりました。

――「パーソナライズ幼児食診断」やLINEを活用されるなど、新しいアイデアはどう生まれてくるのでしょうか?
【鬼海翔】私を含めて子育て世帯のメンバーが多いので、サービスが“自分ごと”ということが特徴だと思います。「こういうのがあったらいいな」とか「親目線でこれはこうしたほうがいいな」とか、一人ひとりのメンバーが自分たちのサービスのペルソナであるところが根本的な強みだと感じています。あとはやっぱり、やりたいと思ったことをEC上でどう実装すればいいか、テクノロジーが5年前、10年前からかなり進化しているので、すごくスピーディーにノーコードでできたりする。そこが私たちにとっては助かっています。

【鬼海翔】いまだにエンジニアは1人だけですし、そのエンジニアも正社員ではなくパートナー契約という形なので、人件費としてはそこまで多くないんです。実は正社員はまだ「0人」なんですよ。正社員がいるからビジネスがうまくいくというフェーズではまだなくて、まずは体験や商品の価値をあげていく段階だったので、経営のリソースもコントロールしながらやっています。そういう意味では、「この企画やりたいな」と思ったときに、なるべく動きやすい体制とテクノロジーがちゃんとあること、私たち一人ひとりが企画マンだというのはポイントかもしれないですね。

「メンバーみんながペルソナであり、一人ひとりが企画マンであることが強み」
「メンバーみんながペルソナであり、一人ひとりが企画マンであることが強み」【撮影=藤巻祐介】


――いろいろな選択肢を上手に活用されている印象です。おっしゃるように社員を抱えることで行動を制限してしまうところもありますよね。
【鬼海翔】日本の法律だと特にそうですね。そういう判断がしやすくなったのも今の時代だからかもしれないですね。たぶん10年前だったら、自分たちでエンジニアを何人も雇って、自分たちでコードを書いて、半年かけてようやくECサイトができて、正社員を雇って営業して、という、めちゃくちゃ高コストだったと思います。いまだと副業や業務委託のメンバーでチームができますし、ECサイトも1日あればできてしまうものがたくさんあるので、チャレンジしやすい環境であることは間違いないですね。

――鬼海さんが、仕事において大切にしていることはなんですか?
【鬼海翔】先ほどの話とかぶりますが、“できないことはやらない”ということです。「できない」とちゃんと言う。私自身、パフォーマーとしての気持ちやメンバー的な気持ちがまだあるのですが、経営者・リーダーでもあるので、自分が全部やってしまうとメンバーは何をやっていいのかわからなくなってしまう。「これは自分がやらないほうがいいな、任せたほうがいいな」と思うことは、「私はやりません」とはっきり言います(笑)。最初の1年くらいはメンバーも私を含めて2、3人だったので、そんなことも言っていられず、工場でつくってもらったものを今の提携倉庫ではなく、自宅や事務所のようなところに送ってもらって業務用冷凍庫で保管したり、マンションの1室で朝から夜まで発送作業をやっていたこともありました。こうした時期を経たうえで、いまは30名くらいのチームになっています。

【鬼海翔】それから、homealというこの会社が目指すものや大事にしていることをちゃんと言葉にしたり、自分が体現できるように意識しています。そこがないと集う意味があまりないというか、正社員でもなく、じゃあなぜhomealに関わっているのかというと、自分の子どもにもこれを経験させたいとか、意義があることだと思って関わってくれる方がありがたいことに多いので。ちゃんと意義があることを言葉にしたり、私自身が発信したり、行動で示したりしないと、リーダーとしてはよくないかなと思っています。大事にしていることはそこだけですね。

――常にみんなに“わかる形”にしておくことが大事なんですね。
【鬼海翔】というものの、現在は良くも悪くも、鬼海というリーダーがいたうえでのメンバーの集いみたいになっているので、これからたとえば正社員を入れ始めたりして規模が変わるとそれももちろん変わってくると思うのですが、前職で人事領域のこともやっていたので、やってはいけないことなどに気をつけながら組織をつくるようにしています。

――一方で、”任せる”のは、難しいことでもありますよね。
【鬼海翔】「任せていいもの」と「任せてはいけないもの」があると思っていて、私の場合は「商品販売の最終決定は絶対に任せない」と決めています。最後の味のジャッジは自分でやる。そうでないと自分でお客様に説明できないし、なにかあったときにも最後の意思決定が「なんかいいなと思ったので」とか「いいと聞いたので」では、そんなサービス嫌じゃないですか。私たちの仕事のコアバリューは、やっぱり商品開発であり味だと思っているので、そこに関しては最後まで自分でやると決めています。一方で、たとえばLINEでキャンペーンをやるとなったときに、告知文や画像の選定や、その“てにをは”まで口出ししてしまうと口うるさい上司になってしまうので、そういうものは一緒にやっているメンバーに任せたりして、仕事の程度と粒度は意識してやっています。

――ありがとうございます。では最後に、鬼海さんの今後の野望を教えてください。
【鬼海翔】ありがたいことによく聞かれるのですが、野望といえるものは本当になくてですね…(苦笑)。でも、いま新しくチャレンジをしているのが、幼児食という概念を包含したリブランディングです。先ほどお話しした「家族みんなで食べられる」って、もはや幼児食という言葉には含まれていないですよね(笑)。お客様が「私(大人)もおいしかったので」という理由で買い続けてくれたり、祖父母にプレゼントとして贈り続けてくれる方もすごく多いんです。おじいちゃん・おばあちゃんもおいしくて、お父さん・お母さんもおいしくて、子どももおいしいという概念・コンセプトはよく考えたらあまりなくて、これを私たちはつくろうとしています。これを、来年(2023年)春ごろに情報リリースしたいと考えていて、そこが私たちにとっては大々的なグロース、homealの“第2章”みたいな感じですね。

【鬼海翔】homealという名前・ブランドは「ホーム」と「ミール」の造語で、「ホーム」には家族という意味やおうちの安心感などいろいろなものがあって、そういう意味でいうと、もともとの思いとしても子どもだけにこだわることもないですし。このコンセプトを日本の当たり前にしていくことができたら、この会社を立ち上げた意味があったのかなと。そういう文化、カルチャーをつくることが、私の野望というか人生を懸けて「やると決めたこと」です。

「homealの“第2章”にもご期待ください!」
「homealの“第2章”にもご期待ください!」【撮影=藤巻祐介】


この記事のひときわ#やくにたつ
・「変えられるもの」と「変えられないもの」を見極め意思決定をする
・クチコミがすべてであり、一人ひとりのユーザーがインフルエンサー
・「任せていいもの」と「任せてはいけないもの」の線引きをしてタスクを割り振る
・リダーとして目指すものや大事にしていることを伝え、かつ体現する

取材・文=浅野祐介、山本晴菜、撮影=藤巻祐介