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「宇都宮餃子には敬意しかありません」。栃木県の新たなご当地グルメ「かぬまシウマイ」の狙いとは?

2024/03/08 12:00
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栃木県のご当地グルメと言えば、宇都宮市の「宇都宮餃子」、佐野市の「佐野らーめん」などが有名だが、近年、宇都宮市の西隣にある鹿沼市の「かぬまシウマイ」が第三のご当地グルメとして注目を浴びている。

鹿沼市内では、鹿沼商工会議所に登録しているだけでもすでに50軒以上の店で「かぬまシウマイ」が提供されており、大いに盛り上がっているというが、しかし、自然が多くのどかな鹿沼市と「シウマイ」の結びつきが想像しづらいのも正直なところ。

そこで今回は、鹿沼商工会議所の水越啓悟さんに「かぬまシウマイ」の歴史とその実態について話を聞いた。

関東圏の新たなご当地グルメ!栃木県鹿沼市の「かぬまシウマイ」とは?
関東圏の新たなご当地グルメ!栃木県鹿沼市の「かぬまシウマイ」とは?


「崎陽軒」と栃木県鹿沼市の知られざる関係性

“日本におけるシウマイ”と聞き、まず思い浮かぶのは「崎陽軒」だが、実は鹿沼市は「崎陽軒」の初代社長である野並茂吉さんの出身地。これにちなんで町おこし的に始まったのが「かぬまシウマイ」だというが、「それ以前、鹿沼市内でシウマイを提供する店は調べただけでも5軒ほどだった」と水越さん。

「すべての飲食店を確認したわけではないので正確なことは言えませんが、私の知る限りでは、鹿沼市内でシウマイを提供している店は5軒ほどでした。つまり、鹿沼市内でシウマイを食べられる店はかなり限られていたというわけですが、そんななか、コロナ禍という未曾有の事態に。鹿沼市内の飲食店もほぼすべてが身動きが取れない状態で、『お弁当』だけが唯一の収益となります。我々も飲食店に対し、『お弁当を作って販売してください』と声をかける一方、新たな街の魅力作りにも取り組み始めたのですが、まず『崎陽軒』に、『シウマイ弁当を市内で売らせてほしい』『創業者である野並さんの偉業に敬意を表して、JR鹿沼駅前にシウマイ像を作らせてほしい』という2つの提案をさせていただきました。しかし、コロナ禍が始まったばかりのころですので、有名な『崎陽軒』のシウマイ弁当を鹿沼市内で販売するとなれば人だかりができてしまう。また、『崎陽軒』も横浜のローカルブランドを目指す企業のため、実現しませんでした。しかし、シウマイ像の設置は許諾をいただくことができ、後に東京藝術大学の講師である石井琢郎さんによって完成させることができました」

すでに鹿沼市内で50軒以上の店が「かぬまシウマイ」を提供しているという
すでに鹿沼市内で50軒以上の店が「かぬまシウマイ」を提供しているという

2021年にJR鹿沼駅前に設置された「シウマイ像」の除幕式の様子
2021年にJR鹿沼駅前に設置された「シウマイ像」の除幕式の様子

前衛的な造形の「シウマイ像」
前衛的な造形の「シウマイ像」

取材時は「シウマイ像」のそばで、「崎陽軒」のしょう油入れ「ひょうちゃん」が像を守っていた
取材時は「シウマイ像」のそばで、「崎陽軒」のしょう油入れ「ひょうちゃん」が像を守っていた


こうして、コロナ禍での混乱のなかで生まれたさまざまなアイデアがシウマイへと結びついていったわけだが、それまでの栃木県は全国の都道府県において“魅力度最下位”として、よくない意味で話題にあがることが多かった。

それを知った「崎陽軒」の担当者から、「シウマイ像を作るだけでなく、鹿沼市を“シウマイの町”にしてはどうか」という提案が。これをきっかけに「かぬまシウマイ」の構想が始まったという。

「まず、商工会議所に加盟する飲食店や企業に声をかけました。『鹿沼市を“シウマイの町”として盛り上げていきたいので、自由な発想で取り組んでいただけませんか』といったもので、特にルールなどは設けていません。以降、シウマイをメニューに加える飲食店が増え、また、シウマイをモチーフにしたTシャツやグッズなどを販売するお店も増えていきました。同時に我々は、鹿沼市と宇都宮市を結ぶ路線バスの路線名を『シウマイ餃子ライン』にしたり、SLにヘッドマークを付けてもらったりと、宣伝にも取り組みました。コロナ禍で外出しにくく、明るいニュースがない状況ではありましたが、逆にこういった取り組みが身を結び、『かぬまシウマイ』が鹿沼市内や栃木県内で認知されるようになっていったという流れです」

地元での「かぬまシウマイ」のイベントの様子
地元での「かぬまシウマイ」のイベントの様子

地元の木材を使って「かぬまシウマイ専用蒸し器」を作る業者も
地元の木材を使って「かぬまシウマイ専用蒸し器」を作る業者も


ここで気になるのが、隣の宇都宮市のご当地グルメ「宇都宮餃子」との関係。こんなに近くで同じジャンルの料理を名物としていると、ライバル関係が生まれてもおかしくはない。「かぬまシウマイ」は、ご当地グルメの先輩にもあたる「宇都宮餃子」をどう見ているのだろうか。

「いや、もう敬意しかないです。『宇都宮餃子』は30年も40年もかけて現在の認知度を獲得しており、まねをしようと思ってもできません。宇都宮市の商工会議所を通して成功事例としてお話を伺い、参考にはさせていただいていますが、同じようになれるとは思っていませんね。また、『佐野らーめん』に関しては、同様に佐野市の商工会議所の方を通じて、『町おこし』『ご当地グルメ』について助言をいただくこともありました。なので、栃木県内のほかの市のご当地グルメに対抗するといった意識は全くなく、むしろ敬意を込めてお手本にさせていただいています」

「かぬまシウマイ」の仕掛け人で、鹿沼商工会議所の水越啓悟さん
「かぬまシウマイ」の仕掛け人で、鹿沼商工会議所の水越啓悟さん


人を呼び込む目的がありながらも「地元に根付かなければ意味がない」

今回水越さんを訪ねる前に、筆者は事前に鹿沼市内を散策し、「かぬまシウマイ」の浸透度を確認した。飲食店やスーパーマーケットでのシウマイの販売を多数確認したが、なかにはラーメンの上にシウマイを乗せた料理や、シウマイを模したパンやケーキを出している店もあった。

地元スーパーに売られていた「かぬまシウマイ」
地元スーパーに売られていた「かぬまシウマイ」

地元のラーメン店「山いち」で提供される「シウマイラーメン」
地元のラーメン店「山いち」で提供される「シウマイラーメン」

焼豚のみじん切りをシウマイの皮で包みラーメンのトッピングにした個性的なひと品
焼豚のみじん切りをシウマイの皮で包みラーメンのトッピングにした個性的なひと品


こういった縛りのない各店の取り組みが興味深かったが、水越さんによれば「『かぬまシウマイ』の町おこし構想は“お店ファースト”が基本」だと言う。

「町おこしをする場合、まず喜んでいただかないといけないのは地元の方々、地元のお店の方々です。それをさしおいて過度なルール作りをするのではなく、まずはお店ファーストで自由にやっていただくことが、結果的に『やってよかった』『もっとやろう』といった思いにつながると考えています。今後は『かぬまシウマイ』のさらなるブランディングを考えており、たとえば、『かぬまシウマイ』を冠する冷凍食品やグッズに対する知財管理など行っていきたいと考えています」

水越さんはこのインタビュー中、「まずは地元から」といった言葉をたびたび口にした。地元外の客にアピールして市内に呼び込むことに注力するのではなく、まず地元から盛り上げることで、結果的に地元外の人が鹿沼市に訪れるようになるのが目標だという。

「地元に根付かなければ、意味がありませんから。まずは地元の人たちが、ごく普通にシウマイを家庭へのお土産として購入したり、日常的に口にする機会が増えるといいなと思っています。そのうえで、市外の人々が『栃木県に遊びに行くけど、せっかくだから昼ご飯は鹿沼市まで足を伸ばして、名物のかぬまシウマイを食べようか』といった感じで、少しずつ地元以外の人にも認知されていけばうれしいですね」

関東圏では早くも注目を浴びつつある「かぬまシウマイ」だが、その裏側には地に足をつけた堅実な思惑があった。「『かぬまシウマイ』の浸透に関しては、まだまだやらなければいけないことがたくさんあります」と語ってくれた水越さん。その思いが、今後より強く地元に根付くことを願ってやまない。

取材・文=松田義人(deco)

公式サイト:https://www.kanuma-shiumai.com/

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