「うんこ」、それは日本全国の小学生を笑いの渦へと巻き込む魔法の言葉である。なぜそんなにおもしろいのか?そこに理由なんてない、うんこ…その響きだけで子どもたちは吹き出してしまうのである。そんな子どもたちをトリコにするうんこの魅力を学習用教材のなかに詰め込んで作られた勉強ドリルが『うんこドリル』である。

このドリルを企画・制作するのは株式会社文響社。2017年に発売した『うんこ漢字ドリル』の大ヒットを機に、うんこを題材にした学習用教材を続々出版。2023年にはシリーズ累計1000万部を突破した。現在は国語や算数のドリルをはじめ、小学生用の家庭学習アプリ「うんこゼミ」や、企業や行政とコラボした『うんこ啓発ドリル』など、さまざまなメディアを展開している。

今回は、「NO UNKO, NO HAPPY」を掲げ、子どもたちに学びの楽しさを伝えることを目標にシリーズを手掛ける、文響社 うんこ編集部 うんこ編集者の駒井一基さんに、『うんこドリル』シリーズの誕生秘話や、小学生用漢字から企業・行政にいたるまで、幅広いジャンルをカバーする理由などについて話を聞いた。

文響社 うんこ編集部 うんこ編集者の駒井一基さん
文響社 うんこ編集部 うんこ編集者の駒井一基さん【撮影=福井求】


すべての始まりは「うんこ川柳」

2017年に文響社が発売した、うんこドリルシリーズの第1作『うんこ漢字ドリル』。このドリルが生まれることになったのは、シリーズの作者である映像作家・映像ディレクターの古屋雄作さんが、2003年頃に「うんこ川柳」を制作していたのが始まりだ。

「古屋さんは当時、おもしろ映像の作品を制作されていました。そのうちのひとつに、うんこ川柳を子どもたちに指導している寺子屋のおじいさんを取材する、という内容のフィクション作品がありました。古屋さんは『うんこはおもしろいもの』という持論を持っていまして。その作品の撮影中、うんこを使った川柳を子どもたちがすごくおもしろがっていたんです」

【写真】『うんこドリル かん字 小学1年生』
【写真】『うんこドリル かん字 小学1年生』【提供=文響社】


この作品を制作して「うんこは現代の子どもたちにも刺さる!」と確信を得た古屋さんは、うんこ川柳の書籍出版を目指すことに。さまざまな出版社に企画を提案していくなかで、古屋さんの高校時代の同級生で、文響社の代表取締役社長の山本周嗣さんに相談したそうだ。その際、山本さんが子ども時代、漢字の書き取り練習がおもしろくない例文ばっかりでつまらなかったことを思い出したという。

「そこで、山本さんが古屋さんに『うんこを使ったおもしろいドリルができれば、学習教材の業界に革命を起こせるのでは?』と伝えて方向性が定まり、うんこと漢字を掛け合わせたドリルの開発が始まったと聞きます。私は当時別の会社にいて、このドリルのチェック作業を行っていたのですが、ものすごく売れるかものすごくコケるか、どちらかだろうと思いました」

『うんこドリル たし算 ひき算 かけ算 もんだいしゅう編 小学2年生』
『うんこドリル たし算 ひき算 かけ算 もんだいしゅう編 小学2年生』【提供=文響社】


その後、無事完成したうんこ漢字ドリルを2017年3月の入学・進級シーズンに発売すると、「すごい教材が出た!」とSNSで一気に話題に。評判を聞いた親たちが子どもに買い与えたところ、子どもたちに大人気。他社のドリルよりも圧倒的に食いつきがよく、集中して最後のページまで終わらせる子どもが続出したという。発売後、約2カ月で発行部数148万部を記録する驚異的な売り上げを見せた。

『うんこドリル もっとプログラミング 小学1〜6年生』
『うんこドリル もっとプログラミング 小学1〜6年生』【提供=文響社】


教材を使った啓発で「うんこ」をポジティブに

その後、1作目のヒットを受けてシリーズ化が実現。漢字ドリルを小学1年生から6年生まで制作したのち、算数や英単語帳、幼児向け、そしてプログラミングなど、さまざまな教科やジャンルで教材を展開。うんこドリルは学びの楽しさを子どもたちに伝えることができ、「これまであまり勉強してこなかった子が机に座るようになった」「楽しんで勉強ができるようになった」という声がたくさん上がった。

「小学校入学前のお子さんに関しては、『ちょっと勉強してみようかな』とやる気を引き出す教材という評価をいただいています。また、小学校の子どもさんからは、学校の勉強ではちょっとついていけなかったり退屈したりすることもあるけれども、うんこドリルであれば楽しく勉強でき、結果として成績が向上しているという感想も聞きますね。弊社としては本当にうれしい限りです」

2023年にはシリーズ累計1000万部を突破。現在も新作が続々出版されている
2023年にはシリーズ累計1000万部を突破。現在も新作が続々出版されている【撮影=福井求】


うんこドリルのメインターゲットは、小学校1、2年生を含めた5〜8歳ぐらいの子ども。そのため、この世代に向けた教材を重点的に制作しているという。特に、このころの子どもたちにとって「うんこ」という言葉は非常におもしろいものである一方で、排せつに関わる言葉のため「汚い」「臭い」というマイナスイメージを抱かせてしまうもの。そこで、うんこ編集部ではうんこに対するイメージ戦略を行っている。

「うんこが汚いものというイメージをなくしていこうということで、きれいなものとしてポジティブに設定しているのです。うんこをいじめの道具に使ったりしないとか、うんこで人に迷惑をかけたりしないという制約のもとで制作しています。また、ドリルの最終ページには注意書きみたいなものがありまして。人が嫌がるようなことや迷惑をかけるようなことをしてはいけないよ、うんこで遊ばないようにしましょう、という内容を掲載しています」

『大学入試 うんこ英単語2000』
『大学入試 うんこ英単語2000』【提供=文響社】


また、漢字の例文や算数の文章題などはすべてうんこが絡む内容になっている。その理由は、しっかり問題文や文章を読んでほしいという文響社の願いが込められているからだ。普通の問題文は読むのが退屈でも、うんこを絡ませて楽しくすらすら読むことができる仕様になっている。ただただうんこという題材を取り入れるだけでなく、作品全体の世界観を徹底することで飽きさせないようにしているのが、うんこドリルの大きなこだわりのひとつだ。

うんこ先生とともにうんこドリルの紹介をする駒井さん
うんこ先生とともにうんこドリルの紹介をする駒井さん【撮影=福井求】

『うんこドリル おかねプラス 5・6さい』
『うんこドリル おかねプラス 5・6さい』【提供=文響社】