教育機関や音楽団体で楽器が不足する一方で、全国の家庭には使われずに眠っている楽器がある。そんな両者の橋渡しとなる仕組みが、株式会社パシュート、三重県いなべ市、株式会社マーケットエンタープライズの連携で開始された「楽器寄附ふるさと納税」。
2018年10月の制度開始から約4年半。その寄付実績が公表されたことを受け、あらためて取り組みについて、株式会社パシュートの担当者に話を聞いた。
「楽器寄附ふるさと納税」の始まりは？
「楽器寄附ふるさと納税」とは、楽器が不足している教育機関および音楽団体などへ、全国の使われていない休眠楽器を寄付できる仕組み。寄付に際して楽器の査定が行われ、その査定金額がふるさと納税と同様に税金控除・還付される、全国初の取り組みとなっている。
着想について、担当者は「あるとき、三重県いなべ市様から、市内の中学校の子どもたちが楽器がなくて困っているとお話がありました。一方で、全国の家庭には使われずに眠っている楽器がある。でも、単なる物品の寄付では、なかなか広まっていかない。そこで、もう少し後押しする何かがあればいいのではと思い、いなべ市様と実行委員会をつくり、楽器の査定にご協力いただける会社を探したり、総務省にかけあったりして、この仕組みを立ち上げました」と振り返る。
ふるさと納税との違いやイチオシポイントについて
通常のふるさと納税と違い、本制度には「返礼品」と呼ばれるものがなく、児童・生徒たちからの「感謝の手紙」や演奏会への招待などが届く。感謝の手紙には、「とてもうれしい気持ちと感謝の気持ちでいっぱいです」「感しゃの気持ちをわすれないで、今よりいいえんそうができるようにがんばります」「大事に使っていきたい」などとつづられ、受け取った生徒たちの喜びや感謝の気持ちが寄付した人のもとに届けられる。
また、返礼品がないことにより、自治体内の人でも、ふるさと納税のメリットである税金控除を受けることができるため、地元の人からもより応援しやすいかたちになっていると考えられる。
返礼品目的ではなく純粋に応援する想いから生まれる楽器寄付は、「ふるさと納税の本質を捉えた制度」として、2020年度には「総務省ふるさとづくり大賞 地方自治体表彰」を受賞した。
イチオシポイントについて、担当者は「ふるさと納税と物品の寄付を合わせた新しいスキームで、寄付者、自治体、子どもたちのすべてにメリットがある点」を挙げる。「寄付者様からは、寄附金控除を目的にするというより、想いのつまった楽器であるがゆえに『売る』『捨てる』という選択は考えづらいため、この制度がとてもありがたいという声を多くいただいています」
また、「返礼品を伴わないので市内の居住者も控除対象となる点」や「SDGsの4番『質の高い教育をみんなに』や12番『つくる責任つかう責任』にも貢献できる点」もポイントに挙げる。
制度開始からこれまでの反響は？
制度開始から約4年半、全国からの反響は大きい。これまでの寄付申し込み件数は全国から1600件を超え、寄付楽器の累計査定金額は1750万円を超える。最終的に学校などに寄付された楽器の件数は742件に上る。
この反響については、「当初はここまで多くの申し込みがあるとは思っていませんでした。また、子ども時代や学生時代に音楽活動をしていた人にとって、楽器は青春を象徴する大切なものなので、寄付先の自治体に愛着が生まれ、関係人口創出のきっかけにもなっていると感じています」と語る。
楽器の状態に関しては、寄付された学校の生徒や教師も驚くほど状態のいい楽器が多いという。「もう使わなくなったから売ってしまおう」という気持ちよりも、「使う予定はないけど想いがつまっている楽器を手放したくない。でも困っている子どもたちがいるのであれば使ってもらったほうが楽器にとっても幸せだろう」といった想いから寄付する人が多いことの表れなのではないだろうか。
