年間約21億個ーー。この巨大な数値が何の数字かわかるだろうか?これは大手コンビニエンスストア「セブン-イレブン」で売れるおにぎりの数である。

今や国民の食文化のひとつともなった“コンビニおにぎり”。なかでも、パリパリの海苔を巻く「手巻おにぎり」は代表的な商品として知られている。その始まりは約50年前のこと。今ではおにぎりを“買う”のは当たり前となっているが、当時の日本でおにぎりを販売することは常識を覆す斬新な取り組みだったのだという。

ではこのコンビニおにぎりがどのように誕生し、世に浸透していったのか。大ヒット商品にいたるまでの歴史を紐解くため、株式会社セブン&アイ・ホールディングス 広報センターの担当者に話を伺った。

精米方法や包装フィルムなど常に改良を重ね、おいしさを追求し続ける
精米方法や包装フィルムなど常に改良を重ね、おいしさを追求し続ける【画像提供=セブン&アイ・ホールディングス】


――コンビニおにぎりはセブン-イレブンが元祖とのことですが、いつから販売を開始したのですか?
【担当者】1974年にセブン-イレブンの1号店が開店した当初から、おにぎりは扱っていました。当時、おにぎりは“家庭で作るもの”が常識でしたが、「みんな忙しくなるから、おにぎりを外で買うニーズはきっとある」という発想から、新しい挑戦としてスタートさせました。まだ“買うもの”という認識が少なかったことで、販売当初は1日に2〜3個しか売れなかったと聞いています。

「パリッコフィルム」を開発し、海苔のパリパリ食感を重視※販売当初の商品とは異なる
「パリッコフィルム」を開発し、海苔のパリパリ食感を重視※販売当初の商品とは異なる【画像提供=セブン&アイ・ホールディングス】


――当初は売れなかったんですね。そこからどう展開されましたか?
【担当者】当初は苦戦を強いられましたが、そこで取り組んだのが家庭で食べるおにぎりとの差別化でした。昔は家庭のおにぎりと言えば、初めから海苔が巻いてある「直巻き」が主流で、海苔はしっとりとしたものでした。そこで食べる直前にパリパリの海苔を巻けるようおにぎりと海苔を分けて包装する「パリッコフィルム」を採用し、食べる直前に海苔を巻く手巻きスタイルを提案。海苔をパリパリ食感で味わうおにぎりは、当時の人々にとって新しかったに違いありません。

【担当者】さらに1986年には、現在の包装の原型となる、テープを引いた後に左右のフィルムを抜き、ご飯と海苔を合体させる「カットテープ型」のパッケージを包材メーカー様と共に開発。おいしさの追求はもちろん、食べる時の手間を解消するための工夫を取り入れたことでさらに認知度は高まり、おにぎりを“作る”ものから“買う”ものへと、食文化に変化をもたらしました。

【写真】ツナマヨネーズなど5商品が定番人気
【写真】ツナマヨネーズなど5商品が定番人気【画像提供=セブン&アイ・ホールディングス】


――パリパリの海苔はコンビニおにぎりの代名詞ですね。具材の豊富さも魅力ですが、特に人気は?
【担当者】さまざまな具材を取りそろえていますが、定番人気は鮭、梅、昆布、辛子明太子、ツナマヨネーズの5商品。特にツナマヨネーズは1983年から販売されているロングセラー商品で、今でも売れ筋はトップクラス。実はコンビニでこの具材を販売したのはセブン-イレブンが日本で初めてなんですよ。

――ツナマヨの元祖も“セブン”だったとは!ツナマヨはどのような経緯で生まれたのでしょう?
【担当者】ツナマヨが生まれたきっかけはなんと小学生!当時、おにぎり開発メーカーの方が、自身の子どもさんがご飯にマヨネーズをかけて食べる光景を見たことから、「マヨネーズ×ご飯」という発想が生まれました。この意外な組み合わせは、発売と同時にどんどんと人気を集めていきました!また、今日まで続く“おにぎりの具材の多様化”のきっかけとなった商品でもあります。

――地域によっておにぎりに違いはありますか?
【担当者】同じ具材でも現地の原料を使うなど、地産地消の推進に取り組んでいます。また、関西以西の一部エリアでは焼海苔ではなく味付け海苔を使ったおにぎりを販売する店舗もあります。お住まいのエリア外の店舗に来店された際は、違いをぜひ試してみてください。

――これまでにどのような改良が行われてきましたか?
【担当者】セブン-イレブンのおにぎりの目指すところは常に「家庭で作ったおにぎり」です。この基本を徹底的に追求しながら、改良を重ね続けています。2000年代には、より厳選された具材やお米を採用した「こだわりおむすび」の販売を開始。現在もこのカテゴリーの商品は継続して展開しており、「少し価格が高くても価値の高い商品を購入したい」という利用者のニーズにマッチし、好評を得ています。

【担当者】そして2023年、セブン‐イレブンのおにぎり史上で初となる、専門家による“お米”の監修により、さらに品質向上に取り組んでいます。

――最後に、おにぎりの今後の商品展開や取り組みなどを教えてください。
【担当者】近年は健康意識の高まりに合わせた機能性表示のおにぎりを販売。加えて、持続可能な漁業により漁獲されるサステナブルな具材に使用するなど、環境にも配慮した取り組みを行っています。

「手巻おにぎり」や「直巻おむすび」に加え、「こだわりおむすび」も人気
「手巻おにぎり」や「直巻おむすび」に加え、「こだわりおむすび」も人気【画像提供=セブン&アイ・ホールディングス】


約50年前、「売れるはずがない」という反対意見も多いなか、販売開始に踏み切ったというコンビニおにぎり。今では、セブン‐イレブンのみならず、ほかのコンビニでも主力商品として堂々と位置づけられている、コンビニにはなくてはならない存在である。新しい挑戦を続けるセブン‐イレブンは、日本第1号店を出店してから今年でちょうど50年を迎える。今後もどのような常識を覆す商品を出していくのか楽しみである。

取材・文=GAKU(J.9)