商品を企画・開発するうえで、コンセプトを決めることは重要だ。だが、それがずれていたり需要にそぐわなかったりすると売り上げにつながらなくなってしまう。アーネスト株式会社(以下、アーネスト)が2006年に発売した、シリーズ累計販売数100万本のヒット商品「秘密を守りきります!」も、発売当初は今とは全く異なるコンセプトだった。

「秘密を守りきります!」とは、個人情報を守るためのハサミ型シュレッダー。一般的なシュレッダーとは異なり、コンパクトで収納場所を選ばず、使いたいときにサッと取り出して使えるのが特徴だ。しかし、本来は明細書や名刺などを切る目的で開発されたものではなかったという。一体、何を切るための道具だったのだろうか?

今回は、アーネスト 代表取締役社長の鈴木一矢さんにインタビューを行い、「秘密を守りきります!」が生まれたきっかけや、発売よりおよそ20年経過しているにもかかわらず、ヒット商品として売れ続けている理由について聞いた。

アーネスト株式会社 代表取締役社長の鈴木一矢さん
アーネスト株式会社 代表取締役社長の鈴木一矢さん【提供=アーネスト】


個人情報を守る「秘密を守りきります!」誕生秘話

アーネストが販売している「秘密を守りきります!」は、2006年に発売された商品。5枚の刃で明細書や領収書などを約3.5mm角の最小サイズに裁断し、プライバシーや秘密を守ることができる。だが、最初に発売されたときは板海苔を切ってきざみ海苔を作るための道具で、「きざみ海苔ができます!」という名前だった。

【写真】きざみ海苔ができます!
【写真】きざみ海苔ができます!【提供=アーネスト】


「きざみ海苔ができます!」は歯が5枚付いているハサミで、板海苔を一気にバラバラに刻むことができるという代物。アーネストは「見た目のインパクトもすごいし、便利だからきっと売れる!」と意気込んでこの商品を発売したものの、結果は散々。1年間に1万2000本ほどの売り上げを見込んでいたが、7000本ほどしか売れなかったそうだ。

「ちょっと変わったコンセプトの製品を作っている弊社らしい商品ではありましたが、思ったように売れませんでした。ですが、あるときにひとりの社員が『取引先の担当者の奥さんが、シュレッダーとして使っているよ』という話を聞いてきました。そこで、『海苔を切るハサミではなく、個人情報を守るシュレッダーとして売り出してはどうか?』という発想にいたりました」

秘密を守りきります!
秘密を守りきります!【提供=アーネスト】


その後、ハサミのグリップを赤色から水色に変え、「きざみ海苔ができます!」から「秘密を守りきります!」に改名して発売すると一気に大ヒット。2005年4月の個人情報保護法の施行による個人情報保護への意識の高まりや、当時頻発していたシュレッダーに指やネクタイが巻き込まれてしまうといった事故の影響もあり、発売から1年間で20万本を売り上げるヒットを叩き出した。

“名前を変えて大ヒット”のストーリーも人気に

コンセプトを変えるだけで大ヒット商品に大化けした「秘密を守りきります!」。ハンズをはじめとした雑貨店や街の文房具屋さん、そして近年ではAmazonをはじめとしたECサイトなどでも人気を博している。

特に、文房具屋さんでは鉛筆や消しゴムといった低単価な商品が並ぶなか、1980円(メーカー希望小売価格)の「秘密を守りきります!」が飛ぶように売れたそうだ。そのおかげで文房具屋さんの売り上げが増え、全国のお店から感謝をされることになったとか。

秘密を守りきります!でレシートを裁断している様子
秘密を守りきります!でレシートを裁断している様子【提供=アーネスト】


この商品の人気の秘密は、手軽に個人情報を保護できること。シュレッダーを使うまでもないけれど、手やハサミでバラバラにするのは大変という書類を簡単に切り刻めるため、オフィスを中心に重宝されている。そして、引き出しに入るサイズなので、わざわざシュレッダーの場所に行かなくて済むことも支持される理由のひとつだ。

名前を変えるだけでヒットしたこの商品に対し、鈴木さんは「弊社商品ながらすごい」と話す。

「特にすごいなと思ったのは、売れていない商品にもう一度トライしたということですね。いくらアイデアがいい商品を発売しても、一度失敗したらそのまま放置することが多いと思います。ですが、失敗にとらわれずにコンセプトを変えるだけでここまでヒットしたというのは、一種の成功例を生み出したと思います。もちろん、最初から売れたほうがいいんですけどね(笑)」

「秘密を守りきります!」のヒットと同時に、商品の開発ストーリーも話題に。数多くのテレビや新聞などで取り上げられ、発売から今まで100件以上もの取材依頼があったという。現在でも年に4〜5回ほどメディア露出をしており、定期的に話題になっているそうだ。

アーネスト株式会社の社屋
アーネスト株式会社の社屋【提供=アーネスト】


これからも、プライバシー保護で活躍できる商品を…

現在、アーネストは刃の部分を肉抜きして30%軽量化した「秘密を守りきります!ライト」や、9枚の刃がついてさらに紙を裁断しやすくなった「秘密を守りきります!パートII」などのシリーズ展開を行って、シリーズ累計販売数100万本を突破した。

秘密を守りきります!パートⅡ
秘密を守りきります!パートⅡ【提供=アーネスト】

秘密を守りきります!ライト
秘密を守りきります!ライト【提供=アーネスト】


個人情報の保護が叫ばれている昨今、自分の情報がどこでどう悪用されるかわからないのが現状だ。ひどい場合では詐欺に使われる可能性もゼロではない。だからこそ、さっと手軽に情報を処分できる秘密を守りきります!は、今後もオフィスや家庭を中心に活躍の場を広げていくことだろう。

最後に、鈴木さんに今後の秘密を守りきります!の野望についてお話を聞いた。

「きざみ海苔ができます!の発売よりおよそ20年が経過しましたが、まだまだ売れ続けているのはこの商品の最大の価値だと思います。今後もコンセプトを大切にしていきながら、アーネストの伝統としてシリーズの企画・開発を続けていきたいですね。そして、アーネストという会社名をさらにみなさまに知ってもらえるよう、これからも頑張っていきたいです!」

「発売より時間が経過したので、今後は若い世代に向けて秘密を守りきります!を訴求していきたい」と話す鈴木さん。100万本の次は、1000万本の販売を目指して努力をしていくことがアーネストの目標だ。

「秘密を守りきります!とアーネストを今後もよろしくお願いします!」と鈴木さん
「秘密を守りきります!とアーネストを今後もよろしくお願いします!」と鈴木さん【提供=アーネスト】


商品開発の際、ゼロからアイデアを考えることは大事だが、過去の失敗に目を向けて成功のヒントを探ることも、ヒットを生み出す方法のひとつ。アーネストの取り組みはその最たる例として、これからも語り継がれていくだろう。

この記事のひときわ#やくにたつ
・コンセプトを変えるだけで、商品の価値は変化する
・再挑戦することで、失敗を成功に変えられる
・社会課題とマッチした商品は需要が出やすい


取材・文=福井求(にげば企画)