子どもの視力が年々下がっていると言われている。中高年になると老眼が始まる。メガネチェーン「ビジョンメガネ」は、メガネが必要な人の不安や煩わしさを減らして、「楽しいもの」へと変えようと、さまざまな取り組みを行っている。店頭に立つのはメガネの知識と技術を身につけた「メガネのマエストロ」。株式会社ビジョンメガネのマーケティング本部次長・糸川さつきさんに、店頭での接客や独自のサービス、商品開発について話を聞いた。

ビジョンメガネは1976年10月に創業のメガネチェーン。群馬から福岡まで102店舗(2023年11月時点)を展開し、メガネを中心に補聴器やコンタクトレンズ、それらの関連商品を取り扱う
ビジョンメガネは1976年10月に創業のメガネチェーン。群馬から福岡まで102店舗(2023年11月時点)を展開し、メガネを中心に補聴器やコンタクトレンズ、それらの関連商品を取り扱う【画像提供=ビジョンメガネ】


お客様の一番そばにいるメガネ専門店

――まずビジョンメガネについて、どういった事業、サービスを展開する会社でしょうか?
【糸川さつき】最近はファッション感覚でメガネを販売する店が主流ではありますが、ビジョンメガネは0歳から90歳くらいまで、老若男女幅広いお客様にご利用いただいている「総合メガネ店」です。単にメガネを販売するだけのメガネ店ではないというのを、モットーとしています。

株式会社ビジョンメガネのマーケティング本部次長・糸川さつきさん
株式会社ビジョンメガネのマーケティング本部次長・糸川さつきさん【画像提供=ビジョンメガネ】


【糸川さつき】お客様がメガネをお作りになる目的は一人ひとり違います。たとえば、お子様だと教室の一番後ろの席から黒板の文字がよく見えるようになりたい、ビジネスマンの方だとメガネによって印象を変えて商談を成功させたい、中高年の方ならスマホの地図を見ながら、景色もよく見て旅を楽しみたいなど。そんなお客様のお悩みに寄り添い、ライフスタイルに合ったメガネを提供することを目指して、「お客様の一番そばにいるメガネ専門店」でありたいと考えております。

――「メガネのマエストロ」について教えてください。
【糸川さつき】ビジョンメガネでは、販売員や本社で働くスタッフ全員を「メガネのマエストロ」と独自の名称で呼んでいます。オーケストラのマエストロは、作曲家や時代背景、演奏家の特性などを総合的に見て、いい面を引き出し、得意でない部分は補って、最高の演奏をできるように導いていく存在ですよね。我々はメガネのマエストロとして、お客様の問題を探り、それを解決して、最高の見え方やかけ心地のメガネを提案しています。

【糸川さつき】なので、お客様が「このレンズにしたい」と言われても、「このレンズでは目的の視野が得られないと思います」とはっきりお伝えしています。洋服を買いに行くと「お似合いですよ」と言われることが多いですが、メガネはお顔の印象を作るものです。本当にお似合いのものをご提供するために、時には「AよりもBのほうがお似合いです」とお伝えすることもあります。

知識と技術を身につけた「メガネのマエストロ」があらゆるメガネの問題を解決する
知識と技術を身につけた「メガネのマエストロ」があらゆるメガネの問題を解決する【画像提供=ビジョンメガネ】


――「メガネのマエストロ」と呼ぶようになったきっかけは?
【糸川さつき】本格的に導入が始まったのは2015年で、きっかけは2013年に民事再生を申し立てたことでした。当時、再生に向けて取り組むなかで、私たちが目指すべき姿をスタッフで共通認識とするためには、柱となる「行動指針」が必要だという話が持ち上がりました。

【糸川さつき】「ビジョンメガネとは何ぞや」「私たちが得意とすることとは」というのをスタッフから募ると、「メガネによってお客様の問題を発見するプロフェッショナル」というのが出てきました。それをどう位置づけて、どんな行動を取っていけばいいのか、というのを落とし込んだのが「メガネのマエストロ」です。

――共通認識として定着するまで時間がかかったのでは?
【糸川さつき】私たちがこれからも生き残っていくために大事にしたいことは現場にあるはずなので、現場の声を聞くということがスタートでした。声を集めるのに時間はかかりましたが、集めてみると似たようなものが多く、みんながぼんやりと抱いていた「私たちはこういうメガネ屋だ」というイメージが言語化でき、それが結果的に代表の安東(晃一)の思いとも合致していました。

――言語化できたことで変わったことはありましたか?
【糸川さつき】接客や商品開発、広告を出す際などに考えが迷子になったとしても、「マエストロ」の指針に立ち返ることで、それを軸に行動しやすくなったと思います。

【写真】社内教育制度「メガネのマエストロ制度」は2019年に導入。2022年に国家資格「眼鏡作製技能士」が新設されると、教育制度の内容が同資格の試験に対応した内容に刷新された
【写真】社内教育制度「メガネのマエストロ制度」は2019年に導入。2022年に国家資格「眼鏡作製技能士」が新設されると、教育制度の内容が同資格の試験に対応した内容に刷新された【画像提供=ビジョンメガネ】


――その後、「メガネのマエストロ」は教育制度としても導入されていますね。
【糸川さつき】販売スタッフを対象に、ビジョンメガネ独自の学科試験と実技試験に合格すると、ランク(S級・SS級ブロンズ・SS級シルバー・SS級ゴールドの4段階)が上がっていくという教育制度です。2019年に導入し、最近やっと「SS級ゴールド」の合格者が出てきました。全国で18名(2023年10月時点)が「SS級ゴールド」のマエストロとして店頭に立っています。

独自の保証サービスで不安を軽減

――有料の保証サービスが始まったのも2019年です。導入のきっかけは?
【糸川さつき】購入後に見え方が変化した場合、6カ月以内であれば何度でもレンズを交換できるといった無料の保証サービスは以前からありました。しかし購入してから2、3年経って不具合が起きる場合もあります。お子様なら成長期で視力やお顔のサイズが変わりやすかったり、大人の方だと40代後半になると視力の低下、いわゆる老眼が始まって1年で見え方が変わったり。でもメガネは金額も幅広く、誰もが何本も買い替えられるものではありません。

【糸川さつき】そこで参考にしたのが、家電量販店の保証サービスです。5年や7年といった長期の有料保証サービスを「メガネ版」としてできないかと、ご縁があった損害保険会社さんにご相談して「ビジョンパーフェクト保証」を開発しました。ご購入から3年であれば、メガネが壊れても、視力が変わっても、何度でもレンズやフレームを交換することができるという内容です。特に14歳ぐらいまでのお子様は視力やメガネのサイズも変わりやすいので、保護者の方にとても喜ばれています。

【糸川さつき】大人の方の中には、老眼鏡が初めてのメガネという方もいらっしゃいます。今までメガネをかけたことがないので「合わなかったらどうしよう」と不安を感じている方でも、長期の保証サービスがあると安心していただけます。また視力が変わりやすい白内障の術後の方にも喜んでいただいております。

レンズの度数変更やフレームの修理・交換などを、3年間は何度でもできる「ビジョンパーフェクト保証」(1万800円〜)は2019年1月1日に導入、2023年4月末時点で加入件数8.1万人を突破
レンズの度数変更やフレームの修理・交換などを、3年間は何度でもできる「ビジョンパーフェクト保証」(1万800円〜)は2019年1月1日に導入、2023年4月末時点で加入件数8.1万人を突破【画像提供=ビジョンメガネ】


――販売機会を失うことより、ユーザーの「安心」を優先したということでしょうか?
【糸川さつき】そうですね、買い替えてくださると、売り上げにつながるので、ありがたいことではあります。でもメガネは長く付き合っていくものです。買い換えることが煩わしかったり、出費がもったいないと感じたりして我慢して使い続けるよりは、安心してお使いいただき、3年後にまたビジョンメガネでご購入いただけることのほうが、私たちにとっては喜ばしいことです。だから、もし保証サービスをご利用されなかった場合は、ご加入いただいた金額と同等の、ビジョンメガネで使える割引券を進呈しています。

【糸川さつき】頼りにしているところをコロコロ変えて、そのたびに説明をすることってストレスだと思うんです。ビジョンメガネでは、お作りいただいたメガネや年齢、好みのほか、会話から得た情報なども、お客様のカルテに残していて、次回来店されたときにはそのカルテをもとに提案をしています。美容院のように、長く我々とお付き合いしていただけるといいなと思っています。

悩みを解決し、気持ちが上がるアイテムを開発

――続いて、自社ブランドについて教えてください。「ずれない」「壊れない」など、ユーザーの悩みに寄り添うアイテムが多いですね。
【糸川さつき】機能性メガネを得意としていて、曲げても壊れない「ケータイフレックス」は、まだ形状記憶メガネが珍しかった時代に、メガネがよく壊れるというお客様の悩みを解決したいということで、創業者が20年ほど前に開発しました。ずれないメガネの「マイドゥ」もメガネの最大の悩みと言われる「ずれる」をどうにかしたいということで、当時開発された商品です。創業者がお客様の悩みを解決しようと開発したものを今も大事に、メガネのトレンドやライフスタイルの変化に合わせて、少しずつブラッシュアップしています。

特殊構造「スーパーホールドモダン」がメガネのずれを防止する「マイドゥスポーツ」
特殊構造「スーパーホールドモダン」がメガネのずれを防止する「マイドゥスポーツ」【画像提供=ビジョンメガネ】


【糸川さつき】また、女性向けのトレンド性の高いブランドにも力を入れています。女性はしっかりとメイクをした顔に、メガネを乗せることを嫌がる方が多いんです。メガネをかけたら暗い印象になるとか、鼻にメガネの跡がつくのが嫌だとか‥…でもコンタクトは目が乾くから使えないという方もいらっしゃいます。さらにコロナ禍ではマスクをしているので見えているお顔の範囲が狭くなりました。そこで、なんとか明るく見せられるようにしたいと開発したのが、マスクを着用していてもメガネが強調されにくい「ココロト」です。商品開発の担当者は、女性にとってメガネが楽しいもの、魅力を引き出せるようなものになったらいいな、という思いを持って開発しています。

――商品企画や開発で、大切にしていることは何ですか?
【糸川さつき】ビジョンメガネは幅広い年齢のお客様が来られるので、ご要望もさまざまです。好みや目的に合ったものをお選びいただけるように、幅広い種類のフレームをご用意することを意識しています。機能性メガネを得意とはしていますが、デザイン、価格帯、素材、機能面などで、女性の方にも男性の方にも選んでもらえるようなラインナップがそろうように開発をしている段階です。

【糸川さつき】また、かけたときに「気持ちが上がる」ということにもこだわっています。どこかにトレンド感を取り入れたり、お顔が引き立つカラー展開にしたり。あとは、かけた本人だけがちょっと満足できるポイントを作っています。たとえばメガネの先セル(つるの耳にかかる部分)の内側にネコの肉球の飾りを埋め込むなど、誰にも見せない部分ですが、身につけることで自分が楽しくなれるポイントを少しずつ取り入れています。

Y2Kファッションをイメージした「ニャン ベル」
Y2Kファッションをイメージした「ニャン ベル」【画像提供=ビジョンメガネ】