2020年に起こったコロナ禍以降、人々の健康意識の高まりとともにジムへ入会する人が多くなった。しかし、日本のフィットネス人口は総人口に対して3%と言われており、まだまだジムへ通ったことがない人が大多数なのが現状だ。

そんななか、RIZAP株式会社(以下、ライザップ)が97%のジム初心者に向けて作ったジム「チョコザップ(chocoZAP)」が人気急上昇中。サービス開始から約1年5カ月で会員数が100万人を超えるなど、現在最も注目されている。

今回はライザップ 取締役 chocoZAP事業責任者の村橋和樹さんに、チョコザップを生み出したきっかけや急成長している理由、そしてジム初心者が来店しやすくなるサービスづくりの秘密について、インタビューを行った。

ライザップ 取締役 chocoZAP事業責任者の村橋和樹さん
ライザップ 取締役 chocoZAP事業責任者の村橋和樹さん【撮影=福井求】


ジム初心者に特化したサービス「チョコザップ」

――はじめに、チョコザップの概要について教えてください。
【村橋和樹】チョコザップは月額2980円で、24時間年中無休で通っていただけるコンビニジムです。コンビニというコンセプトになっているのは、ジムの中でさまざまなことができるからです。筋力トレーニングをはじめ、セルフ脱毛、セルフエステ、セルフネイル、ゴルフ練習ブース、カフェ(ドリンクバー)といったさまざまなサービスを提供しています。

【村橋和樹】そして、誰もが気軽に通っていただけることも大きな特徴です。スポーツウエアへの着替えや靴の履き替えなどが一切不要で、ジムに入ってから10〜15秒でトレーニングを開始できるコンビニエンスな仕組みになっています。これまでジムは入会の敷居が高かったのが問題でしたが、設備やマシンなどはすべてジム初心者向けのものになっているため、初めての方でも気軽に来られるようになっています。

チョコザップの店舗外観
チョコザップの店舗外観【提供=ライザップ】


――チョコザップはいつごろにサービスを開始しましたか?
【村橋和樹】テストマーケティングの1号店ができたのは2021年10月ですね。最初にサービスを始めたころはライザップという名前は極力出さずにテストをしていたので、今のような形態はまだ完成しておらず、チョコザップという名前ですらありませんでした。実際にチョコザップという形で世の中にローンチしたのは2022年7月になりますね。

【村橋和樹】2023年11月現在は、全国40都道府県で1160の店舗数を展開していて、近いうちに全都道府県への出店ができるかと思います。サービス開始後から急成長し、2023年11月には会員数が100万人を突破するなど、大幅な増加を達成することができました。ちなみに、男女比率は半々で、20〜40代がメインユーザーとなっています。

――100万人以上の会員がチョコザップに通われているのですね。
【村橋和樹】そうなのです。現在、日本のフィットネス人口は総人口に対して3%と言われていて、日本中のさまざまなジムの会社が小さなパイを取り合っている状態です。ですが、そのパイを奪い合うだけの事業なら我々が参入する意味はない、と私たちは思っていました。「それならジムに通っていない97%の層に向けたサービスを作ってみては」と考えたのがきっかけですね。

店舗内の風景。白基調の空間が明るさを覚える
店舗内の風景。白基調の空間が明るさを覚える【提供=ライザップ】


――貴社はライザップを運営されていますが、チョコザップを展開するうえでギャップなどはありませんでしたか?
【村橋和樹】そうですね。私たちは今まで10年間ほどライザップというパーソナルトレーニングジムを運営してきました。そのため、これまでに培ってきた「ジムとはこうあるべきだ」という定義的なものがありました。たとえば、ライザップではトレーニングのメニューは筋トレ等の無酸素運動が中心で、有酸素運動はあまり行っていませんでした。

【村橋和樹】やっぱり、筋肉に大きな刺激を与えて体を変えていくというところがメソッドになっていますので、24時間ジムを展開する際も「筋力トレーニングメインでやるべきだ」という発想でした。そのため、最初の店舗では無酸素運動の筋力トレーニングのマシンばかりを並べていたのです。それでお客様に体を変えてもらいたかったのですよね。

「チョコザップは初心者に特化しています」と村橋さんは話す
「チョコザップは初心者に特化しています」と村橋さんは話す【撮影=福井求】


【村橋和樹】ですが、いざフタを開いてみるとお客様はそのようなマシンはあまり使わず、2台しかないトレッドミルやランニングマシンの後ろにずらりと並ぶような状況でした。なので、開始当初は全然お客様の目線に立てていなかったのが実情でした。そこからお客様の声を何度も聞いて、「本当にユーザーが求めていることってなんだっけ」というところを意識し続けてできたのが現在のサービスですね。

――さまざまな失敗を繰り返されて今のチョコザップの形態が作られたのですね。
【村橋和樹】実はそうなのです。お客様の声を何度も聞いて、どうすれば喜んでもらえるのかを考えて、チャレンジと失敗、そして見直しを繰り返した結果が現在のチョコザップであり、現在もPDCAを回し続けている状態です。当社はトライアンドエラーが認められる風土があるので、いきなり100点を狙いにいくのではなく、まずは完璧でなくても素早く挑戦していい点と悪い点を見極め、軌道修正して次につなげるようにしています。

エアロバイクでトレーニングをしている様子
エアロバイクでトレーニングをしている様子【提供=ライザップ】


作ったのは、徹底的に初心者向けのジム

――ジム初心者に向けたサービスや取り組みとして、どのようなことをされていますか?
【村橋和樹】チョコザップではジム初心者の方々に向けて、基本的なトレーニングができるマシンを配置しています。ショルダープレス、チェストプレス、ラットプルダウン、バイセップスカール、ディップス、レッグプレス、アダクション、アブダクション、アブベンチ、トレッドミル、エアロバイクの11種類(※店舗により設備は異なります)ですね。逆に、ジム中上級者が使用するようなフリーウエイトなどは省略しています。

【村橋和樹】主に、パッと見ただけでどこを鍛えられるか、どこの筋肉に負荷がかかるかをイメージできるマシンのみを置いているのが、初心者に向けての工夫ですね。これらを1周するだけでも全身の基本的な部位を鍛えることができるので、まずはいろいろ試してみるという使い方が可能です。お客様の多くは来店後2〜3つのマシンを使って、20〜30分で帰られます。

マシンも白基調になっているのが特徴
マシンも白基調になっているのが特徴【提供=ライザップ】


――初心者向けでありながら、全身をしっかり鍛えられるのはいいですね。
【村橋和樹】そうですね。また、店舗内の雰囲気にもこだわっています。初心者の方でも入りやすいように壁紙やインテリア、そしてマシンもすべて白基調にして、明るい雰囲気をつくるようにしています。外から店舗内をのぞいたときに、明るいイメージの中で普段着の人たちが気軽にトレーニングをしていると、「私でも入れそう」と思う初心者の方も多くいらっしゃるのではないかと考えています。

――チョコザップでトレーニングをされる方は、どのような効果を求めていることが多いのでしょうか?
【村橋和樹】チョコザップでマッチョを目指したりダイエットをしたりというよりかは、ちょっとした運動習慣を身に付けたいという方が多いですね。ライザップは明らかに結果を出すことを目的としていますが、チョコザップはどちらかといえば気軽に体を動かす、毎日ちょこっと運動して習慣をつけるという方がメインです。だからこそ、手軽に行けることに価値を感じていただいているのだと思います。

セルフネイル
セルフネイル【提供=ライザップ】


【村橋和樹】ジム通いで一番難しいのは習慣づけです。一般的なジムだと行くたびに気合を入れないといけないですし、スポーツウエアや着替え、スポーツドリンクなども準備しないといけません。ですが、これらの習慣ができている人でないと面倒くさくなり、通わなくなってしまいます。そういう意味では、チョコザップは空いた時間に私服で通って短時間で帰ってこられるので、「ちょいトレ習慣」をつけるにはぴったりなのです。

――チョコザップで運動習慣をつけて、本格的なトレーニングに移行したいという方もいそうですね。ほかにはどのような施策をされていますか?
【村橋和樹】冒頭でも少しお話したのですが、チョコザップにはトレーニングマシン以外にも、体の変化を見える化して運動習慣をサポートするスターターキットの配布や、セルフエステ、セルフ脱毛、ゴルフ練習ブース、セルフネイル、セルフホワイトニング、マッサージチェア、デスクバイク、ちょこカフェ、そしてワークスペースのサービスを設けています(※店舗により設備は異なります)。もちろんすべて追加料金なしでご利用いただけます。

ワークスペース
ワークスペース【提供=ライザップ】


【村橋和樹】ジムに通うハードルをものすごく高く感じ、「私には関係ない」「行く気が失せる」とおっしゃる方って実はかなり多いのです。ですので、トレーニングがメインではなくても「ホワイトニングやネイルができるし、通ってみようかな」といった方が来てくれることを目的にしています。ネイルのついでにマシンに触れてみてもらったり、運動してもらったりして少しでもいい変化を生み出せればうれしいなと思っています。

【村橋和樹】「無料だからやってみようかな」とさまざまなサービスを利用していただき、その結果キレイになってうれしくなったり、自分に自信が持てるようになったりすると、心の健康にもつながると思います。チョコザップを体と心の健康を両面から支えられるサービスにできたら、世の中にとって非常に意味のあるものとなるのではないかと思いますね。

デスクバイク。運動をしながら作業も可能
デスクバイク。運動をしながら作業も可能【提供=ライザップ】


目指すのは、心身ともに健康になれるコンビニジム

――2023年に会員数が100万人を突破しましたが、現在はどのような点が課題となっているでしょうか?
【村橋和樹】現在、メインユーザーの年齢層が20〜40代なのですが、今後は50代以上の方を取り込んでいきたいと思っています。課題としては、入会や入店、マシンの使い方の動画再生などがすべてアプリでできるのですが、アプリやスマートフォンを使うのが苦手な年配の方も多くいらっしゃいます。そのため、今後はご高齢の方々にも使いやすいような工夫をしていくことが必要です。

――50代以上のユーザーをはじめ新たな会員を増やすためには、今後どのような取り組みが必要だとお考えですか?
【村橋和樹】何事においてもわかりやすさが最も大事だと考えているので、マシンの使い方やアプリ内の動線など、全世代の方がサービスをわかりやすく利用できる仕組みを整えていく必要があると思いますね。ぱっと見たときに瞬間的にイメージがわいたり、やり方が連想できたりということがどのようにすればできるかを、ユーザー体験のところまでかなり踏み込んでPDCAを回していますね。

【村橋和樹】また、現在はジムがメインの方が多いのですが、今後はエステや美容のためにチョコザップに通って、ジムはほかのところに行くといった方も出てくるかもしれません。私たちはそのような方たちの自己実現や心の健康を支えられるようなサービスを、これからどんどんブラッシュアップしていく必要があると思っています。そうすればサービスを続ける人も多くなり、新しくチョコザップに関わる人も増えていくと思います。

――そのうちジムの領域を超えていくかもしれませんね。
【村橋和樹】そうなるかもしれません(笑)。

ちょこカフェ
ちょこカフェ【提供=ライザップ】


――今後、サービスを展開していくうえでの展望などがあれば教えてください。
【村橋和樹】あらゆる人にとってコンビニくらい身近で気軽に行けるように、あらゆる場所に展開していきたいです。ありがたいことに、多くの人から「うちの近所に出店してほしい」という声をいただくことが増えましたので、ぜひこれからも店舗を増やしていきたいと思っています。本当に「コンビニ」のような存在なので、大通りを渡らなくても済むような、そんな便利な場所にどんどん出店していきたいです。

【村橋和樹】もうひとつは、先ほどお伝えしたことと重なるのですが、チョコザップにはさまざまなサービスがありますので、お客様一人ひとりにとっていろいろなきっかけで来ていただき、結果として心身ともに豊かになっていただきたいです。そのため、現在のサービスを横展開したりレベルを上げたり、新たなサービスを作ったりして、お客様に満足していただきたいなと思っています。

「ぜひチョコザップに足を運んでみてください!」と村橋さん
「ぜひチョコザップに足を運んでみてください!」と村橋さん【撮影=福井求】


【村橋和樹】電話って、昔はもう通話のためのものでしかありませんでしたが、今ではスマートフォンになり、通話だけでなく動画撮影、インターネット、ゲームなどさまざまなことができますよね。ですので、チョコザップもスマートフォンと同じように、自己実現を叶えられるようなサービスや機能がたくさん詰まった場所にしたいと考えています。ぜひ一度、お近くの店舗を訪れてみてください!

――ありがとうございます。ぜひ、今後のチョコザップの展開を楽しみにしています。

この記事のひときわ#やくにたつ
・失敗を恐れずチャレンジするのが成功への近道
・パイを取り合わず、ブルーオーシャンを見ること
・来店の目的を複数設けると幅広い層の集客ができる

取材・文=福井求(にげば企画)