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【漫画】悪魔は常に創作者の側に?新人コピーライターの奮闘を描く「ゾワワの神様」に共感の声

2023/05/21 10:00
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仕事で斬新なアイデアやおもしろいアイデアを求められたとき、自分が考えたアイデアを手放しで斬新でおもしろいと言うのは難しいことだろう。

新人コピーライターの“ぼく”。案件に対して多くの提案をしてきた彼が、提案を作れなくなってしまった。ゾワワの神様 第32話「悪魔」より
新人コピーライターの“ぼく”。案件に対して多くの提案をしてきた彼が、提案を作れなくなってしまった。ゾワワの神様 第32話「悪魔」より 【画像提供=うえはらけいた】

ゾワワの神様 第32話「悪魔」03
ゾワワの神様 第32話「悪魔」03 【画像提供=うえはらけいた】

ゾワワの神様 第32話「悪魔」04
ゾワワの神様 第32話「悪魔」04 【画像提供=うえはらけいた】

ゾワワの神様 第32話「悪魔」05
ゾワワの神様 第32話「悪魔」05 【画像提供=うえはらけいた】

広告代理店でコピーライターとして働く“ぼく”。ある案件でCM案を考えるも2つしか提出できない。それまで“ぼく”はたくさんの案を提出できていたのに、時間をかけても案を作ることができなくなっていた。すると、先輩が「『ダメ出しの悪魔』に取り憑かれてますね」と声をかける。“ぼく”はさまざまなアイデアを考えるも、自分でおもしろいと思えず形にすることができなかったのだ。「どうしたら良いんですか」と尋ねる“ぼく”に対し、先輩は「一度考え始めたモノを何が何でも完成させること」とアドバイスをする。同時に、モノ作りをする以上、「クリエイターは死ぬまでこの悪魔と共存していくしかないんですよ」と話すのだ。

このエピソードはあらゆるクリエイティブに共通する話題だと多くの賛同を集めた。漫画を描いているのはうえはらけいたさん。うえはらさんは、広告代理店の博報堂でコピーライターとして約5年働いた経験を持つ。うえはらさんに「ゾワワの神様」が生まれたきっかけと、博報堂勤務時代の経験について話を聞いた。

コピーライターから漫画家に転身。過去のキャリアが創作活動の糧に

うえはらさんの経歴は一風変わっている。まず、社会人としてのスタートは博報堂でのコピーライターだった。

「子どものころから絵を描くのが好きだったんですが、美大進学を考えだしたのが高校3年生の秋と遅かったんです。唯一相談した高校の担任教師からは当然のことですが『いまさら無理でしょ』と言われてしまって、『さすがに無理か』とあっさり諦めてしまいました。それでも、モノ作りに憧れがあり、テレビっ子だったことから広告代理店やテレビ会社などに就活をしました。そうしたら運良く博報堂から内定をもらえて、これまた運良くクリエイティブの部署に配属されて、コピーライターとして働くことになりました」

しかし、働いているうちに胸にあった「絵を描く仕事をしたい」「美大に行きたい」という思いが膨らみ、博報堂を退社。多摩美術大学グラフィックデザイン科に編入し、もう一度学生生活を送る。そして、勉強しているうちに「漫画家になりたい」というかつて抱いていた夢が形になっていった。大学卒業後、デザイナーとして働きながら漫画家活動もスタートさせる。2020年には専業漫画家として独立した。

「僕は複数のことを並行しながらやっていくというのができないタイプ。博報堂を退社したのも、デザインの勉強と仕事を並行すると中途半端になってしまうと考えたからです。デザイナーとしての業務が忙しくなってきて、また中途半端になってしまうという懸念から専業の漫画家として独立することを決意しました」

専業漫画家になった時点で30代。商業の漫画雑誌では10代でデビューする作家も珍しくないことを考えると、漫画家としてのキャリアスタートは遅いといえる。こうしたことから、うえはらさんは漫画雑誌編集部への作品持ち込みや、賞の応募はしなかったのだそう。

「やはり僕はちょっと特殊なキャリアですから、良くも悪くも正攻法では意味がないというのは常に思っていました。10代のころから漫画を描いてきた人たちと勝負をしても、30代から描き始めた自分が不利なのは当然なので、賞などには応募しませんでした。それよりも、SNSで自分の描きたいものを積極的に投稿して、それで編集の方から仕事をもらうというやり方をしていました」

SNSでの発信は実を結び、広告・マスコミ・IT業界の就活応援サイト「マスナビ」から声がかかった。

「マスナビの編集さんから『広告業界を志望する学生が増えるような漫画を描いてほしい』という依頼をいただきました。学生向けにということでしたが、完全に大学生向けにしてしまうとターゲット層が狭くなってしまいます。後々作品を書籍にできたらいいなという野心もあったので、自分のなかでターゲット層を広げて、20代の仕事を始めた人たちがシェアしたくなるような内容にしようと考えて今の『ゾワワの神様』が生まれました」

この狙いは当たり、Twitterで公開すると1万以上のいいねがつくエピソードも少なくない。

「『ゾワワの神様』は『マスナビ』での連載作品ではありますが、編集さんが『マスナビだけに載せているだけでは、読む層が限られてしまうからSNSにアップしていいですよ』と言ってくださって、自分のTwitterやnoteでも無料記事として公開しています。ファンがたくさんついている方なら有料記事でも読んでもらえると思うんですが、今の自分が有料記事にしてしまうと、未来のファンを閉ざしてしまう可能性が高いと思っていて、有料にはしていません。収入源としては、PR案件などの企業案件ですね」

個人事業主になって、ダメ出しをしてもらえるありがたさを実感

「ゾワワの神様」は広告代理店が舞台なだけあって、登場するエピソードもうえはらさん自身の体験が反映されたものが多い。

ゾワワの神様 第25話「S見さん」04
ゾワワの神様 第25話「S見さん」04 【画像提供=うえはらけいた】

ゾワワの神様 第25話「S見さん」05
ゾワワの神様 第25話「S見さん」05 【画像提供=うえはらけいた】

ゾワワの神様 第25話「S見さん」06
ゾワワの神様 第25話「S見さん」06 【画像提供=うえはらけいた】

「脚色している部分もありますが、実際にあったことを下敷きにしている話も多いです。例えば、第25話『S見さん』で、当初は銀行の入口に掲出するポスターにコピーを書く予定だったのが、クリエイティブ・ディレクターの判断でコピーのないポスターになったのは実際にあったことです。このときは銀行全体のブランディングを依頼されていて、作るものがポスターだけではなく、新聞広告やCMなど多岐に渡ったので、ポスター以外の部分で関わることになりました」

このエピソード内では「広告屋は企業の医者に例えられる」という話が出てくるが、うえはらさんによると、広告代理店の仕事は“広告を作る”だけではないんだとか。

「会社や業種によるところはあるんですが、博報堂のような総合広告代理店だと広告を作ってくださいっていう仕事以外もたくさんあるんです。『今度新商品出したいんだけど、どんなのがいいんでしょうか』とか『ブランドの売り上げが落ちているのをどうにかしてほしい』というような依頼がくることすらあって、それに対しての手段は決まっていないんです。例えば、パッケージデザインのリニューアルのような広告以外の手段をとることもあります。なので、コピーライターは文言だけではなく、アイデアマンとしての働きを求められることも多かったです」

「ゾワワの神様」の“ぼく”のように、うえはらさんも新人のころは“トレーナー”と呼ばれる先輩に付いて、ひとつの案件に対し、何十本もコピーを描いたりしていたのだそう。

「漫画の半分は言葉でできているので、言葉に厳格になれたのはコピーライターをやっていたおかげだと思っています。企画やアイデア出しも随分鍛えられて、こちらも漫画の創作活動に生きていると思います」

業務内容だけではなく、上司をはじめとした一緒に働く人々からも学ぶものが大きかったと話す。

「最初のころは会議室にこもってひたすらコピーを書いているのが正しいと思っていました。コピー年鑑という過去のコピーをまとめた図録があるんですが、それをひたすら読みながら仕事をしていたんですよ。そしたら途中で上司に怒られましたね。広告を作るのに、広告を見ながら作っていたら視野がどんどん狭くなってしまう、広告以外のインプットをもっと増やすようにと指導されました。今、個人事業主になって、叱ってくれたり、やっていることにダメ出ししてくれたりする人がいるありがたさを感じています。会社という枠組みから出てしまうと、なかなか注意してくれる人はいません。ダメだったら静かに仕事がなくなるだけですから。なので、会社で叱ってくれる人がいたおかげで今があると思っています」

うえはらさんがこれまで得てきた経験を存分に生かした「ゾワワの神様」は、学びに満ちている。クリエイティブ業界だけではなく、働くすべての人によりよい仕事へのヒントがあるはずだ。

【プロフィール】うえはらけいた
1988年生まれ。広告代理店・博報堂入社後、コピーライターとして約5年勤務。退職後、多摩美術大学グラフィックデザイン学科に編入。卒業後、デザイナーとして働きながら漫画創作活動を始める。2020年に専業漫画家として独立。SNS、Webメディアを中心に作品を発表している。著書『コロナが明けたらしたいこと』(アスコム)は第12回コミチ漫画大賞受賞

取材・文=西連寺くらら

■うえはらけいた
Twitter:@ueharakeita
note:https://note.com/keitauehara

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