台湾発、漢方のライフスタイルブランド「DAYLILY(デイリリー)」。おしゃれなデザインと高い品質から、若い女性を中心に人気を集めている。これまで、日本ではあまり馴染みのなかった漢方がなぜ受け入れられたのか。DAYLILYの特徴、魅力について、共同創業者のおふたりに話を聞いた。

DAYLILY共同創業者の小林百絵さん(左)、王怡婷さんにインタビュー
DAYLILY共同創業者の小林百絵さん(左)、王怡婷さんにインタビュー【撮影=薮内努】


――まずは早速ですが、DAYLILY立ち上げの背景について教えてください。どういった思いから立ち上げましたか?
【小林百絵】そもそものお話をすると、私たちは同じ大学院に通っていて、そこで彼女が漢方のことをテーマにした修士論文を書いていて、研究室でそれを手伝ったり一緒に調べたりしていました。そのなかで、彼女から聞いた台湾の漢方の話がすごく魅力的というか、日本人の私からすると同じアジアなのに、漢方の日常での取り入れ方がどうしてこんなに違うのだろうと思い、興味を持ったのが最初のきっかけでした。本人は逆に、日本に留学して、どうして日本にはこんなに漢方がないんだろうってびっくりしているという感じで。

DAYLILY JAPAN株式会社CEOの小林百絵さん
DAYLILY JAPAN株式会社CEOの小林百絵さん【撮影=薮内努】


――やっぱり違いますか?たしかに日本では、あまり漢方に接することがないですよね。
【王怡婷(オウイテイ)】そうですね。日本は漢方薬局などの薬局に行かないと漢方を買えないのですが、台湾ではいろいろなところにあるので、自分の体を調整したいときに簡単に漢方を活用できていたのですが、日本に来て全然できなくなってしまい、違和感を覚えました。

DAYLILY JAPAN株式会社COOの王怡婷さん
DAYLILY JAPAN株式会社COOの王怡婷さん【撮影=薮内努】


――小林さんも王さんの話を聞いているうちに興味を?
【小林百絵】もともと漢方にすごく興味があったというわけではありません。彼女の話を聞いて、何となく取り入れてみたいなとは思っていましたが、日本だとハードルが高いと思ったので、日常的に取り入れられている台湾のライフスタイルがすごくうらやましいなと感じました。

――ちなみに、「DAYLILY」はどういう意味ですか?
【小林百絵】漢方のお花の名前で、漢詩などで女性を象徴するようなときにも使われるお花です。ユリ科の花でオレンジ色なので、ブランドカラーもオレンジになっています。

漢方のお花「DAYLILY」。お花の色をブランドカラーに。
漢方のお花「DAYLILY」。お花の色をブランドカラーに。【撮影=薮内努】


――おふたりの現在の仕事について教えてください。それぞれの役割についてもあわせてうかがえればと思います。
【小林百絵】DAYLILYがブランドとしてこれからやっていくことや、今後どういうふうに進めていくかという全体的なところをみんなと一緒に考えたり、今後の展開の仕方やプランづくりをしています。

【王怡婷】台湾に店舗があるので、店舗の管理など台湾まわりについて、それから商品づくりがメインの仕事です。

――共同代表という形で、意見が違ったりする場面はありますか?
【小林百絵】私たちのほかに、共同代表者にもうひとり河野というデザイナーの男性がいます。その3人とシスター(店舗スタッフ)を交えてディスカッションをすることは多くて。意見が全然違うこともあります(笑)。そういう時は話し合って、そのなかで一番いいところを見つけていく感じですね。

――いい意味で、それぞれの考えが違うということですね。
【小林百絵】いままでも、その掛け合わせのなかでいいものが生まれてくることが多かったです。

――おふたりは学生時代からのつながりですが、当時からブランドの立ち上げ、事業化といった会話はあったのでしょうか?
【小林百絵】その当時はまったくなかったです(笑)。漢方の話や漢方を日本でも習慣にしたいという話はよく聞いていましたが、当時は一緒にブランドをつくろうとまでは考えていませんでした。

――なるほど。では、おふたりのキャリアについて教えてください。ともに広告代理店出身とうかがいました。
【小林百絵】同じ大学院に通って、私はその後、電通に入社しました。広告の仕事というよりは、クライアントの新規事業支援といった形で、1年半くらい働いて、辞めて今に至ります。

【王怡婷】私は博報堂DYデジタルに入社して、1年10カ月くらいで辞めました。担当は海外クライアントのデジタル広告プランニングでした。

――電通と博報堂という組み合わせなんですね。
【小林百絵】2人とも短かったので、いたんだかいなかったんだか、という感じです(笑)。

――その頃から一緒にやろうという話が出てきたのですか?
【小林百絵】私たちは学年が違っていて、私のほうが先に卒業しました。就職して1年目の終わりくらいに、彼女の話がすごく頭に残っていて、「論文の研究テーマ、続けるの?」みたいな話をしたら、「普通に就職します」って言っていて、もったいないなって思いました。おもしろいと思ったし、これは続けて行くべきだと感じていたので、何か一緒にできたらいいなと思って、起業について相談をしたという感じです。

――小林さんのなかで、もったいないなという気持ちが強かったんですね?
【小林百絵】何か一緒にできたらいいなと思いました。

――王さんは「一緒にやってみない?」と誘われて、すぐに「いいよ」と答えたんですか?
【王怡婷】その場で「いいですよ」と、即答でした(笑)。論文を書いていたときから、ずっとあったらいいなと思っていましたし。でも、起業をしたこともないから、とりあえず会社に入って勉強をしようと。そのとき誘われて、自分のなかでもずっと欲しかったものなので、すぐ「一緒にやりましょう」と言いました。

――起業にあたって不安はありませんでしたか?
【小林百絵】なんとかなるかな、という気持ちでした。DAYLILYが社会に受け入れられる気がしたので、会社を辞めることにあまり抵抗はなかったです。自分たちが本当につくりたいものをつくりたいとなったら、手段として起業しかない、そういう気持ちでした。

【王怡婷】やりたいという気持ちが強かったのと、もとの立場に執着がなかったので、すぐに「辞めます」、みたいな感じでした(笑)。

――DAYLILYの特徴、魅力について教えてください。商品へのこだわりとあわせてうかがえればと思います。
【王怡婷】商品の開発では「本当に欲しいもの」を、みんなで一緒に考えています。私たち3人だけではなくて、シスターの意見も聞いて、みんなで「こういうのがあったらいいよね」「ここのデザインはこうしたらいいよね」を話し合ってつくっているので、私たちの想いと欲が入っていて、そこがすごくいいなと思っています。そして、それをちゃんと理解してくださるお客さんがいます。何人かだけで決めていくのは、たぶん私たちには向いていないので、これからもいろいろな人の意見を取り入れて、いいものをつくっていきたいなと思っています。

――ブランドを立ち上げてから、一番うれしかったことを教えてください。
【王怡婷】本当にやりたいことや本当に欲しい物を実現できること、それがすごく楽しいですし、うれしいです。「どうして世の中にこういうものがないんだろう?」とか、モヤモヤしているときは、「つくってしまえばいい」と。

――なかったものをつくっていく、と。
【王怡婷】商品もサービスもプロジェクトもそうで、楽しくやっています。

【小林百絵】本当に“みんなでつくっている”んだと思います。正直、あまり「経営をしている」と思ったことがなくて(笑)。さっき話したように、自分たちのつくりたいものをつくっていて、アーティスト活動でもバンド活動でもないけど、そういう感覚に近いです。みなさんがそれを実際に生活に取り入れてくれて、「気分が上がった」とか「美味しいな」とか「楽しいな」とか思ってもらえることが、すごくうれしいです。

本当にやりたいことや本当に欲しい物を実現できること、それがすごく楽しい
本当にやりたいことや本当に欲しい物を実現できること、それがすごく楽しい【撮影=薮内努】


――逆に、一番苦労したこと、大変だったことも教えていただければと思います。
【小林百絵】今はシスターたちがたくさんいて、大勢のチームになったんですけど、最初は3人だけで、ずっと一年半くらいやっていて、そのころは、最初だということもあって、ほぼ何もない状態に近かったので、不安も多く、それでも3人でやっていかなきゃいけない状況でした。その時期は、お互いにぶつかりあったりとか、体力的にも大変で…。自分たちでつくって、ポップアップにも自分たちで立ってみたいなことをずっと繰り返していました。それが一年半ほど続いていたので、そのころは心身ともに大変でしたね(苦笑)。

【王怡婷】苦労というか、悩んでいたことは、新しい人が入ったときに、どうやってその人が私たちと一緒に働けるようにするか。それは“教育”ではない気がしています。私より年上の人もいるし、教育という感じにはしたくなくて。今の状況や、何のためにやるかを共有して、その人が自ら一緒に動いてくれるようにすることが、すごく難しいなと思っています。最初に入ってくれたシスターたちはみんな同い年くらいなので、友達みたいな感じで簡単にできていたのですが、最近、入ってくるのは新卒の子たちで、そうすると、やっぱり上下関係ができてしまいます。それはあまり良くない気がしていて…。どうやって若い人たちを巻き込むかというところは、悩みますね。

【小林百絵】私たちは、何においても、フラットでありたいなと思っています。それはなかにいるメンバーもそうだし、使ってくださるお客さんもそうで、みんながフラットな状態をつくっていきたいです。それをどういうふうに続けていくか。人数が増えたりとか、どんどん違う世代の方が入ってくることでも変わってくるので、フラットな形をどうやって続けていくのか、そこは考えますね。

何においても、フラットでありたい
何においても、フラットでありたい【撮影=薮内努】


――みんなで同じ想いを持つことは大事、ゆえに丁寧にやらないと難しいですよね。
【小林百絵】よく組織づくりなどで、「ビジョンドリブン」であったり「やりがい」でというのはあると思うんですけど、あまりそういうことはしたくなくて。普通にみんなが同じように、表現は難しいんですけど、同じくヘルシーに気持ちよく働きたいと思っています。それをどういうふうに実現していくかというのは考え続けなければいけないところです。

――共同で挑戦するところのメリット、おもしろさについて教えてください。
【小林百絵】2人でないとできなかったですし、ひとりだったら絶対にできなかったことができているという不思議さというか、すごいなと思います。ひとりだったら、やってなかったです(笑)。

【王怡婷】ひとりだと、接触してきたものや考え方がひとり分ですが、人数が多くなると考え方や接触したものが何倍にもなるから、全部が合わさってDAYLILYになっている感じです。楽しいキャラクターというか、それが豊富な感じのブランドになっているところが、メリットかなと思います。

――逆にデメリット、難しいなと感じることはありますか?
【小林百絵】あまりないですね。周りを見ると、共同で始めてうまくいかなくなった人たちもわりと多いのですが…。

――ということは、逆にうまくいかせるコツがあるのではないかと思いますが、いかがですか?
【小林百絵】私たちって、誰が欠けても成り立たないんですよね。3人の中の誰が欠けてもDAYLILYが成立しない状態だったから、共同代表を解消することは想像できないです。“完全共同体”という感じがしますね(笑)。

【王怡婷】最近は体制ができてきて、もし誰かがいなくてもどうにかなるようにはなっています。ただ、難しいのは、自分と違う意見が出てきたときに、それに反対するのではなくて、その意見を認めること。これが最初はなかなかできなくて、違う意見が出てきたら反論したくなる。でも、それはその人の考えから出た意見だから、ちゃんと耳を傾けて自分のなかに置いておく。経験を重ねるなかでいつか納得できるかもしれないし、仮に納得はできないままだったとしても、ひとつの意見として聞いて自分のなかに置いておく、それがこの1、2年でできるようになってきました。

【小林百絵】長年、私たちが一緒にやってきたなかで、それこそ最初は「A・B・C」があったらその中からどれかを選ぶといった感じが強かったのですが、「A・B・C」をうまく融合していったら、結果、最善のものができたという経験が何回もあったことで、お互いがお互いの意見に対してすごく柔軟になりました。

――DAYLILYの今後の展開、展望について教えてください。
【小林百絵】今までは台湾と日本を中心に展開してきたのですが、もともとブランドを始めたころから、アメリカやヨーロッパなどを含めた海外にDAYLILYの商品が届く状態をつくりたいと思っていたので、今年はそれを少しずつ始めているところです。最初は欧米圏から始めていきます。

【王怡婷】海外へ広げていくことをやりたいので、一緒に頑張っています。

台湾から日本、世界へ
台湾から日本、世界へ【撮影=薮内努】


――ありがとうございます。ここからはおふたりのキャリア、シゴト観について教えてください。起業して、会社員時代と変わったことはどんなところですか?
【王怡婷】自分で考えて動くことが多くなりました。博報堂で働いたのは1、2年で、下っ端だったので、タスクがたくさんあってそれをただただ一生懸命こなしていました。でも、自分で会社をつくったら、何をやるか、戦略をすべて自分たちで決めるので、そこが一番違うのかもしれないです。最近、博報堂の同期にあったら、自分で考えたり決めたりしないといけない役割(立場)になっていたので、会社員時代との違いというよりは、当時の私と今の私が違うだけかもしれないですけど。

【小林百絵】ものづくりの面でいうと、特に大きい企業の場合は、社内向けでもクライアント向けでも、相手を説得する材料を集めるようなもののつくり方になってしまっていたと思います。調整というか、“通すための案”という視点でものを考えるようになってしまっていたなと。もちろんそうでない方もたくさんいらっしゃると思いますが。新卒の私にはできませんでした。今の私たちのつくりたいものには説明できないところも多くて、でも、その説明作業なしでつくれてしまう。その分、当然ながら、自分たちでしっかりと責任を取ることが必要ですが、自分たちで自分たちのつくりたいものを自由に柔軟につくれる、ここは大きな違いだと思います。

――おふたりが仕事において大切にしていることを教えてください。
【小林百絵】みんなで決めるときも、仕事の関係性においても、すべてにおいて、“気持ちいいかどうか”を簡単な基準にするようにしています。もともと私たちが大学院で学んだのがデザインシンキングというもので、デザイン思考についてはいろいろな解釈があるのですが、私たちが学んだデザイン思考は、「身体的なものや社会や人とのつながりも含めて、気持ちいい状態をつくっていく」という考え方で、それは今も大事にしたいと思っています。

【王怡婷】仕事を始めたばかりのころは、とにかく一生懸命にたくさんこなしたい気持ちが強かったのですが、ここ数年はバランスが大事だと思うようになりました。たくさん仕事をすれば仕事が完成するわけではないと思うようになって、仕事もして生活もして、生活からヒントを得て、いろいろな体験をして、そういったものを仕事に還元することが大事だと思うようになりました。だから、自分だけではなく、シスターにも「必ず休憩をとってくださいね」「休んでくださいね」と推奨しています。バランスが大事だと思います。

――オフの状態は消費者に近い状態ということでもありますよね。
【小林百絵】私たちの商品は、すべて日々の生活の中のものですし、この視点は大切だと思います。

――苦労したときや挫折、失敗したときの乗り越え方、考え方はご自身のなかでお持ちですか?
【王怡婷】本当に難しいことだったら、あきらめることです(笑)。自分の能力だとできないとわかったら、プロの人に頼るとか。たとえば、コーディングの作業は10年かかってもできないから誰かに頼ります(笑)。毎回、冷静になって、なぜできなかったのかを分析して、「私はここが難しいんだ」ということがわかったら、それを解決します。苦しい、つらい、嫌だといった感情を一回置いておいて、全部書き出して、ひとつずつつぶしていけば、だいたい解決できる気がします。もちろん難しくてできないこともありますが、70〜80%くらいはこのやり方で解決できると思います。

【小林百絵】そもそもあまり悩まないタイプです(笑)。悩むにしても、それをどう解決していくか、その手段のほうに考えを向けているので、あまり深く悩んだことがありません。たまにそういう手法ややり方だけではどうしても解決できないことがあって、その場合は誰かに頼るという方法ももちろんありますが、時間が解決することがけっこうあるなと思っています。じっと待つ。もちろん、待つだけの体力もなければいけないし、結局は続けることが大事なのですが、時間が解決すると思っていたほうが気が楽だったりするので(笑)、私はそう思っていますね。

――確かに、時間やタイミングを含めて答えが出ることもありますね。
【小林百絵】ありますよね。今まで何度かそういうことがあって、そう思うようになりました。

――最後に、おふたりの今後の野望について教えてください。
【王怡婷】野望というか…なんですけど、DAYLILYに関わっている人たちや周りの人たちがみんな幸せになることを、すごく、ほわっと思っているので、それを達成したいなと思っています。もう少しブランドも強くなって、もう少し商品もあって、シスターたちも幸せになったらいいなと考えています。野望ではないかもしれないですけど(笑)。

【小林百絵】私もわりと近くて、DAYLILYを始めたのも、みんなで一緒にヘルシーでいたい、私たちもそうだし、みんなもそうあってほしい、そういう想いがありました。みんなが一緒にヘルシーでいられる状態を、よりつくっていきたいと思います。

みんなが一緒にヘルシーでいられる状態をつくっていきたい
みんなが一緒にヘルシーでいられる状態をつくっていきたい【撮影=薮内努】


――その延長戦で、世界をヘルシーにする、ということですかね。
【小林百絵】はい、それが私たちのやりたいことですね(笑)。

――実際にDAYLILYを利用されているユーザーはどの層が多いですか?
【小林百絵】一番多いのが30代の方ではありますが、お店が日本橋にあったり、オンラインで購入される方も多いので、20代〜60代以上の方まで満遍なくいらっしゃいます。それぞれの方の一生に寄り添って、それぞれの方のタイミングで頼りたくなったときに、それにあったDAYLILYの商品がある状態をつくりたいので、どの世代の方にも長く使っていっていただけるといいなと考えています。

この記事のひときわ#やくにたつ
・お互いの意見を融合させて最善のものをつくる
・自分と異なる意見に耳を傾け、自分のなかに置いておく
・仕事も人間関係も“気持ちいいかどうか”を簡単な基準にする
・悩んだときは、全部書き出して、ひとつずつ解決策を考える

取材・文=浅野祐介、撮影=薮内努