文章を読んだり、映画を観たり、街中を移動したり…。私たちは普段、視覚を使って物事を行っている。これらは一見当たり前のことのように思えるが、目の見えない視覚障害者の方々にとっては困難なこと。特に、「読み書き」や「移動」に非常に苦労するという。

このような、視覚障害者の抱える不自由を解決するためのプロダクトを企画・開発しているのが、株式会社アメディア(以下、アメディア)だ。この会社は情報とテクノロジーでの障害者の自立支援を掲げ、バリアフリーマップや音声読書器といった製品を展開している。

目の見える人にとってはわかりづらい、視覚障害者の生きる世界。実際にどのような不自由や課題があるのだろうか。そしてそれらを克服するためにどのような製品を生み出しているのだろうか。今回は、アメディアの代表取締役社長であり、自身も視覚障害者である望月優さんに話を聞いた。

株式会社アメディア 代表取締役社長の望月優さん
株式会社アメディア 代表取締役社長の望月優さん【撮影=福井求】


読み書きの不自由を解決すべく、会社を起業

ーー最初に、望月さんの経歴について教えてください
【望月優】私はもともと教師でして、1980年代に4年間ほど英語の教員をしていました。そのころに学校の会議資料がガリ版印刷からコンピューターのプリンターで印刷されるようになってきました。そこでふと思ったのが、「コンピューターのことを理解すれば、点字で文字を打ち出すことができるのでは?」ということでした。

【望月優】そう思ったので教員を退職してコンピューターの勉強を始めました。方向転換したのは、コンピューターの技術が、視覚障害者の情報ハンディキャップを大幅に改善するものになるに違いない、と確信したからでした。その後、自分で製品を作るべくアメディアを立ち上げました。


ーー一念発起して会社を作られたのはすごいですね。最初に作られた製品はどのようなものでしたか?
【望月優】最初は他社の製品を一生懸命売っていました。視覚障害者のご自宅にパソコンとソフトをセットで販売しに行っていましたね。そして、1996年に自社開発の「ヨメール」という、印刷物をスキャナーで読み取って音声で読み上げるパソコンソフトを開発しました。これが後にお話する音声読書器の開発につながっています。

「快速よむべえ」一体モデル
「快速よむべえ」一体モデル【提供=アメディア】


ーー次に、貴社の事業内容について教えてください。
【望月優】弊社の事業のひとつが、印刷物をカメラやスキャナーで撮って読み上げる音声読書器の企画・開発です。こちらについては基本的にソフトを自社開発していて、ハードについてはパーツを取り寄せて、プロダクトとして組み立てています。代表的な製品としては「よむべえスマイル」と「快速よむべえ」があります。

「快速よむべえ」拡大モデル
「快速よむべえ」拡大モデル【提供=アメディア】


ーー現在、視覚障害者の方々が抱える課題にはどのようなものがあるのでしょうか?
【望月優】現在というかもともとではあるのですが、視覚障害者には2大不自由というものがあります。それが、読み書きの不自由と移動の不自由なんですね。弊社では書きについては事業をしていないのですが、読みについては先ほど話した「よむべえ」ブランドを展開しています。このような製品がなかった時代、私たち視覚障害者は文字を読むことができませんでした。

【望月優】弊社では、1996年に最初の読み上げのプロダクトを発売したのですが、そのころはまだまだ間違いも多いという状態でした。また、目が見える人に向けた文章って、広告などであれば視覚的に一瞬で入ってくるレイアウトになっていることが多く、それを機械で読み上げると文章がバラバラになってしまったり、文章の上下関係がわかりにくかったりと、さまざまな問題がありました。

「快速よむべえ」拡大モデル
「快速よむべえ」拡大モデル【提供=アメディア】


ーー世の中の文章が読み上げに対応しているとはかぎりませんものね。
【望月優】そうですね。ですが、技術の進歩のおかげで今まで以上に正確に文字を読めるようになってきています。特に、ここ数年のGoogleのクラウドプラットフォームにある認識エンジンが非常に優秀でして、どのような文章でも的確に読み上げてくれるようになりました。同時に翻訳の能力も上がっていて、翻訳と読み上げができるようになったのです。

【望月優】そのような最新テクノロジーを弊社の製品に取り入れて、視覚障害者に便利な製品を作っているというのが読み上げの分野での現状ですね。弊社のような小さな会社ではイチから認識エンジンや音声合成エンジン、AIなどを開発するのは非常に手間も時間もかかります。だからこそ世の中でよくできているものを使わせていただき、視覚障害者の不便を少しでも減らすというのが弊社のしていることになりますね。

「よむべえスマイル」
「よむべえスマイル」【提供=アメディア】


ーー製品は個人の方が購入されることが多いですか?
【望月優】そうですね、個人の方に購入していただくことが多いです。しかし、当たり前のことではあるのですが、視覚障害者も役所や図書館といった公共施設へ行くので、そのような場所にもあってもいいのではないかと思いますね。書類を読まないといけませんからね。

【望月優】また、プロダクトには翻訳機能もあるので外国語を日本語で、日本語を外国語で読み上げることも可能です。そのためにホテルや観光案内所といった場所にあると便利だと思います。日本語がわからない外国人観光客がよむべえを使って、日本語のパンフレットを翻訳して読み上げるという使い方もできると思います。なので、使い方によっては目が見える人にも需要のある製品だと思います。

ーー確かに、視覚障害者の方々だけではなく外国人の方たちが日本語をスキャンするだけで、翻訳した文章を読み上げることができるのはすごく便利ですよね。
【望月優】そう思います。ですので、もっと製品が広がってほしいなと思いますね。

「快速よむべえ」読み上げモデル
「快速よむべえ」読み上げモデル【提供=アメディア】


移動の不自由をなくすアプリ「ナビレク」とは?

ーー音声読書器のほかにはどのような事業をされているのでしょうか?
【望月優】こちらは最近始めたばかりなのですが、もうひとつの柱としてバリアフリーマップ事業を行っています。視覚障害者の道案内アプリ「ナビレク」を2016年に自社開発しました。これはGPS追跡で曲がり角や横断歩道を振動や音でお知らせし、「右へ曲がり50メートルほど直進します」といって道案内テキストを読み上げるアプリです。

【望月優】最初は自分用の地図を録音で作ったのですが、自分だけの力ではなかなか広げられません。そこで、バリアフリーマップという形で、ほかの人でも作れるような仕組みに仕上げました。この作業をする人が増えれば増えるほど、ナビレクで使用するバリアフリーマップにデータが集まってきます。現在4300件くらいのデータが集まっていますね。視覚障害者が「どこかに行きたい」と思ったら、ナビレクから道順をダウンロードして道案内をしてもらう、という使い方ができます。

「ナビレク」
「ナビレク」【提供=アメディア】


ーーナビレクではどのようにバリアフリーマップを作るのでしょうか?
【望月優】バリアフリーマップを作るツールとして、弊社で「NaviEdit」という作成ソフトを作っています。このNaviEditでは、Googleマップを参照しながら場所ごとに印をつけていきます。「右にコンビニがあります」や「30m先が交差点です」といった詳細な説明ですね。マークやポイントに結び付ける説明は、テキスト入力あるいは録音で行えます。音訳のように、すべてのガイドを録音で構成することもできます。

ーーYouTubeでナビレクの動画を拝見しましたが、道案内の音声機能よりも丁寧で、私たち目が見える人が使っても便利だと思いました。
【望月優】そうだと思います。目の見える人へのうたい文句としては「画面を見ないで歩けるから景色を楽しめるアプリですよ」と言っています。私たちは見えないですけどね。地図ならスマホの画面を見ながら歩かないといけないですが、弊社のアプリだったら景色を見ながら歩けるので、とても便利だと思います。

 アメディアでは「快速よむべえ」をはじめとした、視覚障害者に向けたプロダクトを展開している
アメディアでは「快速よむべえ」をはじめとした、視覚障害者に向けたプロダクトを展開している【撮影=福井求】


ーーナビレクはまだ始まったばかりと聞きましたが、実用化に向けて努力されていることはありますか?
【望月優】今はとにかく便利な状態をある程度構成して、視覚障害者が実際に使う状態を早く作らなきゃと思ってやっています。そのため、弊社社員や学生ボランティアの方々に協力していたいだいて、説明の入力を行っています。ある程度、実際に使う人がいて、それなりに便利だっていう評価が出ないと何も始まらないですからね。

【望月優】また、課題としてスマートフォンを使える視覚障害者がまだまだ少ないという現状もありますね。iPhoneやAndroidをバリバリ使っている視覚障害者はなかなか多くはなく、増えつつはあるもののやっぱり若い人たちだけという感じです。年を取ってから使うのは大変ですからね。ですが、最近のスマートフォンは音声だけで使えるので本当に便利になりました。


ーースマートフォンの技術もどんどん上がっていますし、音声だけでほぼ使えるようにもなってきていますね。
【望月優】そうですね。特に、AppleはVoiceOverという音の出る仕組みを初期製品から入れてるので、非常に使いやすかったです。Appleには視覚障害者のエンジニアもけっこういるようでして、そういう人たちの意見を聞きながら作っているそうなのです。そのため、私たち視覚障害者と相性のいい製品を作り出しているのかなと思いますね。だからこそナビレクをはじめ、もっと開発が進むことで視覚障害者の生活が便利になる可能性を秘めていると思います。