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“たくあん×マヨネーズ”の滋賀県名物「サラダパン」はなぜ誕生した?たくあんではなくキャベツを使用していた過去も

2023/11/27 12:00
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私たちの日常で、なくてはならない「パン」。食パンや菓子パン、お惣菜パンなど数多くの種類が存在するが、滋賀県には「サラダパン」というものがあることをご存知だろうか?

「サラダパン」と聞くと、BLTサンドのような“サラダの具材がサンドされているもの”を想像するかもしれないが、その正体は、たくあんとマヨネーズをコッペパンでサンドしたパン。地元民からは長らく愛されているが、そのほかの地域ではあまりなじみがないようだ。さらに、その組み合わせの異質さから、「味の想像ができない」「おいしいの?」と思う人も多いはず。そもそも、たくあんとマヨネーズを合わせてなぜ「サラダ」なのか。

今回は、サラダパンを製造・販売する滋賀県のパン店「つるやパン」の3代目・西村豊弘さんに、サラダパン誕生の秘密を聞いた。

知る人ぞ知る、滋賀県のご当地パン「サラダパン」。コアなファンが多いイメージだ
知る人ぞ知る、滋賀県のご当地パン「サラダパン」。コアなファンが多いイメージだ【画像提供=つるやパン】


一体どのへんがサラダ?きっかけは「油」の進化

滋賀県北部にある長浜(ながはま)市で、1951年に創業したつるやパン。「まるい食パン」など現在までに数多くの商品を生み出し、今では地元民だけでなく観光客からも人気のパン店だ。

そんな同店で、1960年にコールスローサラダを使ったパンが誕生。これが後のサラダパンとなる。当時は油をそのまま口にするなんてありえない時代だったが、サラダ油の登場により、日本に“野菜にはドレッシングを”という概念が生まれ始めていた。つるやパンでは、現在のマヨネーズのような「マジカルソース」というドレッシングを作り、キャベツの千切りを和えてパンに挟んでみることに。これがサラダパンの誕生のきっかけだ。

「当時、世間的には“サラダ=おしゃれなもの”というイメージでした。そこで、『サラダ』という言葉をこのパンにも付けようと思い立ち、『サラダパン』になったんです。パッケージデザインでも、黄色はマヨネーズ、緑色はキャベツと表現しています」

サラダパンの原型でもある「コールスローサラダパン」。具材がシンプルなのは変わらない
サラダパンの原型でもある「コールスローサラダパン」。具材がシンプルなのは変わらない【画像提供=つるやパン】


初代サラダパンはそのおしゃれさと味わいで人気を博したものの、“足がはやい”というデメリットを抱えていた。卸先では「2、3日で腐ってしまう」というクレームが多く寄せられ、結果として早々に販売を終了する事態に。その際、「サラダパン」と書かれた袋だけが大量に余ったため、コールスローを使ったサラダパンに代わる、新たなサラダパンを作ろうと乗り出した。

滋賀県には海がなく、周囲を山に囲まれた地形になっているため、日持ちする発酵食品を食べる習慣が根付いている。そうした理由から、キャベツに代わって、発酵食品の代表格である漬け物のたくあんを採用。1962年に現在のサラダパンが誕生した。

SNSがきっかけで話題に!味のポイントは“より臭く”

当初は、“たくあん×マヨネーズ”という組み合わせから、万人受けするパンというよりも町内で細々とした人気に応える商品として、1日10~20個程度のサラダパンを作り続けていたという。長浜市にある、ちょっとしたご当地パンのような存在だったようだ。

そこから現在のように滋賀県名物となったのは、SNSが世間に浸透し始めた2000年代ごろ。愛知県から滋賀県に訪れていた観光客がサラダパンに驚き、mixiに投稿。その投稿をテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」(現在の「秘密のケンミンSHOW極」)のスタッフが見たことで、「滋賀に変わったパンがある」と、放送されるにいたった。

「当時、私は別の会社に就職していて、つるやパンを継ぐ気はなかったんです。でもmixiやテレビでサラダパンがえらく取り上げられていて、両親がそれに気づかずに店をたたもうとしたところを慌てて止めました。そこから、私も経営に加わることになったんです」

その後は波があったものの、現在も1日3000個ものサラダパンを製造・販売。「小さなパン屋だからこそ、大手のパンメーカーにはできない“あえて好き嫌いが分かれやすい味”にこだわって作り続けているんです」と西村さん。“ほかにはない替えのきかないパン”として、長い間、一部の滋賀県民から根強い人気を誇っている。

思わず二度見してしまう、たくあんとマヨネーズの衝撃の組み合わせ
思わず二度見してしまう、たくあんとマヨネーズの衝撃の組み合わせ【画像提供=つるやパン】


一見、シンプルな作り方のパンだが、そこには並々ならぬこだわりも。特に、土台となるコッペパンのレベルを上げるように改良を重ねたそう。「“もっちり”よりも“サクサク”とした食感にこだわって、ほかのパン屋では使わない、少しクセのある小麦粉をあえて使用しているんです」と、おいしさの秘密を教えてくれた。

「使用するたくわん漬け(※たくあんのこと)は、“より臭く”をモットーにしています。そのほうがより強い個性が生まれると思うので。実は、近年の気候変動で台風が増えて、そのせいで一時期は大根の産地にこだわらずにたくわん漬けを作っていたんですが、それだと漬かりが浅く、たくわん漬け本来の味が薄まってしまったんです。その結果『食べやすくなった』『たくあんは苦手だけど、これならいける』という声が増えました。ありがたいと思いつつ、『でもたくわん漬けはそうじゃないんだ!』とも感じたんです(笑)」

その後、西村さんは台風の影響が少ない群馬県で漬け物に向いた大根があると知り、その大根を1年ほど漬けて、においの強いたくあんを作るようにしたという。また、マヨネーズはたくあんの味を消さないようにマイルドなものを使用し、味やにおいを引き立たせるようにしている。

「“どこで食べても同じ”ではなく、どうせなら都会にはないものを作りたい」という西村さん。「せっかく滋賀に来たのなら、滋賀でしか食べられないものを食べてほしいんです」と思いを語った。

大切な土台となるコッペパンももちろん手作り!
大切な土台となるコッペパンももちろん手作り!【画像提供=つるやパン】


滋賀県の食文化を大切にしながら新商品を開発

近年は新型コロナウイルスの影響もあり、有名な観光地以外の土地にも注目が集まりつつある。西村さんも、コロナ禍が落ち着いたとはいえまだその影響が続いているように感じているそうで、SNSの発達も相まって、今は海外からもサラダパンを探しに来る人がいるという。

また、琵琶湖の景色を楽しみながら自転車で一周する「ビワイチ」というアクティビティが注目されていることもあり、サイクリング中の立ち寄りとしてお店に訪れる人も多いようだ。さらに食べ歩きにも向いているという理由から、街歩きの途中でサラダパンを購入する人もいるのだとか。

「パン屋というと女性人気が高いイメージだと思いますが、うちのお客さんは40〜50代くらいの男性が多いんですよ。若い世代との会話のきっかけ作りや、取引先に行く際の手土産にサラダパンを買いに来る人が多いんです。『サラダパンは思い出の味』というふうにも言ってもらえています」

そんなサラダパンに、姉妹品が存在することはあまり知られていない。縁日限定で販売される「ヤキニクパン」や、「まるい食パン」を使用した「焼きサバサンド」などがある。

滋賀県の名物であるサバと、看板商品「まるい食パン」を使った商品も
滋賀県の名物であるサバと、看板商品「まるい食パン」を使った商品も【画像提供=つるやパン】


なかでも、滋賀県のビッグイベントのひとつである「イナズマロック フェス 2023」開催時に限定販売された「イナズマ贅沢サラダパン」はかなりのインパクトがあったようだ。このネーミングは、漬かりすぎたたくあんを一度水洗いし、塩気を抜いてからかつおだしで煮た「ぜいたく煮」という煮物を使用していることから付けられた。いつものサラダパンとは異なる味わいが楽しめることから、イベント期間中には6000個を売り上げたという。

「イナズマロック フェス」だけの特別仕様。野外でも食べやすいのが好評の理由かもしれない
「イナズマロック フェス」だけの特別仕様。野外でも食べやすいのが好評の理由かもしれない【画像提供=つるやパン】


「実は、サラダパンの姉妹品をたくさん作ろうとしているわけではないんです。そうではなくて、地元の食文化とどう融合させるか、どうやって組み合わせたらおいしくできるかを楽しみながら考えています」。そう話す西村さんの表情も非常に楽しげで、「おにぎりの具として使われるものをパンに挟んでもおいしいんじゃないかと思っているんですよ。同じ炭水化物で穀物由来だし」と語ってくれた。

2023年10月、滋賀県彦根(ひこね)市にリニューアルオープンした大型ショッピングモール「ビバシティ彦根」内の無印良品では、甘く煮詰めた黒豆の甘納豆と塩昆布を組み合わせたパンを限定で販売するなど、その勢いは加速するばかり。今後もどんな組み合わせのパンが誕生するのか、楽しみだ。

イメージカラーを使ったグッズも。レトロポップでかわいい!
イメージカラーを使ったグッズも。レトロポップでかわいい!【画像提供=つるやパン】


消費期限の問題から、県外にはなかなか出回りにくいというサラダパン。見かけた際には、ぜひ一度その意外な組み合わせを味わってみて。

取材・文=織田繭(にげば企画)

「つるやパン」公式サイト:https://www.tsuruyapan.jp/

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