鈴木拡樹 / 撮影=友野雄
【撮りおろし12枚】カメラをアンニュイな眼差しで見つめる鈴木拡樹

2024年1月6日(土)より開幕する「少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演【テンペスト】」に鈴木拡樹が出演する。鈴木は数多くの2.5次元作品で比類ないキャリアを積み重ねつつ、2009年の「ロミオとジュリエット」を皮切りに、劇団 少年社中への出演は今回で4作目となる。少年社中主宰・毛利亘宏が演出した舞台を観て芝居を志したという彼に、今作の見どころや「天才役者」という役どころについて聞いた。また芝居を始めた頃の苦悩や、役者としての成長の道のりについて振り返ってもらった。

少年社中は「演劇って楽しいよね」という気持ちになれる

──鈴木さんが劇団 少年社中の作品に出演するのは今回で4作目となります。鈴木さんの思う少年社中の魅力はどのようなものですか?

観劇していただくとわかると思うのですが、少年社中の皆さんは、魂をぶつけてくるようなお芝居をされるんです。だから観劇していてヒリヒリする感覚がありますし、これぞ生でしか得られないものだと感じます。

──では、少年社中の一員として演じることで感じる魅力は?

僕自身、毛利さんが演出をされた公演を観て、お芝居をやりたいと思って本格的に取り組み始めたので、そんな強い刺激をもらった毛利さんの公演に出させてもらえるというのは、これ以上ない幸せです。しかも今回は25周年記念公演。大事なタイミングで呼んでもらえているということも、僕にとっては本当に幸せでしかないですね。、

──4作も出られていて、常連組と言っても過言ではないですよね。

もっと出たいんですけどね(笑)。出るたびに「もっともっとみんなと一緒にお芝居したいな」と思えるんです。それが幸せです。

──具体的に、少年社中公演への出演で得たものや成長はありますか?

毎回「やっぱりお芝居って面白いな」と思います。もちろん自分が演じているときもそうですし、稽古中に自分が出演していないシーンを見ているときもそう。作る過程が楽しくて、そのニュアンスがそのまま板に乗っている感じがするんですよね。お客さんがそれを受け取って幸せな表情をしてくれているのを体験しているときに、「僕にとって少年社中ってすごく特別なんだな」と毎回思います。

──他の作品で味わえない楽しさがある?

シリーズ作品を抱えている時期に少年社中に出させてもらうことが多くて。特に使命感を持って挑むというか「次回作につなげるためには?」と考えているときに、演劇愛あふれる少年社中さんに出させてもらうと、使命感はもちろんありますけど、それよりも「演劇って楽しいよね」という気持ちに、しかもそれをみんなで共有しているような気持ちになれるんです。もちろん他の現場でも感じることですが、少年社中は“楽しい”の比重がすごく強い。僕は自分のキャリアでシリーズ作品への出演が多いので、特にそう思えるのかもしれないです。

鈴木拡樹 / 撮影=友野雄

焦燥感や枯渇感を糧に成長した新人時代

──「少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演【テンペスト】」で鈴木さん演じる役どころは、天才役者のラン。ランには「役者として人を幸せにする」という夢があり、その気持ちを取り戻すことで物語が動いていきます。鈴木さんご自身は、演劇を始めた頃どのような気持ちだったか覚えていますか?

ランが語ってくれているのと同じ感覚です。というのも、僕が演劇というものに興味を持たせてくれたのは少年社中という劇団です。そして、演劇を続けていく上での目標を与えてくれたのはお客さんだと思っています。お客さんの反応を感じたり、「頑張ってください」という内容のお手紙をいただいたりして、お客さんの声を聞いているうちに、自分の仕事は支えになっているんだなと知りました。「この仕事は、こんなに人の役に立つものだったんだ」「俳優というのは人に生きる活力を与えられる仕事なんだ」と。それに気付いてからは、お客さんが劇場にいる2〜3時間くらいを、どう充実した気持ちで過ごしてもらおうかなということに注力するようになりました。

──まさにランの「役者として人を幸せにする」という夢と同じですね。

はい。そのモチベーションはずっと変わらないですね。

──ちなみにランのように、初心を見失いそうになる瞬間はこれまでにありましたか?

少し違うかもしれませんが、最初デビューしたときは右も左もわからない状態で入ったので、知らないことだらけで怖くなりましたし、くじけそうにもなりました。周りは劇団に所属している方や、子役から始めている方なども多くて、自分だけ知識も全然足りなかったし、自分には才能がないんだと気付いた。ゼロからのスタートだったはずなのに、周りとの知識の差、経験値の差があったので、マイナスからのスタートみたいな気持ちでしたね。でも周りにさりげなく助言をくれる先輩がいたから、なんとかなったと思います。あとは知らないことだらけだったからこそ、新しいことを次々と知っていけたのかなとも思います。芝居についてだけじゃなく、音響や照明に対しても「どういう効果を生んでくれるんだろう」と着目したりして。

──「知らないことだらけ」という焦燥感や枯渇感が、成長できた要因にも?

そうだと思います。「知りたい」という欲が強かったことが、めげずに来られた1つの要因なのかな。

自分は不器用だと自覚しているからこそのアプローチ

鈴木拡樹 / 撮影=友野雄
──今の話と少し通ずる話ですが、今回の作品では演劇を通じて憧憬や嫉妬など感情のぶつかり合いが描かれます。鈴木さんご自身は他人の才能に憧れたり嫉妬したりする経験はありますか?

嫉妬……あるんだろうな。自分が持っていないものを持っているわけですからね。でも僕の場合は、嫉妬より憧れのほうが強いかなと思います。憧れると、まずは一回真似してみるじゃないですか。でも結局その人の一番の魅力は真似できなくて「あ、自分はこういう輝き方はできないんだな」とわかって、戦い方を変えてみるというのが多かったかな。

──あまり自分を他人と比べないようになってきている?

といっても比べちゃうとは思いますけどね。ただ、長年この仕事をしてきているので、まず自分は不器用だと自覚しています。不器用だからこそ、他人の「いいな」と思った部分も、自分なりに変換して身につけていけば使える武器になるかもしれないというのが、自分のコンセプトで。例えば歌は苦手で、もともと歌がうまい人のようには歌えない。だったら自分にはどういうアプローチができるかを考えるんです。“演劇で歌う”とはどういうことなんだろうと考えて、まずは歌を一回セリフに起こしてみたり。自然と入ってくるような歌が歌えないんだったら、その代わり「今、こういう感情で、こういう状況を伝えているんだ」とわかりやすい歌にしようとか、戦い方を変えるようにしています。でもスッと歌い上げるのも諦めてはいないので勉強はしつつ。毎回、作品に出るたびに「今回はこういうところを強化しよう」と目標を立てるようにしています。そして、周りには優れた人たちがたくさんいるので、それ以外にも少しでも自分のものにできるように、何をどう盗んで、どう自分に当てはめていくかというのは考えていますね。その作業は苦しくもありますけど、楽しいんですよね。

──その楽しさというのは、苦しさの先で何かを達成できた瞬間に感じますか? それともその悩んでいる過程も?

僕は過程のほうが好きかも。だから、この仕事が救いになっているのかもしれないです。

鈴木拡樹が考える天才役者とは?

鈴木拡樹 / 撮影=友野雄
──今作で鈴木さんが演じるのは天才役者という役どころですが、鈴木さんが考える天才役者とは?

漠然と思うのは、やっぱり器用な人。でも実は、影の天才役者は支える側に多いと思っていて。僕の中での天才役者はそっちかもしれないですね。今までひっそりとストーリーの中に隠れていたのに、いきなりパッと出てきて支えるという職人的な感じ。影に隠れていてわからないかもしれないけど、ストーリー全体を繋いでくれる役。それは天才の役者さんしかできない仕事なのかなと。だからストーリーがわかりやすく1つの円のように作られているときは、きっとそういう役者さんがいるんだろうなと思っています。

──先ほど、作品ごとに「今回はここを強化しよう」と目標を立てるとおっしゃっていましたが、今作ではどんな目標を立てますか?

うーん、とにかく精神的にも肉体的にもとても疲れそうな作品だなと思っていて。だからまずは最後まで立っているというのが目標になるかな。実際ものすごくパワーを使う作品になると思うのですが、そのパワーがダイレクトに伝わってくれればお客さんにとっても刺激になると思うので、やり甲斐も感じられそうで楽しみです。

──鈴木さんは役者として16年目。先ほど始めた頃の苦悩のお話もありましたが、俳優としてのご自身の現在地はどのように捉えていますか?

現在地か、どうでしょうね。でも演劇を始めてからお芝居が好きになりましたし、そういうものに出会えたことが幸せなので、そう感じさせてくれた演劇に対して何かできることはないかを考えているのが今ですかね。恩返しのようなもの。その中で、2.5次元作品や、長期のシリーズものなど、未開拓なものに触れられたのはうれしいですね。今年の10月に終わったところなんですが、「最遊記歌劇伝」という作品がありまして。それは15年間続いた作品で、僕や(椎名)鯛造くんなどキャストもずっと変えずにやってきたんです。同じ役を15年間演じ続けるって、演劇においてとてもレアなケースだと思うんです。1つのモデルケースとして築けたのもうれしいですし、目標を持ってそこに辿り着けるというのはシリーズ作品において一番幸せなことだと思います。「最遊記歌劇伝」ではとても幸せな終わり方ができました。これからもそういう未開拓なものを探求していきたいと思うし、それを後世につないだり、枝分かれしていく分かれ目のようなものを作れていたらうれしいなと思います。

──ご自身のあとに道ができていくことに喜びを感じると。

そうですね。僕は僕の活動をしていただけではありますが、こうやって輪が広がっているのはうれしいです。今は「2.5次元作品に出たい」と言っている若い俳優も増えてきて、肯定してきた意味があったなと思います。同時に僕たちの世代は年齢が上がりつつあるので、今後2.5次元にどういう関わり方ができるのかというモデルケースを作っていく時期なのかもなとも思います。

──昨年WEBザテレビジョンでお話を聞かせていただいたときに、今後のご自身の目標を「継続」とおっしゃっていましたが、そこは変わらずですか?

継続したことによって今も火を絶やさずに演劇というものを作っていられて、それを観に来てくださるお客様がいるという状況なので、継続はこれからも一番の目標ではあると思います。ただ、今はコロナ禍真っ只中の状況からはまた変わりつつあって。以前の状況に戻られた方もいるでしょうし、新しい道に進んでいる方もいると思います。そういうときこそ、演劇は活力になれると思うので、一人でも多くの方に、何か生きる活力が湧くようなものを届けられたらなというのが今の目標ですね。少年社中という劇団ではその目標がよりわかりやすい形で届けられるのでは…とも思います。24年最初の演劇作品を周年記念公演という形でお送りできるのもうれしいです。劇場でお待ちしております。

鈴木拡樹 / 撮影=友野雄
■取材・文/小林千絵

撮影/友野雄